Never Says「Good by…」   作:らんかん

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正義を語らば外道なり

 やってきたは大聖堂。

 

 放置されてたと言う割にはかなり綺麗で、眼を疑うような荘厳さが残っている。ただ埃の匂いがしないだけで、細かく感じる空気の揺れは建物がしっかりとメンテナンスされていないことを知らせる。派手に動いたら壊れるだろう。

 

 そんな大聖堂の真ん中、司祭が立つステージに一人の少女がいる。

 

「……あら?」

 

 その少女は、白い髪を二つにまとめ、多少ゆとりを持った状態で結い、こちらを向いている。毛量が多い結った先の縦ロール、ベールのように振り向く彼女の眼は青く、声は可憐で、肌は白く、ロリータ調の黒い服を身に纏っていた。

 

「アレイシア……?」

「よ、ブルートワルツ」

 

 変身は一切解かず、相手を見る。迷う事はないから堂々とは出来てるが、それ以上に後ろの殺気がすごい。

 

「スクワッドの子達を連れてここに来るなんて……でも残念、私も追っていたのですがひと足先に逃げられてしまいました」

「じゃ、少し時間があるな。丁度いい」

 

 近くの座れるベンチみたいなのに座って、彼女に聞いてみることにした。きょとん、としているが別に呆けているわけではなさそうだ。

 

「ブルートワルツ、最近自分が派閥を持ったそうだな。もしくはそういう派閥を知ったのか。ともかく今、議会として立ち上がって軍を持って戦っている。そうだな?」

「あればかりは一度止めても聞かなかったので、そのまま運用する事にしました。尤も、ベアトリーチェさえ打倒できれば物資を偏りなく届ける事が出来ます。私も貴方と同じ気持ちで、戦っていますよ」

 

 その言葉に偽りはなかった。いや、あったとしても本気で思ってそうだ。アツコはともかく、他のメンバーは懐柔はされておらず共話に耳を傾ける価値はあると思っているらしい。

 

「しかしアリウススクワッドのメンバーは、同じ志を持っているわけではないでしょう?ベアトリーチェによる独裁政権で一番甘い汁を啜っている利権屋の娘達はきっと、政権存続を望むはずです。混沌の中の自由を望むアレイシアや、ましてや愛国者達による完璧な支配でさえ越えられなかった脆弱さの代償を支払ったソリッド・スネークの敵であると思いますが?」

 

 ブルートワルツの問い、反論はとても正しいように思えた。だが、思えたからこそやはり何処かで引っかかる。俺の為じゃない、自分の為じゃない、このアリウスの、もっと大多数の者の為に……それが、どうしても“無視するな”と叫び続ける。

 

 仮面の下の困惑と疑惑が伝わって、構えている少女達とは裏腹にスネークが代わりに答えた。

 

「確かにベアトリーチェの支配、それこそ中東・アフリカで見られる紛争地帯の国のやり方はとてもいいものではない。少年兵が人を殺すように、少女達もおそらくは人に危害を加えたはずだ」

 

 彼の顔は、それでも変わらず、威厳のある声を響かせる。

 

「その咎を受ける為には平和な世の中が必要だ。衣食住を安定させ、自分を見つめ直す時間が出来た瞬間から彼女達の罰は始まる。最初から更生はしないと決めてかかり、処断をしては変わらない」

「ですが彼女達はその生き方しか知らない。仮に用意しても、都合の悪いことがあれば生き残るためにと刻まれた指針で社会の何もかもをぶち壊す。世界的にみれば、雷電さんでもマシな例なのです」

「あいつは沢山の人を殺した、その事実から逃げ続けなければまともに生きられない程だ。それでもあの事件から向き合い続けた、俺が死んだ後もな。彼を引き合いに出すなら、まだしっかりと人を殺したことはない彼女達はまだ引き返せるはずだが」

 

 スネークの言うとおりだ、その理屈ならまだ彼女達にもチャンスがあっていい。

 

 _____ああ。

 

 よく考えたら、俺なんでこいつらの話に間違ってるとか正しいとか思ってるんだ?

 

「では彼はあなたが死んだ後、どうなりましたか?デスペラードのサイボーグ相手に大立ち回りしました。それは正しいことだと思いますの?彼は相手にも人生があって、それを分かった上で様々な法的根拠を盾にして斬りふせるのを良しとした。人生を奪うことに、自分の気に入らない人間を殺すという詭弁で肯定したあの男を見れば、最初からテロリストは排除するべきでしょう?」

「デスペラードが悪事をし、それが裁かれることは正しいことだ。司法が機能していなかったこと、悪事が巧妙に隠されていたのを憤慨するのも間違いじゃない解決策にあいつが自分で殺しているのは、本当は肯定するべきではないことだが……俺にそれを責める資格はない。同じようなことを、リキッドにしたからな。だが俺はあの時のことは後悔してはいない」

 

 彼の目は確かに鋭くブルートワルツを唱え、銃を構えながらも口にする言葉は己が信じることを偽ることなく響く声になった。

 

「人は法の下に平等であるべきだ、それは否定しない。テロリストして育った子供達が、その生活を引き摺り不都合な事や攻撃を感じたらサバイバーズ・ギルトから換算して暴力を振るい相手を殺して身の安全を測るような行動に出やすく、それが一般市民の危険になることも理解出来ない話ではない」

