Never Says「Good by…」   作:らんかん

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静かに震え

 あまり語るようなこともなかった。

 

 診察後、正義実現委員会から呼び出されて事情聴取をされたもののアイアンとの発言に相違なく、あったとしても個人的な行動の差で片付くため完全一致でもないのが余計信憑性を高めた様子。結果的に怪しまれることなく、解放される。

 

「はあ」

「お疲れのようだな」

「アイアン」

 

 寮母さんは書類仕事があるからか、自分を置いて事務所の方へ行ってる。

 

 その代わりと言ってはなんだが、アイアンが来てくれた。

 

「無理もない、あの時からまだ一日も経っていない。傷も癒えないが謎も深まっているせいで余計疲労が取れることもないだろう。眠れなかったか?」

「寝れたよぐっすり、もっとも気絶に近かったが」

「体の痛みは?」

「残ってはないがマシにはなった。戦えるかは別だ」

「そうか」

 

 コーヒーを飲みながら、窓の外を見ている。アイアンも同じようにしている。

 

「小生もしばらく戦えない。使えんからなカード」

「そういえば今日からだっけ?正義実現委員会の特別体験っての」

「ああ、そうだ。こんな一大事に他校の生徒を保安に組み込むとはどうかしているが、まあそういう筋書きだからな」

「そりゃそーだ」

「ただここは公共の場だ、あんまりプライベートな話は控えた方がいいだろう」

 

 プレイベートとは言っているが指しているのはOSGPのことだ。

 

「んじゃ何話すよ」

「仲間内であれば政治的な話はしていいはずだ、もっとも自分たちの口から漏れ出るのは留学生の印象にしか過ぎないがな」

 

 あー、と適当な話をしながら考える。

 

「お前は現状どう動くと思っている?」

「うーんどうだか。どの陣営も動きそうにないとは思う」

 

 正直なところ動く気配はないだろう。アリウスのせいかどうかは、まだ判別していない。判別してたら多分今頃拘束されてるなりなんなりしている。

 

 先生のところにミカを誘導したということは、先生はその情報を持っているがあくまでそれはシャーレが持っているに過ぎないんだ。トリニティの人間にそれを正直に話して信用を得れるかは別の問題。

 

 っていう話をいろんな人が飛び交っているところで言うわけにもいかない。

 

「そもそもテロリストの処理に苦戦してるとは言っても、それは正義実現委員会ないしトリニティ自警団の仕事だ。トリニティは派閥争いが熾烈だっていうし、その中で保安部分の適切な処置を行える奴がいるとも思えない」

「流石に舐めてないか?」

「トップがまともだったところで幹部が終わってちゃ話にならない。第二次世界大戦後、ヒトラーのように逃げることなく処置を受けた昭和天皇は二・二六事件からの態度を見るにかなり国に責任感のある男だった。だが、東條内閣の惨状を見るとトップがいかにまともでもその権力というのは結局近場の人間を支配する思想や利権の波に飲まれる。権利があっても使えないのでは意味はない」

 

 本来極右と呼ばれる人間は、国のためには天皇のすげ替えも辞さないほどのタイプだと聞いた。

 

 結論を言えば『いい方向に転がせる人物はいない』と言ったところか。いや、それをなんとかするのがシャーレの先生だったとも聞くが。

 

「お前からしてみれば、さして役に立たないと見ているか。そうだな、貴族というものが時というものによって消されたのは文明の発展によってその血による利益がなくなってきたからだが……往々にして利権者というものは弱者がいなければ成り立たんからな。下院がない時点で、な部分はあるか」

「ティーパーティーのトップは三人全員人当たりのいい性格とは聞いている。だが、彼女達に非はなくとも周りのせいで動けないというのは考えられる話だな。それに彼女達にとっては、起こった事件は現実にも思えないんだと思ってる」

 

『どの時代を生きようが、人生において客観なんてものは存在しない!生きている自分の意思から離れられない以上は積み上げてきたものが全てだ!この少女達もそうだ、俺やお前の交わした言葉なぞどこにもこいつらの真実はない!』

 

『こいつらにとっては、生きるために必要なこと以外の真偽など必要ない!だがそいつらの食い扶持や境遇の云々、過去の是非など知ったことじゃない!俺は俺の生きてる時間、俺の大切なもの、俺にとっての真実のためにこの身滅びるまで戦う!』

 

 昨日の夜に叫んだことが反芻する。

 

 アリウスの少女達にとっては俺らを殺して食い扶持を得るために侵略を続けることが正義であり、生きていくための現実であった。

 

 トリニティのティーパーティーにいる派閥の奴らも血の流れない戦争をし続けている以上、自分の生まれた地位をどれだけ守り切れるかが真実であり、それ以外は虚構に過ぎない。金を吸い取る"行為"こそが彼女達の生きる術であり、金そのものは報酬の一環。

 

「万人が認める事実はない、か」

 

 窓の外は枯れ葉が飛ぶ。

 

 俺はトリニティにある美術品の価値がわからない。それが実物であれ偽物であれ、絵そのものは変わらないからその情報から判断を下すことしかできない。

 

 だが、ここに住んでいる人間はおそらくその価値を絵以外に感じるところがあるのだろう。その感性が彼女達の世界と俺の世界の差であって、必要なものの違いであって________

