Never Says「Good by…」   作:らんかん

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姫の棲家

 ニューヨークジャズが流れて、回る室内のファンが雰囲気を出す木造の室内。すべて洋式に統一された隠れ家は、中央のビリヤードスペースから周囲にそれぞれ部屋があり、客室まで揃えているという豪華仕様。

 

「どうかな」

「人の家にどうこういうつもりはないが、少なくとも隠れ家をここまで仕上げた手腕は素直に驚いている」

「ありがとう。いつか使うかもしれないって思ったから結構みんなで頑張ったんだよ」

「この場所でこれだからな、相当頑張った……なっ」

 

 ビリヤードスペースにあるテーブルなどにみんな座っているが、俺だけ廊下に膝から崩れる。安心してもいいと思った瞬間、急に力が抜けてしまった。

 

「大丈夫?」

「さっき逸らすのにめちゃめちゃ体力を使った……機能は無事だがどうやら耐えるのに相当なパワーを使ったらしい」

 

 手は動かせるからとポケットに手を突っ込んで、地獄への回数券を取り出して服用しようとするものの体の震えからかうまく行かない。

 

「だめ」

 

 それに加えてアツコが手を掴んでくる。

 

「流石にずっといる訳には行かない」

「そういうのはもう少し後に取っておくもの、でしょ?」

「アツコちゃんの言うとおりだ、アレイシア」

 

 大和も寄ってきた。その顔は少しばかり真面目で、怯むだけの威圧感がある。むすっとしてる、が正しいか。

 

「いくら電子生命体とはいえ体のシステムは紛れもなく近い。下手に神経を刺激して興奮状態にさせると重症でもない限りは回復傾向よりも後遺症が残る可能性の方が高いし、その状態だと余計なストレスが掛かる。下手な圧は回復速度を遅らせるし、尚更取るべき手段じゃない」

「そうか」

 

 ちゃんと言われてしまったら返す言葉もなく、自分はそのクスリをポケットに戻す。

 

「私は別に騙し討ちをしようとは考えたことはないよ。貴方がそれを許す人間だとも思わないし」

「へっ、安心して気絶できそうだ」

 

 寝たいくらい疲れたのは事実だし、それを許してくれそうだが大事なことはやらないといけない。少しばかり息を整えてから立ち上がって、一番近いテーブルに座る。座り心地は硬い。

 

「えっと……大和?」

「何?」

 

 彼女はいつもと変わらずに笑いかけてくる、いや、いつもを指せるほど仲良くはないんだが。

 

「一つ聞きたいことがある。めちゃくちゃ馬鹿げた質問だ」

「OSGP自体馬鹿馬鹿しいからなんでも言っていいよ、私への悪口は許さないけど」

「じゃあ……エデン条約に限らない状態で、この世界でデータドレインを作ることはできるか?」

「……はぁ?」

 

 一気に表情が歪んだ。何言ってんだこいつ、と言うような顔。眉だって変な形になってるし。

 

「アツコ、説明お願い」

「うん」

 

 同席していたアツコが、彼女に向かって、自分と話した時と同じ内容をまず伝えた。

 

 ブルートワルツはベアトリーチェが色彩への接触・接続をする歴史の転換点において介入し、色彩の力を使ってデータドレインを作ろうとしていること。アツコ自身は己が神秘への贄として使われることを知っていたが、ブルートワルツに利用されるのだけは嫌って支給されたフルスペックのギルガメッシュを使い神秘へのファーストコンタクトとアタックを両立させようと画策していたこと。

 

 ただベアトリーチェ達に相談する訳にはいかず、また一人で実行しようにも不意打ちの可能性を考えた場合実行するタイミングを掴めずにいた。そこで、俺と戦うことで目的を達成し、色彩の者達の力を手に入れたことを伝えた。

 

「なる、ほど、ね」

「ごめんなさい、すぐに理解してとは言わないから」

「いや素直に話してくれて嬉しいよ。腹割って話す方がいいことの方が多い、でしょ?アレイシア」

「俺に振るなよ……でも大和の言うとおりだ。互いに怪しんでたらどうにもならない」

 

 ここが真に俺らの拠点たりうるには、円滑な人間関係が必要だ。自分がサオリやミサキを一切殺そうとせず、そのあり方の徹底を無法者の殺し合いで許容してくれた二人のおかげでもある。

 

「にしてもよく本気の戦いで生き残ったね〜。ギーツIXを使わずに……待ってなんでギーツIXがあるの?」

「リキッドに貰ったからだよ。潜入するんだったらってな」

「なるほどねえ。いやあ、その戦い見たかったなあ。きっとカッコよかっただろうなあ」

「ふふ、私はともかくアレイシアはカッコよかった。頑張って抗ってたから」

 

 レーザーブーストまで手札を切っているから正直情報アドを取れてないに等しい状態での引き分け、いや実質的な負け。浮世英寿だったら絶対フィーバーブーストまでで勝ちまで持って行けただろうになあ。今そんなこと悔やむべきでもないが……いっつもそうだ。

 

「と言うわけだ、大和。なんでもいいからブルアカの要素でデータドレインできそうなもの、あるか思い出してみてほしい。思いつかなかったら思いつかなかったでも良い、どのみちプレイヤーとしての結託でアリウス陣営のブルートワルツを止めるのには変わりない」

「でも企みを看破した方が撃破の確率も高くなるって訳だ。オッケー」

 

 スマホすら使わずにさっさとホロモニターを出して確認している彼女、邪魔するのもアレだが何もしないのもまた暇なもの。

 

