Never Says「Good by…」   作:らんかん

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割れた時の隙間で

 白い景色がうっすら、瞼の向こうに見える気がする。

 

「さあ 助けましょ 高く振り上がるあの腕」

「( ゚∀゚)o彡°えーりん!えーりん!」

 

 なんか歌ってるし、煮込み料理の音もするし、美味しそうな匂いがしてきた。リビングのソファで寝てるみたい。

 

「私がまだ中学生の時はボーカロイド全盛期かつ東方全盛期で、こういうのをみんな歌ってたの。カゲプロとか、流行ってたなぁ」

「そうだったのか」

「正直私自身は家庭や個人の事情が重なりすぎて趣味どころか明日さえどう生きればいいか悩んでいたから、触ることはなかったけど……今、少しだけ自由になって色々触れてみたら面白いなって」

 

 自分は生きてるぞ!という威嚇を抑えきれない体の揺れが、擦れて音を出す。

 

 男の方は気づいたらしく、近づいてきた。

 

「おーい、生きてるか」

 

 体が動かない。痛みのせいでびくびく跳ねていても、力がうまく入らない。

 

「あー、まだ時間が掛かりそうだ」

「そう……死んだりはしない?」

「大丈夫だ。マーク2の歪ませる力で相打ち狙って即死しなかった奴が、そう簡単に死にはしない」

 

 目が開かない。瞼を開けようとする力は瞼につながるが、揺らすまでのところで止まってそこから先の行為に繋がらなかった。

 

「しっかりと応急処置は施した、喋れるだけの元気は残ってる」

「出血自体は止まってるものね」

 

 口が開かない。

 

 だが、喉は違う。

 

「んんんん〜〜〜〜〜」

 

 若干唸り声のような声を上げることに成功すると、喉から上手いこと成功例のような力の入れ方が伝播して目を開くまで行った。体に力が入ると、周辺を見渡すのに苦労しないで済む。

 

「おお、話をすれば」

 

 目の前に、黒い髪をしてヤクザみたいなドレスコードをキメてる奴がいる。

 

「よっ、化けて出てきてやったぜ」

「……年貢の収めどきか。くそっ、せめて痛覚とかが設定されてないグランプリ外で死にたかったな」

「死にかけた割に第一声が元気じゃないか」

「安心したというか呆れたというか」

 

 女の声が聞こえて、上半身を起こそうとする。

 

「あだ」

 

 が、すぐに体は拒絶反応代わりの激痛を起こしてそのまま浮いた分を叩きつけられた上半身の苦痛が目覚ましがわりになった。

 

「無理しないほうがいい」

 

 自分の体の接触から、視界情報から、自分が来ていたものがないことに気づく。

 

「じゃあ、俺から外した外套から薬を取ってくれないか。クーポンみたいな形をしたやつ」

「ダメよ。そういうのは本当に最終手段なんだから」

 

 声の主が近寄ってくる。

 

 エプロンをかけた、セーターを着ている女がいる。少女というには育っているし、お姉さんというにはまだ幼さが見えるような……そんなやつ。

 

「俺は急がなきゃいけないんだ。ブルートワルツも、うぁ……大和も、アイアンのやつも、はあ……」

 

 うつ伏せになり、汗を垂らし、苦悶の声をあげ、肘にかかる重圧を新たな痛みとし、その痛みから逃げるように体を動かして無理やり起き上がる。絶頂を迎えるときのようなスピードでのけぞり、そのまま元の姿勢に戻ると……女の子のような座り方して体が起きた。

 

 紺色?紫色?瞳はまあ紫でいいだろ、そんな見た目の女が目の前にいる。

 

「久しぶりね、いや、初めまして?」

「初めましてだな。俺はお前を知らない」

「へえ、そんなこと言うのね。えい」

「いたっ!?」

 

 頬をつねられた!なんてやつ!

