彼女の感覚が一瞬で消える。
驚いて目を開けると、真っ暗なまま落ちていた。
「ああおい一体なんだってんだ……あだ!」
思い切り上から落っこちてそこそこの痛みが生じるが、自分は夢の中だと錯覚できているのかあまり死に直結する感じはしない。
ゆっくり立ち上がると、一人だけ。
いや、雰囲気ならば二人いると見た。
「ったく……いい夢で締めれると思ったんだけどなあ」
流石に興醒めだしなら覚めてリセットまでしちまいたいところだが、そう思いながら歩く。
その時だ。
「待ちたまえ」
声がする。
白い羽、白い衣装。
「……誰だ」
「ふむ、誰かと言われれば非常に困るな。ここはさしづめ
「鬼鳥」
胡散臭い声と顔だが、わざわざ夢に出てくるということは何かあると見ていいのだろう。
キセルの男は話を続ける。
「いやあ、まさか私もブルーアーカイブという物語を知覚するとは夢にも思っていなかったよ。しかも聞いたところ、私達の物語は台湾なる場所で作られたそうじゃないか。君は知っていたかな?」
「お前がノンフィクションな訳とは思っていたが、自分の生まれというか物語まで知覚するとは一体どういうことだ。そもそも俺はお前を知らないし」
「そうかね?私は君のことも、崩壊3rdのことも知っているがね。あと刀剣乱舞とFGO、といったところか」
「俺はお前が一体誰なのか聞いてるんだが?」
「鬼鳥と名乗ったはずだが」
「ああ……ちげえよ。どの作品の何のキャラか聞いてるんだ」
「その作品のことを君が知らなかった場合は無駄と化すがいいのかね」
「答えるだけの誠意はあるか知っときたい」
「そうか」
いい匂いの煙が周りに振りまかれる。
五感がはっきりしてる夢というのもなかなか変だと今更気づいたが遅いか。
「私は東離劍遊紀……『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』のキャラクターだ。こればっかりは間違いようがない。調べてたら出てくるんじゃないかね?」
「まあ、今は夢の中だ。あとで調べればいいか。でその東離劍遊紀の鬼鳥さんが、何か?」
「ちょっとした話をしようと思ってね。座りたまえ」
今度は簡素な木組みの机と椅子。
まあいい、対面で座ってから話を聞くこととしよう。
「私がここに来たのは、親切な助言と疑問の提示だよ」
「はあ」
「さっき話していたブルートワルツ、と言ったかな?彼女の話す言葉に疑問はなかったか?」
「彼女の?」
素直に言うか。
「実を言うと気になる点はある。お前に話していいかどうかは別として、な」
「ほう?」
「彼女がアリウス陣営のプレイヤーであることは別に疑ってはいないんだ。いや、そうでないと納得できない点が多い。特に時間という点でな。時間とか、創世とか、時間に関する手段っていうのは基本的に俺が挑んだよりも実質的に酷い難易度のやつをクリアする必要がある」
「そうだな。簡単に変更できる力が横行しすぎるのは興行の点であまりよろしくない。世界が滅んでただの殴り合い、では興醒めだ」
「だが、逆を言えばプレイヤーという点が引っかかる」
俺があの時飲み込んでいたこと。
それは”ブルートワルツがプレイヤーだと辻褄が合わない点”だ。
「彼女がプレイヤーであることは、逆を言えばプレイヤーの生死を検知できないほど大会側が狂っていると言っていい。確かに大会側で変なことが起こっているのは確かかもしれない、だけれどもそうなっているんだったら体裁を繕えるほどのダメージじゃないはずだ。もっと言えば、シナリオの異常進行やキャラクターのバグによる行動障害だって起こりうる」
「つまり『治る程度の傷ならそもそもあんな異常事態は起きようもない』というところかな?」
「理解してくれて助かる」
少しばかり礼をして、相手の方を向いた。
「ふぅむ……確かにそうだね。私も同じことを考えたものだ、だが君。反対の可能性を考えたことは?」
「_____それはあれか?『大会側は一切壊れてない』という可能性?」
「すぐに口に出るあたり、疑っていたのかな」
「ありえない、っていうのは思った時は一度思考のために外す時の合理的な言い訳だ。そう言っておけば思考に使うリソースを一旦コントロールすることが出来るからな」
「ふむふむ、君は中々盗賊に向いているんじゃないかね?」
「事実以外は全て可能性だ、そういう割り切りしないと無法者の大会は生き残れなくてね」
「私の友人が居たらすぐに胃が潰れそうだ。まあ、話し方も所作も君は似ているけどな」
「その友人は俺よりきっと高貴だ」
「そうでもないぞ〜、何せ天地を揺るがす宝具を三十いくつも奪っているからね」
「そりゃすごい」
本題に戻ろう。
「で、俺がありえないという場所に大会システムに問題ないを置いた理由だ」
