『アレイシア!』
「無事だ」
芽衣の声に反応し痛みも引いて、立ち上がる。
長いことは使ってられないだろうが、逆を言えば長引かせないほどの威力があるから体を蝕むんだ。
「レイジ!お前も手伝うんだ!」
「へっ、最初からそのつもりだ。ここまで来たんだ、ロックしてないなら呼び出せる!」
「来い、デカグラマトン!」
声を出すと同時に、下から白い光が飛んでレイジに集まっては変容させる。
白い髪に、白い肌、オレンジ色の目にヘイロー。
マルクトという画材の上に顕現したデカグラマトンという存在が、そこにいた。
「今だけはお前を騙って、お前が守ろうとした世界を共に救う!」
叫びと同時にレイジが立っていた床から、鉄で出来た帯が展開。綺麗かつ精巧に出来た機械のヘイローは、SFチックな煌めき方をして、その上で強力な熱波のようなものを感じる。
「繭に構えろ!オレがあいつを引き剥がす!」
大声が響くと同時に、眼が無数に在る鋭い影がコールタールの雨になって降り注ぐ。
その光景を、少なくとも俺は知っている。だが、いくらテクスチャという形で世界をいじれるからって無茶苦茶だ!
「
あいつイカれてやがる!
デカグラマトンのテクスチャいじりを使って
霊子のようなものはないのに五芒星を書き上げて、データ空間に飛ばすとそこから筆のようなものがレイジのところに飛んでいく。
「塗り替えよう、お前を!今のお前は
「はぁ!?」
それでも、言葉通りに繭は変異。アツコを飲み込んでは、霊王のように変わってしまった。
「さあ、お前の出番だアレイシア!」
困惑が隠せてない俺が見えてしまっているのか、怒号が飛んでくる。
「ぼさっとするな!今のお前は
「なんでだよ!?」
「オレ達が崩壊である限り、崩壊3rdは終わらない!ブルーアーカイブも、ねじ曲がった
「だから
そうか!ようやく分かった!
こいつが黒棺を唱えていたのも、わざわざデータ空間に飛んでユーハバッハになった上で和尚の武器を使ったのも!
俺という人間の手の中には終焉と起源がある。
認識を変えよう。
そしてここはブルアカだ。今そこに、ユーハバッハを名乗ったデカグラマトンがいる!
「世界をぶっ壊す力を!レイジ、俺に生徒属性をよこせ!」
「おう!」
アツィルトの帯から光が飛んで、俺を包む。
この世界に踏み込んだ時の違和感が、体に生まれる。体が少女になるが_______
これでいい!
カードを二枚腕輪がある手で持ち構え、叫ぼう。今の俺を!
「アズライール!」
死の天使、神の
『えっ……なんで、私の鍵が!』
『どうしたの!?』
『あれ!』
始まりと終わりの女神が騒ぎ立てるは俺の刀。
ずっと見ていた浄罪七雷、芽衣が持っていた神の鍵が俺の手にあり、それが変質していることを。
斬月のように変質しつつも、その光は青白く、頭身は黒く、鞘も鍔も柄もない、鋭い部分が在る鉄塊。
「偽解!」
一気に青白い光と、紫電を走らせ、その熱がまだ宙を舞っていた瓦礫を溶かして燃やす。
持ち手代わりの部分を握り、振り上げた。
「行けぇッ!アレイシアーッ!」
そして、エネルギーを抑える気もない暴力的な鉄塊を______
世界の中心を気取る結晶へと叩き落とす!
「うおらああああああああアアアアアアアアアアアアーッ!」
______青き福音書に生まれてしまった霊王を、包む繭は砕ける。
それはブルーアーカイブの姿ではない、天使達が視覚出来ない色彩で書き上げられたシナリオにはないものだから。
それは崩壊3rdの姿でもない、この改変がずっと続くなら終焉という世界の中心を壊すことを許されないから。
ましてや、BLEACHでもない。
「砕けた!レイジ、アツコを!」
「ああ!」
レイジはアツィルトの帯を起動し直し、ユーハバッハを剥がして叫ぶ。
「お前を再定義しよう!」
帯から流れ出す光が、砕けた繭の煌めく欠片の中にいるアツコを絡め取ってレイジの元へと引っ張った。
「さあ、戻って来いアツコ!もう一度青春を!」
身体の傷も、終焉への接続された糸さえも無く、ただ純粋にいつも通りだと思われる彼女がゆっくりとデカグラマトンへと近づいていく。
アツコを抱えたら、レイジは叫ぶ。
「こっちは回収した!いけえっ!」
これで最後だ!
