Never Says「Good by…」   作:らんかん

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隠れ家

 離脱そのものは簡単に出来た。

 

 幾らお嬢様達と言えど混乱の中に無理やり執事を突っ込むことはしないようだ。正義実現委員会を頼り状況確認のため下手に行動しないことで、被害を抑える。

 

 無論それは正しい事であり、無策に突っ込むことと比較出来ないくらいに良い。ただ、裏を返せばその動きに乗じて黒煙に紛れ脱出することも容易だ。

 

「もう少しで逃げ場所に着くって?」

「ああ、ここだよここ」

 

 プレイヤーを縛って抱えて、やって来たのは隠れ家。

 

 大きい庭もある二階建ての屋敷、もっと言えばかの疾風ウォルフの家みたいだ。

 

「随分良いところだな。でも良いのか、勝手に入って」

「んー?大丈夫大丈夫。ここの所有者は私になってるから」

「……は?」

「ちゃんと後で説明するから入った入った」

 

 変だな。

 

 そう思いながらも、状況が状況で止まってる訳にも行かずにそのまま入る。

 

 如何にも貴族風の家なのだが、来てばかりの留学生に渡しちゃっても良いのか。いやでも癒着っていうのは特権階級じゃ当たり前だし……えっまさか大和は身体を……?いやいやそんなカードをすぐに切っちゃうようなやつじゃないだろ!?

 

 変だなどころか変な妄想をしているが、とりあえず家の中に引き摺り、エントランスにあった柱にくくりつけた。

 

「鍵持ってるってことはまあそうなんだろうが……いやあ、え?」

「気になり過ぎでしょ」

「いやだって急にこんな拠点用意されたらビックリするって」

「ここの住人をちょっと懐柔したから」

「えぇ……」

 

 そう言えばここはOSGPだったな、そう言う手に出る方が当たり前か。

 

「ね、おーい!」

 

 階段の方に叫ぶと、その住人とやらがやってきた。

 

「あ、あの……大和様?」

「ああ〜、ごめんね。ちょっと遅くなっちゃった」

 

 撫でてるし、服もなんかいつものように戻ってるし。

 

 お嬢様はなんか顔赤えし。

 

「ちょっとトリニティの方で問題があってねえ。ナギサさんも来ちゃったんだけど、しばらく空き部屋をもう一個借りてもいいかな?場合によっては三つめも追加するかも」

「え、ええ。どうぞ。大和様がそうおっしゃるのであれば」

「ありがとう」

 

 俺は何を見せられているんだ?

 

 ナギサに視線を送ると、首を振って分からないと返ってくる。

 

「買い出しに行ってきてくれない?昼飯まだなんだよねえ、私が作るからさ」

「もちろん……!」

「ありがとう。じゃあよろしくねえ」

 

 大和に心酔しているお嬢様は、首輪が付いているまま外に買い出しに出掛けていった。

 

「あ、あのお前マジで何をしたんだ?」

「見ての通りだよ。ちょっとした色仕掛けをしたんだ、食べる方だけど」

「お前俺が来たのは昨日だぞ!?いくらなんでも昨日の今日で……!」

「私たちと変わらないんだ、そこら辺はね」

 

 エントランスにあるテーブルに座って、彼女は話を始める。

 

「世の中にはメロいって言葉があるじゃない?」

「ああ」

「それって性欲と同一の存在なんだけれど、社会が進み……ええっと、正確には宮崎勤の事件からインターネットの全盛期になって、SNSの参加者が圧倒的に増えた2010年台後半から女性側はアニメの社会的進出に伴い自分たちがイケメンに感じていたものが社会的弱者の萌え豚が持っていた同じものと思われないようにそういった隠語・造語で隠していた時期がある。いや、長いから時代でいいかな?ともかくそういう女性側の性欲を象徴するものがあるんだよ」

 

 急に社会科の授業が始まって混乱するが、まあこれは趣味の領域だ。機械にインプットされるものでは無いから、大人しく聞いておこう。

 

「私はそれを刺激して懐柔したに過ぎないんだよね。男性らしさ、ではなく『女性が好きな男性らしさ』で」

「それは普通の男性らしさとは違うのか?」

「全然!」

 

 笑いながら答える大和。

 

「じゃあ君に分かりやすい話をしてあげよう。

 昔、私達が普段暮らしてるエレクリゾートのずっと大元にVRChatってのがあったんだけどね。それには当然仮想空間上での結婚としてお砂糖ってのがあったんだ。その中にはデータ上女性同士で結婚していても、現実ではどちらも男性ってケースも少なくなかったよ。でもそのデータの上では女性……ってことはつまり、"女性"ではなく"男性が演じた女性"に惹かれているってことなんだ」

「あーっと、なんだ?つまりは女性の欠点がない理想の女性が一番ってことか?」

「そーそー。よく分かってるじゃん、男の娘が流行っているのもその側面が大きいよ。と言っても、そこら辺は母性がその人にあるかないかで結局はホモなんだけど」

 

 事実を突きつけるのはやめてほしいな。

 

「それは女性にも言えるんだよね。男性ってさ、ガサツじゃん?そこに物があれば必要以上整理しなくてもいい、とりあえず目的を達成して後で苦労を共有するみたいなさ。女性は見栄えが良くなるくらいに整理されてないと困るし、何か問題があったらとりあえず共有してほしいタイプが多いんだ。私もそう言う意味では女性らしさがあるんだよ」

