Never Says「Good by…」   作:らんかん

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遠響の騒乱

 取り残された俺はだいぶ情けない。

 

 何せこの三人の中で一番政治に向いてないやつが一番協力できる展開なのだから。

 

 残っているお菓子は食べきれないが捨てるのも勿体無いので包んだ、文化はトリニティにあってくれて良かった。それは今従者が寮に持って帰っている。

 

 それに昨夜のことであんまし余計な外出も出来ない状況なのもあって、大和も動けないのだろう。シャーレとの接種も生半可には出来ないし、俺もアイアンも近づいては居ても可能じゃない。

 

 最悪自我を出せば俺はナギサ相手に発情することになるが性癖を捻じ曲げられたくもない。胸の大きくて優しいお姉さんが好きだ。

 

「……どうしましたか?」

「考え事だ」

「そうですか」

 

 翼は白に戻っているが、キャラカードそのものにはクールタイムという概念はない。油断は出来ないだろう。

 

「ところでアレイシアさん」

「ん?」

「貴方に聞きたいことがあります」

「なんだ」

 

 振り向いてみると、紅茶のおかわりと共にやってきた。

 

「プレイヤーを協力させる方法ってありますか?」

「ないな」

 

 OSGPはその名の通り無法者の為のレースだ。コンクエストでさえランキングで報酬が違うのだから、同じ陣営でも協力する奴はいない。

 

「言わなかったか?俺らのやってるゲームは蹴落とすことが前提なんだ、スコアを上げるために先んじて攻撃しに行くなんて愚の骨頂だとな。ましてやプレイヤー同士の戦いじゃないのに切るのは余程のバカか狙っているものがある時しかやらない」

「貴方達は確かめたいことや利益があって戦闘に臨んだ。そう言ったのを上手いこと周知させて引き出す方法はないかと思ったのですが」

「残りのプレイヤーがトリニティにしかいないならともかく、ゲヘナにもいる。カードを使ってアリウスとの戦いを始めた時にネコババされる可能性だってある。だからおそらく今の段階では、さして効果はないだろう。もう少しだけ時間がいる、状況が混迷とする時間がな」

「混沌を望む、ですか」

「水の流れが大きい方が、流れてくるものを掴みやすい。そんな生き方の方が得意だな、俺は」

 

 ただし政治までそうなってしまうと彼女の負担が大きい、と言うのもあって待てとは強く言えない。彼女が何かしらアクションを取ることで落ち着くことが出来るのならば、協力はしてあげたいが……今動くことこそが余計に足を沼に浸からせる。

 

「正直なところ今は動かないことが正解だ。何かしたい気持ちは理解するし、そこまで追い詰められているかもしれないが」

「貴方に分かるのですか?」

「メンタルが不安定なことぐらい分かるさ、こんな問題が起こった挙句別の分派のやつがシャーレに緊急合流するくらいの一大事だからな」

 

 紅茶を飲む。

 

 苦い、砂糖を入れたいレベルだ。

 

 適当に手繰って大さじ3倍を溶かして飲むと丁度いい。

 

「他のお嬢様から聞いたが結構内部争いが絶えないとも聞いた。そりゃ確かにそんな硬い顔にもなるし態度にもなるってところかな。俺はあんたの人間関係知らねえからそこら辺でもっと心配事もあるかもしれないが、ともかく無事じゃ無かったら外部の人間に協力頼もうなんざ思わない」

「まるで私が今絶好の獲物であるみたいな言い方」

「そうだぞ?だが悪く無い」

 

 ソファでゆっくりしてても憂鬱な表情をし続けるナギサ。あれ、何だかこういう仕草に心惹かれるぞ。

 

「……」

 

 俺は女性に弱い。だが、ここで頼れるところを見せないと。

 

「その弱さを何処でどう使うかってのも為政者の腕の見せ所。子供だけの社会なら尚更弱さは使える。今回のイレギュラーは大きいにしろちゃんと情報を取捨選択して俺やアイアンに辿り着いたじゃないか。無論それを狙ったのもあったが、ちゃんとキャッチしたのはナギサだ。要はそれだけの判断能力はあって、まだ情報を精査する能力は残ってるってわけ」

「しかし、本当に動かない事が正解なのでしょうか」

 

 あー、やっぱり不安に思っているか。

 

「ミカさんはシャーレに合流しているとは言えアリウスと関わっていましたし、セイアさんは最近体調を崩し気味。どうしても私が頑張らないといけないのですが……それが続いているので」

「現状ティーパーティーの総意になりかねないなら責任も重大か。気持ちは察する」

「当然その状況で重ねて今回の件……どうしても手を打ちたいのです、上手くことを運ぶ為にも。その為に貴方達に協力を依頼したのですから」

 

 ナギサの若干疲れたような顔。

 

 差し詰トップ間の中は良好なのだろう、大和に答えを聞いてみないとわからないが。

 

「ですから、貴方に聞いているのです。どんな手を打てるか」

「手はもう打ってる、と言ったら?」

「はあ……?」

「俺らと協力関係を結ぶことは十分手を打ってるってことさ。しかも今出来る最大限、イレギュラー関係の人間を引き込んだ事がな」

 

 紅茶をお代わりして飲みつつ、話を続ける。

 

