Mauvelhiese ~Maliugne Lufu~   作:Elenor

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Agu cuculefe, mune sonsaze~予想外~

俺は今、驚いたことがある。それは、フィーが(この子の名前は後でノラから聞いた)俺らの部活に入部してくれることだ。

正直サヤさんにはかなり困った。あの時に個人の自由を侵すような発言は、もう二度と口を開けないで欲しいほどのものだった。――俺だって、一応図書館の司書だ。受付で喋ってる時はちゃんと特定の人にしか話が聴こえないようまほうをかけてあるし、受付も借りたい人がいればちゃんとやる。

つまり俺は、図書館を誰でも来やすい雰囲気にしたいんだ。それをぶち壊す奴は、たとえ風紀委員長でもゆるさない。彼女のせいで、常連であるフィーが図書館に行きづらくなった。

そう思ってたからだろう、いや、絶対そうなんだけれど。――フィーが来たのは、一瞬目を疑った。

「――あの、すいません。部長はあなたでいいんですよね?」

相変わらず俺にはぶっきらぼうなフィー。日に当たることを忘れたかのようなその頰は、輪郭を保ってはいるが柔らかそうだ。――いっそのこと、持ち帰って飽きるまでつついてやろうか。

「……なんですか、僕の顔見ならがらニヤニヤして。」

 ――ああ、もっと怒らせたい。

「……入部したいんですけど。」

 それともその桜桃(さくらんぼ)のような唇を食べてしまおうか。

「は?え?何で僕の唇触るんですか?」

 ――もういいや、司書室のお手洗いにこの子連れて行くか。

「待って下さいよ!!何で僕の腕つかむんですか!?――ああもう、放して下さい!!」

 フィーは乱暴に振りほどき、自分の顔を俺の方へずいっ、と近づけてきた。鳶の羽を規則正しく散りばめられたかのような瞳が、目の前にいる俺の顔を映す。

「僕の話聞いていますか!?入部したいんですっ!!」

 俺の予想通りだった。怒った顔は、とてつもなく魅力的だ。この顔が泣き顔になったらどうなるんだろう。

 そう思いながらフィーに手をかけようとしたとき、頭に激痛が走った。

 

 兄さんが俺の耳を引っ張っていた。

 

「図書館で発情してんな。」

「なんでさ、兄さん。別にいいでしょ?」

「……お前の信条、改めて言ってみろ。」

「は?何で。」

「ほら早く。」

「…………誰でも来やすい図書館を目指す、です。」

「な?」

「え、何が?」

「…………なぁ?」

「――はい、すいませんでした。」

 兄さんから発する雰囲気は、「できてねぇだろ?いいかげんにしろよ?」と言っていた。――というか兄さん、耳痛いから、手、放して。

「んで?こいつが創った部活に入部したいんだっけ?」

「あっ、はい!」

 兄さんに対してこの明るさは一体何なんだろう。

「あの、どういった手続きが必要ですか?」

「こいつに名前、顧問・部長の認め印で、あとは生徒会長に提出すりゃあいいんだが、問題はまだその生徒会長から正式に部活として認めて貰ってないことだな……。」

 そう言って、兄さんは俺を睨んできた。

「……お前、早く提出しろよ。」

 さて、どうしようか。

「何でそんな顔してんだ。生徒会室行ってこいよ。――受付俺やっとくから。」

 ――正直、俺はあそこに行きたくなかった。でも行かなきゃ兄さんの善意に対して申し訳ないから、行かなければならない。

「……分かった、行ってくるよ、兄さん。」

「素直でよろしい。」

 

 俺は大きな溜息をついた。

「何で溜息ついてんですか。明らかに自業自得でしょうに。」

「……行けばわかるよ。」

 フィーの頭上に疑問符が浮かんでいる。

 ――そう、会長は非常にお茶目(・・・)なのだ。だから許可されている人しか入室ができない。許可されていない人は、その人にとって一番入りづらい状況で追い出される。そういった魔法が生徒会室にかけられているのだ。……なんだか意味が分からないとは思うが、実際に行ってみれば分かる。

