Never Says「Good by…」   作:らんかん

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三人再開、夜中の安寧

「ただいま」

「すまない、今戻った」

 

 二人して、寮へと戻ってきた。

 

 案外建物そのものは無事で、一階の窓がいくつか割れていた程度。ものすごく重厚に出来ているが、銃社会になってから長いのか案外防弾性能が高い。

 

「あ、戻ってきたっすよ。おーい」

 

 背が高い正実のお姉さんが手を振ってやってきた。

 

「あんたらが残り二人の留学生っすか?」

「そうだな」

「連絡が遅れて申し訳ない。アイアンランド・プレイス、アレイシア・ガレットピア、両名帰還しました」

 

 敬礼するアイアンも珍しいものだな、そう思うがそれよりも目の前のお姉さんの色気にやられる俺。

 

 なんというか"喰ってそうな"色気というのは人のマゾヒズムを刺激する。その色気が普通じゃ出ないゆえの妄想だろうか。

「ああ!正実体験の子っすね……って大丈夫っすか!?」

「こっちはお気になさらず。同じ留学生に無茶をさせた手前、何も言えない」

「よく守り抜いたっす。頑張ったすよ」

 

 撫でられてるアイアン。

 

 流石に気が緩んできたのか、彼の喋り方も体裁を繕わなくなっていく。

 

「こちらこそ小生らが道草を喰ってしまったせいで余計な心配をかけた。深く詫びよう、申し訳なかった」

「気にすることないっすよ。体験生がちゃんと仕事してくれたって言うのは、むしろ誇りっす。正式にトリニティへ来ないか、と言うには日が浅いっすけど」

「逃げ回ってばかりだった……居場所を守っていただけることに深く感謝する」

「気にすることはないっすよ。ほら」

 

 ハンドサインでついてこいと合図され、俺らは歩く。

 

 広場では正義実現委員会のメンバーが待機していて、周辺の警備も黒い美女が一杯なのだが、広場には留学生たちが集まっていた。

 

「あ、いたいた!おーい!」

「大和!」

 

 走って駆け寄ろうとすると。痛みで跳ねて転けそうになる。

 

「わわ」

「言わんこっちゃない」

 

 同行者に支えてもらって転倒を回避すると、目の前には大和がいた。

 

「ああ、よかった……!」

 

 抱きついてくるし。でも嬉しい、アイアンとこいつが自分のことを好くのも分かるくらいのお人よしだ。

 

「アイアンが叱ったから俺からはもう何も言わねえよ、だけどその代わりにもう少し喜んでくれよ」

「喜んでいるよ!ごめんね無茶させて!」

「本当に辛かった、状況は話した通りだがいかんせん最初の一撃が重くてな」

「しばらくはこっちのターンだから任せて、私めっちゃ頑張るから!」

 

 裏切ってないだけマシだと考えるのもどうかとは思うのだが、自分が休んでいる間に彼女が動くことを考えれば此処で責め立てるのは愚の骨頂。彼女はこれから自分以上に動くため、アイアンの注意だけで留めておくのが一番だ。

 

 ただ何よりこういう大会で帰る場所があるだけでも嬉しいことはない。それがどんな事よりも幸せ。

 

 さて、そうこうしていると更に客がやってくる。

 

「あらー、帰ったの!お帰りなさい!」

「寮母さん」

 

 マンチカンの寮母がお出迎えに来てくれた。

 

「すごい怪我!大丈夫かしら!?」

「アイアンのおかげで何とか悪化せずに済みました。あの機械の兵隊から逃げ遅れてしまったので、ついぞこんな目に」

「流石に今日すぐに聞き込みはしないそうよ。と言ってもアイアンちゃんは体験入部している都合上、これから30分後には聞き取りがあるみたいだけど」

「そうですか……小生は責務を果たしましょう、不足なく」

 

 彼はいつもこんな感じなのだろうか、予後が悪いタイプの人間なのに全く動じてない。これが中二病の力か。

 

「アレイシアちゃんはもうちゃんと寝なさいね。明日になったら救護騎士団の方へ連れていくから、痛みがあまりにひどかったら呼ぶけれども」

「ごめんなさい、初日からご迷惑をおかけして」

「気にすることないのよ〜!あれだけの機械から逃げれたってことはちゃんと戦ったってことでしょ?あんだけ残骸があったんだもの、きっとみんな分かってくれるわよ」

「だと良いのですが」

「じゃあ、あまり時間を取らせるわけにもいかないし一度失礼するわね。何かあったらおいで」

「いや、朝まで取っておきましょう。おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 そうして寮母とも分かれ、また3人になった。とりあえず周りも部屋に戻って行ってるので、自分達も入ろう。

 

 ただ此処で別れてもアイアンを暇にさせるしな、と軽くエントランスロビーにあるところでしゃべる事にした。周りには誰もいない。

 

「よいしょ……」

「そうだ、大和。サオリはどうした?」

「彼女?ああ、自首する形で今シャーレに引き渡した状態だよ。だからミカと一緒」

「よくそこまであの短時間で持って行けたな」

「言ったでしょミカって少女は堪え性がないって。そこに作戦合流しなきゃならないっていうサオリの状況もあったからそれをひょいと弄ればこういう芸当も可能なわけ」

「お前すごいな……」

「当然電話口でも言う通りにミカを演じながらある程度テロリストどもを操作してなすりつける予定だったから助けるつもりではあったよ。だけど疲弊しちゃうとゲヘナ側が勢いづいて襲ってくる可能性あったから」

