Never Says「Good by…」   作:らんかん

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祝、トリニティ留学生

「どうもこんにちは」

「ああ、ようやく来ましたね」

「こんにちは」

 

 寮母さんは中々可愛い、人ではない。マンチカンだ。

 

「最近は結構留学生が多くてねえ、君たちみたいな子が多いから寂しくないと思うよ」

「お気遣いありがとうございます。帰れば貴女も居る、嬉しいことです」

「あら〜」

「心配してくれる人に感謝は示さないと。では、友人が待っているので」

 

 人々にはそれなりに敬意を払い、それが足掛かりになる。丁寧なことに越したことはない。

 

 挨拶してから、手を振っているアイアンに近づいた。

 

「待たせすぎたか?」

「初心者にしては上出来だ、褒めてやろう」

「やったぜ」

「そこで喜べる奴は、強いからな」

「んでその格好は?」

 

 俺の目の前にはアイアンがいるのも確かだが、声はいつもとは違うがやっぱり男っぽいボイス。

 

 でも見た目は黒いお姫様ヘアーかつ、メカクレで背も低い。黒いセーラー服も、スカートが短い。何よりもちもちほっぺ。

 

 全体的に弱者男性が好みそうなフォルムだ。声は斎賀みつきのものなので、著しいミスマッチだが……まあ。速水奨ボイスのままだと怪しまれるから仕方ない。彼の好みもある、可愛くなれとも言えないか。

 

「私はどうやら割り振りで正義実現委員会になれた。やったぞ」

「みんなにチヤホヤされた挙句マシロかイチカに抱かれるに一票」

「あっ俺も入れていい?」

「それは公式設定じゃないだろう」

「抱いてるか抱いてないかで言えば」

「……」

「ほら、共学じゃないと同性愛に目覚めるよね?」

「やめろ」

 

 凄んでくるアイアンが怖くて俺は黙る。

 

「まあそれはそれとして、だ」

 

 鍵が投げ渡される。

 

「お」

「今日はどうも動かないからな、さっき先輩に当たる人に聞いてみたが小生も今日は仕事がない。故にゆっくりできると言うことだ」

「いいじゃないか」

「そう、まあ、作戦会議とかしないがな」

「あっしないんだ」

「たれらばとかもしれないだけで話を進めるしかないのだぞ、虚しすぎる」

「そーだね、私も反対。拠点の使い勝手知ってた方がいいし」

「んじゃあゆっくりするか。キーが違うってことは、やっぱ俺らとはまた別でベッドがあるってことか?」

「違うぞ、一人一部屋だ。あのマンチカンの寮母がそんな雑なとこ任されると思うか?」

「理屈は分かんねえけど分かったよ」

 

 じゃあ、と三人は階段を上がる。

 

「じゃ私達はこれで」

「ちょ待てよ」

「小生らは2階だが、卿は5階だ」

「ああん?」

 

 鍵の番号を見てみると505。

 

「そう言うことだ。何、建物ごと離れているわけではない、不安がることもないだろう。フリーフォーオールならともかく、コンクエストでは領地スポーンした際にすぐに接敵しないようになっている」

「便利なもんだな」

「裏切り者は処されるルールだ、安心していけ」

「ああ」

 

 寂しいこと言ってくれる、と思いながらも肩を落として階段を上がった。

 

 最上階の五階では、天井も合わせて長い長い宗教画が出迎える。

 

「うっわ夜歩いたら嫌になりそう」

 

 なんて正直な言葉を我慢できない下品な俺の頬を自分でつねって、歩く。

 

 5階建ての馬鹿でかくて綺麗な寮、別に留学生向けと言うわけでもない。生粋のお嬢様もいる。

 

「ごきげんよう」

「こんにちは」

「あら、留学生の方?ここではごきげんようの方が、いいですわよ」

「ああ、そうなの」

「ま、この近辺ではあまり気にしなくてもいいのですけど。学園ではお気をつけて、ぐちぐち言われるのはあまり気分が良くないですもの」

「ありがとう」

「良い子、では」

 

 お嬢様言葉が惹かれるのは、ブルートワルツの声がするからだ。

 

 俺はつくづく可愛いに弱いな、と思い愛想笑いにならないように少しだけカッコつけた笑みをしてお嬢様を見送る。

 

「ひどい男だ、俺は」

 

 そんな自分に対する自己肯定感だけは拭えずに、女の体を動かして自分の部屋の扉を開ける。

 

 鍵すらも冷たくなっている季節に、ドキドキを隠せない。

 

 そうして開いた部屋。

 

「おお!」

 

 興奮しても鍵を取るのを忘れずに入った部屋。

 

 さすが歴史を溜め込んであるという街並みは綺麗だが、それを一望できる部屋の一つが今回は自分のものであると言うのは大きい。モチベーション維持にはなるだろう、日常になるまでは。

 

「こりゃいいな、夢の上流階級生活だ!」

 

 窓開けたら寒かったので閉める。

 

 他にも何かないか調べてみたら、生活用の服がクローゼットの中に綺麗に収納されていた。他にも化粧品だったり、バスローブだったり、入浴剤とかもあった。しかも備品扱いなので、呼んだら来る。

 

「えー良いなこれ」

 

 しかし中身が男なので結局シャワーで洗ってみたいなのを繰り返してバスタイムを楽しむかどうかはわからない。

 

 この部屋は結構、広めのマンションだ。

 

 水回りも独立していてキッチンとリビングと寝室と、結構余裕ある一人暮らし部屋のようになっている。

 

「いやあ、これで金回りとかもあんま気にしなくて良いとか最高だなおい」

 

