Never Says「Good by…」   作:らんかん

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日が上り

 幸いにも、あの夜は以降何もなく通り過ぎて、朝を迎えることができた。

 

 未だにゲヘナの方を動向を知ることは出来てない上に、アリウスの動きをちゃんと観察できる手段は手に入っていないが、ともかく俺は休まないと。

 

「元気かしら?」

「お陰様で」

 

 結局プレイヤー数は減っていないことを確認すると、大きな動きもない。

 

 ならば怪しまれないようにお世話になるのが一番だ。寮母さんに挨拶をしてから、俺は車に乗せられた。スマホと財布を持ってはいるが、それ以外は丸腰。

 

 高級車ほどではないにしろ、そこそこ高い車。座り心地がなかなか良い。

 

「到着するまでそこ10分だから」

「すみません、よろしくお願いします」

「気にしなくて良いのよ」

 

 そう彼女は返事して、車は走り始めた。

 

 もう考えることは現段階で考え尽くしていて、今はアイアンと大和の二人がどんな情報を持ってくるのか、それか他の情報が事件として舞い込んでくるのかどっちかにしろ、OSGPに直接関わるムーブを取る事は出来ない。

 

 だが、いろんな少女と関わる機会をゲットしたと思えば悪い話でもない。

 

 アイアンと一緒に悪に立ち向かった、という事実は人を味方につけやすい。よほど外道なムーブを取らなければ、大体は味方に出来るだろう。

 

「外を見ているのね」

「ええ」

 

 他愛もない返事。

 

 もうすでにトリニティの方は見えているが、道路はそこまで一直線ではない。まだ到着には時間が掛かりそうだ。

 

「そういえば一つ聞いてもいいかしら」

「なんでしょ」

「アイアンちゃんってなかなか強いの?」

「それはまた何故?」

「あれだけの機械を破壊して逃げ仰せてるんだもの。あなたは多分無茶しても生き残ってるから十分強いけど、あの子は?」

「あー」

 

 確かに気になるものか。

 

「彼は俺よりも強い。あの喋り方して普通の出生ではないんですが、あれは貴族の出です。もっとも細かい話は聞いてはないですけど」

「外にも貴族ってあるのね〜」

「ほぼほぼ形骸化してきてますけどね」

 

 といっても、ここで話せるのはこの時代にあったサンプルを話すだけにとどまる。

 

「形骸化?」

「技術革新が起こったことによって大人だろうと子供だろうと一定の成果を出せるようになってきた。身体障害者はそれを補う機械を開発することに成功すれば、それだけ社会への参入ができる。そういった感じで、優秀な血という"保証"の価値は下がっていきました。ただしそれは健全な無能を社会から追い出すという犠牲の元で成り立ってますが」

「健全な無能……」

「障害を持っていないだけの人間です。社会には当然そいつらが多いのですが、この都市と同じように技術革新が起こった今、体力や知識の最低値では役に立たないものが多くあります。いや、多くなりすぎた。その中では貴族という概念そのものがいかに役に立たない指標なのかは、分かってもらえるかと」

 

 俺達が生きる時代に舵を切った理由でもあった。

 

 どれだけ望んでも、才能が無ければ存在している理由はない。そして才能は育てることはできても産むことに関しては大きく関与が出来ない。人間がまだ女性というユニットだけから生まれる事が出来た時代はさらにシビアになり、生存戦略と社会による合理性は乖離し、産むという行為を重視した結果社会の適応率を置き去りにして社会の想定した福祉とは大きく逸脱したカバーをしなければならない。

 

 だからこれを機に有能な奴らに一気に技術革新を齎らすようにさせ、結果的に無能がいなくなった事で仕事は進み、俺らの時代にたどり着いた。

 

 そいつらの技術が俺らの世界の土台であり、言わば生活圏や文化の土台を星とするならばその技術者達こそが世界を創造した神だと言っていい。

 

 だが、果たしてその技術者達というのは貴族であり、優秀な血によって作られたのだろうか?その時の人類はすでに血統という幻想を捨て、そいつのスキルを実績で評価していた。

 

 だから託した。そもそもそう言った障害などで本当に天才が出ないなど言うのであれば、聴覚障害を持った作曲家など生まれないのだから。

 

「貴族は何の保証にもならない、ね」

「無論歴史上価値が無いという訳ではありません、事実そういう地位についていたということはある一定の期間においてその人物が住んでいるところで、その人物以外の代わりがいなかった事を意味します。風土や文化を理解する上で有権者というのは、非常に深い価値を持ちますから」

「そうなのね……じゃあ、ティーパーティー周りでもやっぱりそういうのは興味があるのかしら」

「滅多に会える機会はないし正直祭典の見学の方が近いので興味はあるんですけどね……この怪我ですし」

 

 自認がヤン・ウェンリーになりつつある危惧をしつつも、俺は答えた。事実素直に興味はあるが_____

 

 さて、そんな話をしていると目的地に辿り着いた。

 

 駐車場から降りて歩くと、なかなか新鮮な空気。

 

「今日はあまり人がいないのね」

「昨日の事件で不必要な登校は避けているのかもしれない」

「まあでも正義実現委員会もシスターフッドもいるから大丈夫よ、ほら」

 

 歩いて行くと階段の上に誰かが居る。

 

 看護師だろうか?

