時が止まる。
静かに、炎の広がり、割れた向こうの時さえも止まって、叫んでた少女の声も氷で熱を奪われたコーヒーのように静まり返った。
ギーツバスターの刃が起き上がり、ガチ、という音を立てる。
《BLADE》
「はぁっ!」
そのまま振り上げる形で切る。
まるで指揮棒の指示のように、その斬撃は遠くの少女さえも切り裂いて、それ以外が己の存在と意味を思い出して戻っていく。
「きゃっ!?」
景色が普通になり、攻撃を喰らったのが最初の第一声、ブルートワルツは斬撃を喰らって吹っ飛んで、少し遠くに着地。
これで力の差を示した、あとは倒すだけ!
「はぁぁぁーっ!」
ブーストの加速機能で急いで接近し、そのまま剣で相手を突き飛ばす。
彼女の悲鳴さえ聞こえない風切り音と熱風が歪ませて、浮き上がった彼女に素早く接近して斬撃。
「がぐ」
叩き落とされたらその勢いで下の水道管がまた破裂して打ち上げられたのを何度も切り裂いて、特段強い一撃で彼女を切り飛ばした。
ものすごい勢いで奥の地面に激突して建物に突っ込むブルートワルツは、建物の時間を巻き戻して戦線復帰。だが、こちらの方が強制力が強いのか、血を流し、ドレスを赤く染めつつある。
「はぁ、か、はぁ……きゅひ」
血を吐き出し、それでも立ち上がってくる。
「まだ、まだだ……!ボクは……!」
彼女の顔には余裕はなし、声ばかりが敵意と憎悪に塗れて恐怖を出す。腹を抑えて出血を止めようとしてるが、そもそも散らばった血から見て普通に権能を使うほどの集中力が無くなってきてる。
だが例え、律者の力を全開にして最悪な自爆を企もうとも、手負いの獣がいかに恐ろしかろうと俺は止まらない。
俺の後ろにも前にも、俺を俺たらしめる”本物”がいるから。
「お前が壊そうとした世界は、俺が守り通す!」
《BOOST CHARGE》
ギーツバスターのチャージャーを引いて、エネルギーをチャージ。手のひらをそっと出して、出てきた円を刃でなぞって構える。
虹色の炎に、律者のパワーがあるせいか紫の風みたいなのを纏っていた。
流石にダメージを追いすぎたか、ブルートワルツは片膝をついたまま翅を伸ばして何十にも重ね、防壁を作り出す。
《BOOST TACTICAL VICTORY》
炎を纏った剣をストレートに投擲。
翅が壁であり、何枚も割れながらも結局俺のこのギーツが持ち合わせている力が強すぎたのかかなり奥深くまで刺さった。
「こいつで終わりだ!」
レバーを一回引いて、一瞬で近づく。
何度も何度も邪魔な翅を砕き、繭へと回帰せんとした蝶を勝利の為にと屠る狐。どちらが悪趣味かわかったものではない。
けれども、互いに自分の信じる者のために戦っているという自負があったその意思は伝わって本気の戦いをしていることだけは確かだった。
だから、ここで決着をつける!
《BOOST IX STRIKE》
翅を破砕し続けた先にある、ギーツバスターQB9。その持ち手を_____
思い切り蹴飛ばした。
「あが」
短い悲鳴が聞こえたあと、それを掻き消す様に砕け散るガラスの音が連鎖して、翅の欠片が雨となって降り注ぐ。身を翻し、蹴った足を元に戻して、そんなヒーローの姿を紫色の雨が彩るようだ。
ブルートワルツの声は聞こえない。
彼女の声が響く前に、刺さった剣を中心に九つの柱が出てきて、それが回転して彼女を包み込む。
手を伸ばし、微かな声も聞こえているがもう遅い。
一切繭の様な質感もなく、青い炎が焼いては重い音と共にブラックホールが現れて、一瞬で彼女を連れ去った。
「……俺の勝ち、だな」
_____静寂と、それに似つかわしくは無い煌びやかな光が周囲を包む。
勝利の余韻はいつも、なぜか清々しい静寂によって確立されている気がする。彼女と戦ったあの時も、何故だか勝った時には静かだった気がした。宇宙で散ったヒュッケバインを、マイフリのコクピットで見届けた時もそうだった気がする。
尤もここで倒せたとしても彼女が死んだわけじゃ無い。また何処かで戦う予感を感じずにはいられなかったが、ともかくブルートワルツが起こそうとした世界改変の危機は去った。
ブルーアーカイブのエデン条約の話はもう少しだけ続くのだろう……いや、もっとか?結局ベアトリーチェは見つかってないのだし、なんだったらアリウスはアツコが見つかってない今、
俺を見れば同じ様に怖がって攻撃してくる奴もいるだろうが、それはもう口でどうにか説明して納得してもらおう。
「ん?」
余韻に酔いかけたその時に、地面に何かが落ちる音がした。
周辺を能力で調査してみたがそもそも人どころか有機物すらいない様で、変身を解除して落ちた場所を見てみることに。
音がした場所には、カードが落ちている。
拾ってみれば、三枚のカード。
ノーマルのゼロノス、ミューテーションカードのデータドレイン……そして、フルスペックの終焉の律者。キアナが映ってた。
