トリニティ領内は魅惑的だ。
どう魅惑的か、と言えばやはりファンタジーな街並みがそうさせる。俺の時代ではもはや捨てられたものだし、そうでなくても雰囲気だけ真似しても結局生活様式を下げてまでファンタジーを堪能する奴もいないので、リアリティという点においてこの経験に勝るものはないだろう。
「それで、私たちはこうして自警活動をしているのです」
「なるほどなあ」
スズミの会話もちゃんと聞いている。
と言っても、内容は彼女視点のエデン条約と言ったところか。
トリニティとゲヘナという二つの巨大で仲の悪い学園があり、幾度となく歴史上衝突を繰り返していた。ただ、それはどちらの政治においても邪魔であるのには違いない。ゆえにそれをある程度解消した上で、互いを信用するための一環としてエデン条約を締結しようというのだ。
戦争は莫大な浪費であり、戦闘行為もスケールそのものは低下しているが結局浪費していることには変わりはない。そして敵を据えて主軸にした政治は、その敵意がコントロールを失った瞬間に瓦解する。
懸命な判断だ、という同年代の人間に対する敬意。それに反するようなそんなことまで考えないといけないのか、という憐憫?いや、大変だなという嫌悪感を抱いた。
OSGPをするにあたってあらすじは知っているのだが、俺自身はブルアカのやつをやるのは初めて。いわば話の通じる現地の人から情報を聞き出すに等しい価値を持っていた。
何よりも、想定した参加者があまりにも少ないというのもあるのでもしかしたら何か異常を検知しているのではないかと思うと、これもまたちゃんと話を聞こうという気にもさせる。
「エデン条約、というものを締結するにあたってはそれに向けて過激派などの被害は増える可能性があります。当然正義実現委員会も動いていますけど、あっちは事実上の軍でもあることを考えれば過激派の弾圧には余程の被害がない限り動けない」
「だから自警団が率先して動いていると。こっちなら非公式だから、よほど政治に絡むようなことさえしなければ黙認されるというわけか」
「ご理解いただけたようで何よりです」
「しかしまあ、それも見たさでこのタイミングで来たからな。誘いもあったが……のべ200名だろ?俺ら含めて」
「ん?100名ですよ?」
「あそっか、ごめん言い間違えた」
「ありますよね」
さらっと欲しい情報を言ってみたら、分かったことがある。
200名スタートであり脱落者がいるというのはこっちの情報だけであり、あちらは元から"100人"で認識している。多分ゲヘナも同じだ。
「公的な動きで余計に状況が悪化する、それを含めて今は忙しいのです。しかし、留学生の方にはある程度の警告をするべきだろうとのことで自警団の方でそういった周知を進めています」
「ご苦労様です、わざわざ」
「いえ、大事なことですから」
街並みをすれ違う少女たちを見る。
ろくには話の内容が聞こえないが、やっぱりこのエデン条約の話で持ちきりだ。
「……そういえば」
「なんだ?」
「一応お聞きしますが、武器はお持ちですか?」
「ああ……ないな。うちの国個人の武器携帯禁止でさ」
無論嘘だ。
あまり公にするものでもない。なにしろあまりに非現実的だし、手札を隠す必要もある。
「では」
「移動はしばらく寮と学園を行き来するだけになる。それに、調印式が終わって少ししたら帰るしな」
「そうですか……武器を買っても持ち帰れないですけど、一応お勧めしておきます。場合によっては近辺でも襲われるということもありますから」
「考えておく」
「ええ」
なかなか寮が小さく見えるところまで歩いてきた。
「アレイシアさんは、一体どうしてここに?」
「純粋に社会科見学みたいなところかな。学生が主体となった社会での大イベントってのはそれだけで価値があるのさ。先生よりも老けてる大人がいつも上に陣取っているからな、エネルギッシュ?な話には飛びつく主義だよ」
「なるほどそういう」
「まあ、そう言ったところだ。当然、何も事件がないまま終わってくれたら嬉しいと思っているよ」
その意思は事実なのでおそらく嘘っぽくは見えないだろう、何が起こるかは知っているから叶うことはないが。
話すネタも全部尽きた頃、スマホが鳴る。
「すまない、電話だ」
応答すると、出てきたのは大和。
《あ、出た。よかったあ》
「大和か。ああ、すまない。自警団の人と話していたから少し遠くのところにいる」
《連れて行かれたとかじゃないよね?》
「勿論。ある程度は同行してもらおうと思ってるから、ちゃんと行くならそこ10分程度でそっちに戻れる」
《自警団って誰?》
