ダイブ中。
普通は一瞬でダイブが終わるのに、なぜだか終わらない。
頭っから落ちていて、それで怖がるはずなのに、終わりがいつもならと自分は動かないでいる。きっと、電脳世界でまともな痛覚によるデータも来ないだろうと。
正直に言えば、俺はそんなことを理屈づけていても、それ以上に景色に惹かれた。
「なんだこれ」
長く続く四角形の柱に、シーンが連なっている。
それも細かく、質の良すぎるパラパラアニメ。
SGPの裏では何が起こっているかなんて、分からないが。それでもなんかいつもより、惹かれるものだ。
「ラララ……」
そんな声を聞いて、振り向く。
「どうも」
「お前……!」
それは、俺が前に戦った最後のプレイヤー。
ヒュッケバインを駆り俺とやり合った、少女。
「ブルートワルツ!」
「あら、覚えてくださいました?」
「忘れるわけないだろ!俺を最後に苦しめたプレイヤーのこと!」
「あの時は楽しかったですわね。ええ、そうですわ。ブルートワルツです」
俺は、そのまま相手に問う。
「その言い草ならお前は何かを知ってるってことになる」
「どうして?」
「こんなところに来るなんて本来のダイブにはない。お前も驚いてないってことは」
「えー、そんなことを言うやつはこうですの。えい」
「あだっ!?」
泳ぐようにやってきて、デコピンをかます。
普通に痛い。
「なんてことすんだよ!」
「悪いこと言うお口を塞がないだけ、ありがたいと思いなさい」
「そりゃそうだけどさあ」
「私も知りませんわ、それにあなたも差して驚いてないでしょう?」
「俺は見惚れていただけだ」
「綺麗ですものね」
彼女も、いろんなところを見ている。
その顔があまりにも可愛らしくて、何よりもときめく。
「まるで宇宙を見ているようですわ」
「宇宙?」
「ええ、宇宙は最初のビッグバンから膨張し続けているんですの。何も止めるものがない宇宙は、ずっと」
「へえ、じゃあ宇宙が死ぬって話はなんで?」
聞き齧ってほんとかどうかも分かんない話を、ほぼ知らない奴にぶつけてみる。
「それは熱が関係しますわ。熱はエネルギー、つまりあれば何かを動かせます。力を使えば使うだけそこにエネルギーが集中し、その集合体は力の循環で摩擦を生み出し、それが熱になりますわ。星も重力があればこそ、圧壊してなお圧縮され、熱になるのですから」
「失うのか?」
「長い時間をかけて、ですわ。人類の活動圏が広がれば多分、宇宙の寿命は少しだけ伸びるでしょうけど……それでも広がった宇宙を覆うだけの熱は生み出し続けることは出来ない」
「いずれ放熱の速度が早まって、宇宙は死を迎えると言うことか」
「ええ。いずれ」
文脈は不明だか、ロマンチックな話だ。
美少女の語りに踊らされている愚かさと言う恥を隠しながら、二人で落ちていく。
「んで、なんでそんな話を?」
「広がる、と言う行為には当てはまることが多い。私は思ったのです、アニメとかいろんな作品の世界にも宇宙や時間って概念があって、それがストーリーを作る。それを広げてるのはいつかいた私達の世界の人間でした。もしかしたら、私達の話も誰かが広げてるんじゃないかって」
「はは、そうかな。そうかもな」
「ねえ」
「なんだ」
ときめきすぎて頭がおかしくなりそうな、痙攣じみた性欲を騙すようにしてそっけなく答える俺。
そんな心も見抜いてる彼女は、自分を見ながら両手を取って近寄る。
「もし、永遠にストーリーが描けるとしたら……どうなるのでしょう」
「人類がいなくなった後のAI社会なら、純粋なものが作れるじゃないか」
「AIがずっと、ストーリーを書いてくれるのでしょうか。誰かが受けつぐ、でもなくて」
「受け継いでも、人間同士は争う。それが認められなければ滅ぼす、だから完璧な存続はAIにしか出来ないんだと思うぞ」
結局こうやって争うことが快楽になっている人間、それを見下して自分は賢いんだという人間、そうした見下し合いにも普通に争うことにも疲れて恋と言うものに溺れるやつ……人間を環境ではなく純粋なもので見れるようになった世界でこれなら、多分それが一番なのかもしれない。続けると言う点で、機械に人間は勝てない。
そう思った俺は、臆せずにそう答えた。
「では、何を思って私たちをAIに続けさせようと思ったのでしょうね」
「分からないな。俺らが見えない高次元の住人のこと、どう見ようと思っても見えないから。だから惹かれるんだろう?」
「ええ」
だからそんな言い草をするんだって、伝えたい顔してる。
「いいよな、そういう神秘。それに満ちた人生は、どれだけ素晴らしいだろう」
「そうですわね……」
「あ」
そんな話をしているうちに、トリニティ総合学園が写っている水面みたいなのが出てきた。
「そろそろ俺行かないと」
「あら、もう行ってしまいますの?」
「そのためにチームも組んで、カードも持ってきたんだから」
手は離れない。
「一緒に行きますわ」
「んなことしたら巻き込まれるぞ、っていや待てもしかして」
「私も参加してますのよ。あんな膨大なリストじゃ、私のことも見つけられないでしょうけど」
「そうだな」
「なら、私の名前を教えておきましょう。
いつか貴方の章節に、この名を捧げてくださいまし」
迫る天使の世界に、自然の音も流れてくる。