「……流石にすぐには起きないか。というか、起きたら困ったりするな」
昼の光が包み込む広場_____
がた、と音がする。
「なんだ?」
振り返る。
破裂した水道管の10mくらい離れた、廃車が積まれてしまってるところに、人がいる。
「大丈夫か」
大怪我をしている様子はないから最悪反撃される可能性はあるが、まだ地獄への回数券の効果は切れてない。だから避けれると信じて、少なくともプレイヤーらしき人間に近寄る。
黒いスーツに白い外套、黒い長髪にサンバイザー……白い肌で、日本人らしい肌。
「おい」
肩を揺らしながら、そのまま顔を覗く。
体格は男であり、美形であると言えるほどの綺麗な顔立ち。目の色は海のような青をしていて……。
「こ、こは?」
「ゲヘナのなんてことない街の一角さ。ブルートワルツと戦ったのか?無理させた」
「ブルートワルツ……?何の話だ、全く……」
「記憶が混濁しているのか……わかった!出来る限り素早く医者を呼んでくる!それまで待てるな?」
急ぎ誰かを呼ぼうとするが、手を掴まれる。弱々しい。
「オレのダメージは別に大したもんじゃねえ……気にすんな」
「そう言ってもお前このままじゃゲームオーバーになるんじゃ」
「上を、見てみろ」
少しずつ意識がはっきりしてきた人間が上を指差してきて、俺はそこに視線を向ける。
「は?」
すぐに、あっけない声が漏れた気がした。
《プレイヤーネーム:勝永 レイジ》
《所持カード:終焉の律者(現在は停止中)、シャンティエン、ラヴィエンテ猛狂期、スラッシュアックスF、スラッシュアックス(XX)、マルクト(デカグラマトン)》
《履歴:崩壊3rd 8thOSGP優勝、Blue Archive 710thOSGP-EX優勝、Monster Hunter Frontier 1st OSGP-EX 優勝》
《状態:脳震盪、致命傷なし》
勝永 レイジ。
俺の先駆者にあたる人間で、MHFのOSGPを盛り上げた凄腕ハンターだ。
しかし、俺が生まれる前の時点ですでにログアウトしていて、しかも終焉の律者は誰にも渡らないようロックまで掛けていた。だからこのグランプリにいること自体がおかしいと言っていい。
「嘘だろ……おいなんでこの大会にいる?」
「てめえがぶちのめした女に
「よくそれで精神終わらなかったな……」
「あのお転婆は結構精神が気丈な方だったらしい、ま、一番喜んでるのはあいつかもな。これからお姫様を探す旅ができるってもんさ」
元気よりのクールな関智一ボイスが、彼の口から発せられる。
「で、お前は?」
「ああ、俺?俺はアレイシア・ガレットピア、因縁をつけるような言い方で申し訳ないがお前の後輩だ」
自分の経歴を見せる。
彼の2000年後に同じ大会で優勝した、そういう人間であることは伝わったらしい。
「そうか、お前が……9回目は?」
「残念ながらノーコンテストだ」
「へっ、残念だなそりゃ」
思ったよりレイジの笑いは、爽快に聞こえる。
黒煙がまだ少しだけ上がるが、それすらも光を反射するように幻想的な場所。
サイレンの音はまだ遠い。
「あ、そうだ。オレが無くしたカードは?」
「律者のやつだけなら」
「持っとくか?あいつから取り返したなら、きっとそれが運命なんだろう。3回目なら……起源か?」
静かに頷くと、相手から押し付けるように持ったカードの手を胸に突きつけられた。
「じゃ、それはくれてやる。ただまあ、オレ達の世界に帰った後でな」
「聞いたら怒りそうだな」
「そりゃそう。まあ、許してくれんだろ」
まだキアナは目覚めないようだが、とりあえずは戦地から離れることにしよう。目の前の男の手を引いて立たせて、周辺を見渡す。
「歩けるか?」
「舐めんなよ、オレは元気だぜ」
「ならいい」
軽口を叩ける余裕と、外套に手を突っ込みながら若干猫背で歩き続けるレイジの姿はなんとなくではあるが男としてかっこいいと思わせる不思議な魅力を持っていた。
「オレさ、鋼鉄大陸ぐらいしかこの世界を歩いたことないんだけど空にある線って意味あるのか気になってんだよな」
ブルーアーカイブ特有の青空を指差す男の姿だが、正直俺も知らない。
「分からねえな……俺ここに来たの初めてなんだ」
「じゃ分かりっこねえか。あはは」
「ははは」
心のどこかでカスみてえな会話だな!って思いながらもやっぱり面白くて笑ってしまう。
男二人、いや、声的には一人?の笑い声がこだまするゲヘナの街。周辺には、驚くくらいに人はいない。
「いやあ、歩くだけでこんなに笑ったのっていつぶりだろうか」
「お前の人生知らねえから答えられねえな」
「何年だと思う?」
「エレクワールド換算で17か?」
「ピンポーン!大正解!」
嬉しそうにガッツポーズしている彼が、ちょっと面白い。
さて、そんな話をしていると、前から車がやってくる。
「おーい!アレイ!」
「アイアン!」
いつものメンバーが、声を出してやってきた。
大きな護送車に乗って。