 

 納得は出来る話だ。

 

 確かにミカに濡れ衣を着せ、アリウスを徹底的に潰すというムーブを取れれば少なくともゲーム上ではキャラカードを消耗して人数も減る分ゲヘナとの正面衝突は避けられない。その上で軍隊が疑心暗鬼などで機能しないのもあって普通にトリニティ側が全滅してもおかしい話でもなかった。

 

 だからあえて膠着させる形で、ミカとサオリが罪を被ってしまう前に引き取り責任をアリウスだけに押し付けて睨みを利かせ合う状態に持って行けば、少なくとも政治パートは安定する。それにアリウスとゲヘナは手を組んでいる、プレイヤーしか知らない事でも事実だ。シャーレに上手いこと証拠を握らせれば、動きを鈍らせて本筋に話を戻す為の時間稼ぎも可能。

 

「よくあの短時間でそこまで気を回せるな」

 

 それが俺の率直な感想だった。

 

「いやあ、案外こういう大会って暗躍というものは大きい意味を持つんだよ。いつでもチャンスは掴み取る!ってのは持ってて損はしないマインドだ。尤もあんまり徒党を組んで攻略するとかが無かったから、今回ヘマやらかしたけど」

「気にするなよ」

「あんがと」

「これからは俺以上に働くからな、休める時は休んでくれよ」

「もちろん分かってるよ」

 

 談笑は続く。

 

 まだ時間はあるようだ、ともう一つだけ話を繰り出した。

 

「そう言えばゲヘナの方はどうなってるんだろうな。まさかトリニティみたいな事件が起こってるとは思えないけど」

「ああ、プレイヤー数は減ってなかったし事件があったーなんて言う話は来なかったよ。やっぱり狡いのよね」

「小生らの苦労を分けたいものだな」

「俺もそー思う」

 

 3人で背伸び。身体は痛いが、激痛よりも変な快感が体を駆け巡る。

 

「ゲヘナは多分どっかで総攻撃を仕掛けるタイミングを見ているんだとは思う。あんなものを投入されて止めたりとかしないんだもの。そもそも不意打ちミサイル決めるような奴が、こんな雑な侵攻を許すと思う?」

「ベアトリーチェの独断だった場合は流石に止められないからな。とは言ってもマコトってそこまで無能じゃないはずだ、俺は引っかかる」

「小生としてもそうだ。現状出揃ってる情報を纏めた場合、彼女がこの行動を咎めない理由はないだろう。調子に乗りやすい性格だが引っかかる部分も多い」

 

 とりあえず3人揃ってマコトがそこまで無能じゃないと思っているらしい。

 

 アイアンは、その中でも引っかかる部分というものを話してくれた。

 

「確かに彼女は思春期らしく割と調子には乗る。だが、それにしては余りにも“判断がおかしい”と言わざるを得ない」

「おかしい……?」

「例えば今回留学生というのはそれが適応された上で出てきているが、サオリの言うことを信じるならばキャラカードというものについては知っていないとおかしい訳だ。それはあまりに強大だし、因果を捻じ曲げてもおかしくはない。アリウスがそれを認識し、獲得して使えるようにしている以上ゲヘナもその情報を掴んでいるはず。

 なのにそれを警戒若しくは細かい調査をせずに強引に押し続けるということを彼女が許容するはずがない」

 

 危険な力を持っている事に気づいた場合はそれを理解出来るところまで扱わない。そして、誰が何をどれだけ持っているか、というのを知らないのに過信するような人間ではないと思っている。

 

 俺もそうだし、大和もそう思っている。情報のエキスパートであり、裏切りには気付かなかったにしろそもそも“トリニティが歴史に隠蔽したアリウスに辿り着く”を成し遂げて、交流をしているわけだ。しかも時期ではないとは言え、寝首もかかれていない。

 

 そんな人間が力に溺れるとは、にわかには信じ難いこと。

 

「つまりゲヘナの動きはマコトによってストップを掛けられると見るのが妥当だろう、そう言った異物をある程度把握しないで動く女じゃない。だから余計アリウスの動きが分からなくもなるが」

「じゃあしばらくやるべきことは」

「貴様は休憩、小生は治安維持、大和は計画を立てるだろうな」

「そっか」

 

 さて、此処まで話すと流石に時間が迫ってくる。時計を見ると、アイアンの聞き取りが始めるまであと3分。

 

 全員立って、お互いの顔を見た。

 

「そろそろ小生は話をしないといけない。アリウスのことは伏せる形にして機械とやり合ったことだけ話す、一応方法は生身での格闘だ。口裏は合わせてくれ」

「分かった、合わせておくよ」

「では失礼する」

 

 彼は会釈してから、外へと歩き出した。

 

「私達もそろそろ休もっか」

「ああ」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 お互いに手を振り、自分の部屋へと戻っていく。

 

 階段を上がり、ベアトリーチェの面影を思い出しつつ進む。

 

 明日からどう動くのか全く予想は出来ないし、自分が今日以上に上手く動けるか心配でならない。なにしろ中心になって動く、みたいなことをしてなかったから。

 

 だが、信頼できるメンバーがいる。プレイヤーが分かれば、ライバルだが味方も出来る。

 

 もっと良くなる、そう信じて俺は自分の部屋を開けた。

 

 夢と熱の園は、もう目の前。

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