 楽しみにしているのはアツコぐらいで、他は勝手に家に上がり込んだ挙句に料理して元気に飯を食っている。アシェイラとベロニカと談笑しているアイアン、良いなあモテて。

 

「……ちょっと良い?」

「どうした?」

 

 自分に話しかけてくるアツコ、少しばかり距離が近い。

 

「モニター触ってもいい?」

「ああ、それくらいならどうぞ。ロックとかはこっちで掛けてるから情報のぶっこぬきはできない」

「うん」

 

 興味津々らしい。彼女に触らせてみることにしよう、どうせ暇だし。

 

 彼女の手が触れれば自由自在に変形し、思うままに移動して情報を見せてくれる。

 

 そのうちに、アツコは俺の写真フォルダを漁り始めた。恥ずかしい写真は入っていないと思う。もっとも、そう言ったものを一人で発散するのは俺の時代にはもうないが。

 

 流れていく写真を見ると、自分はかなりこう言った記録を残している人間らしい。最初のウマ娘のOSGPの時から、fateの方に行って、3rdの写真も出てきて_____

 

 彼女の手が止まる。

 

「ねえ、この子は誰?」

「ん?」

 

 指さされた写真を見ると、ああ、懐かしい。薄紅色と藤色の髪をした少女。

 

「ああ、懐かしいな。シン……そういえば写真を撮ってたっけ?」

「誰なの」

「シン・マールって女の子。3rdグランプリの時の前半はずっとこいつと一緒に旅してたんだ」

 

 無論プレイヤーではなく、OSGPのNPCだ。

 

 彼女はブローニャと同じカカリア孤児院なる場所で育った少女らしいが、OSGPがストーリーに混ざった影響でお家に帰れなくなってしまった可哀想な娘。仕方ないのでお家へ帰る……という言い訳で、色々なところを案内してもらった。

 

 この写真の場所は蒼穹市だ、懐かしい近未来の都市。

 

「カカリアって?」

「色々あるんだが要約するとベアトリーチェみたいなやつ」

「そうなんだ」

 

 彼女との写真がいっぱい出てきた。アイスクリームを一緒に食べてたり、海辺で遊んでたり、中国みたいな場所での記念写真だったり……優勝者とは思えないほど、一人の少女にご執心。でも旅をし続けたのは、本当に楽しかったな。

 

「珍しくアレイシアが笑ってる……でも、見た目が少し変だね」

「まだこの時は普通のアバターだったんだぜ」

 

 茶髪で、そこそこ相応の見た目をした少年。今の紫と赤と緑をしようしたウルフカットの野郎とは思えないくらいだ、アバターの変更で若干中性寄りに今はなっているが、この時は爽やかな少年っぽい。

 

 声も何も弄ってなかったが、最初から居た友人には小西克幸に似てるって話だったな。今はもう、人気者としての経済活動に巻き込まれすぎたし、自分自身は未熟だからもう少し可愛いボイスもいける方がいいだろうと若者のキャラメイクに足を突っ込んだ後だ。

 

「この子と一緒に最後まで走ったの?」

「……いいや、別のNPCに殺された」

 

 彼女が死んだ時の写真は流石にないが、その時のことは覚えている。鎌で胴体のほとんどの幅を貫かれたシンに、珍しく動揺したっけか。

 

 殺したのはリタという女だったが、正直彼女のことも責める気にはなれない。大会が終わった後で出来る限りの情報を集めた結果、シンが深く関わることが何かしらの影響を受けるかもしれないという結論が出た。それなら排除する他ないし、ましてやその隣にいるのが別世界の無法者なのだから手を出さない方が不自然。

 

「それは……ごめん」

 

 まだ仲間を失ったことはないであろう少女は、自分が口にしたものの軽さを理解できてしまったのだろう。ただアツコは何も悪くない、急いでフォローを入れた。

 

「気にしないでくれ。あるキャラだけ特別で、そうじゃないやつはモブ以下でどうでも良いなんて思っちゃいないさ」

「アレイシア」

「俺達はその重さをお前らが知らずに済ませるために戦っている部分もあるんだ。それくらいの口が叩ける人生ほど、素晴らしいものはない」

 

 本気の励ましだ。

 

 俺達はそんな世界に居てもなお誰かと戦いたいし、誰かを超えたいし、誰かで気持ちよくなりたい。手に持つ棍棒に色々な作品の要素を使っている、救いようのない中二病集団。だけれども、その取っ払われた空間は、何故だか自分達で作り上げる最高の快楽が待っている。

 

 キャラと恋愛するのと、キャラで戦うのは絶対同じはずなのに、OSGPはその向こう側にあるまだ言語化できない何かで俺らを魅了し続けていた。

 

 そんな人間には道徳も何もないのだろう。こればかりは違うとは言わせないし、多分俺の仲間は頷くのだろう。しかし、それは俺らの人生がそうだってだけで、アツコたちは今俺が立っている世界でちゃんと生きている。

 

 生きているという実感を、誰かの死で理解させるのだけはどうしても納得できない。だから殺せずにいるのだが、そんな”偽善”が多分____俺の言葉を本気にしてくれるんだ。

 

「あ!」

 

 話をしていると、大和の声が。モニターをこっちに回して、話しかけてくる。

 

「見つかった」

「多分これを使うんじゃないかな、これそのものっていうよりかは構想だけど」

「なぁに?」

 

 話していた二人で、大和のモニターを注視する。

 

 鋼鉄都市のような場所に、大きな光輪のような機械が空に。

 

「これだったら多分、データドレインの原型が作れるはず!」

「なんだこれ」

 

 ファイル名は、スクリーンの上に書いてある。

 

 鋼鉄大陸、と。

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