さっきはあんまり飲み食いの気が進まなかったが、濁り酒に貝の酒蒸しがあるからいただくことにしよう。
「すまん、もらう」
「気にしないでくれたまえ。これも全部、君と話すために用意したものだ」
気前がいいことに感謝して、酒を一杯飲む。
システム上は酔うのを抑えられるが、今は少しばかし効かせておくか。
「んん……はあ」
「その訳は?」
「ブルートワルツと管理システムの情報に、齟齬らしいものがあったからだ」
齟齬らしいもの、そう鬼鳥はおうむ返し。
「ブルートワルツがアリウスの味方をしているのも理解できるし、実際それが現状のアリウスを理解できる代入だ。だが、逆を言えばプレイヤーなのにブルートワルツがカウントされないのもおかしい話だと思ってる。アリウスは0人、揺るぎない事実なのになぜ彼女はシステムが認識できないのか」
「なるほどなるほど。『彼女がアリウスに協力しているなら理解できる出来事』と『彼女の立場上絶対に起こりえないことが起きている事実』をつなげる理由がないと言ったところかな?」
「ああ」
素直に頷いた。
「それは確かに困ったものだな。
「そこまで一回思い至ったが、そりゃ無理だろ」
貝を食い、丁寧に小皿に殻を置き、濁り酒で魚介の旨みを胃へ流す。
「大体プレイヤーじゃないならそんなハッキング攻撃が成功するわけがない。いや、新技術が確立されて秘匿できて、その上で成功したとしよう。そしたら今度は大会が普通に進行していることに違和感がある。俗人仕草しかして来なかった頭で考えても、大会の結果をいじるような真似する以外に意味はない。ましてや、自分の姿を知ってる奴の前に表すなんて真似するわけないだろ」
「そうだな、私もそう考える。人間というのは力に溺れるものだ、気が大きくなることを己一人で諌めるのは困難極まりないからな」
「鬼鳥もそう思うか?」
「そういう人間が地団駄踏むことが一番面白いからな」
うげ、こいつなんなんだよ。
引きそうになる感情を盃なみなみの酒で流して、話を続ける。
「大会の進行に関係ないってことはおそらく大会そのものは普通に行えてる。大会運営、スポンサー的にも一回の大会で味を大きく占めることが一番であり、そのためには下手に人を減らすような真似をしないはずだ。八百長が疑われるのも嫌だろう?」
「ふぅむ、たかが一参加者が大会運営のなんたるかをしたり顔で語っても仕方あるまいよ。ただまあ、一つ思い当たる節がないか?」
「思い当たる節だあ?」
相手を見る。
「思い当たる節ったって」
「よく考えてみたまえ」
「そういう時に答えを教えてくれねえのかよ」
また盃に酒を盛ってゆっくり飲む。
どっかの作品のキャラクターがこっちの事情も知らずに……あ?
キャラクターが________
自分の目が見開いたのを、盃の海が見せてくる。
「どうしたのかね?」
いや嘘だろ?
ありえる訳がない。そんなものがあるはずはない。
________
「いやいやまさか。あはは……」
「思い至る点が、あったかね?」
「鬼鳥!お前、まさか!」
手を少し叩き、キセルを吸って鬼鳥は答えた。
「言わなくてもわかるぞ。『ブルートワルツがキャラクターだなんて』……そう言いたいのだろう?」
「あり得るのか!?ありうる話か!?」
「答えはもう君の目の前にある」
ありえない。
いくら声も見た目もキアナ・カスラナに似てたって、それは彼女が容姿をいじっただけのこと。それに白髪三つ編みツインテールなんて
大体キアナだったとして!性格を大きく変えることはプレイヤーでも不可能だ!それを無理やり変更することは人間性の喪失って禁止されてる行為だ!
それじゃあキアナじゃない!
「いくらなんでも出鱈目だ!鬼鳥、お前動揺させるために無茶苦茶なこと言ってる訳じゃないよな!?」
「出鱈目かどうかは人による。私にとっては嘘でも、君にとっては本当かもしれない。世界というのは当人の五感でしか構成できないのだよ。完全に一緒なら、そもそも悪人は生まれないと思うがね」
キセルの男は立って、この場を去ろうとする。
「待てッ!」
急に頭痛がしてフラフラする。
「あぐっ」
立ちあがって追いかけようとするが動けなくて片膝をつく。
無理だこれ以上は動けない。
「お前は、お前は……彼女について深く知っているんじゃないのか!?」
「言っただろう?私は東離劍遊紀の
「まだだ、話は終わってな……」
無理やり立ち上がるが、その刹那に転んで倒れる。
「諦めの悪さは次に取っておくといい。それが君のためにも……________」
だめだ、俺の意識が持たない。
夢なのに自由に動けないのか、夢だから途中で縛られて動けなくなるのか。
ともかくだめだ。俺に権利はない。
「あ、ああ」
呻き声と共に、夢の中さえ黒く染まった。