上に開いたゲートから、彼女の胸を釘が貫く。
悲鳴はなく、痛みに震えることもない。
「あ……」
薔薇が咲き、荊が何十本も生えて彼女を包みながら周囲にも伸びていく。
一気に引き込まれ、美しく、それでいて恐ろしい怪物。
少女の面影は、薔薇とその影によって宗教画のようなディテールを得た。
「ちっ、怖えな」
剣を構えながら弱音も吐いて、相手を見据える。
すでに禍々しい雰囲気は絶えない。
周囲には荊が何本も生えてきており、挙句さっきまで普通にテロリストをやっていた奴が急にバヨネットを持ち出して殺そうとしてくる。
「おいおいおい」
「あれは聖釘か何かか?」
「ああ……?」
ベロニカは聖釘、という言葉を口にした。
キリストが処刑されるとき、磔にした釘のことをそう言う。
そんなもので化け物になってしまうやつ、俺は知らない。
状況的に、どの作品か、どのキャラかを理解出来てない。でも、少なくともこの時点で使えるということはおそらくフルスペック。
しかしそんな盛大な話を、俺は見たことない。世の中にはたくさんの作品があって、その中でグランプリが開催されて、挙句フルスペックが量産。把握しきれてないものもあるし、一旦どこかで見ていても忘れている可能性だってあるがどうしても思い当たる節はなかった。
悩んでるうちに相手はすでに顔の周りからなんやら眼光以外に顔のパーツわかんなくなっちゃってるし。
「あれなんだと思う?」
「大方フロム系列のボスのやつかもしれないな。私には分からない」
「じゃあ攻略法はゼロってことか」
「今の私は紛争の化身、そしてお前は太陽の騎士。いくらバラの少女が強く、倒す道のりが険しいものでも諦めるには至らない」
「へっ、励まし方はど三流だな」
腰は自然と引けることなく構えられてるし、声も自分が不安を抱えてるとはっきり分かる割には元気だ。
「ではなんて?」
「カードに頼った時点でこっちが勝ってんだ____魅せてやろうぜ!」
「かっこよくないな」
「ちょっお前なあ!カッコいいだろ自信満々に『魅せてやろうぜ!』って言うの!」
「『ここからがハイライトだ』の下位互換じゃないか」
「……悪かった」
よし、気にしないことにしよう。
ともかく今回は仲間もいるし、どっちもフルスペック。信じられそうな奴との共同戦線、最高の戦闘になりそうだ。
「……行くぜ」
「ああ」
薔薇の少女は何も喋らず、一気に詰めてくる。
「薔薇だけには気をつけろ!」
「はっ!お前のギフトを無駄にはしねえよ!」
剣を振れば炎を纏い、荊を焼き切り、それが相手に降りかかる。こっちは振りまくっても問題ない、隣は殺しても生き返るようなやつだからな!
バヨネットも召喚して飛ばしてくるが瓦礫を切り飛ばすことで弾き、その隙間からベロニカが生やした結晶を使い反撃。
「このやろっ!」
ガンスピンのようにガラディーンを回しながらまとわりついて来る熱烈な愛を灼き、ひたすら接近。飛んでくるバヨネットは面の方を蹴り飛ばし、弾き、そのまま至近距離まで迫る。
「……」
彼女の顔は荊が生えているが、おそらくカードならば致命傷を与えれば解除できる。
あんな釘を使った本人は絶対に生きて帰れないし、まともに戻れないが良くも悪くも皮ぺたと変わんない俺らの遊びだからこそ救いがある。
そのまま剣を振り、最初の剣戟。
左薙ぎ払いを一本で止められ、反撃の一本をそのまま体を逸らして避けつつハイキックを鳩尾にお見舞いすると怯んだ。英霊のバフは強い、軒並みステータスがB+以上ならいかに化け物だろうが追従できる!