「ああ、スズミさんだよ。少しお話ししておきたいことがって。大事な話だったよ、周りの案内しながらだけど何より色々聞いたから」
《走る閃光弾か。なるほど分かった、んじゃとりあえずロビーで待ってるよ》
「オッケー」
電話を終えた。短いな。
「今の方は?」
「同じ留学生の流神 大和って言うんだ」
「そうでしたか」
「さっきの話も彼女ともう一人にもしておくよ」
「お願いしますね」
電話の内容を見るにどうやら早めに戻った方がいい。
「んじゃ自分は戻ろうかな」
「あそこまで同行しますよ」
「ありがとう」
二人で少し笑って、寮へと歩き出した。
寮母のマンチカンに話したら笑ってもらえるだろうか。少なくともトリニティ内では悪いようには言われてない。
「最初は警戒されると思っていたんですけど、中々話を聞いてもらえてホッとしています」
「いやあ、急に色々な人に話されるとパニックになるからなあ。そう言うのには慣れてる」
「色々なところを旅されたり?」
「そう言ったところかな」
あんまりベラベラ話しすぎると話してはいけないことも話してしまうだろう。
今回のスズミの突発的なイベントも、怪しまれないようにするためには必要なことだ。もし怒られたら素直に謝るが、変なことさえ言わなければあの二人も許してくれる、はず。
「トリニティはどうですか?初めはだいぶ感動するとは思いますけど」
「ゲヘナは全体的に黒くてディテールがシャープだから重厚感とそれから来る息苦しさはあるけど、トリニティは道を広めに取ってあるからか少し余裕がある貴族街という感じがする。事実、あの部屋から見下ろしたこの街は素晴らしいと思ってるよ」
「いいですよね、高台からこの街を見下ろすの」
「スズミも?」
「ええ」
生きている場所を実感している人間の言い草は重いものだな。
自分は電脳空間にいるが、やはり特定の場所を歩き回って楽しむことがほとんどだ。結局人間はどこかに安住を求めるのかもしれない。
「そういえば、一つお聞きしても?」
「なんだ?」
スズミはあまり表情を変えないが、質問が一つ。
「いえ、これはあまり留学生の方には関係ない?いや、配慮されてるとは思うことなんですけど。一応、どういう方が居るかは知ってますか?具体的には幹部とか」
「勿論」
なおそう言って、全部が全部理解できてるわけはない。
「ティーパーティがなんか三つぐらい派閥が分かれてて、その中で聖園ミカ、百合園セイア、えっとあとは……そう桐藤ナギサが居るっていう。救護騎士団は確かミネ?って人だったよな。シスターフッドは覚えてねえ、まあでも宗教にお世話になることはない方がいいからな。必要になったら自己紹介で覚えるさ」
「シスターフッドは今は特に何かしら大きい活動をしている、と言うわけでもありませんから。まあでも自信もって知りません!って言うのはやめた方がいいですよ」
「んだよなあ」
「あと……宗教にお世話になることはない方がいい、と言いましたね。何か?」
「持論だよ。あれは法律の原本であり、法律より優れていると言う話じゃない」
過去、宗教戦争ばかり繰り返しまともな会話の方法が銃口のイスラムという奴らの話を思い出す。他にも宗教観の違いでの戦争もあったし、人類に帰順しないルールというのは邪魔でしかないだろうというのが自分の考えでもあった。
法律の方が技術発展と共に変更したりできるから、原理主義というものが発生しにくい。そもそも原理主義者なんて"誰も見向きしていないようなもの"を声高に喋るしか個性得られないカスに合わせるようなことしても無駄だ。そうでもないと自分を保てない奴は、進化の途中で淘汰されるべきだ。
シスターフッドがそうである、という話ではないが。
自分たちが"人間の目指すべき時代"だったというのは肌で感じて確信している故の傲慢さだった、と心のどこかでは警鐘が鳴っている。
「まあ、そういう思想のもとそうなってるってだけだ」
頭を掻いて、あまりこっちも褒められたもんじゃないと少しばかり苦い顔で自戒する。
そんな話をしていると、寮の入り口までたどり着いた。早いものだ、前の庭にはいろんなやつが何かをやっている。持ち運びしたり。
「何か催しが?」
「俺も聞いてないな。なんだ」
「あ、いた!」
声がした方向を向く。
「寮母さん」
「探していたのよ〜!どっか遠いところに行って迷子になったのかと」
「スズミさんと一緒に近辺を歩き回っていただけですよ。ほら」
隣の少女の方を向くと、丁寧にお辞儀して二人で話す。
「あら!スズミさん、自警団の方にはいつもお世話になってます」
