「ん?その人は?」
「ああ、プレイヤーだよ。一緒に乗せてってもらえないか?カードはない」
「なんかノクスみたいな……いいよ」
「サンキュー」
俺とレイジは飛び乗って、そのまま車は発進した。運転手はベロニカで、助手席にはアイアンがいるらしい。
走り出してどのくらいで着く?というのを聞くと、被害が甚大で戦っている場所を避けながら、なので最悪1時間近く掛かると聞いた。が、それ以上に大和から言葉が暫く出ない。
「……その、なんだろうね、アレイ」
「なんだ」
「ごめん、何から話を聞けばいいか分からなくなって……」
大和には困惑の色が見えていた。
プレイヤーを乗せてる時点で隣の男のことについては簡単に調べてはいたのだろう。俺との関わりも察しているからか、彼女が妙に掛ける言葉を見失っている様子。
その原因が、元気な声を上げた。
「こんな時には『アレイ!帰ってきたんだね!心配したんだからバカバカ』みたいにメロついてみるのもありなんじゃないか」
「それで堕ちるタイプだったら計画が破綻してたからなぁ」
「なんだお前、俺がホモだと言いたいのか」
「ホモだったらこんなところきてないでしょ」
「そうだな」
はあ、なんか妙に気疲れした。
「いや、まあ、そうだな。大和……えっと、ただいま?」
さっきの後でこんなことをいうのは少しばかり恥ずかしいから、頬を掻いて誤魔化す様に言ってみる。
「……おかえり」
その恥ずかしさだけは伝わったのだが、それよりも少しばかり笑って迎えてくれた彼女に救われた。
端っこにいるアシェイラは外の様子を注視してて、正直話には入ってこなさそうだ。
「実は私、君が最悪帰って来ないんじゃって思ってて、心配してたんだよ。今回の件は単純じゃない、君がここで死んだら最悪ゲームオーバーじゃなくてログアウトになる。そういう所に一人で行かせたの、凄い後悔してたんだ」
「言ったろ帰ってくるって。そんな簡単にくたばったりしない」
「でも、信じてた。帰ってくるって」
「じゃ、いつかお前を見送る時も俺信じないとな!」
「えへ」
これで一旦は安心しただろう大和。彼女が安心してたらこちらも安堵する、結局この世界は俺視点彼女のナビゲートありき。そのナビゲートの不安の種が少しでも取り除くのが俺の仕事でもある。
さて、そんな彼女はもう一人に目を向けた。
「じゃ、そろそろこの人に話を聞かないとね……レイジさん?」
「レイジでいい」
「でも貴方はF民の象徴かつあの大会の二人目の優勝者。相応の経緯は払わないと不機嫌になるんじゃないかと」
「だったらアレイにも同じ様に接してやれ。オレ以上に功績がない」
なってめえ!
怒りかけたが身体が思ったように動かなかったせいで、ビクッとなって終わってしまった。情けない。
「んーとわかった。じゃあレイジ……えっとね、まずなんでブルートワルツに捕まってたの?」
「ああ、まあそこからだな」
レイジの席をする声が聞こえて、その二拍後に話し始める。
「オレがブルートワルツに捕まったのは3rdグランプリからOSGP-EXのデカグラマトン編終わらせてえっと……そう、小さなポケモンカップに出た時のことだ。その時はSGPで、確かカントー編だったんだよ。すげえクラシックな大会でさ」
その時ですらポケモンは大古参と言ってもいい作品、しかもSGPなんてとんでもなく彼の功績からは考えられないものだ。
「あまりに厳格な規定があった大会だったからさ、みんな驚いてたのを覚えてるな。だけど、なんだっけ?あの、タマムシだっけ?ほら、エリカの」
「タマムシだね」
「そこで戦おうとした時に、その、エリカが死んでて」
「……は?」
大和の素っ頓狂な声。
「殺されたところを見てねえから正直なんとも言えないんだが。でもそうだったんだよ、あいつの立ってるべき場所に墓立ってて、は?ってなった時に黒い髪の女とぶち当たってよ」
「待て待て待て!ポケモンで墓をそんな簡単に立てられても困るだろ!」
「だからオレだって困ってんの。で話続けると、オレそいつに出されたポケモンが……なんか、ゴーストだったんだよ。名前が」
「……はあ?」
名前が、ということは見た目が違うということか。
「で、そいつと戦おうとするとオレの手持ち全部行動不能のままになって、そのまま死んで……俺もそのうちに飲み込まれた。不思議な体験だったが、少なくともその状態でオレは意識を失った」
「そっからのことは覚えてないのか?」
一応、彼がどう言うふうに生を終えたかを説明してみる。ポケモンの大会は参加していたと聞いたが特にこちらでは何の問題もなく帰ってきて、そのまま数十年暴れた後にログアウト宣言して見送られていったこと。
だけれども彼はそのことを一切覚えてないと言った。
「その後、オレが目を覚ました時には白い空間にいた。キアナもな」
「やっぱり彼女の狙いは終焉の律者だったわけ?」
「十中八九そうだろうな。キャラが自立してるで驚いてたし、実際最初は彼女との仲はそこまで良くはなかったが……色んな話をしてみたり、たまに世界をこじ開けようと頑張ったらなんかご飯が出てきたから一緒に食べたり……で、試行錯誤していたら2000年経っちまったって言うわけさ。その間、権能で何かをする時には彼女は苦しんでたし」