ただ、裏を返せばそれだけのバフを貰っても相手は防ぎカウンターする余裕があることだ。結局五感を使い反応する俺が慣れてないのもあるが、何より円卓の騎士、しかも型月製のものに普通に戦えるやつが敵となるのは相当辛い。
「我こそ紛争!」
そのまま獅子の顔した熱が横から飛んでくるのを確認して剣を回転させつつバヨネットを引っ掛け投げると薔薇によるワイヤーアクションよりも先に当たって吹き飛んだ。
「まずはワンポイント!」
「早いな」
「気分が乗ってこなきゃ勝てないぜ」
そんな俺らを戒めようとしてるのか荊がたくさん飛んできた。
「へっ何本やっても無駄だ!」
ガラディーンの出力を上げて熱でやり返し、ベロニカは結晶で切り付け、何度も凌ぐ。
俺らのアドバンテージは、相手が銃を使った戦術と基礎訓練くらいでこういったパワーの使い方を理解出来てないところ。どれだけ強くても使い方が分からなければ意味がない。
でもそれ以上に俺らはこう言った戦闘が好きだ。
「はあああああーっ!」
「うおりゃあああああああああーッッッ!」
ああ、大好きだ。
仲間というものが居る戦いが何よりも最高だ。
敵じゃなくて、全力を尽くせるような環境で、いろんなやつと戦えるこの世界がたまらなく好きだ。その中でナンバーワンになれるように頑張ってる自分も好きだ。
俺たちは、こうして本気になれる場所を探してこんなところを彷徨っている。SGPだって全力を出せる奴らがそこにいるから否定しないが、自分の全てを使い、ぶん回し、その果ての景色を掴む!
仲間がNPCだろうが俺と同じプレイヤーだろうが関係ない!相手も俺も強い!なんならNPCがプレイヤーを裕に越えれるほど強い!そうじゃないとつまんない!
薔薇を燃やし、荊を裂き、不夜が俺を守り、紛争と手を組む!
ああ無茶苦茶だ!でもいい!
誰しもが戦える世界!自分のために頑張れる世界!
「俺らは!」
「私達は!」
「
荊がベロニカに巻きついても、俺の熱とニカドリーの闘気が肉体を駆け巡り張り千切る。
相手もハイになって突っ込んでくる。今度は蹴りを交えたガチの戦術。
だが俺らは二人!
バヨネットの剣捌きは異常、常に二刀流でありながら隙間に生成して投げ込んでくる。
容赦なし、故に俺も全力。
聖剣は熱を上げ、振るうたびに金属を溶かす。バヨネットを溶かして剣を振り、その風圧で相手に溶けた銀をぶち当てて火傷に追い込む。ミサキの自我なき薔薇の娘はそれにもがき、ハイスピードの格闘を仕掛けてくるが、今度はそれを今の戦友が両腕で捌き一撃を胴体に入れ続けた。
どれだけ再生しようが体は一つ。荊が那由多生えようが太陽に触れることなく、紛争という理を知ることはない。
刃も手足も得意な方が請負い、フェイントを仕掛けてくればそのために敢えて俺は刃を引かせ隠した拳が飛んでいき、ベロニカが格闘のスピードをわざと上げてすり抜けることで回避しながら俺が刃を受け止め熱により灼く。行動の不規則化を起こせば流石に動きがスローペースになる。
本来有利になるはずの荊の園は生えた端から溶かし、もう片方は同等もしくはそれ以上の不死の王。
そして釘を刺した少女は今まで使ったことない力、戦術。経験もなければ知識すらないその力を使う肉体は、体こそ再生し、神経も何もかもすぐ回復する。反応速度だっておかしいくらいに早いが、思考が追いつけなくなっていた。
悩みが人を鈍らせる、屠るだけの機械になりきれない少女の姿。
しかし、この姿こそ俺らが救える証拠。
「行くぞ!」
「はぁっ!」
もう何も言わず、理解した俺は熱風で吹き飛ばす。
空中戦を仕掛けていては真っ当に踏ん張れず吹き飛んだミサキ。
「逃さぬ!」
ベロニカは構え、結晶を乱雑に生成してそのまま相手を拘束。手足を的確に捉え、胴体も硬め、荊震えど砕けぬ天罰の楔。
「ゆけ!太陽の騎士!私の好敵手!」
「ああ!」
剣を放り投げ、詠唱開始。
「この剣は太陽の映し身、もう一振りの星の聖剣。あらゆる不浄を清める
燃え盛る刃を纏ったフルスペックの
「
見据えるは磔の荊、その先の少女、奥深くの聖釘!
聖書が施しを灼き砕け!