「全く兄さんは、行ったことないからそんなこと言えるんだよ……。」

「イオ先輩の文句を言わないで下さい。あの人はアロド先輩にやるべきことを告げたまでです。」

「――やけに兄さんの肩を持つね。というか、何で俺たちの名前を知ってるの?」

「新聞部のノラに教わりました。」

 ――ああ、あの子か。

 もうノラとフィーが友達になれたことを素直に喜んでいると、目的地である生徒会室の前に着いた。喜びが一気に冷めた。

「あー、やっぱ行きたくないなー。」

「女々しいですね、アロド先輩。ただ許可を貰うだけじゃないですか。」

 フィーは何も分かっていない。低確率ではあるが、扉を開けただけで命が危ないときがあるのだ(ついでにその低確率に遭遇したのは俺だ。何も知らなかったあのとき、扉を開けると突然爆風が俺の体へ飛び込み、そのまま壁まで吹き飛ばされたことがある。)

 フィーに女々しいと言われて癪にさわったのと、実際に見てもらおうという気持ちから、俺は意を決して生徒会室に入った

「失礼します!!」

 威勢良く入ったのだけれど、

 

「はーいよくできまちたー、いい子でちゅねー☆…………ああん?」

 

 そこには不思議そうな顔をした赤ん坊と、乳児用のおもちゃ二つを両手に持ったおっかないお兄さんがいた。

 

「……失礼しました。」

 俺は静かに扉を閉めた。

「バカ、会長のバカ!!極道の人があんなことしてたら入りづらいだろ……!!」

 俺は何度も壁を拳で叩いた。

「……はぁ?極道の人?」

 フィーは訳が分からないといった顔をしながら、生徒会室の扉を開けようとした。

「待った!!――この先何が起きても知らないよ?」

「何言ってんですか。僕がそんな罠にはまる訳――」

 

 ――バラララララ!!

 

 機関銃を撃つ音が響いた。――ほら、言わんこっちゃない。

「ひっ、ひふれいひまひひゃ……。」

 半ベソでそう言いながら、フィーは丁寧に扉を閉めた。

「あの人射撃の腕凄すぎぃ……。」

 ――突っ込むとこそこかよ。いや気が動転してんのは分かるんだけどさ。

「ーーああ、アロド君じゃないか。」

ーー嗚呼、振り向きたりしその先は、神々しき光(かな)熾熱燈(しねつとう)の晴れがましきも、彼の前では(あだ)なり。

「昔の小説家みたいな顔になってるよ?どうしたんだい?」

俺は会長の声を聞いて、ハッと我に帰った。

誰もが想像するような堅苦しいメガネの会長とは違う。爽やかな顔、声、雰囲気。……ああ、忌々しい。

「ーー会長、いい加減この魔法を解いてください。手続きができないんですよ。」

「ーーなんのだい?」

「生徒会室の幻覚魔法を解いて下さい!!」

「……いや、だから何の手続きだい?」

「ーー要求は受けつけないんですね。まあいいや、とりあえず部活を作りたいんですよ、そのために生徒会室に来たんです。」

会長にその創設願とフィーの入部届を渡す。彼は素直に読んだ。でも途中で眉間に皺を寄せて、返してきた。

 

「ーー悪いけど、目的が駄目だから許可ができない。」

 

予想外のことを言われた。俺たちは、訳が分からなかった。

「ちょっと何でですか!?目的がダメって何ですか!!」

「別に許可自体はできるさ。ーーでも、その部活を続けてると、いつか警察に捕まるぞ?」

ーーは?

「知らなかった、じゃあ済まされないんだ。だからそうなる前に、俺はこの部活を創設することを拒否する。」

そう言って、会長は生徒会室の扉を閉めた。

訳が分からない。どうして部活が出来ない?

「どうせあれでしょ?先輩が変なこと書いたからじゃないんですか?」

「……『まだ証明されていない、曖昧な歴史事項を追究する為、この部の設立を希望する。』」

「は?」

「設立希望理由だよ。それの他に、みんなの名前しか書いてない。」

ーーそう、それしか書いてない。今言ったことに、おかしなところはあっただろうか?

重い沈黙だけが、夕暮れとともに残った。

 

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