「遅かったじゃないか」
「先生」
ワインを飲んでいる先生というあり得ない事態だが、まあプレイヤーならあり得る話か。
「だいぶ飲んでますね」
「いや、まだワイン二杯分だ。問題ない」
「そっかあ、じゃそういうことで」
奥の席では三人組は話してる。
「ということは、セイアさんはあの戦闘が静まった時にはすでに?」
「そういうことだ。私はすでにフレイムスティーラーという男の手によって攫われ、気がついた時にはここにいた。いやあすごいね、未来というものは」
「……そうかもしれないですね」
「うーん、しんみり話をされるとちょっと入りずらい……」
楽しそうだ。
さて、俺らは俺らで楽しもう。カウンターに座る。
「いらっしゃい……ようやく来たか」
「ベロニカ」
「飯を用意する人間がいなくては困るだろう?」
「俺もするよ。人に用意ばっかさせるのは趣味じゃない」
「今は少ない洗い物をしている、しばらくは話していろ」
「あいよー」
気遣いに感謝して、三人揃った状態で会話することに。
すでに用意されていたライスのステーキセットを出され、感謝しながら食べる。
「うまい」
「そうか、よかった」
戦友がくれた夕飯は、自分に活力をくれた。
少し食べてから、大和の方を向く。
「で、話してくれるんだろ?」
「そうだね、私の作戦について」
彼女はうーん、と肘をついて話し始める。
「正直なところを言うと何も考えてないよ」
「は?」
おいおい冗談だろ、と聞き返してもそうだよと返ってきた。
「お前そんな状態でティーパーティーの奴らを籠絡しようとしたのか!?」
「籠絡なんて失礼な。私が有利な条件が揃えば揃うだけいいからね……でもね、そのためには君が必要だった」
「なぜ」
「状況を引っ掻き回せる渦、それが君だ」
買い被りすぎだ。
「流石にそれは言い過ぎ、俺にそんな力はない」
「いやあるね。実績もそうだけど、逆を言えば実績にしかみんな注目しないから君の実力や勝ちっていうのが誰も分からない」
「はあ?」
「あと行動原理も私たちから見ても不明なのも大きいかな」
「ああ!?」
お前理解できないってマジか。
怪訝な顔で見てると、彼女は説明する。
「んー?なんというかな、自分とキャラの壁も理解してるし言葉には普通にプレイヤーな発言をしているけど、行動の節々になんか"起伏"が感じないんだ。特にOSGPは他の作品の強いキャラの強い能力によってねじ伏せつつなんとかしてストーリーを終わらせるというのに、そのゲームに囚われてても普通の人間が陥る差別がない」
「俺にとってはプレイヤーもNPCも変わらない。その中身が俺達は人間で、あっちはAI。その保証はどこにある?俺はお前達にどうやってそれを証明すればいい?」
「その変わらない、がいいムーブを起こせるんだ」
大和は、ため息をつきながら語る。
「人類は差別が正義だった。大きいところでは人種差別、小さいところでは趣味での差別。私たちの世界では"差別する暇もない個人主義と快楽"によって過去のコンテンツになりかけたけど、結局こういう自分以外を壊すような楽しみ方でしかなんともできない心を構えた人間によって過去や弱者、果ては世界を壊すような快楽を用意するためにこのゲームが生まれたとも言われたね」
例えば消費者というオタクが形成され始めた2010年代前後は、東方・艦これという二大美少女コンテンツが隆盛を極めていた。しかし時間が進むと、アズールレーンを筆頭としたソシャゲの大きな流れで人が流動した時有力な絵師とかのジャンル移動を裏切り者と言って晒したり誹謗中傷したりが活発化したことがあるらしい。
女に溺れておいて正義にも溺れるとは救いのないとは思うが、結局憎しみなどの強い原動力がないと生死という大きく扱えない概念に振り回される。
虚無や無常という感想しか出てこないが、まあ人間というのはどこまで行っても"虐げる"ことが本能的な快楽になるんだろう。そうじゃなきゃ道具を作って動物を狩るなんて行為に快楽を覚える人間が出てこない。
「その起伏のなさは、多分変えられない。己の信念まで達しているし、逆にそこまでになっているから行動指針がブレない。私とアイアンはかき混ぜたものをコンクリートを均一にするように固めることだよ。私達の勝利の土台にね」
「それうまく行ってんのか」
「君の行動規範、つまるところミームは中立ないし混沌。基本的には助けたりとかが普通なんだけど、自分が全力を出していい環境に勝手に整えて全力で暴れる。つまり一から十まで私たちは介入できない、できないからこそ外側の状況を理解する時間が生まれるし、巻き込まれる相手側よりも先に動ける。君は渦になる、渦が全てを壊して飲み込むから逃げられない。立ち向かうしかない。だから上手くいく、なぜなら身動きが取れるからね」
俺のこと災害みたいに言いやがって。
「その結果がティーパーティー全員のゲッチュとゲヘナ勢との即席チームなわけで。前者は最悪どうにかなったかもしれないけど、後者だけは君が渦を起こさないとどうしようもなかった」
