Never Says「Good by…」   作:らんかん

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三日目の朝

「は」

 

 目を醒ます。

 

「おはよう」

「おはよう、眠れたか?」

「ベロニカ」

 

 戦友が目覚ましまで見守っててくれたらしい。

 

「お前を置いてぐっすりしていたようだな、すまん」

「安心しろ、別に文句はない」

「ならいいが」

 

 あくびをして立つ。

 

 時刻はほぼ10時。

 

「他の奴らは?」

「しばらくは拠点にしていいと家主から言われてな。ただその条件で掃除をしなければならない、私は頑張ったのでお前と一緒に休んでいいとのことだ。掃除当番はティーパーティーの少女達とプレイス卿がやっている」

「そりゃ大したもんだ。アイアンにも後で謝って穴埋めしないとな」

「……その、ひとつ聞いていいか?」

 

 いきなり改まって聞かれると怖いものだが、せっかくだ。聞いておこう。

 

「なんだ?」

「うわごとのようにブルートワルツという名前を連呼していたが、彼女はその……お前にとって大事な存在なのか?」

「大事な存在かどうか聞かれた際には正直答えかねるって言っていいか。なにしろノーとも言えない、さりとてイエスと言えないのが彼女なんだ。俺にとっては大きい存在である、ってのは確かだが」

 

 一般的な大事、という発言や思想からは離れてることは確かだと伝えた。

 

「そうか……」

「なんだよ」

「私は________」

 

 彼女が何か言おうとした時だ。

 

「失礼するぞ」

「アイアン」

「貴様はいつまで寝ているのだ。自分では起きれんのか?」

「そら目覚ましも付けずに寝たからな」

 

 そういえば聞こうと思っていたことがある。

 

「ごめん、働かせておいて質問もひとつ追加していいか?」

「貴様な……なんだ?」

「お前が東離劍遊紀のOSGP出てたのは知っているんだが、その作品について一個疑問が出てきた。鬼鳥ってやつ知ってるか?」

「鬼鳥?」

 

 ふぅむ、と考え込んだアイアン。

 

 少しだけ悩んだら、彼は懐からキャラカードを出した。

 

「こういう人物に見覚えは?」

 

 そう出されたのは。

 

「こいつだ!」

 

 夢の中に出てきた、白い男。

 

「鬼鳥……それはストーリー中使っていた偽名だ。本名は凛雪鴉(りんせつあ)、二つ名が掠風竊塵(りょうふうせつじん)の大怪盗。その上で剣の腕も一流だ。小生が景品でもらったのだが、はて何か?」

「いや、その気になっただけだから」

「気になった?鬼鳥という名前からこれを知る人間はこの時代ほぼ存在しないのに?ましてやブルアカの世界には東離劍遊紀はない。後もう一つ言えば、今になって聞くことか?」

「ああ、ああ……」

「言え。何があった」

 

 アイアンは真面目な顔で俺を見る。ちょっと恥ずかしいな。

 

「いやその大した話じゃないし」

「小生達と違って、お前はダイブ中に変な空間に出たと言っていた。その影響を無視しているわけじゃないぞ。寝ている間に異変があってもおかしくない候補の一人だ」

「本当に信じるか?」

「ああ」

「じゃあ言うぜ……俺、夢の中で()()()()()()

 

 突拍子もない話だと思って、恥ずかしがりつつも話す。

 

「いやおかしな話なんだよ。夢の中にキャラクターが出てくることも、それが明確な意思と行動を持って動いていることも。しかも夢だから全部嘘かもしれない」

「なんと?」

「少し長くなるが、いいか?」

「構わん」

 

 俺は話すことにした。

 

 まず、夢の中でブルートワルツと出会ったこと。

 

 彼女とお茶会をして、泣かせ、その中で彼女がアリウスのプレイヤーであることと他のプレイヤーが囚われていることを聞いた。一旦は否定も疑問も出さず、その上で彼女が自分のために動いていることも、ゼロノスを使ったのは彼女が動きやすくするためにやったことだとも話していたことを伝えた。

 

「つまり彼女は貴様の味方で、かつアリウスプレイヤーだから時間に関する疑念も払拭できると言うことか」

「そう言うことになる。だが、その次の瞬間にそいつが出てきた」

 

 次は凛雪鴉なる男のターン。

 

 彼と飲み食いした時には、まずブルートワルツを疑うべきだと言う話になった。

 

「凛雪鴉が?」

「ああ。そいつが言うには、ブルートワルツがプレイヤーだった場合でも謎が残る部分があるって警鐘してきたんだ」

 

 彼が言う疑問。

 

 それは”ブルートワルツがプレイヤーだと説明できない”現象について。

 

 具体的に言えば『ブルートワルツがプレイヤーだとしたら他の捕まっているプレイヤーはともかく無事な彼女がカウントされないのはおかしい』『またプレイヤーさえ認識できない程のダメージを大会側が負っていた場合そもそも進行ができないため強制終了or掌握した側が好き勝手に改変するため最初の段階で試合終了している可能性が高いが普通に進行していることに違和感がある』ことの二つ。

 

「あいつと話している時に、ありえないと思って今まで言ってなかったことも話した」

「なんと?」

「ブルートワルツが自律できているキャラクターという可能性だ」

 

 この二つを無理やり矛盾なく理屈つけるなら、それが分かりやすい。夢の中の出来事なので確証は持てないが、凛雪鴉が自律して動いているところを見て思い至った。

 