 

「あ!いました!おーい!」

「どうも」

 

 階段を上がり、口角を少しだけ緩めてから挨拶する。

 

「すみません、今日お時間いただくアレイシアと言います」

「アレイシアさんですね!話は聞いていますよ、こちらに」

「ええ」

 

 寮母さんと三人で、看護師の案内に従った。

 

 なんといえばいいのだろうか、女性だけの世界というのはなぜか心が躍っても脳が溶けるほどの快楽はない。

 

 人間には性別以上に快楽がある、というのをマジマジと見せつけられているようだ。

 

「お迎え頂いてありがとうございます、大変でしょう?昨日の一件で怪我したのは俺だけじゃないんですから」

「いえいえ、案外戦闘員は軽傷で済んでいますよ。骨折まで行ったのは2名で、しかもどちらも正義実現委員会。あまり気になさらないで」

「お気遣い頂きなんとお礼申し上げれば……」

 

 丁寧になろうとしてから回っている恥ずかしさがある。マジでアイアンはこういう時普通に対応できるんだろうな、羨まし。

 

 歩いていると一気に建物の中に入り、そのまま医務室へと通された。

 

「あ、来ましたね」

 

 小さいピンク髪の子がやってきた。

 

「あなたが患者さんですか?」

「アレイシア・ガレットピアです」

「ああ!予約していた患者さんですね、こちらへどうぞ」

 

 通されるままに、俺は診察へと通された。

 

 すでにセリナは座っている。俺も軽く一礼して、座った。

 

「ある程度話は聞いています。機械の集団を素手で倒して逃げている中で攻撃を喰らい、そのせいで大怪我を負われたと」

「恥ずかしながら。自警団のスズミさんには護身用の武器を持っていた方がいいと言われたのですが、すぐに必要になるとは思っておらず」

「仕方ないですよねえ。包帯を巻き直すので、服を脱いでもらっても?」

「ええ」

 

 躊躇なく服を脱ぐ。

 

 ここには異性がいないし、強いて言えば俺だけ。だが俺らが本来いる時代なんてポルノは一円よりも価値がない。みんな美男美女で関わっている以上、性欲を満たす以上の異性の価値はなかった。異性相手で価値がある、となればそれはもう個性の部分だ。

 

 実際に衝撃による傷もあったが、火傷もしていて非常にヒリヒリする。

 

「これは相当ですね……包帯も血が結構ついてますから、交換しましょうか。この程度であれば汗腺が壊れていたりずっと痕が残るということではないですが……あまりに痛みを感じる場合はお風呂は避けてください」

「わかりました」

「あとはいくつか軽度の肉離れが起こっていますね」

「肉離れ?」

「簡単にいえば筋肉がごく一部細かいところで断裂を起こしています。右の二の腕や脛の部分ですね。中度でもないので休息を取れれば数日後には治っているはずです。ですが、それまでは激しい運動は避けてください。付き添いが必要なほど支障はないかと」

 

 通りで動くたびに痛みが残っているはずだ。

 

 しかしおそらくこの肉離れは被弾した時ではなくアサルトウルフで暴れ回った時だろう、怪我をしている状態で危機を感じた肉体が筋肉に過剰にパワーを送って制御した結果起こったことだ。機能性アップをしても身体機能のカバーはない。これをあれ以上のパワーで使い回してた不破諌は、架空のキャラとはいえイカれてるのでは。

 

 セリナに巻かれる包帯が触れた瞬間はヒリヒリして痛いけど、我慢すれば瞬時にくっつくようにして慣れる。なかなか悪くない感覚。

 

「それくらいでしょうか。あなたと同じところにいたというアイアンさんは見た目別状はないとは言ってましたが、今回の一件は大きかったのもあり正実での仕事を終えた後に来ていただくように言っています。その怪我でアクティビティに動くことはないでしょうけど……遠出などはやめてくださいね」

「そんなのに見えます?」

「人は見かけによらないものです」

 

 こうやって守ってくれる、助けてくれる仕事をする人のこういったお願いはいつの時代でも怖いものだ。それは膨大な勉強量を余さず実践していることによる"実力という恐怖"が、彼女らの言葉を人格を持たず保証しているのだろう。

 

 ただ、助かった。

 

 あまりに酷い怪我であったならしばらくは戦いを控えざるを得ないのは俺のミスだったが、昨日の一件をプレイヤーロスト0に抑えて俺らは綺麗に返した。言うなれば相手だけウルトを3枚落として綺麗に追い返したのと一緒だ。

 

 相手が本気で来なかったのもあったが、それでも人数差を二人か三人くらいで返している。これが威圧になって動きが鈍くなればその分俺は回復可能。

 

「はい!これで応急処置が終わりましたよ!」

「ありがとうございます」

 

 アイアンよりも丁寧にきつく縛られたおかげで、傷の痛みよりも圧迫感の方が強くなり体が動かしやすくなった。

 

 服を着直して、寮母の隣に立つ。

 

「また何か困ったことがあればご連絡ください」

「その時が来ないよう安静にしておきます。ありがとうございました」

「気になさらず。では」

「ええ」

 

 そう言って、俺らは医務室を後にした。

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