 

 ただそれでぼやけてた視界が元に戻って、ちゃんと見えるようになる。綺麗な日本人の顔で、声も今の自分と_____

 

「お前もしかして」

「そう。私は雷電芽衣。思い出した?」

「なんでいるんだよ!?」

 

 びっくりして後ずさる。

 

「おお〜、いい跳ねっぷりだな」

「待て待て待て!!英寿が具現化しているのはまだ100歩譲って分かる、同じグランプリにいてフルスペックで持ってたからどう言うやり方をしたかはともかく居るのは分かる!

 なんで()()()()()()()()()()()()ここにいる!?」

 

 大事なことだ。

 

 ヘルタもルアンもスネークもリキッドもスタースクリームも浮世英寿も全員、()()()()()()()()()()()()()()()フルスペックカードだ。だからこの世界に入って、ブルートワルツの改変に巻き込まれた挙句に自我を得た。そこまでは分かる。

 

 俺に所有権があり、その俺が持ってこなかった"起源の律者"はそもそもグランプリにいない。だからエレクワールドにデータは置きっぱなしだし、なんだったらそこではシンギュラリティの制限で自我を持たせるような行為には特定エリアでの処理がなければ固く禁じられていた。

 

 だから尚更不明だ、目の前の芽衣とやらがなぜ自我を持ってこっちにいるのか。

 

「大丈夫よ、殺したりしないし……そんなことしようとしたら、英寿が邪魔するでしょう?」

「いやそれはどうでもいい。俺のトロフィーかなんかで愛しのキアナと分離されたらぶち殺したくもなるだろ」

「貴方もそういう人がいるの?」

「いると思うか?自我があるかわからない奴に恋人なんか」

「じゃあ軽々しく言わないことね、下手を言えば殴り殺されても文句言えないわよ」

 

 うぐ……痛いところを突くな。

 

「端的に言えば、アツコちゃんが世界を貫いたことで私は自我を与えられて現地まで送り届けもらった感じ」

「アツコが……まさか!」

「そう、えっと、ギルガメッシュの……ねえ、英寿あれなんだっけ?」

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)だろ?」

 

 そうそう、と手をぽんと叩く芽衣。律者がどうとかよりも、普通に穏やかなお姉さんにしか見えない。英寿は……うん、普通にボンボンだな。

 

「それで彼女が世界を貫いて、ようやく貴方のホームベースで異常性が発覚したの。で、そこの神様が私に」

「発覚した?観戦者はずっと見てるんじゃ」

「観戦者というか感染者だな、オーディエンスの認識も変わっていたらしい」

 

 通りでろくに大会側からの干渉が無かったわけだ!膝を叩く納得感はある、ゲーム自体がここまで支配されていたら当然運営側にエラーあって当然じゃないか!

 

「その影響の原因は貴方の宿敵であったブルートワルツによる犯行なのも分かったの。彼女が持っていたキアナちゃんの力と、そこから派生した新たなる力」

「データドレインだな。ああ、間違いない。その通りだ」

 

 彼女が知っていること、聞いたことに間違ってないと肯定を返した。

 

「で、それを何とかしようとしてた訳だが……それがこうなったわけだ」

 

 今更自分の体を見返してみると、だいぶひどい。自分の上半身は包帯まみれだし、口の中はよく考えてみるとなんか血の味がする。流石に神様みたいなのにただの推進器ガン積み装備では勝てなかったのが、如実に現れている。

 

 真っ白な空間だったのもあって、目の前にある焚き火に鍋にメスティン……そこにある怪我人なんてオブジェクトぐらい目立つだろ。

 

「しかしエレクワールドの管理人はAIだし、しかも絶対中立だろ。それが片方に味方するなんて……自分が作ったルールさえ破るような真似をするデメリットだって分かってるはずだ」

「そうするほどの一大事ってことなの。ゲーム外のプログラムまで侵食している以上、その主の権能も下手に使えばもっと大きな被害が出るかもしれない……だから、このゲームのクリアがそっくり貴方の世界を救うことになるわ」

「だから起源の律者がやってきた、ってことか」

 

