「鋼鉄大陸?」
「は、この土地の名前だね。問題はこれ」
シャーペンでホロモニターをつつく大和。土地の上でにある帯みたいなものが、本命らしい。
「これ、名前を〈アツィルトの帯〉って言うんだ。色彩、つまり神秘の元締めが台頭してからデカグラマトンという預言者の神が生まれてから、本格的な侵攻を開始するときにこの土地が出来たんだけど____その神様の能力の一端、つまり力の端末としてこれがある」
「ほえ〜、デカグラマトンねえ」
「……君の一番の名誉だった3rdグランプリの前回優勝者、勝永レイジは同じ時代でのブルアカOSGP、しかもデカグラマトン編の唯一の生存者かつ優勝者だったんだよ。だから知ってるもんだと思ってたけど、あの大会はF民最盛期の象徴だったから」
「F民?」
アツコは当然知る由もないことは、俺が説明しよう。
F民、またはフロンティア民。モンスターハンターフロンティアをこよなく愛するOSGPプレイヤーは基本そう呼ばれた。
本家モンハンと違い理不尽を極めた攻撃や特徴があるモンスターが、数えるのが馬鹿らしいくらいにいるフロンティア。もう強い奴らと戦うことしか念頭にない奴らと、手に入ればモンスターになったり装備を使えたりフロンティア専用の補助スキルなどを他の作品に持ち込めるからと躍起になる強さを求めた荒らしプレイヤーがこぞって参戦。
クリアできる人間はそうそうおらず、ノーコンテストで終了がザラだったが発掘された理不尽な世界ということで当時は知らない人間でもよく飛び込んだもの。今でも当然勢力そのものは元気で、俺も自身が参加したグランプリでドゥレムディラに轢かれてゲームオーバーになりかけた。
「そんなのがあるんだ」
「クリアできる人間はもちろん、モンスターの討伐記録だけでも相当な評価を貰えるから実力は絶対に保証されていると言っていいよ。私たちの言っている勝永レイジっていうのは、OSGPプレイヤーのうち、F民プレイヤーの王とまで言われた男のこと。広義的にはアレイの先輩でもあるよ」
勝永レイジは確かに俺が出るまでは3rdグランプリの最新優勝者としての側面があったが、何よりも最強のF民としての側面が彼を一番語れると言っていい。口を開けば「モンスターがかっこいい」「強くて倒し甲斐がある」「負けても挑みがいがあって病みつきになる」というほどに愛していたが、そもそもプレイヤー層の段階からして実力のある荒らしが増えているために彼の名声そのものは実は憎しみも半分混じっていたりする。
しかし彼にとっては『実力のあるプレイヤーの予測不可能な攻撃をしてくる最高のモンスター』として尚OSGPでは本気を出して猛威を振るい、そのこと悉くで勝利を収めたのであった。その名前が悪名ではない理由は、強い奴を全力で狩ることしか頭にないのが事実としか言いようがないプレイスタイルがそうさせたのだろう。
ただこの話は本筋には関係ない。ヤマトは話を戻した。
「まあその勝永さんの話は置いておいて、このアツィルトの帯がデータドレインをミューテーションカードとして手に入れる手段じゃないかと思うわけ」
「その帯は一体どういうものなんだ」
「まず、ブルーアーカイブは神秘というものがある。これがバリアによって銃弾を弾いたりするし、また特殊能力を付与する要因として語られているのは知っているね?」
「お前が事前に教えた奴だな」
「それをみんなテクスチャって呼んでるんだ。このテクスチャは基本いじれないし、いじれたとしてもゲマトリアでさえ部分的になるから、正直いじれてないも同然。しかしこの鋼鉄大陸にある帯、その管理をしている神デカグラマトンはこれ使ってテクスチャを剥がして再定義できるの」
「ん〜〜〜〜〜?」
一気に混乱してきた。世界観説明っていうのは概要を掴むものだから、細かい理解までは必要ないのだろうが困惑が顔に出てしまってるのを表情筋から伝わってくる。
「例えばアレイがキャラカードを使って変身するじゃない?それを他人が強制できるって話。そのまま仮面が取れなくなるか、仮面に本質が乗っ取られるか。まあ大体後者ってこと。アツィルトの帯はアレイシア・ガレットピアというプレイヤーを、雷電芽衣というプレイヤーに変えることもできちゃうわけ」