 なんて個性を発揮すると、ちょっと恥ずかしくなってきた。お嬢様なのに山賊仕草止まらない。

 

「んまあ、しばらくはあいつらもゆっくりするだろうしな。なんか見とくか」

 

 スマホを開く。

 

 OSGPサポートを開いて、残り参加者を見てみるが最初の時より減っていない。

 

 やはりスタートの段階で消し炭にして、そのあとは隠れることで減ったところを襲うのだろう。

 

 いやでも、減らすような力ということはフルスペックの何かがある。それをいきなり使った奴がいるのかもしれない、そう考えもした。

 

 が、やはり解せない。アリウスが壊滅して、ゲヘナとトリニティでプレイヤーが半減している。この状況が疑問だ。

 

 もし、どっかのチームの誰かであるなら、その四百人をプレイヤー壊滅に使ってしまえばいい。残りの自チームで上手いことストーリーを終わらせば良いのだから。

 

 だが、そうじゃなかった。アリウスを壊滅させるのは暗躍できるメンバーを減らす以上はまだ納得できるのだが、わざわざ残りのチームを同数まで減らすのは訳がわからない。有利を捨てるようなことは基本するわけにはいかないし、それにSGPではなくOSGP、つまり調印式のミサイルで壊滅させる方法も取れない。自分がやらなくても、誰かが防ぎに行くだろう。しかもそれを止めるアリウスプレイヤーもいない。

 

 閉じた画面の暗闇に映る自分を見ると、少女らしい顔。それがなんとなく、あの子に似てくる。

 

「……」

 

 そもそも、あんなことをしでかすことが出来るのはフルスペックカードが使えるからだろう。SGP、しかもブルアカでは使えない。神秘を秘蔵しすぎると、慣れてないやつは自壊する。だけどそんな強いフルスペックカードを持っていたら他のチーム全員弾くみたいなことだって出来たはずだ。

 

 結局思考はずっと同じところを回り過ぎていて、アイアンの言った通りの結末になった。理解している不合理を、敢えてやる。それに意味がなければやっても意味はない、俺は結局のところあいつのように賢くはないのかもしれない。

 

 俺の可愛い顔も、ちょっと憂鬱気味。最後に出会ったお嬢様も思い出すと、耳に聞こえてきた声。

 

『広がる、と言う行為には当てはまることが多い。私は思ったのです、アニメとかいろんな作品の世界にも宇宙や時間って概念があって、それがストーリーを作る。それを広げてるのはいつかいた私達の世界の人間でした。もしかしたら、私達の話も誰かが広げてるんじゃないかって』

 

 もしかしたらあの時に、何か異常が起こっていたのかもしれない。

 

 ブルートワルツは落ち着いて自分と話していた、でも何か知ってる風でもなかった。強いて言えばあの時間が出来たこと自体が異常だったが、それが謎の答えになるかは分からない。

 

 自分だけ読み込みが遅れた、なんてピンポイントなことはブルートワルツが俺で何かしたいと思うくらいの動機が無いと出来ないし。しかし、自分は色々な場所で勝ってるような強豪プレイヤーでもない、そんな優秀な人間を囲いたいなら俺はその謎の餌食になって、大和が彼女と会っている。

 

 あの時間は謎であったが、今は何もヒントになりはしない。二人に話しても与太話でスルーされるだろう、そうでなくても余計な情報になるし、それで思考が鈍って負けたら申し訳立たないから。

 

「ったく、つくづく仲間に対して無礼だよな俺」

 

 友達はいないわけではなかったが、あのグランプリに大した情報も準備もなく突っ込むくらいにはただ電気に震えた自分の人生にも虚しさを感じた。

 

 だが、それで浮かない顔し続けると二人に会った時に変な雰囲気になるし素直に打ち明けるしかなくなる。それは避けたい。

 

 よし、外を出歩こう。そう思って立った時だ。

 

 こんこん。と、ノックが響く。

 

「いますか?」

「ああ」

 

 そう言って、俺は扉を開く。

 

 他のプレイヤーかどうかは知らないが、とりあえず誰かを見る必要はあるだろう。

 

「ああ、どうも?」

「あなたが新しくやってきた人、ですね」

 

 白い髪の、灰色タイプの服を着た生徒だ。

 

 ヘイローを見ると、形状的にモブではない。プレイヤーでもなさそうだ。

 

「私はスズミと言います、あなたが留学生の方ですか?」

「ああ。キヴォトスの外からやってきた、アレイシア・ガレットピアだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 握手をした。柔らかい。

 

「どのようなご用件で?ご挨拶?」

「ええ。他にも居るとは聞いたんですけど、お取り込み中のようでしたから」

「こちらはある程度準備とかも終えたので余裕あるけど」

「では、少しだけお話ししたいなと思っています。自警団は公的な組織はないので強制力はないですが、最近は少し物騒になってきてますから。学園間での大きな動きがあるのもかなり珍しいことで、お節介なのは百も承知ですが」

「いやいやとんでもない、土地の勝手を知らないしまだ他のメンバーも準備中ですから。伺いましょう、何を気をつければいいか、みたいなところでしょ?」

 

 頷くスズミ。よくキャラクターの方は見てなかったのでどういう人物かは知らないが、こういう奴は基本悪気はない。そして不利益を被らないなら、遠慮なく恩を買おう。

 

「今から少し歩こうと思っていたので、もしよければ」

「ではお供します」

「世話になる」

 

 そう言って俺は部屋を出て、最低限のもの以外は持たずに鍵を閉める。

 

「いきましょうか」

「ああ」

 

 二人で、トリニティを歩き出した。

 

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