はぜる音、揺れる扉。
なんなら扉ごと吹っ飛んだ挙句に、思いっきりテーブルにぶつかった。
「あいっ……!」
「大丈夫ですか!?」
ガラスのテーブルは固くて壊れないが俺が痛みで壊れそう。
血は流れている感触はしないものの、流石にこの状態で戦える気はしない。ゆっくり立ち上がる。
「うっ……」
ナギサに情けなく支えられて立ち上がる俺。
少し痛みは落ち着いたらそのまま扉の外を見る。
ひでえ。
他に血を流している人間はいないし怪我してそうでもないのだが、何せパニックに陥っていた。
「おい!誰か動けない奴はいないか!いたら叫んでくれ!」
と叫んでも、誰もいない。
「パニックで逃げ惑ってるのか?」
「いえ、対テロ防衛はゲヘナとの攻防の中で組み上げられているはずです。その中の要項には避難時の行動と数種類の避難経路を出しています。無論、ほぼ火災と一緒ですが」
「案外お嬢様ってのはそこら辺しっかりしてるもんだな」
「ただし、長く混乱が続けばその影響は計り知れません」
「行くのか?」
「貴方が行くのであれば」
「じゃあ付いてきてくれ。こういう時は意味のない一人行動は危険だ」
実際に今のナギサはもう普通のナギサじゃない。
一応待ち伏せがいないか確認してから、思い切り飛び出した。
煙は吹き出ているが熱の気配はなし。詰まるところ軽い爆撃の可能性が高いだろう。
「どうするのですか、敵が居たら」
「そういう時には混乱で周りに一般お嬢様が居ないと仮定して戦うしかない。ただその時は逃げることが前提だ、全滅させるなんて考えるんじゃないぞ」
「ロックブーケは剣使いです、正直銃弾と真っ当にやり合える気はしませんよ」
「理性だな」
2階なのか。
階段も走って登っていると、逃げ遅れか一人対面から走ってきた。
「あ……ナギサ様!」
「どうしましたか」
急いで駆け寄ってきてるお嬢様は煤だらけ。
「あ、あの!聖園ミカがいる場所に爆撃が!」な、投げ込まれたんですよ!」
「見たのですか?」
「隣の部屋の窓が割れて、見に行こうと思ったら爆発して動けなくって!でも見に行って何かあるか分からずに……!」
「貴女は逃げてください。隣に居るのは私が直々に指名した協力者です、状況確認次第すぐに退避しますので早く」
「わかりました!」
お嬢様は可愛い走り方して去っていった。本当にスカートの袖を摘んで走るってあるんだな。
ここからだ。
煙が収まっていく事件現場に突入し、部屋の中を見渡す。
手榴弾か何かが一発爆ぜたのだろう、周辺はかなりボロボロになっていてなんなら床に少しだけ穴空いている。
「あちゃー。こりゃ望み薄だな」
「そうですね。誰もいない……まあ、それでも面白いものが一つありますけど」
「何がだ」
ナギサは歩いていって、そのまま何かを持ち上げた。
それは、彼女と同じ翼の生えた少女。薄紅色の髪をした、可愛い娘。
「……あ?」
「刀が一本、置いてあるではないですか」
無茶苦茶なことを言い出す。
刀?その少女が?触覚がイカれているのか?
「お前何言ってるんだ……?どう見たってそいつは」
「逆に貴方はこの刀がどう見えているのですか?」
「どうってそりゃピンクの髪したお前みたいな少女だよ!」
「はて」
彼女が首を傾げている。
「おまっ……首根っこ掴んどいてそれ言うか!」
「これが何に見えているんですか本当に」
「だってそいつどう見たって」
言い合いをしようとした瞬間、物音がする。
「うぐあ」
そんな抜けた声と共に、誰かが箪笥から飛び出してきた。
いや転げ落ちたと言うべきか。
「あだ……本当にもー、死ぬかと思った」
「大和!」
「ん?」
ユーザー反応がディスプレイに出てきたので理解できた。
綺麗な聖園ミカだが、フルスペックだろう。
「え、ミカさん……!?」
「違う違う違う!君の友達に化けてるだけだから!」
ぽん、という煙と共に普通の大和が姿を表す。
「ああ、なんだ。偽物ですか」
「それはこっちのセリフだよ〜なんで桐藤ナギサが一緒に居るのさ」
「成り行きだ。正確に言うなら脅された」
「何されたの?」
「テンプテーションによる脅し」
「えっそんなのに引っかかるの?」
「あの俺男なんだが」
「効力持っちゃうか〜」
そのまま彼女は近づいて、少女……いや、よく見たらミカだこれ。
それを受け取ってる所作はやっぱり刀っぽい。首掴んでるのを引き渡してるようにしか見えないが。
「で、何慌ててたの?」
「いや今も十分慌ててるが、なんで少女の首を掴んで」
「……あ〜」
納得したような大和の声。
「これ鏡花水月だよ?」
「え」
「まっさか知らないなんてことないよね?」
「いやそう言われても俺にはミカにしか見えないし」
「ナギサちゃんでしょ隣。解号を言わせる気?」
「……はあ、慣れねえな」
そうだ、解号を言ってしまえばナギサも催眠にかかることになる。それは避けたい。
俺が掛かっている分にはタネが理解できる以上問題はない。ならば、仕方なく黙ることにした。
「で、どうする。もうすでにテロ仕掛けたやつは居ないだろうし、逃げた先で戦っていてもそこにプレイヤーが居なきゃ最悪異界の力でパーになって逃げられてるだろうさ。追いつけない」
「うーんとねえ、どうしよ?」
「大体何が目的なんだよ」
「聖園ミカの死亡を偽装することかなあ」
しれっと恐ろしいこと言わないでくれ。
「おいおい」