「いえいえこちらこそ。いつもご協力頂き感謝しています」
「今から留学生の歓迎会をするのですが一緒にどう?」
「お気持ちは嬉しいですがこの後も見回りがあるので」
「ああそうでしたね」
軽いクレープを手に、寮母はスズミに渡した。
「これ、私食べきれないでまるまる一個残ってたから歩きがてらどうぞ」
「ありがとうございます」
そろそろ別れか。
寮の方に立って、俺はスズミを見る。
「では、私はこれで。アレイシアさんも楽しんで」
「勿論!スズミも気をつけて」
「はい」
そうして、俺は彼女と別れた。
夕闇が染まりだす頃に消えていく彼女の姿は、とても凛々しい。
彼女が見えなくなった後、寮母のマンチカンの方を向く。
「よし、じゃあ俺も手伝います」
「ん?ちゃんと言ってない言葉があるでしょ?」
「ああ」
そうか、忘れていた。
しばらくはここが家になる以上、ちゃんと挨拶しないとな。
「ただいま」
「お帰りなさい。他の子達を手伝って頂戴」
「はい!」
俺は、皆の輪へと駆け出した。
《余談》
詰まるところ後書き。自分を曝け出す作品のため、あまり文体は気にしないものとする。そして不定期。
らんかんです。シャーレ前交番とか見てた人は、多分見覚えあると思います。
シャドバBグループグランプリ優勝して気分がいいのである。
そう、ここではある程度の余談というか、こういうthe中二病の夢的なのが一番描きたかったことなので少し裏設定的なのを話したいなと。
今回は主人公アレイシアが優勝した崩壊3rd OSGP、つまりこの時代での崩壊3rdの扱いについて語ろうか。
こういう作品を読んでる人の中には崩壊3rdが嫌いな奴が多いと思うんですけど(というかオタクがマウント取られるの嫌いな種族だし、それに加えて3rd自体が所謂"萌え"系のものであるから案外毛嫌いしてる人が多い印象)、この時代では今の日本での3rdの扱いより酷い状態になっています。
多分本編で話したと思いますが「そもそもストーリーで人気がないからOSGPでの難易度以外にあまり価値がない」状態です。
僕はつべの八重桜の広告見て始めた奴なので全然3rdに思い入れあるんですけど、一般的にホヨバが好きな人は原神から入った人が多いじゃないですか。
そう言う点がこの時代では色濃く評価されていて、彼の生きる西暦5000年では「ホヨバは原神が初ソシャゲで有名になってスターレイルやゼンゼロで評価貰ってる」くらい認識がねじ曲がってるんですね。fly me 2 the moonないし崩壊学園/3rdは初版同人扱いになってます。
なので、今の話でやっているブルアカのようにSGPする価値はほぼないですが、旧アジア圏のソシャゲで革新をもたらした会社の作品で、情報もある程度揃ったからと3rdは特別措置でOSGPになったのです。その他はそもそも情報が足りずにOSGP開催は不可。
ですが、そのままやってもすでに名のありストーリー的にも評価が高いスタレやソシャゲブームを起こした原神のような大会開催によるスポンサーの参入や経済効果は見込めない。なので昔の開催側は『過去最高難易度!』を銘打って3rdでの難易度をアホみたいに上げて開催。具体的には「能力の優先順位は持ち込んだキャラカードよりもすべて崩壊側を優先する」「純粋なゲームパラメータを相手の方はかなり上げる」と言うもの。
それがクソゲー的な面もありましたが、フルスペックカードを潤沢に持った強豪が我もと参加し、大ヒットしたおかげで3rdグランプリは「難易度が高いものをクリアした」という称号を得たいがためだけの人が入ってきて、それが続いて人気になったのです。
ただまあ、ストーリーは保管できてない部分が多い。
特に「第二次崩壊」、つまりはシーリン周りの過去編とかが実はまだ情報がサルベージできていない。結果、現実でプレイした時もあるように過去のことが分からないまま話が進んで……みたいなことが起きる。その理解ができなかった結果、下手なことして律者に駆られる。みたいな脱落が多いです。
どうしてそういう欠如が発生するかは、後々わかると思います。今はそう言うものがあると、理解してください。
と言うのが主人公アレイシアが参加した崩壊3rdOSGPの概要になります。
ちなみにそんなカス難易度なのでクリアも三人しかいません。一人が主人公アレイシア・ガレットピア、もう一人が前回優勝者の勝永レイジ。一番最初に優勝した人は……まあ、これも後々出てくるでしょう。
と言うお話でした。もしコメントをいただけるなら、これどうなのあれどうなの、みたいな話ももらえると嬉しいです。
では。