Never Says「Good by…」   作:らんかん

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真紅と血のベールの向こう

「見て、アレイシア」

 

 優しい声の持ち主は、エクスカリバーの原典たる原罪(メロダック)の刃先を倒れている男たちの首を裂いて濡らしながら俺に語りかけてくる。

 

「これがブルーアーカイブ(この世界)の根幹の一つ、神秘を擁立する無名の司祭だよ」

「何?ミュトゥスの奴隷ってことか?」

「全く違う____とも、言い切れなくなるね」

 

 言い方が引っ掛かる。冗談を投げやりに出した上で言い切れなくなる、ということはスターレイルと合流するということを意味することだ。いや、それ自体はOSGPなんてクロスオーバーどころじゃないゲームをやってる時点で驚くことではないが、少なくとも彼女はスタレを理解しているという情報は手に入った。

 

 彼女はメロダックで何人も切り払った後、その血を救って飲み干している。それはもうどうでもいいが、少なくともここで手を止めた理由は聞いておきたい。

 

「それが目的だったんなら最初からエアを抜けばよかったじゃないか。なんでわざわざ戦う必要が」

「あのような装備を何の準備や理由もなしに引き抜いたら要らない視線を招いてしまう。もし、安全にしようと人気のない場所に行ってやってみたら?ブルートワルツが殺しにくるから計画が終わる。だから貴方みたいな本当の強者と、周辺の人間を寄せ付けない戦いをして、その上で勝たなければならなかった。サッちゃんもみんなも、私一人の謀反なら多分容赦なく殺しにくる。そういう場所だし」

「じゃあ俺はなんだ?ブルートワルツを助けるつもりで逆に窮地に追いやった?」

「助けるつもり?」

 

 血まみれの姫君は、俺の目の前まで近寄って見上げてる。

 

「貴方は”誰の味方でもない”でしょ?」

「心外だな。大和とアイアンは少なくとも味方だ、そういう契約でチーム組んでるんだからな」

「その二人への帰属意識があったら逃げてると思うんだけど」

「バレてるか」

 

 正直、二転三転してるこの状況そのものが楽しすぎる、いや、これ以外の状況がとてもじゃないが息苦しいのが正しいか。

 

 誰かと一緒にいることは悪くないし楽しいが、ずっとそこに居場所を求め続けるのは趣味じゃない。こうしてずっと状況に流されてるのは楽だし、流されているだけで激動に出会えるのが一番面白く感じる。

 

「ところで」

「なに?」

 

 気になることが今できた。

 

 アツコの口ぶりから察するに少なくとも彼女はスターレイルの事を知っていて、その上でブルートワルツへの対策を練っているように見える。ベアトリーチェのことはともかくとして、彼女は何か重要な情報を掴んでいるんじゃないのか?

 

「ブルートワルツの事を知ってそうだったからひとつ聞きたい。あいつの企みが分かるのか?」

「ええ、分かってる。だからアレイシアと一緒に戦って、エアで無理矢理神秘を掘り起こして吸収したの」

 

 彼女のなんともない表情は、視線によって油断ではないと悟らせた。

 

「彼はベアトリーチェの神秘接触を上手い事細工して、最悪の兵器を作ろうとしている。名前は……確か、データドレインって言ったかな」

「おいおい待て待て待て!」

 

 突っ込みたい内容が山ほど出て来た。

 

 なんでブルートワルツへの言及時に彼って言ったんだ、どうやってベアトリーチェを供物……じゃなくて素材にしてしまうんだ。それに____

 

 データドレインってマジで言ってるのか!?

 

 動揺した表情は伝わっているようで、仮面越しでも狼狽えているのがよく分かったのだろう。変身解除してなかったのが幸いだが、酷い顔が見えていなくてもきっと彼女は分かっているのだろう。

 

「でもそれは彼女が至高に至らなければどうにかなる。私はロイヤルブラッドという不純物があるから最悪な兵器を生み出すに至らないけどマダムだけは純粋なキャラカードと神秘を使って世界の真理に辿り着いてしまうだろうし、そこまで辿り着いたらブルートワルツの玩具として一生を終える。彼女の一生が終わることも、そうじゃなくても居なくなることもどうでもいいけど、あの女に全てを破壊する力を与えてはならないのは分かるでしょ?」

「いやいや……データドレインってマジか……」

「知ってるの?」

 

 知ってるなんてもんじゃない。システム設定者のせいでとてつも無い禁忌の代名詞が一つになったものを作り出そうなんて信じられないが、情報提供の礼はしないといけない。

 

「ああ」

 

 データドレインは.hackと呼ばれる作品の必殺技だ。

 

 腕輪や能力で展開したコードのような爪と銃弾を展開して相手を捕捉、そのままデータとして処理しながら無効化して飲み込んでしまう技。

 

 同じような能力はあったりするが、ことデータドレインに関しては.hackを発掘してキャラカードを作り上げたハロルド・ヒューイックってやつがOSGP・SGPのシステムにまで干渉出来るものとして作成し、挙げ句の果てにAIですら解除に苦労するコードロックをかけて改変出来ないようにしたせいで『どのような能力だろうともデータドレインには勝てない』状況を作り上げてしまった。

 