「ああ、これ本人の意向もあってのことだよ。彼女が死ねばアリウスへの言及が強くなるだろうってことで。自分がそういう扱いを受ける分には問題ないってさ」
「ミカさんらしい言い草ですが、少し容認出来ませんね。彼女は自分が誹りを受ける分には、と言うのを本気でするので」
「でも彼女の言う通りではあるよ。だって、そうすることでトリニティの内部争いが出来ないくらいに騒ぎを起こすことが出来るもんね」
「随分思い切ったことをするな。冷徹なのかミカって、かなりメンヘラ気質って聞いたのに」
「それはブルアカプレイヤーが受け取って解釈した姿なのが大きいって話じゃ?かのフランドール・スカーレットと同じ*1だよ」
大和はおそらく"頼れる存在が大きく限られている状況の人間の心情を弱者男性の欲求に当てはめた"と解釈しているのだろう。俺もそれに踊らされたか。
「そもそもこの状況ではまだナギサもセイアもかなり比重が大きい。先生よりもね」
「じゃそう言うことを言い始めてもおかしくはないってことか」
「キャラカードのことについても知ってるし最高の味方だよ。尤も私は私でどうやってナギサを仲間に引き入れようか悩んでたけど……」
「私はこの方と協定を結びました。正確にはアイアンさんにも」
「それはテンプテーションを使って?」
「最初はプレイヤー全員ろくでなしだと思っていたので仕掛けて話し合いのテーブルに付かせたのですが、思ったよりスムーズに話が出来る方でしたから」
「ふぅん」
「大和の邪魔になりかねないからな、怖かったけど話し合いをしたんだ」
俺の苦労も分かってほしいものだ。
「で、こっからどうするよ」
「うーん」
「折角なら私の死体もご用意して頂けますか?」
「え」
ナギサがとんでもない事を言い出したぞ。
「ん?いいよ。でも理由は教えてほしいかも」
「おいおい乗り気なのか」
「いいでしょう」
大和もなんかやる前提で話をしてくるし。
問われた方は、二つの理由を話した。
「まず、私も同じく死を偽装すればミカさんだけじゃない以上大打撃を与えることが出来ます。トリニティの政治は不安定になりますが、不安定になったところで治安面は正義実現委員会が上の組織が機能停止したことで実質的に保安面でのトップに立つことが可能です。ハスミさんならその責務に耐えるでしょう。内部の利権争いを停止させるにはそれくらいしないといけません、前代未聞のカードは今切るのが最適です」
「ほほう。まあ、でもそれでミカちゃんと一緒に来てくれるってんなら私達も嬉しいよね」
「そりゃな。尤も俺はその時からどうやって恩返すか頭を悩ませることになるが」
「そして二つ目」
ナギサの冷たい声。
「シスターフッドを表に引き摺り出せる」
すげえこと言い出した。
流石に大和も固まっている。
「えぇ……?」
「何を驚いているのですか」
「いや驚くだろ、キャラに似合わんくらいすげえこと言い出してるもん」
「はあ、いいですか」
呆れてる彼女は、説明を続ける。
「そもそもシスターフッドはアリウスと因縁のある組織です。ユスティナ聖徒会があれの前身ですから、アリウスが出てくればまず無事で済まない。しかし今のトリニティの政府はこのティーパーティーであり、それ以外では救護騎士団などが医療分野での同等の影響力を持ちますがシスターフッドは政治から身を引いている。しかし先ほども言った通りアリウスはシスターフッドと深い関係がある」
「ええっとつまりなんだ?『無理矢理にでも表舞台に引き摺り出して過去の清算をさせてやる!』ってことか」
「話が分かるではありませんか」
やばすぎるぞ桐藤ナギサ。
「もっと言えば最初に戻るとそれくらいでもしないとトリニティは派閥争いから抜けられないと言うことでもあります。サンクトゥスのセイアさんはまあいつも体調悪いので……それに未来視が出来る以上諦めて誘拐されてくれると思いますし」
総合すると『シスターフッドも巻き込んで過去の清算をトリニティ全体でさせてその負担で利権争いという邪魔事を吹き飛ばし解決に尽力させる』というものだ。
「そうすればシャーレの先生も国家間の大きいトラブルに動かざるを得ない。連邦捜査部の仕事である以上逃げられませんから」
「うわあえげつな」
「いいねえ!乗った!」
「大和ォ!本当にいいのか!?」
「なあに言ってるの、彼女達にとってもこれはチャンスなんだよ。それを不意にしたくはないでしょ?」
「……んまあそうだけど」
突拍子もないけど大和とナギサには確信があった。
俺も理屈そのものは理解出来たから、反論しようもない。
「決まりですね。鏡花水月?というので作った私の死体は、適当にほっぽっといて下さい」
「分かった」
「しゃあねえな」
「君達は通路の方を見ててね、準備が出来次第すぐ離脱するよ」
「ああ」
俺とナギサは部屋の外に出る。
煙は収まり、廊下の方には誰もいない。
だが、外の庭ではそうも行かないようだ。
「客人が揃いも揃って」
「おそらく回収しに来たのでしょう」
しかし、どうする。
庭に集まった人数はざっと数えて200人。
一人で100人しばくのは至難の業だ。
「骨が折れそうだ」
「2枚目のカードを切ってもこれは大変そうですね」
「うふふ、果たしてそうでしょうか?」
かつ
かつ
そんな音が、廊下から響く。
窓の割れていない、宮殿のような廊下を歩く________
令嬢が一人。
《余談》
どうも、らんかんです!