「
一振り、全力の陽炎が光を纏って迸った。
フレア。
キリストは太陽の中、太陽の光、そして太陽を生み出す力とも言われた。
そのキリストの落陽、処刑の炎、ともに熱く解けるほどの憎悪で燃やされた釘を人々は聖釘と呼ぶ。
人々の絶望、憎悪、そして悲哀。キリストは信者でなくても深く感情を向けられる存在であった。
俺らの時代にはすでに究極の個人の快楽が正義で、宗教などあまり意味をなさない。その快楽を破壊するのをシステムが許さないから。
キリストが正しかったのかは分からない、それを処した存在が間違っていたのかも分からない。
だけど、それが
俺は今目の前にいる、聖釘を打ち込んだ少女のことを知らない。だが、このまま放置するのも納得がいかない。
だからせめて、この炎が。
彼女とその罪を引き剥がさんことを。
「やったか!?」
剣を構えず、立ち尽くしながらも相手の状態を見る。
結晶が光と熱を乱反射した結果、ウェルダンの園が出来上がっていた。
「流石にそれなりの一撃だ、少なくとも解除していると思いたい」
「どうだか。ま、一発でダメなら二発だ……が……」
「どうした!」
俺は絶句する。
確かにこの一撃は、周囲のコンクリート、瓦礫さえも灰燼とした。
結晶が残ってるのはギリ分かる、が。
「な……」
二人揃って固まったのだろう。
硝煙を裂くように、荊の鞭が無数に生えていた。
その先端は、俺らを見ていた。
「嘘だろ……!」
「しっかりしろ!」
「してるさ、だが……!」
流石にあの一撃を喰らって生きてる、しかも解除まで行ってないのはおかしい!
「一発でダメなら二発だ!何度でもぶち込んでやる!」
「無茶を言うな!近くに生存者はいないかもしれないが、何度も連発したら被害は大きくなるんだぞ!」
「だがあれを止めないと!」
言い争いしている間に、荊はこちらに向かって伸びてくる。
何本も無造作にバヨネットを伸ばしているそれは捉えることなく殺す、と言う合図だ。
「やべ、間に合わな」
手負いの獣は神速、それすら忘れるショックに反応が遅れる。
流石に間に合わない。
「避けろ!」
回避行動を体は取れてても、すでに心は折られかけていた。
そんな瞬間の終わりに。
《余談》
どうも、らんかんです。
そろそろ十万文字行くのに終わり散らかしてる評価数、でも無茶苦茶なものを何かに偽って食わせるわけにはいきません。
今回の余談は『英霊のキャラカード』についてです。
型月、Fateシリーズは未来でも大人気作品!フルスペックもノーマルもなんでもあります。
ですが、シリーズになるにつれ設定はインフレ。なので様々な制限や設定が掛かっています。
今回はその違いについて解説。
一つ目は"ステータスについて"です。
英霊にはみなさん知っての通り「筋力」「耐久」「敏捷」「魔力」「幸運」「宝具」の6項目で評価されています。
これらのステータスはマスターによって変動することがあります。ガウェインは幸いにも目立った変化は無いのですが、藤丸立香だけは他のマスターであるレオ・B・ハーヴェイ、岸波白野とは違い敏捷の項目がB→B+になっていたり。
ノーマルカードでは基本ここら辺は最低値を参照にしますが、フルスペックカードでは最高値を参照にします。今のところ俊敏以外で違いはないですが、アレイシアがベロニカから貰ったのはフルスペックなのでぐだスペックで使えちゃう。
相手はエレナの聖釘を打ち込みスペックはアンデルセンと化したミサキ、化け物になってしまった彼女を止めるべく戦いますが打ちこんだ後のアンデルセンは早かったのでこれがノーマルカードなら今回のスペックでプレイヤー側の練度不足で二人がかりじゃないと止められなかったのを加味するに負けていたと思います。頑張って足掻いたベロニカモーディスもフルスペックでニカドリーな辺り、振り回しても問題ない編成だったのも大きいですね。
で、二つ目。これはノーマルだと高位の英雄の宝具が使えない問題です。
英霊のキャラカードというのは基本Fateで言うところの
恐らくキャメロットあたりで手に入れたのでしょうこのガウェインのフルスペックカード、おかげでエレナの聖釘でとんでもないことになった相手でも擬似太陽搭載の星の聖剣が制限なしで使え、荊を無理やり突破して攻撃することも可能。いくらモーディスのフルスペックが隣にいるとはいえ、必要ない痛みを貰い続けると行動が鈍るためこの時はマジで彼は感謝していると思います。
裏を返せばフルスペックカードはそういった同じレベルで熱い戦いをするのが運営や観戦者の望みでもあるので、ノーマルカードを蹂躙するために使う、オーバーパワーでの封殺などは嫌われるのも理解できるかと。
って感じですね。なかなか話す内容があってとても嬉しい。
次回はもう10万文字超えるのですが、場合によっては話す内容で挨拶が伸びるので悪しからず。
らんかんより。