スネーク、サオリ、ミサキの3人は、劣化したグラフィックの無機物になって落下した。初代プレステのような、いや、それ以上に雑で簡素なポリゴンになってその場にコトッと言う音を立てて転がっている。
その残骸や空間を見ていると、何故だか懐かしくとも不快な空気と散乱するエネルギーが体を重くした。
「ちぇっ、データドレインの精度がまだ良くないか。それに対象も非常に狭い……まあいいもんね。次はもう少し条件適合率を下げてやってみるだけだし」
あのお嬢様感あふれる喋り方は一切しない。黒い髪が混ざった彼女は、邪悪でも優雅でもなく、無邪気な笑みを浮かべてる。
「あれぇ〜〜?やっぱり生き残っちゃったか。プレイヤー判定が問題じゃないなら……」
「ブルートワルツ!」
レーザーレイズライザーを持って、その銃口を相手に向ける。
「今何をした!」
「見てわからない?データドレインだよ。グラフィックが劣化してデータごとすっとんだ!あー可哀想に!」
「お前は誰だ!?さっきまでのブルートワルツはどこへやった!」
「えぇ……?キミが好きなのはキアナであってブルートワルツじゃないでしょ?そう言うやり方、好きじゃないよ」
話が食い違っているし、底知れぬ恐怖を感じる。彼女が歩く影は、何故だか蠢動しているように見えて、足がすくんだ。
「てかなんでキミも生きてるわけ?」
「私はどうやら、少しだけ英雄王に好かれてたみたい」
「無事だったのかアツコ!」
「よそ見しちゃダメ」
言われてすぐブルートワルツ?に向き直る。
所作そのものが、可愛らしいのに恐ろしい。無邪気なボクっ子がおどろおどろしい雰囲気を纏っていた。
データドレインの原型が既に完成していたのもそうだが、俺に重圧を与えるこれは紛うことなきあの力。
崩壊エネルギー!
やっぱりあいつは終焉の律者のキャラカードを持っているんだ!3rdから持ち出せたキャラカードのうち一枚は持ってきてないが俺が持っている、ならばもう一枚はあいつが持っている!
「チッ……データドレインがもう手に入ってたとは遅れたか!」
「キミ達がいつそこまでたどり着いたかは知らないけど〜、もう数日前には出来上がってたよ?ミューテーションカードの調整って難しくってね」
「どうやって!?アツィルトの帯を手に入れたところで……そもそもどうやってアツィルトの帯までたどり着いた!」
「終焉の律者の権能は、時間を止めたり戻したり、穴を開けたり出来ること〜。終焉の繭なんて生物学らしい名前があるけど、実物は機械仕掛けの神も良いところでね?ボクはそれを活用したにすぎないんだ」
彼女は後ろで腕を組み、無邪気な幼馴染みたいに振る舞って、微笑んで俺らをみている。
「ブルアカのデータに入り込んでデカグラマトン編のストーリーを引っ張り出した後で、デカグラマトンとマルクトを素材にアツィルトの帯を加工した。その加工情報を元に世界改変で開けた世界の穴から検索し、擬似的なデータを持つものを検索してスムーズにデータドレインを引っ張り出して、この腕輪になったってわけ」
ブルートワルツの腕に巻き付いているのは、神性的なヘイローが立体的な冠のようになっている腕輪。これを展開してデータドレインに使うのか。
「いやあ、ちょっと時間は掛かったけど結構上手くいって嬉しいよ。ボクはキミと違ってベアトリーチェと仲良かったから。ね?アツコちゃん?」
「出遅れたのは認めるけど……私達は負けたわけじゃない。調子に乗れるのも今のうちだよ」
「へえ、名前を出されてもこっちのやれること全く分からないのに?隣のアレイシアだって、終焉の律者のこと全く知らないんだよ?そうでしょ?」
困ったな、と言ったふうに首を振る。実際知らない。
だがアツコは一歳怯む様子を見せず、相手へと言葉を投げかける。
「じゃあ、終焉の律者とやらの話を聞かせて欲しいな。勝てるんだったら、黄泉路の二束三文……いや、ケルベロスのおやつがわりにしようと思って」
「それ聞いてどうするのぉ?ま、いっか」
ブルートワルツは自分がよせたそっくりな少女のカードを取り出して、微笑みながら、絵本を読み聞かせるように説明を始めた。
______終焉の律者。
崩壊3rdではおおよそ”神”みたいに呼ばれるもので、律者自体がエヴァで言う使徒、聖書でなぞる所の天使のような存在だが、終焉の律者だけは違う。終焉の繭という神のようなものが、その現し身として自分と同じ感じの律者を作る、という話らしい。
繭そのものが高次元文明の作り出した文明の判別装置らしく、選別対象の文明が争いばっかでダメならそのまま終焉をもたらすというとんでもない傍迷惑な存在。つまり終焉の律者=選別装置の排除機能を実行するアバターと捉えられる。
ただ、ブルートワルツが持っている終焉の律者……キアナ・カスラナは作られた律者だ。選別装置の現し身である以上、ほぼ同一の存在になる。そうなれば当然、意識があり自由に動ける片方が実効を持って操作できることを意味した。律者という滅亡させる敵側で話し合い、様々な小細工をもって世界を滅ぼせる高位の玉座に女王を座らせることができたなら、細かい話は抜きにして人類の滅亡を止めることが可能だ。