閲覧数1000超えた上にもうそこそこ書いてるのに2お気に入り1感想!ええ、ハーメルン史上スロースタートです。いやもうもっとスローになるでしょ。具体的に言うと久々にハーメルンで広告を見ました。
みんなもっとコメントよこしなさい。いや、これ見てポンと出てきても一体何を食ってきたんだと質問したくなるな。
今回の余談は『上手いやつのOSGP攻略法』です。
OSGPは当然ゲームであり、上手い下手の概念もあります。主人公アレイシアは素質はありますが、正直今の段階では上手いとは言えないです。
今回は割とリア狂ムーブの解説をしようかと。
いきなりですが、みなさん仮面ライダーゼロノスって知ってる?え、知らない?じゃあ記憶を失った人のために言うと平成仮面ライダー八作目「仮面ライダー電王」のサブライダーです。自分との関わりの記憶を生贄にチケットを手に入れて変身するライダー。
つまりOSGPではその作品のキャラとめっちゃ関わると変身ができる仮面ライダーです。当然関わりという記憶そのものを強化リソースに回すためかーなーり強い。
OSGPは当然今回のアレイシアチームのように協力体制を原作キャラと築いて確固たる盤面で進めるムーブも取れますが、基本的には先生ぶち殺して乗っ取ったり重要キャラを殺しまくって盤面を混沌とさせるムーブの方が主流です。例えば今回エデン条約OSGPでは調印式でミサイル飛んできた後にどさくさに紛れて生徒を殺したり先生を殺したりしてヘイトを買い、その上で貯めた記憶をカードに変換してゼロノスに変身、そのまま陣営関係なく暴虐の限りを尽くしながら離脱してどっかで変身!変身解除!を繰り返すと原作キャラは殺したやつのことを『綺麗さっぱり』忘れることになります。
そうなると必然的に記録と記憶の乖離が起こり、たとえ何かの媒体に記録されていても記憶には誰もいなかったことになる。その結果真実に辿り着くまでに動けなくなったり、先生なしのまま進むためそれを抑えるために上手いことプレイヤーが先生の能力を獲得して進めたりします。
しかしゼロノスそのものは強力でも、OSGPではそれよりも強い存在は山のように居るんですね。例えに出した調印式で一斉に雪崩れ込むこともあるので乱戦時などで後ろから黄泉(の偽物)が一太刀!突然のアトミック!あ上から月光蝶!でただ相手の為に邪魔者を減らして死ぬこともしばしば。
なのでこう言う手段を取れるのは「好感度調整用のゼロノスに一枠取られた状態で他のカードが強力すぎるから戦えるフルスペック複数所持暴力グッドスタッフ編成持ち」か「仲間の協力を得られるからカードが弱くても余裕を持って離脱できるコミュ強」か「いっそゼロノス一枚で大体の相手いなせる戦闘巧者」かの3択になります。ちなみに一つ目はフルスペックカードが最低3枚ないと複数人の相手ができないので実質不可能、二つ目もアレイシアとかが参加しているのが実はレアケースで基本フリーフォーオールかつチーミングも持っているカードの強さや相性、そもそも攻略の方向性を固め切れずそのチーミングだけで盤面を掌握することも困難なため事実上不可能。
つまりこれを現実に行えるのは「ゼロノスだけで全て突破する気概と実力を持った上でタフ並みの倫理観しか持ってない悪魔を超えた悪魔」にしか出来ない。
事実この
これを完遂する為にはさらにその舞台となる作品のキャラの強さも重要。今のステージであるブルアカは比較的簡単ですが、他だとそうもいかないところがしばしば。
やり切ったやつは「ゼインの粛清候補」とか名付けられたり。
以上が今回の余談でした。
ここからは話が大きく動きます!ごめんなさいなんかスローペースで!
OSGPの見せどころ、大乱闘をお楽しみください!
らんかんでした。