「うっわその例えだけはやめろ。ただでさえ使い方とかわかんなくて放置してるのに日本の人形思い出しちゃうだろ」
「でもそれがアツィルトの帯の効果なんだ。わかる?」
「にしてもそんな効果が……あ?」
一つだけ、なんか腑に落ちたことがあった。
『キャラクターカードのキャラが自立駆動をしている』
『ブルートワルツは神秘を使ったデータドレイン計画を実行中』
『その元になるだろうアツィルトの帯は存在を再定義できるもの』
________つまり”自立キャラクターの発生はアツィルトの帯によってできた”のか?
「そりゃプレイヤーがいなくなるのも納得だ!」
「どうしたんだいアレイ」
「リキッド達がどうしてこの世界で自律して動けているのかの答えだよ!プレイヤーを再定義することによって繋がりを維持したままキャラクターの表面化は多分再定義の能力だ!」
「待って待って!」
大和が机を叩いてこっちに乗り出してくる。
「その理論だともうアツィルトの帯は彼女が再現して取っているって話にならない!?色彩が顕現してたらプレイヤーを逃すことなんてほぼないよ!色彩にとってもゲマトリアにとっても、プレイヤーは本当に面白い研究対象って認識処理されるんだから!」
「だけどそうでもしないと今度は逆にキャラクターの自律問題の説明が付かないぞ!今までカードが意志を持つなんて無かったことだし、もしアツィルトの帯が事件の鍵を握ってるならありうる話じゃないのか!?ゲームシステムに干渉してるのに色彩も関わってたらできる話だ!」
「そう言われればそうだけど、じゃあもうそれに辿り着いていたらこの話は終わっているって!データドレインの取得後なんで隠れる必要があるの!?」
「それは……!」
「あり得る話、かも」
ようやくここで、もう一人が割り込んできた。一番内情を知っているであろう少女が。
「え……?」
「ブルートワルツはベアトリーチェと手を組んでいた以上、色彩・神秘の情報を渡しても不思議じゃないと思う。その理論で行けばゲームスタートの段階でプレイヤーを消失させた説明がつくなら、尚更信じるべきじゃないかな」
「だけどアツコちゃん、仮にそれが出来ればもう隠れる必要もないよ。実行できる要素が全て揃っているなら、時間を無駄に掛けることこそ一番回避するべきことだから」
「アツィルトの帯までの掌握はできたとしても、そこからデータドレインへと変換する方法に手間取ってるんじゃないかなって」
アツコの話は、プレイヤーとしての知識を得て考えた彼女なりに納得できる推察を展開。
「あなた達の話を聞いて考えてるから合っているかは分からないけど……アツィルトの帯をミューテーションカードのデータドレインとして改造する時には、おそらくゲームとしての処理が必要になってくると思うんだ。つまりデータドレインのデータがゲームにない……からその処理に苦戦してると思う」
「なるほど?ミューテーションカードにするための素材が足りないのか。それなら納得だけど……いやでもゲームでアツィルトの帯を引っ張り出している以上は封印されたデータを見つけるなんて訳ないんじゃ?」
「ブルーアーカイブにないものは、こちら側から探すのに時間を要すると思う。でも同じサーバーや世界にあるなら、探すこと自体は不可能じゃない」
姫と言われるだけあるな、大和が俺の時と違ってあり得るのかどうか揺れているぞ!悩んでいる彼女の顔が少し可愛い。
「そう思うから神秘の方にエラーを起こすような一撃を与えたんだ。乖離剣エアを使って」
「うん。みんなの居場所を守るためにも、ね」
「やっぱり姫の器だなあ、アツコちゃん」
自分で戦って今いる世界や社会を変える、自分の意思で行動して仲間を集い行動する。その素晴らしさを噛み締めている人間には、意志の固さを感じるが、そこに熱を帯びているように思えた。俺が冒険を好む理由だ。
ともかく、話はついた。
ブルートワルツを追って真実を確かめる、野望があれば絶対止める。ベアトリーチェをついでに倒して、平和を取り戻してハッピーエンド。終着点があるとやる気が出てくるのは人間だ、歩けば100%いける難題ほど嬉しいものはない。
「____ん?」
そう思っていた自分の方に、連絡が入っている。ネームはイロコィ……ああ。
「ちょっと失礼」
席を立って少し離れ、通信を使う。
《こちらスネーク》
《こっちはアレイシア。元気そうでよかった、今送り出してくれた奴らと合流して休んでいたところだ》
《怪我はしてないか?》
《軽度の打撲だ。休んだからすぐに出れる》
通信の後ろでは音が聞こえる。銃声に、ミカ達が連携している声。
黙ったまま顎に手をやったりしている俺のところにいろんな奴が集まって、通信を傍受されてるようだ。
《そっちは大変そうだ、何してるんだ》
《少女兵達が一斉に紛争を始めた。ロイヤルブラッドに従うか、新進気鋭のブルートワルツ議会に参加するか。よくある争いだが、どうも勢いが大きすぎる。先生として認識されていることだけは確かだが、アリウスの少女達にはさして有効打ではないようだ》
《落ち合う場所を決めよう。どこにする?》
《アリウス分校にそのまま来てくれ。今味方しているのはロイヤルブラッド派閥だ、急進派が政府施設を占拠するのも含めてどこも変わらないな》
乾いた笑いが聞こえてくる。そう言うしかないのだろう、と言うのだけは切実に伝わってきた。
《OK、すぐに向かう。頑張ってくれ引率》
《そちらも無事に辿り着くんだぞ》
《ああ!》
さっさと飛び出してみんな楽にしてやろうじゃないか!貰ったポンチョを羽織り直して、扉を開ける。通信を聞いていた他のメンバーもさっさと準備して後に続き、また薄暗い路地へ。
道の向こうに見える大きな建物がアリウス分校か。
「みんな!行くぞ!」
号令のように軽く声をかけて、アツコに導かれるままに全員走り出す。
エンディングが近づく雰囲気を、俺はずっと感じていた。