Never Says「Good by…」   作:らんかん

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無法者でありたいという願い

《…⋯ア…………》

 

 ダメだ聞こえない。だけれども、声は知っている。

 

 バイクを走らせているうちに、上の方を突っ走っては飛んでを繰り返し、いつの間にかゲヘナの道路に出た。

 

 と言っても後ろを見ればトリニティの領地が見えるほどの外縁であるから、ちゃんと騒ぎの場所を調べて突撃する必要がある。前方遠くに黒煙が無造作に吹き上がってるのを見れば、おそらくはそこで戦っているんだろう。

 

《……シア……イシア……!》

「聞こえるか!俺だ!」

《アレイシア……!》

「大和!」

 

 通信が入ってきたのを返すと、声が若干高くなる。

 

《ぁ……無事だったんだね!》

「あったりまえだろ!あいつに負けたまま簡単にくたばれるかっての!」

《良かった!でも、ちょっとやばいかも!》

「状況を教えてくれ!」

 

 彼女の話を聞くことにした。

 

 まず、俺とアツコがブルートワルツと戦って相打ちした後に到着したメンバーは生徒も含めデータドレインされた後の三人を回収して離脱。道中でスタースクリームと合流した大和達は一度アウターヘイヴンまで退避して、情報交換。

 

 初代MGSみたいな姿で鎮座してるスネークに大笑いしてたリキッドはマダムヘルタに引っ叩かれて……みたいな微笑ましい場面もあったのだが、結局未明のうちにブルートワルツは帰還し、ゲヘナへの侵攻を己に仕えさせた生徒達と共に開始。早朝から今……12時40分の今まで、大戦争真っ最中とのことだった。

 

「あいつは今何やってるんだ?下手に時間をかけてると不利になるからさっさと全殺しをやるはずだ。それだけのパワーがあるカードを使ってるから、時間を掛けないはずだが」

《存外攻めあぐねてるっぽいよ?》

「どうして!?」

《羽沼マコトが奮闘してるから》

 

 羽沼マコト、といえばゲヘナの首魁か?

 

《彼女ってさ、情報収集のスペシャリストなんだ。あれだね、CIAに居たら一番やばいタイプ。今回トリニティへの攻撃のために色々画策してたんだけど、OSGPじゃん?だから対策をちゃんと練ってたみたい》

「でもどうやって」

《どうやら部下達にカードを扱わせて応戦中、本人は後ろで色々指揮を出してうまいことやってるみたいだったよ。いいね、ああいう部下なら君でもやっていけそうじゃない?》

「残念、そういうことをやれるような人間だったらこんなところには参加してない」

《だよね〜……え、というか戻ってくるまでそっち何してたの》

「ああそうだ」

 

 彼女に話をしないといけない。

 

 アツコと共に戦った後に吹っ飛ばされた俺は、割れた時間の狭間で雷電芽衣と浮世英寿と接触。彼女達に助けられた後に、律者に関する色々を教えてもらってから対抗策を貰ったことを話した。現在は彼女を止めるべく向かってることも伝える。

 

《なるほどねえ……え、でも起源の律者って持ってきてなかったよね?》

「エレクワールドから自我持って飛んできたらしい」

《怖いねえ》

「でもそのおかげで色々まとまったんだ。少なくともデータドレインをすぐに喰らってゲームオーバーはないぜ」

 

 相手から、少しばかりの安堵した声が聞こえた。

 

《じゃ、道中の心配もいらないね》

「お前達がゲームオーバーにならなきゃな。今他のメンバーは?」

《本部の警備と、私がアドバイザーだね。アレイシアが鍵だから、通信に集中してアイアンが指示を出してる。ヌースがいるし》

「ヌースゼロワンねえ、インチキ極まりないな」

 

 心配なさそうだと、笑い飛ばそう。折角なら、こっちも安堵してる方が伝わった方がいいしな。

 

 さて、走っているとなかなか黒く染まってきた視界。それでも喧騒は聞こえない。

 

《ねえ、アレイシア》

「なんだ」

 

 大和がいやにしおらしい声で、聞いてくる。

 

《これはその……大事なことだから、今更だけど聞くね》

「勿体ぶらずに言え」

《アレイシアは、何のためにこの戦いに参加したの?》

 

 バイクで走る間で答えが出るか怪しい質問だな。

 

《何でもいいんだ。自分の力を誇示するためだとか、私達に寄生して大会の成果を稼ぎながら百合園セイアをゲットしたいとか、とりあえずプレイヤー殺しを楽しむためにとか……何でもいいんだよ。君が戦う理由を知りたい》

「……」

 

 彼女がなぜ聞きたいか、それは理解してる。

 

 何のために戦うかを、しっかり言える人間ほど強い。目標が人を動かし、進化させる。無法者のグランプリなら尚更、そう言った人間の欲望以外に戦う理由はない。

 

 ただ、最悪次の戦いで死ぬ可能性だったゼロじゃないから、思いの丈を口にしよう。

 

「俺は、正直自分がどういう生き方をしたいか分からない」

《え……?》

「3rdグランプリの前、俺の声はもう少し低くて、髪色は茶色一色で、服だってパーカーを着てジーパンにスニーカーなんてメカクシから続く正統派厨二病スタイルじゃなかった。あの大会で偶然優勝して、俺というものが世界から定義されてもずっと生き様が変わらなくて……ただ担ぎたいやつに勝手に乗っかった結果今の姿にも声にもなったんだ」

