銃口を向けるが、互いに何も言わない。いや、俺は明確に目の前の少女が話すのを待っている。
自信過剰かつ酷い言い草は避けたいが、彼女も俺と同じ無法者。それが何の用意もなしにこのまま撃ち合いになるはずはないと思っていた。
「ねえ」
「なんだ?」
言葉を発せられたら喜んで受け取る。相手の表情はわからないけど。
「私のことを知ってても知らなくてもいいんだけど、一つだけお願いがある」
「戦うことならば喜んで」
「甘えるね。本気で戦って、どっちかの命が尽きるまで」
「無法者にわざわざその念押しをするか?」
挑発するような言い草で苛立たせてみよう、目の前の少女がどういうものかは知らない。
「貴方は人を殺せないと聞いた。アレイシア、マダムが集めたプレイヤー情報からそう判断されたと聞いたけど?」
「そんなやつがこんなゲームをするか?平和主義者ならこんなところに出向かないで、後ろからやいのやいの言いながら自分は肉欲に溺れる……そういう生活の方がいいと思うが」
「だから危険なんだね」
「あ?」
相手の方が挑発が上手い、いや、俺があまりにも沸点が低いだけなのか?何故か今の発言で少し苛立ちを覚えてしまうのが。
ブルートワルツの時よりも踏み込まれた、そしてその踏み込みが刺さったからこその悲鳴を聞かれたがゆえに多分今ひどい顔をしている。変身した後で見えないのが幸い。
「私はロイヤルブラッドで、姫で、みんなの為に他人を踏み躙る。それが“アツコという少女”だ、という認識の上で私は生きている。だけど貴方は違う。自分がどう言うふうに思われてるかも分からないし、どう思われていたところで満足する人間でもない。誰かを陵辱しても、愛し切ってもダメ。そんな人間が危険じゃない訳ないもの、何するか分からない」
「人の事分かったような言い草で判断するなよ」
「じゃあ自分はこういう人間だ!自分は正義なんだ!お前は敵だ!と、言える?」
どんなに理知的であろうとしても、冷静さという尺度で見下す。そこまで理解していないと出ない言葉に、舌を巻くほど関心した。
「言えない人間ほど怖いものはない。そのタイプにとっては“全て同じ”に見えてしまうし、同じだからこそ立ち返ってみんなが決めた正義という原点の立場で戦える。だから人を殺せるような性格をしていない、でも目の前にいる人間を人だと認めなかった場合は?正義を持っている人間よりも軽やかに殺すし、その後の人生で一度も贖おうとも考えないから」
「じゃあ当てが外れたな。お前にとっての人間は俺にとってはゲームのコマだ。今頃サオリや……えっとミサキ?も死んでるぞ」
「レッテルを貼るのと本質的にそう思ってるというのは全く違う、現実逃避か、そもそもが現実だと認識しているのか。貴方は原初のルールによってそれを自然と区別している。だから危険、本質こそ邪悪なものはないから」
「だから俺を消すと?」
彼女はカードを取り出す。
「消さない。貴方は消えるには歴史に傷を残しすぎた、だから私がカードにして貴方を飼ってあげる。ありがたく思って」
「残念、ガスマスクをするほどのブスには興味はない」
「それはお互い様じゃない?」
「う」
そういえば俺も変身してたじゃないか!迂闊な発言だったと咳払いをしながら、マグナムシューターを構えて睨みを効かせた。
「じゃ、仕切り直し。今の悪口で因縁が出来たから、本気で戦おう。貴方は男女の区別もない、だから何も遠慮もいらない」
「やってこいよ!」
「行くよ!」
そう、相手が言った瞬間だ。
銃を撃つよりも圧倒的で、輝いているものが何個も彼女の後ろに展開。
「
「大正解。でも、許してくれるよね?」
「おま」
言い終わる前に、様々な宝物が自分が何人いても数え切れないほどの豪雨となって周囲ごと削るような勢いで襲いかかる。
マグナムだけじゃ足りないとブーストレイズバックルまで取り出してベルトに装填、そのまま下半身にブーストを追加してその圧倒的な加速力とマグナムの腕についてる機銃と手に持ってる銃で無理やり移動しながら落とし続けた。
「何がどっちかの命が尽きるまで、だ!最初からこっちを殺す気満々じゃないか!」
文句を言いつつも一回のダメージも受けずに撃ち落とし続けられるのはなかなか俺の腕を褒めたいところだが、あのアツコとかいう女容赦が無さすぎる。まるでそれが礼儀かのように無尽蔵の宝物を投げてくるのは正直イカれてるとしか言いようない!
尤も、これは俺が手札を隠し続けたいのも悪い方向に作用しているが。
全部のフォームを使える創生の力持ちとは言え、そんなことよりも情報アドバンテージが大きい。彼女にとっては違っても、ブルートワルツやまだ居るだろう他のプレイヤーに、このギーツがどの程度解放されたものかは不明瞭。
ギーツのくせして禪院直哉みたいな動きしかしない、壁走りとかで圧倒的な火力を避け続ける情けない姿を見られているがそのおかげでノーダメで済んでいるのだから文句なし。
「私の手から抜かせてみてよ、乖離剣を」
「その前に魂が抜けるっつの!」
入り組んだ路地の街をハイスピードで走り抜け、ブーストのキック力で思い切って距離を取りつつ奥へ侵入。相手の目よりも早く影に隠れて、そのまま黙って様子を見る。
空を見たら黄金に輝いているが、どうもその輝きが強く見えてしまう。威力向上とかあったか?それともアツコとやらには特別な能力があるのか。
どっちにしても彼女の好きにさせるわけにはいかない!