思い起こしてみると気が滅入りそうな話だ、彼女の苦労が偲ばれる。
「でもま、声が声で少し救われた。どうやら性格も声もあいつのパピーに似てるって言うもんだから、少しは精神の支えになったっぽくてな」
「ジークフリートか」
「そうそう。まあそんなわけで、しばらく真っ白い空間でうろちょろしてたら漸く景色が見えてきた」
「どんな?」
レイジが指さしたのは俺。
「お前とアツコが戦った直後からだ。あの時に赤い焔が飛び込んできて空間が割れた結果、行き来までは出来ないにしろ状況が見えるようになったんだ」
「ブーストマーク2の……」
「マジでびっくりした。時空を歪ませるほどのパワーでそのまま突っ込むなんて誰も想像しなかったからな。というわけで頑張れば干渉出来そうと頑張ったんだが……」
「ダメだったんだな?」
サンバイザーが縦に揺れて、情けなさそうに頷いてる。
「どう足掻いてもカードから自力で出る術がなかった。その結果、お前とブルートワルツのあの広場で対峙するのを見届けることになったのさ。創世の律者だ!っつってた時よ、あのお転婆腹抱えて笑ってたぞ」
「若干俺も恥ずかしかったけど……まあでも、そうなると結構応援に熱中してたんじゃないか。一応芽衣の力も借りてた訳だし」
「そりゃもう!めちゃくちゃ大声出して権能でなんかメガホン出して振ってたぞ!」
「野球観戦じゃないんだから……」
大和の呆れた声が横からするし、俺も自分の顔が苦笑いしてたのを知覚した。
「でもそれくらい希望だったんだろう。少なくとも力やオレがいて、だから力を持っているプレイヤーが自分達の宿主を倒すために動いてたのを見るに、お前が味方だったのは理屈に裏付けられて直感で理解した。いやそれにしても驚いたのお転婆の嗅覚でさ、なんつっても『あいつの力に芽衣先輩がいる!』って叫んでえっ!?って思ってお前覗いたら確かに見たことある雷がベルトから漏れてた」
「あっそんなに見たことある感じだった?」
「唯一不満を漏らしてたのは『あいついい気になって芽衣先輩の声パクってるし、そんなことしても私のだからねっ!』って」
「それはまあ起きたら謝っとくよ。俺には俺の事情があった、大会を勝ってしまった勝者特有のな」
勝者は弱者のカモになるのは常で、それに逆らえば力以外の全てを失う。社会というのは己の強弱のコントロールを操り、またその動作を簡略化させる為に社会を突き崩す必要もあるという救いようのない集合体だ。
自分があの大会の優勝者です!というのを宣伝する為にいかに色んなものを踏み躙ったかを考えると、齢17にして振り返りたくない傷とも言えるかもしれない。
「でもまあそのおかげで勝ったし……ま流石に勝った後はもう起きてからだしな。そうだろ?」
「若干時間があったとはいえ概ねその通りだ。あのお転婆勝利に喜んでたし、ようやく会えるとも言ってたな。ただまあ、彼女は彼女で懸念があったんだが」
「何か?」
「自分と同じ外に突き飛ばされた先輩の精神状態さ。ま、お前を見る限り最低にはなって無さそうだけどな!」
「案外芽衣は気丈なんだ。そうそう、彼女のカレーめちゃくちゃ美味しかったんだ。英寿のやつと一緒に食べた」
会話に花を咲かせていると、車が急に止まる。
「うおっと」
「なんだ?」
二人して護送車の隙間から外を見てみる。
車はゲヘナの正門前。この前の戦いの傷は思いの外癒えているものだが、それよりも大変なのが今の状況。
横の道から入ってきたが、門の真正面の向こうから様々な少女達が押し寄せてくるのが見える。
「えっ……?どうして!」
「待ちな嬢ちゃん!」
レイジが飛び出しそうになってた大和の肩を掴んで戻す。
「どうしたんだ」
「今やってきてる子達の中にアリウスどころかトリニティもいる!おそらくパテル派やゲヘナを快く思わない貴族連合だと思う!」
「あ〜〜〜……えっとそれはなんだ?混乱に乗じてってやつか」
「多分!」
流石に止めないとまずいか。
今回のクリア条件は敵陣を葬り去ることではなくベアトリーチェの撃破、ゲヘナも先生を自分達の陣営に引き込めば後は同様。アリウスは両陣営の壊滅だがもうプレイヤーはいない。
つまり普通にトリニティ陣営の生き残りの仕業か、それともゲヘナ陣営の誰かが仕掛けた罠か。
どちらにしろ、ここで両方に渋い顔見せとかないと全面戦争になって落ち着く暇もなくなる。
「よし、普通に戦おう」
「そうだな、やっちまうか!」
「お前カードないだろ」
あっそうじゃん!というバカだが、正直熟練プレイヤーの手は借りたい。
急いで降りると、ベロニカもアイアンも共にいた。
「よっ」
「無事だったんだな、嬉しいぞ」
「貴様の心配はしてないが、まあ小生も嬉しく思ってる」
「素直じゃないやつ」
プレイヤー勢揃い!と言ったところで、群れの先端が声の届く距離まで来た。
もう一回、戦いの火蓋が切られるだろう。