「ならば今すぐその少女達を殺してはいかがでしょう?」

「だが、その前に人同士のコミュニケーションは程度はあれど必ず衝突する。それが、住む世界にどれだけの変化を齎すかによっては戦争になるだろう。俺達は戦争から逃れる事が出来ない時間を多く過ごしてきたが、必ずしも時代に流され続けたわけじゃない。自分で立って武器を取ることが殆どだ」

 

 自分の人生に後悔は無い、その状態で人生を終えれた人間の言葉の重みは違う。ただ適当にやっている無法者には無い、価値観と時間が乗っている。

 

「憲法や法律は、その衝突がせめて命の奪い合いにならないようにする為の線引きだ。日常や、日常を楽しむための命の尊さを知っているからこそ守ろうとする意識が生まれる。この意識を育てようともしないまま断罪することを、俺は出来ない」

「……流石は伝説の傭兵、いや、その名では蔑称でしたね。デイビット」

 

 ブルートワルツは、彼が理路整然と、それでもなんて感情論を振り回さないのに、感情が乗っているその言葉に感動しているようだった。目は見開き、拍手さえしてる。

 

「私たちは相容れない存在ですが、仮に負けたとしてもそのような心持ちを貫くのであれば何方が負けても歴史は良い方向へ動くでしょう。本気であることは、世の中の変革に大きく役立ちます」

「仲間になってくれれば嬉しいがな」

「それだけはないですわ。私は、ロイヤルブラッド無き政治こそが一番だと思っていますから」

 

 二人の結論が出たが、俺はそれからすれば斜め上の結論に達した。

 

 そもそもこのGPではアリウスをぶちのめさないと勝てないじゃないか。

 

 色々なイレギュラーが起こっていたのは間違い無いが、それを理由にヒーローごっこしてても意味があるわけない。

 

「アレイシア?」

 

 スネークの問いかけも無視して、俺は2回バックルのハンドルを捻ってブルートワルツへ殴りかかる!

 

「えっ」

 

 無論あの大会で最後まで生き残ったプレイヤーだ。素早く重く、ステージさえ破壊する一撃は真正面から来たのだから当然避けられる。

 

「何をするのですかっ……!?」

 

 彼女の狼狽える声が響いた。

 

 俺が殴りかかるとは微塵も思っていなかったのだろう。彼女にとっては俺は特別らしい、俺も彼女の事を比較的特別に思っている。

 

 だったら尚更戦うべきだ!

 

「二人の話は感動したんだがな。よく考えたら俺らはゲームの目的を忘れていた……OSGPなら、敵を確実にぶっ倒してクリアするまで自由にやるのが一番じゃねえかな」

「どうしてそんなことを!私は、アレイシアの事が好きで!」

「ハッ!俺とお前は芽衣とキアナじゃない!アレイシアとブルートワルツだ、そしてプレイヤーで、陣営が違う敵同士だ!その意味が分からねえとか言わねえよなァッ!?」

 

 俺は声高らかに叫ぶ。

 

「俺らは全部関係なくぶっ潰し合うことこそが正義だ!」

 

 アツィルトの帯がデータドレインの元になろうが、ブルートワルツが本当にキアナ・カスラナだろうが、全部関係なくぶっ倒して優勝する!どんな奴が裏側に隠れていようと、戦いが続くならその身を投じ続ける!

 

 それがOSGP、俺が唯一熱狂した最高の遊戯だ!

 

「仲間は居るし、それを尊重しすぎて頭がいいやつのプレイをするのは飽きた!こっからは戦いがモノを言う祭に変えちまおう!ブルートワルツ、俺はあの時の、本気の殺し合いをしてたお前が好きだ!」

「アレイシア……!」

 

 彼女の目が輝く。

 

 改造されたヒュッケバインとマイフリが火花を散らしたあの瞬間、今度は生身でどちらかがくたばるまでの戦いができる。

 

 実際、彼女の口から全てを聞き出すのは不可能だったし、不可解な点を解くには彼女を改めるしかない。だが別陣営である以上そう簡単に改めさせるとも思えないし、ましてや犯人だとしたら口を破ることもない。

 

 ならば結局、こうやって戦う事が全てのピースを揃えるための手段だ。今までは周りに遠慮してた、と言うよりどうするべきか踏ん切りが付かなかったから様子を見ていたが……今はもう決まった。

 

「ええ、ええ!アレイシア!貴方からそんなプロポーズをされたら、私、私は!」

 

 嬉しそうにしている甲高い声は、一瞬で消える。

 

 空間が割れるような音が響いて、視界が歪み、平衡感覚が一気に消失する感覚が押し寄せた。

 

「なっ!」

 

 急いで仲間の方を見るが_____

 

 

 

 

 

 彼女達にヒビが入る、それも大きなガラスの絵を割るように。

 

 

 

 

 

 スネークもミサキもサオリも、空間ごと、まるでアニメの原画を破るような、そんな形で砕けて、暗闇が砕けたところを埋め尽くす。

 

 

 

 

 

「アハ、アハハ、アハハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 ブルートワルツの、嗤い声。

 

 

 

 

「いったい何を!」

 

 その声に視線を向ける俺。

 

 

 

 

 

 

 白い髪に黒い髪が混ざり合い、目の色が赤黒く、口角は上がり_____

 

 

 

 

 

 

「ようこそアレイシア」

 

 

 

 

 

 声は釘宮理恵のボイスと変わらない、なのに全てが邪悪に染まった無邪気な声が俺と世界を引き裂いた。

 

 

 

 

 

 

「ボクの世界へ!」

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