 

 正直、だからと言って声が沢城みゆきに設定したのは芽衣には申し訳なく思ってはいる。自分がアイコンになれば仮想世界の経済は莫大な奔流を生むことを知っていて、それを別に悪きものだとも思わなかったから彼女を最大限トロフィーとして利用してた。内心申し訳ないから、その後にちょっと参加したOSGPから今まで、そもそも持ち込もうとすら思わなかった。

 

 髪色やファッションスタイルが全て、中性的で、誰からもモテたりする気持ちのいいドレスコードには別に嫌なことは思ってないから、やっぱり彼女への申し訳立たなさだけが残ってる。

 

《あの大会に参加する前は、何を考えてたの?》

「分からない。ただ漠然と生きていたから」

《よくそれでこういう遊びに参加してたんだね》

「……正直それくらい、楽しみがなかったのかもしれない」

 

 心のどこかで分かってること。

 

「例えばあるキャラカードを手に入れて疑似恋愛して、設定を無視してセックスするのはとても楽しいのかもしれない。綺麗か可愛い誰かと付き合って、別れてを繰り返して……それが飽きたら用意された冒険譚を隅々まで遊び尽くして救世主になることなんてもう最高じゃないか。だけど、やって大して面白くなかった」

 

 用意されたものに溺れ続ける快楽は、確かに感じていた。何も考えずに起きてる間はやり続けて、疲れたら寝て、また繰り返すのはとてもいいものであることは理解していても、自分はどこかで飽きてしまっている。

 

 陳腐化した言い方をするならそれを本物の人生だと思ってないのかもしれない。いや、その人生を理解して拒絶しないで付き合っていけるから、正直それでよかったのだろう。

 

「でも、人を殺すのがOKで、基本的に何しても許される……いや、それでやりすぎって話が出てくるわけないもんな。ともかく、自由に動いて思い通りにいかないことだらけのOSGPに、心のどこかで常識がないやつめと参加したら、そこに惹かれてしまった」

 

 ストーリーをぶっ壊そうとしたら、ストーリーがそいつを殺す。ストーリーに沿って、物知り顔で救世主になろうとしたら、ぶっ壊そうとしてくる奴が始末してしまう。荒れに荒れまくって制御不能、だけどみんなはただ一つ、フルスペックカードという強力なトロフィーのためだけに怪我もチートも惜しまない、悍ましい世界の戦火が俺を燃やした。

 

 その炎がないと、どんな甘い夢を見ていても、心のどこかが凍えてしまって苦しくなってしまう。上手くいきすぎて、それがどれだけ心の中に入り込むような甘え方をしても、その前に自分を凍らせる氷の絶壁が阻む。

 

 火を!炎を!業火を!核爆発さえ超える熱を!

 

 もう電脳世界でしか生きてない人間には奇妙な話だとは思っているのだが、俺は生物学的な生存欲求をこの世界に求めずにはいられない。そうじゃないと、バーチャルで生きるというのは自我それこそが肉体であるから、自分を保てなくなるという死を直視し続けることになる。

 

《アレイシアにとっては、この戦いが永遠に続くことこそが生きる意味ってこと?》

「……そうなるな。だから、ブルートワルツと戦うんだ」

 

 彼女?彼?の意図は分からない。

 

 あそこでの話をするなら、きっとあいつは無限に続く世界を作りたいのかもしれない。そうでなくても、何か自分の居場所を作りたいのは予想がつく。

 

「おかしいとは思うんだが、俺は性根が仮面ライダーらしい。理想の世界より、うまくいかない世間の方が面白いと思うし、守りたいって考えてしまうんだ」

《……そう、だね》

 

 彼女の微笑む声が聞こえて、それと同時に黒煙が晴れた。

 

 大きな交差点の真ん中で、ぶっ倒れてる少女と、見慣れてしまった花嫁ドレスの律者がいる。

 

「切るぜ」

《元気で会おう》

「ああ!」

 

 通信は切れ、同じタイミングでコートから地獄への回数券(ヘルズクーポン)を取り出して舌に乗せる。

 

 一気にキマる感覚!肉体の全てが活性して踊る痛みと快感!

 

 乗っていたブーストライカーを、ブーストワルツに向けて蹴り飛ばしながら俺は飛ぶ。

 

「なにっ!?」

 

 慌てた声がしたその直後には、バイクがぶっ壊れる典型的な音が響く。屋根に乗って、そのまま彼女を見下ろす形を取った。

 

 ブーストを使った攻撃だったからか、あまりの暴風が周辺の炎も煙も吹き飛ばして穴を空ける。竜巻と思わしき風が周辺に暴を振るうが、俺とブルートワルツは一切姿勢を崩れない。

 

 周辺に影がくっきりと映るほど、後ろから太陽の光が注がれた。尤も恒星はただ輝いているだけだ、その是非を問うことはできないし、是非という概念を認識することもないだろう。

 

 その光は、彼女が倒しかけた少女の姿を見せる。

 

 普通に悪魔のツノ、銀色に近い髪、軍服のような服を着ていて、ワルサーのような狙撃銃を持っている。腰には……ああ、ライダーベルト。少し遠くには青いクワガタが、破壊されて横たわっていた。

 

 プレイヤー機能を見るに、怪我こそ負っているが死にかけじゃない。助けられる。

 

「ブルートワルツ!」

 

 ならば、力の限り、俺ができる限り、最高の啖呵を切ろうか!

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