Never Says「Good by…」   作:らんかん

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血は騒ぐ

 トリニティの中でも人気のない、そして辛気臭い場所へと足を運んでいる。

 

 貰ったポンチョは防弾仕様で多機能、リュックサックは出来る限り肩に負担が掛からないようになっているのか、動きやすくていい感じ。

 

 声は沢城みゆき、そして見た目の設定はなんと可愛い寄りのアバター!俺は、多分怪しまれることなくアリウスを回れるのかも、しれないな。

 

「……さみぃ」

 

 なお、着込んでいても寒い。地下墓地というとんでもない場所を行き来する以上、冷気が溜まっていても仕方ないがそれよりも気分が落ちて熱が低下するせいでどうしても寒く感じてしまうのは、人間としては当然だろう。

 

 歩いていると、お目当ての場所にやってきた。

 

 地下墓地というからには当然上には空気孔があって月光が漏れているが、それ以外に夜目と僅かな月光でしか周囲を観測できないというのはどうにも悪どい奴らの通り道としてえらく完璧に見えた。

 

「おい」

「ん?」

 

 後ろを振り返ると、何やら生徒がいるようだ。ガスマスクをつけた生徒だが、どうやらこちらのことはよく認識できてないらしい。まあできたところでどうこうするものでもないが。

 

「お前はアリウスの人間か?」

「……う、うん」

 

 よし!頑張れ俺が設定した沢城みゆきボイス!心の中に雷電芽衣を灯すんだ!影でもいいけど!

 

「私はしばらく外に出てた人の一人なの。いくつか小隊があった、でしょ?」

「ん?ああ、あったな。大隊レベルでばらけさせてたから……どうかしたのか」

「……ぐす、私のいたところのメンバーは全員殺されちゃったの。アレイシア・ガレットピアにも、錠前 サオリにも、リキッド・スネークにも……どうすればいいのか分からなくって、リーダーの『生きてアリウスに帰れ』という命令に従って、姫にも合わないといけないから」

「そうか_____それはつらかったな。思い出させて悪かったが、大丈夫だ。キャラカードの貯蔵はあるし、お前も力を持てば必ず復讐が達成できる。だから今は耐えるんだ」

「う、うん!」

「よし、じゃあ急いでそこの階段を通って」

「その必要はありませんわ」

 

 声が響いた、聞き覚えのある声だ。

 

 白いツインテールに黒いゴスロリ、青い瞳をしたあの女。

 

「ご令嬢、いつの間に」

「その子は少しばかり特殊な扱いをしないといけないの、よく殺したり脅したりせず接しました。褒めてあげますわ」

「ああ……すみません、ブルートワルツ嬢。自分がお連れした方が良かったでしょうに」

「私がここに来なければ、あなたが連れていたこと。気にする必要はないでしょう?」

「お気遣い、感謝します。では」

 

 ガスマスクの少女はそのまま奥の階段を使って、反対側へと抜けていった。あそこを通れば、おそらくはアリウスに辿り着けるのだろう。

 

 だが、問題は通らせてくれるような体制や隙があるなら、今目の前にブルートワルツはいないということだ。

 

「ごきげんよう、アレイシア。私の愛しい人」

「やあ……キアナ」

 

 彼女の名前を言ってみる。すごい意外そうな顔をしているが、どうやら悪い気はしないらしい。

 

「あら?何処でその名前を?」

「今日の昼くらいにリキッド達に連れ去られて、その後に聞いた。お前がキアナであることは、提示された戦闘データにあの大剣が映っていたことで確定となったが……何処で手に入れた?勝永レイジはお前に託したのか、それともこの大会と同じ様にイレギュラーを起こして手に入れたのか」

「うふふ、答えは分かっていると思うのですけれど」

 

 ブルートワルツの指が、自分の胸をなぞる。それがどうも心を動かすものじゃない様で、俺の表情が変わらないことに少し不貞腐れた。

 

「私はキアナ・カスラナ、そうでしょう?そしてあなたは雷電芽衣……でしょう?」

「俺は俺だ。あれは力の名称で、俺そのものじゃない。お前だってそうだブルートワルツ。キアナはお前じゃない」

 

 大体ほぼ見ず知らずの人間にそんなこと言うなんてイカれてるとしか思えないし、俺はもしそれが許されるのであれば_____いや、そもそもがそう言う世界で自分がと言うのも変な話だが_____やはり決まらないな。

 

 俺自体が俺が認識出来る現実の中でデカい存在になってしまっている、良い意味でも悪い意味でも。

 

「……騙せませんのね」

「逆のことを考えてみろ、雷電芽衣はゴジュウウルフになると思うか?」

「ふふ、私はありえない話ではないと思いますわ」

「やりにくいな」

「____そういえば」

 

 一つ、聞いておきたいことを聞いておこう。

 

「さっきのアリウス生徒はお前と仲良かったな?ゼロノスに変身したからには、ある程度忘れ去られてるものと思ったんだが」

「間違いではありませんが、あの後でちゃんと必要な子達とは繋がり直しましたの。正確にいえばベアトリーチェ……いいえ、アリウススクワッドを良しとしない子達とは、ですけど。ベアトリーチェ本人とは普通に繋がったままですわ。そっちのカードは使ってませんもの」

「アリウススクワッドを良しとしない連中?」

「ええ」

 

 ともかく案内はしてくれるようだったので、それについて行きながら話してくれた。

 