 だが、そもそもがリアルでそう言った現象を確認できてない上、出来たとしてもブルートワルツがなんのキャラクターか特定できないのも伝える。

 

「ふむ、中々面白い話だな。しかしありえない話でも、ないか。事実キャラカードに関してはAIを付与して疑似恋愛をすることも流行っているからな」

「でもそれは外に持ち出せないって話じゃなかったか?下手なシンギュラリティを起こさない制限が掛かっていたはずだ」

「今回の大会はイレギュラーから始まっている。可能性があるもしも、というものは大事だ。

 ブルートワルツに関しては何かないか?」

「キアナ・カスラナ、紲星あかりが挙げられる。ただ実質前者が声も含めて、そう見えやすい。後者は正直髪型だけで判断した。ただ、自律して動ける、プレイヤーと同じ行動が取れることを考えたら正直いくらでも容姿も声も変えられるから実質的なヒントはゼロだ。後もう一つ言うなら、キアナという少女はフルスペックしかない。そしてそれを持っているのは」

「勝永レイジか」

「ああ」

 

 前回の優勝者、かつすでに死んでいるやつ。

 

「あと性格も違う。あんなお嬢様口調じゃない」

「つまり謎のままということか」

「正直キャラが自律してOSGPに入って来れる謎が解決したところで、ブルートワルツの矛盾が解消してもじゃあ彼女が()()()()()なのかが分からない。考えれば考えるだけ踊らされる」

「戦場の血と謎に踊らせる、名前の通りのブルートワルツだな」

 

 やれやれ、とため息をついているアイアン。

 

「ともかく事情は分かった。それは確かに気になるか」

「そいつがマジで何でもないやつだったら悩んだだけ無駄と切り捨てるだけだが、それさえ分かんないと引きずるからな。手を借りた」

「そう言ったことを早めに相談できる人間だからこそ大和も小生も貴様を信用して仲間に引き入れたのだ」

「大和は昨日俺を暴走族神(ゾクガミ)みたいな例えしたのにか?」

「実際それだけの影響力はある」

 

 嬉しいような嬉しくないような。

 

「ありがとうな、アイアン」

「気にするな。仲間だからな、それに小生も個人的な負い目もある」

「それは?」

「昨日の戦闘、ベロニカ嬢と共に置き去りにしたことだ。フルスペックが起動すると分かっていたら迷いなくお前を助けに行ったんだが」

「……だとさ」

 

 ベロニカを見る。

 

「お前を助けようとも思ってたらしいぜ?」

「……私が入る隙間がないのが残念だ」

「ロリ巨乳好きなのいただけねえよなほんと」

「い、いいだろう別に!小生は中身に惹かれたんだ!」

「古来より男はそうやって性癖を隠すものだぜ」

「うるさいぞっ!」

 

 アイアンは拗ねてしまって外方を向く。

 

「朝ごはん持ってきてやらないからな」

「ああ悪かったよ。そもそも自分で取りに行くから」

「む、それはそれで嫌だな。謝っておいて何でもかんでも自分でとは」

「めんどくさい野郎だなお前な!」

 

 このくらいのじゃれあいはあったほうがいいだろう。

 

 互いに苦笑い。

 

「ともかくしばらく貴様は休んでおけ。ベロニカ嬢、このめんどくさい男のことを少し頼んだ。こいつの朝飯を取ってくるぞ」

「ああ」

 

 全く、昔言うツンデレというかクーデレはこう言うことを言うのだろう。

 

「仲がいいのだな、お前とプレイス卿と言うのは」

「最近知り合ったばかりだが、まあ一緒に戦うってのはこう言うことなんだろうな。お前も一緒だが」

「ん?私が?」

「明日になってれば俺にあいつと同じ口の利き方してるだろうぜ」

「そ、そんなことはないぞっ!」

 

 どうだか。

 

 というかなんでちょっと照れ顔なんだ、ドキドキしちゃうじゃないか。

 

 ああ、いけない。怪我してる状態で連戦したせいで擬似的というか、ちょっといけない欲望が湧き出てしまっている。

 

「ま、ともかくしばらくはお前の手を借りる。どの道男が先生以外でほっつき歩くような世界観じゃなさそうだしな」

「そうか?ウィッグとかつければ案外いけそう」

「やめろよぜってえやらねえからな!」

 

 バカを言い合うあたりベロニカは精神大丈夫そうだ。

 

 あとはアシェイラ、ないしティーパーティーのメンツか。事前調査ではセイア以外揺れやすいとも聞いたしな。

 

 大和やイロコィがどうにかしてくれると信じよう。

 

 さて、談話していると美味しい匂いがやってくる。

 

「お待たせした。ほら、これを」

 

 持ってきたのはステーキのライスセット。

 

「朝から豪華だな!」 

「昼飯を意識してたった二時間で腹が減る飯なぞ食わせても仕方あるまい。貴様はあの夜から働き詰めだった、今は休め。回復の時間だ」

「それなんでもありの世界にしちゃ随分とベタなやり方じゃないか?」

「そういった守勢は攻め時のわからぬやつが必要とするものだ。小生も貴様もそうじゃあるまい」

「おっしゃる通りで」

「じゃあ食べろ」

「あいよ。いただきます」

 

 風が入るこの旅館のような場所の一室。

 

 そこに漂う焼きたての肉の香り。

 

「ん!うめえ!」

 

 そして、こだまする俺の声。

 

 しばらくは、この幸せを噛み締めるとしよう。

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