「あんまりしたくはなかったが」
マグナムレイズバックルを引き抜いてフィーバースロットを代わりに挿入。そのままスロットを回して、神様パワーでジャックポットを引き当てる。
「行くぞ!」
気合いを入れ直すように声を出して地面を蹴り、建物をぶち破ってアツコがいる場所へと一気に迫る。
負けないほどの黄金の光と分厚い炎を撒き散らして瓦礫と共に近くへと突っ込むと、そこには神造兵装を持って構えていた彼女がエクスカリバーの原典を振り回してこちらへのアタックを試みていた。
「やべ」
急いでブーストを吹かして方向転換しつつ急速な方向転換の修正と慣性の相殺をリボルブオンで実行し、そのまま背後についた状態で後ろから思い切り蹴飛ばす。
声が聞こえないままに位置を入れ替えるような形でアツコは吹っ飛んでいるが、反撃の財宝はそのまま飛んでくるスピード以上のジェット噴射とそれに付随するパワーで弾き、相手のダメージに反映されるようにフェードアウトする宝物庫の金の扉と同じように攻撃の対処をペースダウンさせてもう一度構えた。
このゲームは自分のコンディションも大事だ、体力が切れてやられましたでは元も子もない。と言っておきながら実質的にギルガメッシュを相手にしていて余力を残そうとするのがおかしいのか、それとも敵情視察と言っておきながらこうして戦うことを選択していること自体が嘲笑の対象になるのか。
「やる、ね」
蹴っ飛ばしたはずなのにそこまで飛んでいなかったのは驚きだが、それよりもガスマスクが割れて彼女の素顔が見えるようになっている。
自分の趣味が顔にはないのか、正直言って普通に二次元の女の子であるという感想が出てきた。電脳世界ではよく見る可愛さで、その見た目に対しては大きな変化はない。誰かが推すには十分だろう、という程度。
だが、見た目だけじゃないもので語るならばなんとなく彼女は姫という表現では足りない意志の強さを感じる。吹っ飛ばされておいてなかなか余裕を持っているが、表情も声もどこか悪どさを感じない。比べるのも変だとは思うが、ブルートワルツと全くの逆だ。
清々しい敵、が彼女への最大限の賛辞になる。
「少女から外れたらそこまでパワーが出ないと思ったけど、結構痛かった」
「____の割に血が一切出てないのはどういう事だ?」
「そういう住人だから。じゃ、本気出すね」
彼女の微笑みに呼応して、その手から赤黒い光が螺旋のように湧き上がる。
いつの間にか持っていた乖離剣がすでに俺を殺そうと駆動しているじゃないか!
「させるか!」
「甘いよ?」
ブーストを捻って殴りつけようとすると、目の前に隠れていたのかというほど大量の兵士が湧いてくる。ユスティナの残兵だったか?ともかく、それらが一斉に射撃してきて、浮き上がるアツコをこのままだと止められない。
殴り飛ばしても埒が開かない、蹴り飛ばしても息苦しい。
「目覚めて、エア」
「させるか!」
もう出し惜しみなどしてられない!
少しの油断が命取りになる以上、ギアの段階すっ飛ばさないと余力を残す以前にその威力ですっ飛ぶ!
急いでブーストマーク2とレーザーレイズライザーを取り出し、レイズライザーは雑に分解してすでにつけていたバックルを外してセット。二つのバックルを起動して中間フォームに即変身!
もはや周辺の状況が酷すぎて変身音も聞こえないくらいだが、かっこよく変身が決まった以上は全力で奴の攻撃を逸らして対処するしかない!アクセラレータみたいな能力を持っているなら魔力の本流もそのまま反らせれるはずだ。
「原初を語る。天地は分かれ、無は開闢を
剣を振り上げたアツコは、笑顔のまま声を張る。その一撃を振り下ろすことになんの躊躇もない、俺が死ぬのを望んでいるのか、死なないと信じきっているならまた別の狙いがあるのか。
だがその答えを知るには、生き残るしかない!
「死を以て靜まるが良い____『
世界を裂く一撃が自分へと向けられたが、魔力を掴む感覚があった!これならいける!
「曲がれぇーっ!」
直撃は避けたが真横をそのまま貫く乖離剣の一撃は止まらない。力場を置いておくのが限界なほどの暴風と水分を巻き上げたが故の暴雨が自分を襲う。
「うぐ、が、ああーッ!」
流石に踏ん張りが効かない上に宝具を逸らすのに精一杯で、幸い離れる形になるが耐えきれずに俺は吹っ飛んだ。
声が出ないが、すぐ近くの建物にめり込む形で止まる。その状態でしばらく風が動きを止めていたが、乖離剣の一撃が収まると、自分の体の反抗心が無理やりコンクリートの壁から出ようとして全力を出す。
「あが、がは」
そんな悲鳴のような呻き声のような音を出して、アツコに一発喰らわせようとするがどうもフラフラする。強打したせいでなかなか立て直しが出来ない。
だが、もうそれすらどうでもよくなるような事が目の前に起きていた。
「な、なん、だ」
驚きの声をあげてしまうような、事態。
アツコは乖離剣を手放し、周囲を見やる。
その顔は自分と話した時よりもひどく悪意と冷たさを両立させた、侮蔑の目をしていた。俺には向けないように、という気遣い以外は彼女は世界を裂く一撃の結果に全部のベクトルを向けているようだ。
彼女の視線の先。
白い衣を着た男たちが、嵐に海から巻き上げられた魚のように転がっていた。