「ベアトリーチェは内戦を終わらせたけど、結局は研究のためにアツコって子を中心とした特殊部隊以外は大した扱いをしていない。ロイヤルブラッドの紛争とかなんとか言っておいて、結局彼女達が欲しているのは自分の自由や権利。なのに子供だから導いてくれる人間に甘えて脱却しない。そこにつけ込むのは簡単、そうでしょう?」

「悪趣味だな」

「私は無法者です、あなたと同じく。故に人徳などを必要としない。私がそのルールを守る時は……」

 

 口角を上げて、差し出してきた手のひら。彼女の所作の一つ一つが、同性だろうが飲み込んでしまう可愛さと支配欲の奔流を促してしまう。ああ、やはり自分は彼女をモノにしたい。こうして尽くしてくれる人間を、ぐちゃぐちゃに_____

 

 だが、そう思った時には、すでに反対の行動をとっていた。

 

 顔を背け、軽く手で相手の腕を払っている。

 

「え……?」

「あ、ごめん……つい、怖くなっちゃって」

 

 申し訳なさそうな顔からずっと動けない自分の表情。演じるのが上手いというべきか、それとも一切演じる才能のない正直者と言うべきか。

 

「俺は、やっぱりお前のことを疑っているんだろうな。キアナはこんな奴じゃなかった、ってのはそうだが……何か隠しているんだろう?宇宙の話をしてくれたあの時、あれが実は本当の話だというのであれば納得だって出来るし」

「そんなことはありませんわ。私はプレイヤーとして最後まで戦います、ですがベアトリーチェだけはそのまま野放しにする訳にもいきません」

「……納得できないよ」

 

 どうしても、どうしても。俺の知ってるキアナはあんな事は言わない。大事な人がいたとしても、それ以外を軽んじるような言い草はしない。ブルートワルツだからそうなんだろう、とは思うが俺を、俺のまま受け取ってくれないような気がして。

 

 何よりも、俺を今のまま受け取ってほしくなくて。

 

「アレイシア」

 

 俺は、お前が好きになるようなやつじゃない。ずっと、ずっとなにか、溺れる何かを探すためだけに生きている人間だ。お前は好きだ、だけど違う。OSGPなんて、何もかも侮辱して、その上で誰が王になれるか、そんなゲームに入っててギリギリ生きる意欲が湧いてきた、そんな人間だ。

 

「お前と戦うのは楽しいよ、だけとずっと味方にいないでほしい。お前と戦うのも楽しいよ、だけどずっと敵にいないでほしい。分かって、もらえないかな」

 

 自分は派閥を決めて生きられるのだろうか?誰かをずっと愛することが出来るのだろうか?俺が愛しているのは結局自分じゃないだろうか、どっかでいい感じのシーンがあったら、その主役をぶんどってカッコつけ、それを繋げ続けてるだけ。

 

 この生き方しかできない男に、恋人、友達、そんなものは必要なのだろうか。俺視点からすれば、それで満たされるものがあるのか。満たされていればこんなものに一切用事はなく、自分を満たしているもので共感者を探して死ぬまで傷を舐め合っているだけ。

 

「ですが、今は」

「今すぐじゃ、なくていいんだ。ベアトリーチェが倒れたら、いや、ベアトリーチェの死がこの戦いの終わりなんだ。だから敵であってほしい」

「彼女が今、どうしようもなく強いからこそ私はあなたと繋がろうとしているのです」

 

 どうしようもなく不義理な人間の手を取る彼女に、そっと弱々しく握り返す。自分に踏み込んでほしくないが故に、信頼を表せない哀れな手。

 

 何を言えばいいのか、どうすればいいのか。曖昧な問いに明確な答えを求めようとするどうしようもない男の逡巡は、ある声で止まる。

 

「止まって」

 

 その声と共に足を止めると、目の前に少女がいた。ラベンダーのような髪をしていながら、細くて装備に似合わない華奢な子。

 

「あら」

 

 さっきまでどうしようかと悩んでいた自分たちが、戦闘になればすぐに切り替えて、まるで楽しみを見つけたかのように食いつく様子。いつの間にかトンネルは抜け、廃墟じみた場所までやってきた。

 

 アリウス自治区のようだが、様子がおかしい。そこかしこで内戦が勃発しているようで、爆発音と叫び声がこだまする。

 

「あなた達を先に行かせるわけにはいかないの」

「お迎えありがとう、姫」

「あなたにそう呼ばれたくない、サオリとミサキを焚き付けて外へ逃した大罪人」

「それは私たちの流儀を真似た結果負けた惨敗兵への慈悲ですか?」

 

 銃弾がブルートワルツに飛ぶ。

 

「危ない!」

 

 急いで彼女を庇うように飛んで、抱えながら守るようにしつつカードを起動。

 

「アレイシア……」

「お前の手の内はバレてるかもしれないから指示者のところへ。ここは俺がやる」

「いいのですか?」

「ここで戦いたいならまずは生き延びろ、俺もなんとかする」

 

 ポンチョを着せたまま彼女を後ろに追いやり、自分はベルトにマグナムレイズバックルをつける。

 

《SET》

 

「貴方から先に死ぬ、でいい?」

「そろそろこっちも減らしとかないと不平等だからな」

「……癪に障る」

「変身!」

 

 バックルのディスクを回してトリガーを引く。

 

《MAGNUM》

 

 相手が放ってくる銃弾を弾き、俺も銃を持った。

 

 多分相手はアリウススクワッドの一人、出来る限り情報アドバンテージを保ったまま勝ちたいが______果たしていけるかどうか。

 

 ともかく、やるしかない。

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