すごいな、俺の世界。
心の中は真っ白だが、心地いい。
焦りもなく、雨もなく、晴れでも曇りでもない。
「あら」
声がした。
「お前は……」
「ごきげんよう」
「ブルートワルツ」
茶会のテーブル、一つだけ空いてる対面の席。
「どうしたのですか?」
「あ、ああ」
誘われていたのか、と思い座る。
残り四つの椅子は、黒いモヤ。
「嬉しいですわ、あなたが訪れてくれるなんて」
「俺は寝てたはずなんだがな」
「まあ!偶然ですの、一緒の時間に寝てるですって!」
嬉しそうな彼女の顔は、素直に自分に幸福を与えてくれる。
ただ、それはそれ。
「どうしたんですの」
「……一つ、聞きたいことがあってな」
聞かれたらはぐらかされるだろうか、そう思って聞いてみる。
「お前は誰の味方だ?」
「ん?誰の味方、ですか?」
首をゆっくり傾げるブルートワルツ。
「うーん、どう答えたらよろしいのでしょうか。強いて言えば、貴方の味方です」
「はぁ……?」
俺も同じ角度で首を傾けた。
「好きなのです。貴方のこと」
「だが、ゼロノスがお前の記憶を周りから奪った。奪わせた。サオリにはまだ会えてないが、こっちに来た理由が分からないままならいずれ挟まって障壁になる。あの時、他のキャラカードで対応することも可能なはずだ」
「ああ、あれのことですか?別に気にしなくてもいいですわ。いずれ死ぬ運命なのです」
「お前なあ!」
テーブルを叩いて立つ。
「不必要に混乱を招く必要はないだろう!?彼女だって立派な協力者だ、それを惑わして見殺しにするような真似!」
「……お気に召しませんでしたか?ごめんなさい」
「いやそう言う問題じゃなくてだな」
肘をついて座る。
「あのな。確かに面からしてみればこのゲームはかつて人気を得た作品の上で満足いくまで殺し合うゲームだ、俺だってそれを望んでいる。だが、作られたと言うことは少なからず制作環境というものが絡んでくる、ソシャゲとなれば時代と合わさり人々の願望が多分に含まれていると言っていい。ましてや設定上は少女兵、詰まるところPTSDとかそう言ったものに密接なやつなんだぞ。いくらOSGPといっても、あまり変なことしでかしすぎると逆に爆弾になる」
一息で俺は説明しすぎだ。
自戒しながら見てると、ブルートワルツはちょっと泣きそうになってる。
やらかした。
「ああ、その……別に役に立たなかったとかそういうわけじゃ」
「ぐす、いえ、ごめんなさい……貴方のこと知らなくて……!」
「あわわわわ」
人泣かせたの人生で初めてのせいで戸惑う俺。
とりあえず彼女の側によって泣いている彼女に触れてみる。
夢なのに人間とちゃんと触れ合えてるの面白いな、と思いつつ励ます。
「い、いや、全く役に立たなかったわけじゃないんだよ。最初の時点でサオリをこっちに誘ってくれたのはすごく役に立ったし、実際あれで戦局がすげえ動いたからさ。だから感謝してるんだ……お前が俺にそういった少女を預けてくれたこと」
「ふぇ……?」
少しばかり、こっちをみる彼女。
綺麗な青色の瞳だ。
「でもだからと言ってあんまり記憶をいじったりすると困る。彼女たちの心の傷が増えてしまったらそれだけデータの混乱も起こして大変なことになるから。だからもう少しだけ、目の前にある存在は労ってあげてくれないか」
精一杯の言い訳と、注意。
彼女が自分の味方だとするならば、実際間違ったことはやっていないようにも思えるから。
「は、はい……ごめんなさい」
「次から気を付けてくれればいい。俺もごめん、泣かせた」
「気にしないでくださいまし」
「じゃあ、次の言葉からは少しばかり笑顔でいこう」
「ええ」
よし、これでいいな。
改めて席に戻る。
「そうそう、ひとつ聞いておきたい事があってさ」
「なんでしょう?」
「ブルートワルツって結局どこの陣営なんだ?」
「私はアリウス陣営ですの」
「……ああ?」
アリウスって壊滅してたぞ。どう言う事だ。
「これ、少し時間が無くてお伝え出来なかった事なのです。夢の中なので、現世に帰った時にそれが本当かを信じるかは別に今聞いていただきく」
「それは?」
「実はアリウスのメンバーは生きているのです」
「んだって」
もっと訳わからねえ。
「私も仕様上はロストしているのですが、それは見せかけのこと。私以外は全員ベアトリーチェにとらわれているのです」
「どうしてだ」
「理由はおそらく神秘、いえ、こうやって介入した世界のベアトリーチェなりの色彩探求の行動なのでしょう。本人の発言もそうでしたから」
どうやったのかが一番知りたい、そう思って聞いてみる。
「でもどうやって?俺達が来るまでは、設定に齟齬がないようにしつつも基本的には原作に忠実な状態で再現してある。つまりだ、どんだけここの原作キャラが頑張ったとしてもプレイヤーの状況が開始した瞬間に2/3吹っ飛ぶなんて馬鹿なことが起こり得るはずがない」