「だけど今はそれ以上に情報がない。あるとしてもサオリとミカが先生に話して、そこからシャーレの動き次第で判断するしかないってことさ。当然今俺らが打てる手は無いし、むしろ打とうとして打てば打つだけ窮地への足掛かりになってしまう。そこまで行ったら『手を打って安心したい』が目的になって問題解決から遠ざかるんだ」

 

 リーダーはそこを履き違えてはならない。いや、本来誰しもが冷静ならそこを間違えることは滅多にない。

 

 こう言ったミスは総じて"焦り"に起因するものだ。そこは止めておく。

 

「今はこれで良いのさ。新たな情報が出るまでゆっくり待てば良い、いつもの仕事をサボるのは難しいかもしれないが、アリウスやイレギュラーな事はそう言った情報が出るまで待つ。何かあれば俺がすっ飛んで戦うで良いじゃないか」

「カードを隠したくはないんですか?」

「ナギサの方が価値があるからな」

 

 口説き文句みたいで嫌になったが、その気持ちも抑えよう。呆れはもう伝わってるかもしれないが。

 

「現地の人間、しかも権力者。それはどの時代においても大事だ」

「世界を無茶苦茶に出来る力を幾つも持ち込んでも、ですか?」

「だからだよ」

 

 かの孫子はこう言った。

 

『概算で勝てる段階で大凡その戦いには勝っている』

 

「今の時点崩れずにやれることをやっている胆力というのはプレイヤーは余り持っていない。その時点でナギサは大半のプレイヤーに勝ててる。しかも力でねじ伏せず理論で詰めていくのも得意と来れば、その実力は計り知れない。ロックブーケによる脅迫が無くても俺は普通に警戒する」

「それはチートよりも大事なことですか?」

「当たり前だ。チートを使えたところで結局使う側も使われる側も人間だ、ずっと使っていては疲労が溜まるから動けなくなったタイミングですっ飛ぶ」

 

 自分は経験ないが、そう言った事例はよく聞く。

 

 出来る限り現実と同じような設定になっているOSGPでは、フルスペックカードでヒャッハーして目立ちすぎた結果隙を狙われて脱落すると言った事がよく起こり得る。つまり下準備、戦う土地での情報収集や行動に対して合法化させるというのは大事だ。

 

 なお優勝した時ですら最後以外特に協力得られなかった人間が言う事ではないが_____

 

「このゲームはリアルタイムの戦いで、このタイミングでは攻撃してはならないというものはない。つまり一人でやればやるだけ苦しい。協力者というものが必要なのは理解しているつもりだ」

「そうなのです、か」

「ああ。だから声をかけてくれたとき素直に嬉しかったんだよ、利害関係であったとしてもな」

 

 漸く自分も引っ掛かる事なく自然に笑みが溢れた気がする。

 

「……アレイシアさん」

「ナギサ……確かにお前には何か心配している奴もいるだろうし、状況だって大混乱一歩手前だ。それが精神に負担をかけて、色々と迷って挙句選択肢に振り回されている。それ自体は人間である以上仕方のない事だ」

 

 だが、ナギサは判断を間違えないだけの実力と知識を兼ね備えている。いつもの内部争いでの経験も、彼女を後押しした。

 

「誰が何を言わずともお前は強い。だからそうだな……お前が信じれるものを、信じてくれ。それで良い」

「私が信じれるもの……」

「例えばそのミカとかと仲が良いなら、確固とした裏切りの証拠が出てくるまでは彼女の事を信じ切っちゃってもいい。セイアとかもそう。で、先生の事を信じられないならいっそぶつかってみるのもいい。子供の面倒を見れない大人は失格だ、ましてや子供と関わる位置に居るならな」

 

 それは今の俺がそうだ。

 

 ルール上保障されているとは言え、大和とアイアンの実力を信じているからこそ自分が出来ないことまで背伸びしてやろうとせずに、それぞれ出来ることを任せている。

 

 今焦りと元の環境からそれが出来なくなりつつナギサも落ち着きさえ取り戻せば今より強くなれる。いや、弱体化が解除されると言った方が正しいか。

 

「そう言った信じられる物があるなら……今は疑うのを止めて、確実にあった問題を処理していけば良いんじゃないか。ナギサにはそうするだけの実力があるし、動いていけば当然真実にも辿り着く。

 だから、今は待とう」

 

 それが俺の答えだった。

 

「……わかりました。忠告は受け取っておきましょう」

 

 ナギサは少しだけ微笑んで、翼を揺らしている。

 

 中々良い落とし所を見つけたな。俺は初めてファインプレーしたんじゃなかろうか。

 

 しかしこれ以上に何も言えることはない。次にあるとしたらゲヘナのプレイヤーと接触して情報を盗んだ時か、もしくはアリウス絡み。

 

 紅茶も飲み終わってるし、立ち上がって寮母さんに合流しようじゃないか。

 

「そろそろ失礼しても良いか」

「ええ、構いませんよ」

「じゃ」

 

 俺は立ち上がる。

 

 アイアンは兎も角大和は今何をしている頃だろうか。外に出れてないならモニタリングしているだろうが、正直状況は変わってなさそうだ。

 

 それにサオリとミカの情報も聞いた先生はどうしてるだろうか。今も状況を整理中か?

 

 そもそもゲヘナチームはどうしているだろうか。昼間から動くのは難しいから夜に大規模作戦を起こすのも考えられる。

 

 どの道、俺達が動き出すにはまだ幾許かの猶予はあるだろう。

 

 俺はドアノブに手をかけた。

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