Never Says「Good by…」   作:らんかん

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故郷の味は一人との思い出

 どこへ行こうか悩んでいる。

 

 中央区には綺麗な建物とその中の市役所ぐらいしかない。

 

 そこからエンタメロビーに行くか、別の区画に行けば一瞬で増えるだろうが、正直に言うと騒ぐのも静かに過ごすのも微妙。

 

 興奮冷めやらぬ。

 

「_____」

 

 そんな俺に、メッセージが飛んできた。

 

《おかえり、アレイ。折角ならアテクシの店に顔を出しなさい♡》

 

 _____今他にやることないしな。久々に顔を出すか?

 

「じゃあ今から行くよ。お題はツケで」

 

 テレポート用のウィンドウを出して、えっと。

 

「あ、えっと____これだこれ」

 

 バー【小夜啼鳥】だな、ワープポイント。それを押して飛ぼう。

 

 一瞬で自分を起点に景色が変わり、やってきたのは中華的かつ水が流れる壁があるバー。あっちこっちには仕切りもあるし中心ではパフォーマンスも兼ねた調理台もある。

 

「こっちよ!」

「ああ」

 

 声がする方向、もう一個壁際のカウンター席がある場所。

 

 そこに寄れば甘い香り。

 

「こっちよ、アテクシはここにしかいないもの」

「分かってるよ」

 

 カウンターに座り、まっすぐ奥を見つめる。

 

 黒のベースに金色の線で風景が書かれている重めの和服、黒い長髪に金色のかんざし。

 

「久しぶり、カミツナギ」

「ええ、久しぶりね」

 

 ここの領域を統べる主人への挨拶は少しばかり緊張するな。

 

「もー本当に久しぶりね〜〜〜、でもやっぱ変わってしまってアテクシさみしい……だって、あんなクールでダーティーな雰囲気のアレイが一番好きなんだもの。どうしてそうなってしまったの?」

「仕方ないだろ、あの大会以降金持ってる奴らに振り回されっぱなしだったから。かつてのメディアと違って完全中立な存在がいて尚、メディアの形態を存続させれてるほどのマジな奴らしかいないんだ。長いものに巻かれるのは仕方ないだろ」

「量産型みたいな見た目は好きじゃないわぁ」

「あれも十分量産型だったろ!」

 

 とりあえずお冷を取って飲み、少しばかり言い返す。

 

 あの時の俺の見た目はまさしく"派手じゃない系のイケメン"そのものだった。茶髪の少しばかりウルフカットで、フランクなシャツとジーンズと……いや今も変わらない!

 

「でもちゃんと骨格も声も男してたのに……ざぁんねん」

「んまあそれは置いとこう。折角顔出せって言ってくれたしな、舌鼓も打っとくか」

「今度はアレイの手料理を食べさせて貰いたいわあ」

「それは本当に今度な」

 

 帰ってきてからもしばらくは賑やかになりそうだな。

 

 とりあえず待つしか無いし、お酒でも貰うか。頼んだら熱燗が出てきた。

 

「ありがとう」

「そういえばアレイの土産話を聞きたい思ってるのよ〜、どう?」

「どう?ってまあそうか、運営してたらこっちの活躍見る暇ないもんな」

「一応仕事中にお客と一緒に見とったけどまあ大変だったっぽいもの〜。で、どうなのよ」

 

 とりあえず全部話すか、そこからピックアップしてもらおう。

 

 ブルーアーカイブグランプリのプロとその信頼できる仲間である流神 大和とアイアンランド・プレイスと共に攻略に乗り出したこと、夜中にアリウスの襲撃があってそれ対応してたらそこから全て狂い出したこと、なんだかんだ対応してを繰り返してたら自律したリキッド・スネークにCQCだけで完敗したこと、人質に取られたがブルートワルツが何かしら因縁を持っていたのを含めて対応するべく協力したこと_____

 

「へえ、あの“唯一のゼッツ”の仲間も?」

「唯一のゼッツ?」

「知らないの?ジャック・ユウグレ」

 

 あの男か、聞いたことはある。

 

 ピノコニーグランプリ・オンパロスグランプリの優勝者だ。

 

「グランプリが開催されてないけれども紛れもなく仮面ライダーだ、って事で仮面ライダーゼッツとしてジャックちゃんがいたの」

「知り合いだったのか」

「まあねえ。それでも急に行方不明になったから」

「……それについても関係ありそうな話も、あったんだ」

 

 カミツナギの口を押さえてあら、という表情。美しいものだ、とはだけた着物の露出した谷間に視線を吸い込まれつつ話を続ける。

 

 ブルートワルツがベアトリーチェの接触する色彩を終焉の繭という高次元用の文明選別システムによって世界を弄ろうとしていた事、それを先んじて知っていたアツコと一枚噛んで終焉の力を手にしてアツコ自体は繭そのものになった事、一度激突して相打ちしたが自律した雷電芽衣と浮世英寿に会ってから相談して対終焉用の装備を使い2回目で勝ったこと。

 

 そしてその時にかの勝永レイジに出会ったこと。

 

「……え!?レイジさんが!?」

「そうそう。カミツナギが子供の頃憧れていた王子様が、なんとそのブルートワルツに捕えられてたんだ」

 

《大変です!OSGPが始まって以降未曾有の大事件が発生しました!崩壊3rd8thグランプリを始めとしたOSGP-EX優勝を続けた最強のF民が、何とグランプリの途中に発見されて帰ってきたでは無いですか!勝永レイジの帰還だァァァーッ!》