 目を逸らしつつ、彼女に聞く。

 

「ひとつ聞いていいか?」

「なぁに?」

「……俺の世界では、お前もキアナも、最初に配られた……おそらくブローニャも。英寿だってトロフィー以上の価値はない。そうとしか捉えられない、終わった世界のために戦う必要はないはずだ」

 

 とにかく力を貸せ、俺の神様の言うとおりにしろなんて言えないから、言い難いことでも騙さず問う。

 

「そんな世界の為に戦えるか?俺は、エレクワールドの言う通りの遊びをして、ただ目的もなくお前を部屋の片隅に置いた。カードにしてから一ヶ月、ハッピーエンドを迎えたのにキアナと引き剥がしたんだろう。だから、今ここで殺されても文句は言わない。

 こんな奴らのために、戦う意味は?」

「……」

 

 口に指を当て、彼女は考える。ただしそこに、殺意も何もない。後ろでカレーを見てる英寿に至ってはなんかつまみ食いしてるし。

 

「ふふっ」

「なんだ」

「確かに貴方の為に戦うのも、貴方の世界の為に戦うのも正直納得はできてない。だけど、貴方と共に戦うのは別に嫌じゃないわ」

 

 意外な返答だ。笑ってるのが、余計バツが悪く感じる。

 

「貴方が自分のことをそう思ってて、自分の世界がそんな無法者だらけの救いようがない世界だと思っているのも否定はしない。だけれども、心の底からそう思っている人間はアツコちゃんや、現地の子たちと協力しないと思うの」

「ゲームのためだと言ってもか?」

「なら何故()()()()()()()()()()?」

 

 皿によそったカレーを三皿持ってきた英寿が、ヤンキー座りしてこっちを見てきた。

 

「あれがただのモブや、気にも留める必要がない雑魚だと本気で思うなら彼女の言葉を信じずにギーツIXになれば良かったじゃないか。終焉の力だろうとも、創世の力で押し返せる。持ってる人間が言うんだ、間違いはない」

「……」

「だがお前は彼女の立場を鑑みて、見てきたものを()()()。そして、彼女がどうしてもと世界の平和を求めて戦った意志も()()()だろ?」

 

 二人は微笑んでる。

 

「その結果が、俺らとの邂逅だった。その俺らの表情が、お前がやってきた()()だ」

「二人とも」

「だから、一緒に戦おうって思ったの。貴方は今更、自己保身に走れるような人間じゃないのも戦いを見て実感したから」

「ま、ブースト頼りの戦い方だけは矯正した方がいいかもしれないけどな」

 

 冗談を言われると恥ずかしくなったが、心の中で合点がいった。

 

「と言うわけだ、カレーが冷めてしまわないうちに食べよう。食べながら、あの女の攻略法を決めればいい」

 

 差し出されたスプーンを受け取る。

 

「ああ、そうだな」

 

 全員が日本人的な所作を持っていて、手を合わせた後に食べ始める。

 

「いただきます」

 

 チャーハンのような黄色いご飯に、パプリカメインのカレー。パプリカ特有の苦味と、それよりも強く感じる野菜の甘みがカレーのスパイスにただ辛味とは言えない香辛料の香ばしさと蕩けたルーで纏まっていた。

 

「うまいな!」

「ああ、同感だ」

「どんな味がする?」

「辛くないけど香ばしくて甘みを感じる、初めて食ったよこんなうまいカレー」

「それは良かった」

 

 どんな味がする?はちょっと想定外の質問だが、美味いものはそのまま言語化しても美味そうに聞こえるようにできているんだ。

 

 焦ったところでアツコの無事がすぐ分かる訳でもないし、俺を信じて戦ってくれてる大和達がそう簡単に負けもしないし、無謀な戦いもしないはず。俺が波を起こすなら、きっと大和はブルートワルツ以外のところで大まかのシナリオを書き上げるはずだ。

 

 だから今はちゃんとした休息が一番の対策になる。

 

 このカレーを味わってから、本題に入るとしよう。

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