Mauvelhiese ~Maliugne Lufu~ 作:Elenor
……もういやだ。僕と関わる奴らは余計なお世話をしたがる。
僕のことなんかほっとけばいいじゃん。図書館に居座ってるだけだし、何も迷惑なんてかけていない。そこのどこが悪いの?
僕が住む寮の自室で、ヘルマン式の布団に寝っ転がりながら、そんなことを考えてた。
確かに、僕が不登校なのは悪いことなのかもしれない。――じゃあ、何で悪いの?単位が取れない?先生に失礼?そんなことを主張するんならまず僕が行きやすい環境を整えてよ。更正させるのに何で強引な手段をするのかな。――ほんと、訳分かんない。
僕の中で、嫌な思いがぐるぐると回る。それをせき止めるために、僕はお風呂に入ることにした。
浴室の着替えるとこで服を脱ぐ。全部脱ぎ終わると、鏡に肋骨が少し浮き出た僕の背中が映った。
普段は魔法で普通の体型に見せているけど、これが僕の本当の姿。――やっぱり骨が見えてしまう体型は、たとえ自分の体だとしても気持ち悪い(自分の体型が一番気持ち悪い、それは僕自身、よく分かってる。)
体を洗い、湯船に浸かる。ボーっとしていると、あることが思い浮かんできた。
クィエルがタツメノミヤと交流して一番気に入ったものは、僕が今浸かっているこのお風呂らしい。だからクィエルにある「セントウ」と呼ばれてる公衆浴場の数は、タツメノミヤに次いで第2位、ということを聞いたことがある。
僕はお風呂が大好きだ。それは僕がクィエル人だっていうこともあるかもしれないけど、熱めのお風呂は心を落ち着かせる。
お風呂から上がって寝間着に着替えると、僕はまた布団の上に寝っ転がった。そしてまたぼーっとする。でもぼーっとするたび今日起きたことが思い浮かんで、何も考えられない。
音楽を聞いて気分転換しようとたちあがったとき、玄関の呼び鈴が鳴った。
「はーい。」
「こんちゃーっ!!」
鎖がかかった扉を開けると、目の前にはノラがいた。
「……何の用?まぁ、いいや。とりあえず中に入って。」
僕は鎖を外し、中に入るよう勧めた。 そして机があるところに彼女を座らせた。
「待ってて、今お茶出すから。」
そう言って僕は台所に行く。
まず手を洗い、一人分のお茶を出すにはちょうどいい大きさの鍋と温度計を出した。お茶の色がいい感じに出る為には、ちょうどいい温度が必要だからだ。
お鍋の中に水を入れ、温度計も入れる。そして、
「ベルディム ベリム アルジェント
ルレイム ルフェイム メディエール……」
温度計を見ながら約三十秒、ちょうどいい温度に設定されるまで唱え続けた。――こうすることで、魔法が火加減を調節してくれるんだ。
次に、生乳を泡立てる作業に入る。
大きめの器に氷水を入れ、その上に少し小さい器を浮かべる。その中に生乳を入れ、泡立て器で頑張る。でもあまりやり過ぎると分離してしまい、しかも元には戻らなくなるから注意が必要だ。
お湯が沸騰する。僕はまたアーミスタルを取り出す。
「セルディム セリム アルジェント
ルレイム ルフェイム モンタント……」
これで泡立て器が自動になる。――最初からこうすればいいじゃん?そんなことは気にしない。自分でやること。それが料理の醍醐味だ。
透明なクィエル式の薬缶と紅茶茶碗にお湯を入れて、温めてから捨てる。次に茶葉を入れてからまた薬缶にお湯を注ぎ、適当な時間になったらそれを紅茶茶碗に注ぐ。仕上げに泡立てた生乳を乗せて、完成。
「――ごめん、お待たせ。」
「……おおう、凝ってますなー。」
僕は紅茶とクィエルの生菓子を出した。もちろん、この生菓子は僕の手作りだ。
ノラは今から飲食するものを一つ拝んでから、まずは紅茶を飲んだ。
「……わあ、紅茶ってこんなに美味しかったんだ。私、
「気に入ってくれたようでなにより。」
次に彼女は生菓子を食べて、また紅茶を飲んだ。
「この生菓子、紅茶とすっごく合うね。」
――当たり前だ。この紅茶と合うように作ったんだから。
出かかった言葉を、頬の内側で折りたたんだ。ノラがおずおずと話しかけてきた。
「……おいしいものを食べさせてくれてホント申し訳ないんだけど。――怒ってる、よね?」
「うん。」
ああああ、どうしよう……、なんてノラが言っている。――そう、実はお茶を出すという行為を丁寧にやることで、非常に怒っているということを遠回りかつ確実に伝えたかったのだ。例えばあなたが他人を怒らせて、怒っている本人とその人を包む空気が加害者に「今怒っているんだ。」と伝えたとしよう。そんな人から優しくされたら、大抵の人は「これから何をされるだろう。」と混乱するはずだ。――このように、混乱は恐怖を生むから、ムカつく相手を降参させたいときは、怒っていることを伝えつつ斜め上な行動で混乱させると効果的だったりする。
「やっぱり私がわがまま言ったときにサヤが便乗する形で強制入部させたことに怒ってるんだよね?そうなんだよね!?」
「――あ、おかわりいる?」
「人の話聞いて!!」
どうやらかなり効いているらしい。でも僕はノラが可哀相に思えたので、そこまで責めないことにした。
「……別にノラのわがまま自体に怒ってるわけじゃないよ?――ノラの話だと自分のせいで僕が強制入部することになった、って受け取れるけど、正直僕は、何でノラは僕を誘ったのか分からなかった反面、……少し嬉しかった。」
「――何で?」
それは言えなかった。言ったら言ったで、バカにされそうな気がしたから。
ノラが、口を開いた。唐突な内容だった。
「……ねぇ。フィーと友達になりたいな。」
その唐突な内容に、僕は反射的に身構えた。僕には、『友達』という言葉には尋常じゃない拒否反応があった。――それでも、ノラは話すことをやめない。
「ううん、違う。フィーと私は友達!それはもう決定事項!!なにがなんでも、破棄しちゃダメ!!」
――何で?訳分かんないよ。みんな強制的に何かさせることがすきだよね。
そう思いたかったのに、そう思えなかった。というかそもそも、何で僕と仲良くなりたいんだ。
そう怒鳴った後、ノラはふっと微笑んで、僕のことを抱きしめてきた。
「……Nuit oir niau fue, oir niau nerge.
(出逢えば、友達。)」
それは南方訛りの、綺麗なクィエル語だった。
この言葉を、ノラはいつまで続けられるんだろう。
「ーーノラ。」
それを確かめるために僕は言う。
「僕、あの部活に入部するよ。」
ーーなんて。