「ちょっと聞こえてるよ〜!」
後ろからなんかやってきたと思ったら肩を掴まれる。
「あだっ」
「私たちをゲットできたとかいい気にならない方がいいじゃんね」
薄紅色の長髪が自分の髪と少し絡まった。
ああ、ミカか。
「そりゃ大和が勝手に言ったことだ」
「ふーん?」
「俺はお前達と一緒だ。ただどっかからやって来ただけのさすらい人にしかすぎない、どこにも根付かないからいつかお前達に殺されるかもしれないし、そうならないかもしれない。そんな遊びに自我の崩壊まで命を投げてるだけのバカだよ」
「それ楽しいの?」
「ゲームは楽しい時がある、それくらいだ」
誰かと本気で殴り合いができる時以外はこのゲームつまんねえからな。
結局俺は可愛い女を見れば熱をあげそうになるけど、男の芯以外は冷めてしまっているせいで結局それに耽るのも楽しくない。
「騙し騙しでやってたらいつか無理くるじゃんね」
「俺もそう思う」
肩組まれてる状態で反対側にいるアイアンに目を向ける。
「小生を見るでない」
「あいよ」
ミカは楽しそうなのが素直に羨ましいな。
「で、大和。次どうするんだ?」
「話を盗み聞きしてたから、なんとかしてブルートワルツに辿り着きたいなあって。彼女がどういう動きをしているかが知りたい。アリウスのプレイヤーはゼロで、今日の戦いで残りもだいぶ減ったからねえ。しばらくは大掛かりな戦闘もないし、その上で協力関係を築けているわけで。大義名分もあるなら、今は目的に向かって突っ走ることが優先かな」
「と言っても、明日いきなりかち込むとか出来ないだろ」
「しばらくは様子見だよ。君は渦を起こしているけど、正直今はこれ以上大きな渦も起こせそうにないし、もっというならしばらくは大きな動きはないはず。特にイレギュラーが無ければ、だけど」
彼女曰く、すでに大きな渦を起こせるほどの水はない。直接的に言うならば、プレイヤーの数が大幅に減ったせいで自分達以外に大きな火種がなく、しばらくは形を顰めることで状況が大きく変化した際に横取りして追撃しようと言う話。
「漁夫るってことか」
「ピーンポーン」
「そんなに上手くいくのか」
話に割り込んでくるやつが一人。
イロコィだ。
「うーん。まあ、基本的にはプレイヤー同士の戦闘には期待してないです。例えばですよ、すでに減っている兵をさらに浪費しようとかって考えます?」
「考えないな。ゲームでは陣営やチームこそ分かれてるが、それを統括する組織が出来てないはずだ。
「そうしたらバカなプレイヤーは潰しあう。それを餌にしてアリウスにマークして追跡できるようにする、それが出来なかったとしてもこの即席チーム以外にプレイヤーが消えることになるわけだから全然おっけーな訳ですよ」
「……」
「先生の立場からすればそういった犠牲前提の作戦に異があるのは分かるけど……トリニティの奴らはゲヘナの奴らを殺すべきだと思ってて、その逆も然り。それが罷り通る程度の"倫理"と"知能"しかない世界と、その中で大人という立場をとって肯定している人間が、利己的でしかないプレイヤー同士の殺し合いを咎める理由とか権利があります?」
「おい喧嘩腰は良くないぞ」
肩を組んでいたミカの腕を優しく避けて、大和に口出し。
「すまない先生。いくら無法者とはいえ礼儀まで欠くような言い草をさせたことを謝りたい」
「いや、いい。俺も否定したい訳じゃなかった」
「イロコィ」
言っておこう。
「お前は生徒達を肯定するんだ。それでいい」
「アレイシア」
「いや、もっと言うなら自分の心に決めたことは絶対に貫いてくれ。俺もそうする、いつかぶつかるとしても問題が終わってからだ」
「何故そう言い切れる」
「それが
俺は自分の存在意義もやりたいことも自身の何かが捻じ曲がるまでに熱中するものもなかったが、少なくともやれる!と思ったこともやるべきだ!と思ったことも全部やってきた。それが全部正しいとは言えなかったが、それが次の正しさに繋がった。
急いで全部食って、立ち上がる。
「だからお互いに信じたもののために戦おう。それがもし、一致するためのものなら……嬉しく思う」
「ああ。俺もそう、願っているぞ」
それで話は終いとしよう。
俺らは冠以外に無欲なドブカスだ。異性に溺れたくば、わざわざ生きてると称されてる奴らと戯れてればいい。名誉や物語に溺れたくば、こんな争うことはなくプレイヤーにギリギリ理解できない知能で楽しめ、作り物とか考えられない刺激を与え続ければいい。それで満足できない、そもそも楽しめないような終わってる奴らの祭典がOSGP。
踊りながら、踊れず、ステージに呑まれてくダンサーを眺め、絶頂し、また踊る。世界に許された最悪の狂気じゃないと生きる意味さえ見失う奴らは、最終的に冠のために殺し合う。
「すまないベロニカ。手伝おうと思ったが疲れた」
「構わない。戦闘で疲れてるのはそっちだろう?」
「甘える」
「おやすみ」
「ああ」
2階に戻って寝よう。
ああ、月。青白い月。
……それだけだ。