 .hackから見れば正しいことでも、SGP上で他作品のカードの価値を破壊してしまうようなものを認めるわけにはいかないためにコピーコードを電脳の主が複製して同じコードを使うやつを全面禁止。そのままSGP・OSGPからは消えていって事件は決着。

 

 以降はある種の禁忌として語り継がれるに至る。そこ3000年前以上の話だ。

 

「そんなことがあったんだ……危険な能力なんだね」

「ああ。しかし困った、確かにこのグランプリはおかしい所だらけだったがそこまで計算づくとは____」

「私の話を信じる?」

「信じるかどうかは後にするが、精査してみる価値がある話だとは思った。俺視点は分からない話があるが、神秘関連に詳しい奴が仲間にいる。さっき言った大和がそうだ」

 

 あいつはブルアカに詳しいし、知識と照らし合わせればデータドレインが作れるかどうかの話は聞けるはず。ブルートワルツ本人に聞いてもおそらくはぐらかされるだろうし、そもそも潜入で情報を得るフェーズで戦闘してる時点で疲れてるし潜入が出来なくなった以上切り上げるしか無い。

 

 プレイヤー同士の体内通信を使って、リキッドに連絡を取ろう。

 

《リキッド、起きてるか?》

《ああ、起きているぞ。どうした?》

《率直に言おう。スネーク達と合流したい》

 

 通信の向こう側で、少しばかり考える声がする。

 

《今敵の幹部にバレて殴り合いをした後だ、どの道潜入を続行することはできない。ただある程度で手打ちにして情報交換したところどうやらブルートワルツの目的が分かったんだ》

 

 下手ながらもまとめたものを伝える。

 

 ブルートワルツはベアトリーチェを生贄にしてデータドレインという最悪のカードを作ろうとしていること、彼女を擁立するかどうかで生徒間での対立が発生していることを口にした。データドレインの話も加えた。

 

《話しにあったのは神秘の何かがデータドレインの原型になるって話だ。正直そこら辺の理論か仮説を確立出来るかどうか試してみないと真偽の判別が付かない、ということで不愉快かもしれないが一度元のところに戻る許可が欲しい》

《そうか……却下だ》

《そりゃそっか。首輪付けられてるのに通るとは思ってないが》

《俺がそれらを考えていない奴だと思ったら大間違いだ。スネーク達は其方に向かうよう煽っておいた》

 

 え、と声が出てしまう。リキッドはどうやら俺のしたい事を先回りでサポートしてくれたようだ。

 

《なんでそんな事を、敵の本拠地に向かわせるなんてそんな》

《俺は確かに優勢遺伝子ばかりを受け継ぎ、復讐の機会さえ平和の為と割り切って殺したスネークに対して思うところはある。それは今でもあると、認めよう》

 

 世界をかき乱したビッグボスの息子とは思えない、優しい声でリキッドは話す。

 

《だが、愛国者達を欺くのも含め俺の無念の為に無くした腕に俺を付け、共に戦ってくれたリボルバー・オセロットへの敬意を忘れたことはない。これは男同士の、信頼の証だ。お前にもいつかわかる日が来る》

《そういうもんか……良いものだな》

《だからスネークとも手を取る。嫌な気持ちになるのはお互い様だが、これも世界の為だ》

《分かった……ありがとう》

 

 お互いに互いに不敵な笑みを浮かべて、通信を閉じた。

 

 それと同時に、複数の足音が聞こえてくる。

 

「おーい!アレイシアー!いるのー!?」

「アレイシアー!」

「アレイー!」

 

 振り返る。

 

 走って来たのは大和にアイアン、それにアシェイラとベロニカだ。プレイヤーが大集合。

 

「無事だったんだね!よかった……一人で突っ込んで死んでないかって心配したんだよ」

「どうやらリキッド達は貴様を丁重に扱ったようだな。だが、すごい贈り物を貰っている……ギーツIXとは」

 

 変身を解除して、アツコと一緒に近づいた。

 

「お前らも無事でよかった、リキッドのやつにさっき電話したら向かわせるように煽ったっていうからさ」

「それは本当だよ……アレイシアは一人で抜け出したって言ってたからもうめちゃくちゃ心配して……アタシ本当に」

「私も心配していたぞ、アレイシアが無事でよかった」

「アシェイラ、ベロニカ」

 

 話をしたいところだが、流石に戦地の真ん中で構えてだべるのは危険だろう。それを思っていたアツコは、手を挙げてみんなの注目を集める。

 

「みんな、ここだと目を引く。別の場所で作戦会議したい」

「お、賛成だ。お前がいう場所なら多分安全だと思うから」

「分かった、小生は卿の言うことに従おう」

「うんうん、私も賛成」

「さんせー!アタシ達もお邪魔しちゃおっか」

「そうだな」

 

 誰も否定することなく、アツコの提案に従った。

 

「じゃ、ついて来て」

 

 そう言って彼女は路地裏に入って行き、その後を全員が付いていく形になる。

 

 騒乱の音が聞こえてくるが、時間が経ったのか表の方で走り回っている人間しか見ない。全員マスクをかぶっているが、やっぱり風貌はテロリスト。

 

 大変そうだ、と思ったがその状況を作り出した奴らは息を潜める。

 

「ここだよ」

 

 黙って路地の奥にあった階段を降りる彼女についていく俺ら。

 

 典型的に見えない隠れ家へと、足を踏み入れた。

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