それを実際にやってのけたのが本編だった、という。
俺はその話を聞いたのが今回が初めてで、素直に納得してしまった。いつも不利な状況で戦ってばかりで、最終盤に至ってはムーンライトスローンに乗ってたネゲントロピーの連中に助けられた後に泣きついてストフリをマイフリに改造して貰ったぐらいの不甲斐ない男だったし。もっともアレで他に残っていた唯一のプレイヤーだったブルートワルツに黒星をつけれたので、今となってはいい思い出だが。
「ま、そういうこと。当然それ相応の力を持っているし、たとえ英雄王とレーザーブーストまで持っているギーツじゃ太刀打ちしようがない。それでもキミ達は抗うんだろうけどね、いいことだ」
そう言っている彼女の顔は、一切の嘲笑はない。自分が努力したから勝てる、などと考えるような器ではないのは明らか。俺だけじゃない、目を盗んで色彩関連の対策を練ったアツコにも相当な経緯があると見える。
「ふぅん……造られた律者、か」
「何か?」
「いいや、なんでもないよ」
彼女の手には原罪がある。
「やろう。それだけ尊大な存在なら、1on2でも許してくれるでしょ?」
「そうだね。それくらいの気概を見せなきゃ、無法者はやってられないよ」
「ありがとう」
お互いにもう戦う以外に道はない、という空気。ブルートワルツの代わりぶりに動揺しているが、俺も倒さないといけない以上は揺れてばっかじゃ居られない。
レイズライザーを付け、デュアルオン。
《HYPER LINK》
《LASER BOOST》
「アレイシア」
丁度レーザーブーストになったタイミングで、アツコが近寄ってきた。
「どうした?」
「少しだけ頼みたい事があるの」
コソコソ話なのか耳に手を当て話しかけてくる彼女。ブルートワルツ?は、首を傾げたままだが待ってくれていた。
「ギーツIXは使わないで」
「は……?」
「あれの対策は考えてある、貴方はレーザーブーストまででやりくりして戦って。データドレインも多分なんとかなるはず」
「信じていいんだな?」
下手に口にさせすぎると相手が分かってしまう可能性がある、ワードウルフと同じだ。
すぐ出会って一緒に戦ってるだけではあるから、そう簡単に信頼を置けるやつじゃないということは分かりきっている。しかし、相手の実力や考えていることは裏付けがあったことで、何より長く使っているであろうギルガメッシュの力には、何かしらの対策があるのやも知れない。
彼女も熟練度はともかく、理解度が高いから何かしらの糸口を見つけているのだろう。
「多分。それをする前に私がなんとかできると思うから……負担はかかっちゃうけど、貴方はあの人に対する最後の切り札だよ」
目は、それが本気であると語るに相応しい鋭さの眼光を発していた。ブルートワルツを倒せる鍵は自分で、それはしっかりとした根拠のある話とは思えなかったが_____
彼女を見ていると、王の財宝から二つの武器を取り出した。
「とりあえずこれで様子見をする。貴方はとりあえず相手の邪魔をして、できれば倒す為の導線を引いて。動きを固定するとか」
「おいおい冗談じゃないぞ、あれそう簡単に誘導できると思うか?」
「やって」
「仕方ねえな」
舞台の反対側から、声が掛かってきた。
「そろそろ作戦会議終わった〜!?暇なんだけど〜!」
「終わったよ!待たせたな!」
合図を返すと、ブルートワルツも変わっている。
かつてどこかで見たような、純白のドレスに身をつつんだ少女。しかし、それは本物のようではなく、黒のメッシュが入った白色のツインテールで、すごく重めなゴスロリチックなドレスと手には剣と銃を持っていた。
「あれ……?」
「ふふ、気づいた?あなたの持っている武器と、私の持っている武器が一緒なの」
「あっれぇ〜?ま、いっか」
よく見たらどっちの武器も一緒。
俺が一番動揺してあっちこっちに首を振る情けないギーツが誕生。
「え、どういう?」
「終焉の律者とやらは、少なくともその子は人造だったわけでしょ?」
「あちゃ〜やられちゃった」
_____まさか終焉の律者をパクったのか!?てかそれパクれるものなのか!?
驚いてるのは俺、一番驚くべきやつは驚いてない。
「君はボクの話した情報しか知らないし、それ以外に情報源がない。勝てると思うかい?勝機は以前ボクにあり」
「勝てる勝てないで言うなら勝てる。勝てない算段をして挑む戦いをするような人間が、貴女の目の前に出てきたことある?」
「君で一人目だよ」
「同じ力を持っていても?」
「その力の理解度と熟練度が物語る」
お互いに剣を構え、銃の引き金に指をかけた。
手持ち無沙汰なのでレイズライザーをもう一回中にして、構える。
互いに靴底を擦り、警戒し、間を掴む刹那。
「やぁぁぁーっ!」
「はぁぁぁーっ!」
少女達の叫びと共に、開幕する戦い。
世にも奇妙、世界観さえかなぐり捨てた、終焉同士が衝突する。