《あ、ああどうも。いつの間にか死人扱いされていたレイジだ。あまりここでは話せる事がない。俺の件も含めてOSGP大会運営の公式見解を待ってくれ。今回は南区をろくに対策せずうろついていたから答えたが、しばらくマスコミのことは相互で見れないようにする予定だ》

《ああいえ、此方こそ急に押しかけてすみません。分かりました、公式の方の声明に注目せよとのことですね》

 

「ほら」

「ああ……王子様に出会えるのね……」

 

 何だか嬉しそうな顔をしている。

 

 いいなあ、結局俺にいい顔する割には本当に好きな奴相手だと隠さないんだから……あれ、普通に妬いてきたな。でもいいか、心の中に留めておけるくらいだし、そう言った個人のやり取りの差が人生なんだろうし。

 

「彼を救ったのがアレイだったのね。アテクシ、ちょっと感動したわ。二人の英雄を見れるなんて」

「俺は違うさ」

「え……?」

「助け出して以降は、ずっと助けられてたよ」

 

 結局アツコの救い方をずっと悩んでいた俺と比べて、あいつはすぐに理解して当てはめるとんちの利かせ方がうまかった。それがあいつとの決定的な差であり、実力を感じさせる。

 

 結局運や風向きで勝っただけの俺とは大違いだ。

 

「でも、それは助け出せないと」

「どうだろ。俺が出来る限り暴れた後で届かないところを誰かがやればいいから、大和とかなら……いたっ」

 

 頬をつねられた痛みで声が出た。

 

「アテクシの気分を損ねないで。途中まで全部一人でたどり着いたならそれだけで大金星なのよ、どれだけ本気で褒めてるし好きかも分かってるでしょう?アレイもアテクシにとっては“王子様”なのよ」

「だけど」

 

 酒も入って、少しばかり気が緩んだ俺は一瞬だけ目を覚ますことに。

 

 カウンターから手が伸びて、肌は影を帯びてエロティシズムを強め、谷間は深く広がり、俺の顎は指で傾けられてはお猪口の一杯を注がれては彼女の口で封じられた。

 

 互いの口を橋渡しするように舌が絡んで、甘さと酒の辛さが混じって酩酊。ぼうっとする俺にさらに追い打ちをかけるようなディープキスが、頭を狂わせる。

 

 ああ、彼女に手を伸ばして抱きしめて密着したままこうしたい。だけどそうしたら、俺は多分俺じゃなくなる。誰か一人に溺れることを覚えたら、俺は、俺は_____

 

「これでいいでしょ?」

「あ、ああ」

 

 どうもできない間に自分と相手の唇は離れて、呆然とするしかなくなった自分だけが取り残される。

 

「あまりね、自分のことを卑下しすぎないのよ。アテクシはアレイの実力をちゃんとわかっているもの。あのゲームはね、本当に最後まで生き延びていたやつが勝ちだから」

「……」

 

 熱と香りとアルコールで酔ってろくに返事ができないが、頷いて話は聞いているとは返す。

 

「それに、今回は本当に危険なところに行って帰ってきた。英雄が胸張ってないと、みんなが不安になるのよ。アテクシの前くらいならいつもみたいに冷めててもいいけど……でも、みんなの前では笑って」

「カミツナギ」

「このままだとずっと、悲しい顔のままじゃないの」

 

 彼女の表情が少しばかり悲哀を帯びる。

 

 俺自身は別に何か特別なものを持ってない。どんな偉業を成し遂げようが結局"文字通り他人の人生を振り回して"勝ってるにすぎないんだ。OSGPだって、結局のところ他よりも刺激があるからの惰性で受け身なせいで心の底から楽しんでいる気はしない。

 

 いつもそうだ。俺自身は何かに熱中しないから、何かに狂わされることもない。自分という海ではなく、ただ波がたたない水の塊が自分で。自分じゃない上で自分のことを知って依存させてくる何かに熱をあげてひたすら犯して人生を満喫している連中みたいになれない俺自身が、何故だか許せなくって。

 

 だけど結局最初のスタート地点がこれなものだから、ちゃんと熱中してSGPを頑張っている大和やアイアン達をずっと見ているのが耐えられなくて。原作キャラとちゃんと関わって攻略法を探ってるなんて言い換えれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と一緒だ。

 

 そうじゃないか、熱中できないなら"ただめんどくさいこと"なんてやりたくない。やりたく無いことをずっとやるにはそれに必要性を感じるほどの何かに熱中してないといけない。勝負事なら負けた後のリカバリーとか。

 

 何にも熱中できないから、結局世界を守るなんて"無茶"以外に自分の無さに耐えられない。自己を定義していた何かは結局"環境から逆算した電脳世界の生理現象"の回数のグラフなのだから。他人がこれだ!というもののないままに活躍したせいで尚、何をやっても楽しくないし嫌になる。

 

「ごめん、カミツナギ。フォローさせた」

「気にしないで」

 

 実際、個人の愚痴や弱みに構ってる暇はない。これからもっと事が動くし、自分はその中に巻き込まれる義務があった。

 

「ほら、これを食べて」

 

 目の前に出されたのは秋刀魚定食。バーだからすごく変だが、飯すらまともに食えないほど衰弱はしてないし、味覚は多少人の気分をマシにさせるのだろう。

 

「ありがとう、いただきます」

 

 酒のせいで自分の内面を止められないなら、上品ぶった上部の水面にルールを守る自分に酔うことで自己を保つ以外にない。

 

 箸を受け取って、食べ始めた。

 

 

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