「データドレイン!」
空中に浮かんでいる終焉の残滓に手を伸ばした瞬間。
身体が浮き上がって、腕輪が展開してクローのようなものが花弁の如く広がる。
「はぁっ!」
叫ぶと、腕輪より無数の弾丸が射出。
かけらに一切のブレなく突撃し、貫いて、砕き、テクスチャさえも古くして、銃弾のソニックブームで腕輪の内側へと集めていく。
前屈みになる形で、展開し続けるデータドレインを制御。
終焉の力を壊して回収すると、上から声がする。
「捕まってろ!」
「ああ!」
瓦礫で掴める場所を掴んで、待つ。
上に飛ばされる感覚と共に、データ空間の中から瓦礫が再生されては逆行するように戻っていく。
急速にデータが流れる空間を遡る時、なんとなくブルートワルツの顔が浮かんだ。
(この期に及んであいつの顔を思い出して馳せてしまうのは、俺の弱いところだな……)
だが、そんな事を考えているうちに、景色は一気に変わる。
壊れた瓦礫が急速再生し、上に引き上げられてくっついてく。
それが終わる頃には掴んでいた瓦礫を手放して、床は完全修復。
天井さえも普通に直っていて、空から優雅に着地するマルクトの形をしたレイジ。
ブルーアーカイブの世界に、俺たちは戻ってきた。
________綺麗な大聖堂だ。
ステンドグラスは一切の妥協を許さない荘厳さを兼ね備え、そして彩りまで担っている。丁寧に敷かれたレッドカーペットは、神に仕う者を一切の例外なく品格を与えんが為に光を反射した。
「……ふぅ、漸くだぜ」
姿を元に戻したレイジ、サンバイザーに太陽の光が当たって少し反射している。黒い長髪は、正実のモブを思い出させるような。
俺の身体も元に戻っているし、外の方からは争っている音もしない。
「おーい」
「ん?」
レイジが近寄ってきたのを見るが、特に何か問題があるわけでもないらしい。
「大丈夫か?」
「お陰様でな。そっちこそ」
「安心しろって。先輩だぜ?オレは」
「なら良い」
少し疲れてしまったので、無礼を承知で床に座り込んでから転がる。
「アツコはどうだ?」
「しばらくしたら普通に起きるだろ、怪我も最大限取っ払った」
「心優しい事だな」
『……終焉を壊して、乗り越えるなんてね』
『芽衣先輩?』
『ううん、気にしないで』
地面でカードのまま踊っている二人。
そんな二人は気にせずに、俺らは俺らで話している。
「なあ、アレイ」
「なんだよ」
「世界を救ったんだぜ、もっとこう胸を張って自慢しようじゃねえか」
「______」
素直に答えると釣れねえやつ、なんて首を振りながら呆れてた。
「終焉をぶっ壊して世界に平和を取り戻すなんてなあ……まさしく三つ目のエンディングじゃないか?」
「俺たちは繭を作り出す側で、一人が作ったのを二人で壊した。間違っても世界を救ったとは思えないな」
「自戒か?」
「事実だ。どれだけ目の前の人間が本気で生きていると分かっていても、立場がそうなる」
上体を起こして、片膝を立てて前を見た。
荘厳華麗で非の打ち所がない聖書のエントランスは、綺麗だと思ってもやはり何かが足りない。俺のドーパミンは、こんな景色では出ようもないのか。
「つまらない人間だな、と思うさ」
「それは違うぜ、アレイ」
目の前に差し出された手。その奥ではカードが跳ねている。
「レイジ」
「つまらない奴は、熱が無いんだ。世界が救われた事は結果で、それそのものには冷淡である事はある意味正しい。だが、
レイジにしては珍しく、爽やかな笑みを浮かべてる。クールな側面が、長い黒髪をヴェールにして表情に深みを出していた。
「結局“世界”や“次元”で場所を区切っちまうような人間は、それより細分化された基準を持たない。興味があるからこそ人は細かく分別するんだ……そういうのを知っていて尚、なぜか世界で区切るお前が珍しいだけだ」
「そういうもんなのかな」
「そうさ。でも、オレがそう感じたのは世界や誰かを救うくらい、そしてその力で本気でぶつかるくらいしないと滅茶苦茶な世界を感じれないお前を見たからだよ。お前は面白いし良いやつだ、それが全てだ」
「……ありがとう」
差し出された手を取り、立ち上がる。カードも拾って、レイジを見た。
「ブルートワルツの件で残念に思うところはあるだろうが、まあ一回はみんなが居る場所へ戻ろうぜ。元気な姿見せねえと、な」
レイジはアツコを抱え、そのまま一緒に歩き出す。
確かに、俺はブルートワルツに何かを求めていたのかもしれない。
恋心?それともライバル心?どっちにしても碌なものでもなかったが、それでもきっと大事なものだったはずだ。
あっという間に扉の前に来て、そこから大聖堂を出る。
「アレイシアー!」
「アレイー!」
みんなが叫ぶ声がした。
全員、普通の姿で手を振っている。それでも何故か、人が少ない。
「あれ?リキッドとかマダムヘルタは?」
「ほら」
駆け寄ってきた大和が、カードを差し出す。
そうか、データドレインで変質した世界のコントロールをぶっ壊したから維持出来なくなったのか。
「あれ?生徒は?」
「今色々対応で走り回ってるよ。でも、私達はブルアカのキャラじゃないからね」
「そうだぞ、アレイシア」
「アイアン」
俺と最初から最後まで仲間だったメンバーが、集まってきた。
「ま、長話はあそこでしよっか」
大和が指差す方向に、プレイヤーは集まる。
大聖堂の噴水、大広場の端っこにある庭園。
ベンチを独占するべく、皆で駆け出した。