 

「ともかく、正直なところ事態が好転することはすぐにはないかもな。シャーレの先生の影響力は強いから、彼がどう動くかが鍵だと思っている」

「動かないような奴だったら?」

「大和が動かす」

「……それはそうだ」

 

 仲間に押し付けるようなこと言って二人で笑う。

 

 でも実際彼女の動きがプレイヤー側では重要だ、他のプレイヤーが一切顔出してこないのもあって中々動きが悪い。

 

 そんな愚痴も互いに持っていた。

 

 話をしていると、複数の足音が重なってやってくる。

 

「ん?」

 

 その方向を見ると、お嬢様達が固まって歩いている。

 

「あれは?」

「話をすればなんとやらだ」

 

 事務所の方を歩き過ぎるのだろう。少しばかり後ろの席に移動して、見てみることに。

 

「つまり今回のテロ事件は大々的に取り上げる事案だと?」

「ええ、私達はかなり敵を抱えている状態です。逆を言えば対外的なアピールも含むエデン条約の調印式は遅らせても問題はない。真偽が定かではないにしろ、アリウスの生徒がいるのはかなり危険な状態です。ゲヘナと裏で手を組むだろう、という話も否定はしきれません」

「しかし、それを認めればパテル派の増長を招きませんか。それはフィリウス派としても容認できる話ではないと思うのですが……サンクトゥスもそれを理解しているのか、あまり関与したがらないのです。派閥同士の争いの末、あれが一人勝ちするのも受け入れ難いでしょう?」

「不幸中の幸いですが、彼女はシャーレが保護しています。それは逆を言えば鎖がついていることで、サンクトゥスが介入しないのであれば正実への支援を自由にできる。この状況を打開して一気に平定します。そうすれば憂いなくゲヘナとの交渉が出来るのですから」

「なるほど……」

 

 言った通りのようなことが起こっている。

 

 彼女達が大人であればまだ自分たちの想像よりも深いところで話し合うと思っていたが、やはりこれが子供社会か。

 

「なので気にせず正実との連携強化を。この事件を早めに解決すれば、シスターフッドへの牽制にも繋がりますから。責任は私が負いましょう、そうでもしないと手遅れになります」

「わ、わかりました。そこまでおっしゃるのであれば、そうしまよう」

「お願いします」

 

 中々テキパキ指示を出している彼女。

 

「あれが女傑っていうものか……?」

「人間は追い詰められると本気を出すからな」

 

 後ろでこそこそ話し合いながら見ているが、お嬢様達は気づく様子がない。

 

「ところであの件はどうなってますか?」

「ええと、補習授業部の件ですね。現状怪しいやつはいないと報告は貰っているのですが……」

「そのまま調査を続けてください」

「は、はい」

「あと……」

 

 中央のお嬢様が足を止めた。

 

「少しだけお時間をいただけますか?」

「それはもちろん。なんなら今日は朝の会議以外は書類仕事以外ないですし、どれも補填を追っての承認ですからわたくし達がなんとか」

「ありがとうございます。先に戻っていてください」

「わかりました」

 

 その少女以外は、全員通路を進んでいく。

 

 他の生徒もいるような場所ではあるのだが、これだけの存在に囲まれていたのが一人になっているのだからよほど何かあるのだろう。休憩したいか、何かだろうが。

 

「……顔を出さないのですか」

 

 そんな声。

 

 周りの少女達は気にしてない。きっと隠れている人間がいるのだろう、よくある話だ。

 

「……私達の間には隠し事などできません。あなた達のことはある程度、分かっています」

 

 彼女の口は動いていない。

 

 でも、周りにいる生徒達はその声が聞こえてないレベルで動きに支障がない。

 

 アイアンを見ていると、同じように固まってる。

 

 少女の方を振り向くと_____

 

「あ」

 

 恐怖で声が漏れ出た。

 

 ああ、振り向いてこっちを見ている。

 

「……素直な方、ですね」

「一体どうやって、俺らと……!俺らだけに……!?」

「あなた方も知っていることです。OSGPのシステムには、近未来的な通信プログラムがある。あなた方もデータ生命体だからこそ、システムと直結していて会話ができるのです。それを使っているに過ぎません」

「違う!どうやって!どうやって入った!」

 

 カードを使うこと自体に疑問はない。それもOSGPでは許されたことだ。

 

 だが、違う。

 

 OSGPでもプレイヤー同士の回線は入ることが出来ないようになっているはずだ。キャラクターにはない世界とのデータ連携にもつながって、変なシンギュラリティを生む可能性もある。だから、OSGPプレイヤーしか使えないシステムはそもそも認識もできない。

 

 そして相手にはプレイヤー反応は出ていない。そもそも、キャラカードの性能が無ければ隠せないシステムだ。

 

 なのにこの少女はそんな機能を知っている、使っている。

 

「こちらへ来てください。気にすることはありません、部下の一人に言伝を頼みます」

「_____行こう、アイアン」

「ああ」

 

 互いに拒む理由はなかった。

 

 彼女は俺らを認識し、俺らは彼女がこうなった理由を知る必要がある。

 

 そのお嬢様は歩き出し、俺らもついていく。

 

 彼女の羽が、進むにつれて黒くなっていった。

 

 何かの暗示をするように。

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