そんなことでも気にならないくらいに聴覚も視覚も触覚も、ブルートワルツという少女へのベクトルが重くなっていった。
豪風の中で、手を離さない彼女の口が開く。
「私の名前は」
その刹那。
目が覚めた。
中庭の暖かい場所、坂になっているところに寝転んでいたようだ。本を被って。
確かに起動時にカッコつけでモーションを再生する機能はあるけど、俺は付けない派だ。なのに知性ぶった行動に出ている。
「あぁ……あ……」
変な声が出て、眠気から抜け出すように身をくねらせてから背伸び。
「お、やっと起きたか」
「大和……うぅ」
上半身を起こすと、昼下がりの街が目に入った。
「あれ、アイアンは?」
「今少し状況を確認してる、設定上どこの家に居るとか」
「そっか」
「それより!君が眠っている時に大変なことが起こったんだよ!」
「なんだよ」
この時代の端末、スマホには俺達の情報を確認できるアプリが入っている。
OSGPサポートというアプリをタップして、状況を見た。
「あ?」
目を擦って、もう一度見る。
何でだろうか、初期人数600人のアリウス・トリニティ・ゲヘナの200人振り分けコンクエストのはずだ。
『現在の人数はアリウスが0、トリニティ・ゲヘナが残りそれぞれ100人の状態です。参加者は引き続き頑張ってください』
そういうメッセージが書かれていた。
「おいおいどういうことだ」
「知らないよ私も起きて確認したらそれだったんだから」
「今はトリニティかゲヘナにそういうのが出来るやつが居るってことになるな。でもあまりに早い、起動したタイミングでそんな事が出来るやつなんて居るのか?」
急な謎で、寝起きの頭は回らない。
立って少しだけストレッチすると、少し身体が軽く感じた。
「あ?」
「どうしたの」
「胸が揺れるんだが」
「言ったでしょ一応少女アバターへの変換がされるって」
「だっけか」
「一応アプリ内から変更出来るよ」
大和はいつも通りの状態で、服装だけトリニティの制服だ。
「服もそうなんだよね。似合ってる?」
「うわきつ」
表情を見る前に頬に痛み、鼓膜に叩いた音が飛んでくる。
「いたっ!」
「なんて酷いこと言うの!」
「付き合い始めこの方あんまりにも大人なムーブ取るせいで逆にミスマッチなんだよ!西住しほ3歩手前!」
「それギリギリいけるってことじゃん!」
「行けねえよ!」
最初のムーブがこれでいいのか悩みどころだが、実際今は情報が無さすぎる。この時代には既にSNSの急速発展があったから、モモトークという面白いものだってある。
誰かが尻尾を出せばそのモモトークとやらに情報が載るからそれを待ちつつ情報戦をして時間を潰すのが得策だ。
故にこの喧嘩も意味はあった。
そう思いたい。
「もー、ほんっとに……」
「悪かったよ……で、これからどうするんだ。時間潰すったってずっとここで放課後倶楽部やってても仕方ないだろ」
「初日はアイアンをここで待って、その後に生活基盤をチェックして、2日目から学園生活を始めながら情報収集って感じ」
「やっぱそのムーブがど安定だよな」
「崩壊3rdの時どうしてたの?」
「その日暮らしだよ」
「ホームレスみたいなこと言うね」
仕方なかったんだ、と首を振った。
「ああ、そういやあれストーリーそのものが余り価値無いと見られるから設定の情報が出回らないんだったな。雑魚敵がケイ素生命体によるゾンビだからパンデミック起きまくり、女性アバターの場合崩壊エネルギーとの適合率高すぎてキャラカード持ったまま可愛くて悍ましいゾンビになるからほんとに辛かった。本当に難民暮らしだったよ」
「難民とは程遠いんじゃない?」
「大元はそうやって戦乱を主体とした人災から逃れるために逃げ出すのが難民って事だったらしい」
「そういう?」
時代によって言葉の意味は変わるもんだな、と言うのを実感する時がある。だが、作品という時代に飛んでそこの人間と話す時以外では基本感じない。珍しいこともあるものだ。
「ってなわけで生活基盤確認するどころか生活基盤作れないまま放浪してたからな。酷い生活だった」
「じゃあ、美少女になって沢山いい生活しないとね。バーベキューしたり勉強したり、パスタ作ったり」
「腹減ってるのか?」
「もちろん」
堂々という大和は笑っているが、それでも経験者の彼女がこうやって元気にしていることは何よりも自分の安心感につながる。付いていけばいい、という安堵は凄まじい効果をもたらす。
そのうちに、連絡が来た。
「あれ?アイアンからだ」
「何だろうな」
モモトークを開くと、グループで出てきた。
《そこから近いところに生徒寮がある、そこまでアレイシアをマップ慣れさせるためにも連れてきてくれ。経験者頼んだぞ》
「たはー、まそっか」
「あまり待たせると気の毒だ。行こうぜ」
「うん」
アイアンは先に寝床を見つけていて、それが近いから自分で歩いてこいと。
俺は特別方向感覚やマップの覚えが悪いわけではないが、おそらくはちゃんと出来るかどうか見極める第一歩をやろうとしてるんじゃないか。そう思える言い草だ。
ちょっと寒いなと思える外を俺達は歩き出す、寮へ向かって。
気分は転校生。清々しい気分だ。
歩く道は、まだ色づいている葉がドヤしている。