「まあ大和はな」

「これが本当の大和撫子」

「撫でからはないな」

「なんだとぅ!?」

 

 そこまで行ってたらOSGPやってるとかないだろ。SGPならありそうだけど、この大会に来た時点でほぼ立派なアウトレイジだ、作品に対する敬意は人並み以下。

 

「ご、ごほん。話を続けると、そう言った部分を持ちながらも女性の場合は「おもしれー女」を基準に"相手を大切にすることを前提で快楽を得るように支配する"ことが実は大事だったりするのさ。つまりは少女漫画の男性を、女性がやる。宝塚方式だね」

「でもそれでお嬢様って懐柔できんの?目が肥えてるやつにそれ通じるとは思わないけど」

「キヴォトスは人間の男が基本的にいない世界だよ?言うなれば数万キロに及ぶ女学院ってこと」

 

 そう言えば聞いたことがあるな。

 

 共学じゃない学校に行くと、本来人間にある性的欲求からなる子孫繁栄、そのために必要な異性の気を引くためには無駄な行動を避けるべきだ。同性でイチャイチャしすぎると引かれるからか、そう言った行動を成長期に取らないようにしていると。

 

 ただ同性しかいない学園では、そう言った行動を取ったところで周りには同じ性別しかいないから別に辺なことに思わない。最初は思っていたとしても、自分が同じ欲求を大小違っても持っている以上は受け入れられるため同じようなことが連鎖的に発生する。

 

 つまりは同性で距離感バグることも珍しくない。

 

「さっきも言ったでしょ?VRChatなる場所だと同性同士でのお砂糖が多かったって。そう言う環境だと、理想像が常識になるんだよ。つまり女性は男性を甘やかし続けるべきだ、男性は女性を甘やかし続けるべきだ、そう言った欲求が普通になるからこそ異性同士の恋愛のように折り合いをつけることなく片方が演じ続けることで恋そのものは成就しやすいんだ」

「そんな簡単に行くものなのか」

「今回はそれに加えてお嬢様が相手だからねえ。例えばお嬢様って制約が多いじゃない?ね、ナギサさん?」

「聞かないでください」

 

 どぎつい話をしているのか俺らから避けちゃって、縛ったやつを見張り続けてる。

 

「まあ彼女はトップだからそう言ったくだらない感情よりも実務を優先してるだろうけどね。でも普通のお嬢様はそうなんだ、お嬢様同士の上品なマウント合戦やそもそものやるべきことの多さで精神的な疲弊が下民より大きいケースが多い。そこに留学生っていう立場の問題もあまり関係ない、しかも王子様を演じながら甘えることで自分にも優越感に浸れる部分があるって関係は彼女の青春を犯すのには十分役に立っちゃうんだね。それを利用して間借りしてるって感じ」

「誰しもが運命の出会いというものを重んじるから、タイミングさえ合えば数日でも堕ちるってことか」

「実は私も少しだけ戦ったんだけどね、その時に偶然助けたのが彼女だったんだ。そこからは流れだよ」

 

 昨日の夜で粉かけて惑わすとはとんでもない女だ。

 

 夜は気が大きくなるし、その分だけかなり隙もできる。

 

 お嬢様を助けてイケメン演じながら夜ホストに食われるように持って行けたのはすごいな。彼女の腕が光るところだ。

 

 ただまあ、それが出来たところで問題があるが。

 

「分かったし納得したけど……寮母という監視がある上に問題が起こったから夜には居られないぞ。帰らないとどうしようもない」

「アイアンはそうかもしれないけど、現在の私達は違う」

 

 は?

 

 首を傾げて、大和に聞く。

 

「あのテロから脱出しているけど、そもそも鏡花水月で騙している状態。ミカちゃんもそうだけど、ナギサちゃんだって今死んでいる判定。ナギサについていったという証拠はあると思うから、君だってその被害者に数えられてもおかしくない。私もね」

「だから俺らはしばらくここにいることが出来るってことか」

「最もアバターの見た目変更はロックが掛かっちゃってるからねえ。変装して街を歩くのは少しばかり骨が折れるかも、と言っても寮に帰れば監視下に置かれちゃうからさ」

 

 初夜の行進の影響で出てくる行動制限には頭を悩ませていたのか。

 

 だが、そうならば幾つか頷ける。

 

 昨日の夜の避難中に急に思いついた、とは言っていたし事実その思いつきで行動したのだろうが、大和は恐らく()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないか?

 

 だから俺らが自由になったタイミングでうまいこと行動を取り、シャーレへのコネを作ることによって動く口実を確保。そこから連鎖的に上手いこと計画を練って実行し続けて、ここに至った。

 

 流石に経験者なだけあるな。

 

「プレイヤー用通信があるでしょ?モモトークに履歴残しちゃうとバレるしさ、それでアイアンに無事だよって連絡をして行動するのが一番じゃないかな。保安部隊だから、巡回ルートも知れるし多分バレないで行動もできる」

「用意周到だな」

「それくらいしないと優勝も出来ないでしょ?」

「まあな」

 

 さて、そんな話をしている時だ。

 

「んん、あ_____」

 

 誰かが目を覚ます声がする。

 

「やっと起きたか」

「ああ」

 

 俺らもナギサのところに行って、囲むように座る。

 

 どうやら敵が起きたようだ。

 

 

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