しかも非公式ならともかく、今回のOSGPは公式主催。詰まるところちゃんとしたところが開催している大会。それでこんな大事故みたいなことを……いや、犯罪じみたことするかと言われたら納得しかねる。
仮に事故だったとしても、異常過ぎて理解すら追いつかない。
「いったい何が起こっているんだ?アリウスに居るんだったら、なんか分かるだろ?」
「完全には分かりませんわ。ただ……ベアトリーチェは恐らくキャラカードの封印から今度はプレイヤーキルないし完全制御を目指すと思うのです。神秘はこの世界では大事なもの、そして色彩は外の存在。ですから、私達の“魔法”を研究して手に入れる、解明してその足がかりにしたいと思うのも納得です」
「魔法って……」
「この時代に私達の力は特別すぎるのですわ」
言われてみればそうか。
この時代にはまだ明確な電子技術が発達していない。仮想モニターもなければ通信手段がスマホという大昔も大昔。その中で急に、使いたい力が使えるともなれば……誰しもが夢見る中二病の在り方だ。
確かに間違ってはいないな、魔法に等しい技術。
「彼女はそれに目をつけた」
「その結果がキャラカード封印か」
それで興味を惹きつけてしまったがゆえに、俺らの事を無理矢理にでも知ろうとしてあんな技術まで確立させた。アリウスのプレイヤーが捕縛されてるのが本当であれば、カードの強奪技術も確立されていることになる。
なんとなく納得できるような話だ。
「なるほどなあ。まあ、そうだな。全部が全部って訳じゃないが合点がいくような気がするよ」
納得できない点と言えばそれこそアリウスのプレイヤーがどうして全員抵抗出来なくして捕まっているのか、と言うところか。フルスペック持ちも居たのはミサキで明らかなのだから、一切抵抗出来なかった、出来たとしても大した損失もなしにカードの制御権を奪えたのはどう言うカラクリか気になる。
ブルートワルツがギリギリそれから免れたのは、恐らく俺と彼女があの謎の空間で止まるタイミングでギリギリ避けれたのが一番可能性が高い。
あれは偶然だったのか誰かが仕組んだことなのか、どっちにしろ俺らはそれで助かっている訳だ。彼女が俺の味方をしているのも恐らくは、そう言った謎を解き明かす手助けを信頼出来る人間に任せているのかもしれない。
事実、あの戦いで互いに実力を把握している。ミサキはともかく、サオリを無理矢理にでもこっちへ向かわせたのは預かって欲しいのも理解できた。
ちゃんと考えれば記憶を奪ったのも俺が理解出来てなかっただけで『自分の事を忘れさせて調査に専念する』と言った理由も考えられる。
「今ようやく分かったよ、やりたいこと」
「アレイシア……?」
出来る限り穏やかな顔を心がけて話す。
「今までのお前の動き、考えただけでもちゃんと理屈は通ってた。改めてさっきはごめん、頭ごなしに否定するようなこと言って」
「分かって、頂けたのですか?」
彼女の顔が明るくなった。
「お前だけ逃れていたのは俺達が前回会った時の奇跡のおかげだし、実際に調査するにあたってスクワッドの無力化は大事だから私情なしで動けるサオリとミサキを優先的になんとかする必要はあった。前者は信頼出来る仲間として自分に投げ渡して、後者は偶然にしろ結果的になんとか捕虜にできた。記憶を失うのだって、俺が言った副作用まで頭が回らなかった。当たり前だ、ずっと独りで立ち向かってるのに配慮できる余裕なんざない」
俺が彼女に甘いのか、それとも俺がものすごい洞察力を持っているのかわからないが、少なくともこの考えが間違ってるとは思えなかった。
事実、筋は通っていたから。
「アレイシア……!」
彼女が泣いて、こっちにとことこ走ってきた。
手を広げると抱きついてくれて、とても嬉しい。やわらかい。
「ごめん、ブルートワルツ。俺分かってやれなかった。流石にこう言ったゲームまだ慣れっこじゃなくてさ……足引っ張ったよな」
「気になさらないで、私は分かってもらえたことが何よりも嬉しい……!ああ、アレイシア……!」
「はは______」
可愛い彼女を抱きしめていると、ついぞ心も通った気がして一つになれそうな気さえしてきた。
「なあ、ブルートワルツ」
「なんでしょう?」
「お願いを聞いてくれるか?」
自分の、ちょっとした願いを言わせてくれないか。
「なんでしょう」
「俺、あの時マイフリでお前のヒュッケバインと死闘を繰り広げた。あれくらい気持ちのいい戦いがしたい。だからさ……このゲームが終わったら、一緒に満足するまで戦って、デートして、飲み食いして、旅したい。いいかな?」
「注文が多いこと……いいですわ。私でよければ、いつまでも」
全てを受け入れてくれる彼女に身を委ねるように、ゆっくりと倒れ込む。
すると、テーブルが一瞬で上の彼方に行くぐらいにフリーダイブが始まった。
あの時と同じだ。
「ブルートワルツ」
「アレイシア」
俺の顔はどうだったかは分からない。
だが、その輪郭を抑える両手。
やる事はひとつ。
瞳を閉じ、倒れ込み、一瞬だけ甘みの奥の水に触れる。
その刹那、一瞬の時間だ。