俺はある場所にやってきた。
斜陽館を彷彿とさせるような、明治時代に作られた館には一人しか住んでいない。
『仲間と話して少し自己肯定感を高めてきたら?』
なんて言われたので、大人しくそうすることに。
「いるか?」
「いないと思う?いなかったらそもそもワールドに入れないでしょ?」
「そうだな」
大和だ。彼女
正論を言われたらそうだとしか言いようないから、頷いて扉を開ける。
「やあ、アレイシア。私の世界に入ってきたのは何用かな」
「色々話そうと思ってな」
「そう?じゃあおいでよ」
案内してくれるようだ。
案外普通に屋敷をしているもので、まるでテンプレートの階段を駆け上がると扉を開けて出てきたのはこれもまた普通のキッチン。
「ほら、座ってよ。お客さんだからね、何か持ってこようか?」
「お言葉に甘えて」
席に座ってると、紅茶の匂いが漂ってくる。座るタイミングでもうティーセットがやってきてて、紅茶が注がれたカップが目の前に。
「いる?何か」
「いらないな」
「そっか」
大和も対面に座って、佐藤とミルクをとんでもない量入れる。計量スプーン五杯って。
「今は何してたんだ」
「色々資料を整備したり、取材とか受けた時用に回答を用意してたんだ。君もそう言うのをしておいた方がいいよ?場合によっては発言の違いとかで突っ込まれたりすることがあるよ。まあ、私たちにちゃんと肉体があった時代と比べて露悪的なメディアはほぼないに等しいけどね」
「そうか」
「そうか……って君も有名プレイヤーでしょ?」
気にしたことないと素直に伝えると、すげえ顔してため息ついた。
「まあ、君のような人間が変な不注意をすることもないしいっか」
「今言ってくれたから少しは気をつけようって思ったしな。サポートAIにある程度やってきたことのまとめとか作らせるか」
こう言うのは注意された段階でなんとかしておくのが吉だという。
ホロモニターを出してから指を動かして、自分の履歴や行動をまとめるように指示を出した。細かく、記録してあるログイン時間などと自分がいわゆる会見や取材中何を言ったかをまとめるリストを。
《がんばるにゃん!》
と、メッセージで言ってたし大丈夫なはずだ。
「で、なんの話をしにきたの?」
「最初に重要な話をしておこうか」
「もしかしてブルートワルツの一件かな」
「飲み込みがいいな」
珍しく他人のことを褒めたような気がする。話が通じやすいやつは好かれるよな。
「だって君のことだからね、レイジから聞いたよ。自分と彼は別々の聴取の形で主に連れてかれたと。そう言う話をそのうち君がしに行くだろうって」
「あいつはしないのかよ」
「出てどうするの?」
「そうだな」
よく考えれば、レイジはそうだな。
あいつに仲間がいるかどうか不明だが、そもそもあいつが呼びかけたところでろくなやつが集まらないだろう。強さ以外頼りにならないのは確かに困りものか。
「で、どう言う話?」
「いや、彼女を追うから力を貸してくれっていう。おそらくOSGP内に観測次第突っ込む、みたいな形にはなると思うけど」
「いいよ」
「は?」
返答が早すぎる。もう少し考えてくれ、と言いたいが彼女の顔は真面目。
「どうせ君ならこう言うことを抱えないで言うだろうと思ってるから、用意はね。その一環として下手なことに足を引っ張られないようにするための取材準備だったわけ」
「いいのかよ」
脅すつもりは毛頭ないのだが、仕方ないと納得させてカードを差し出す。
そういえばずっと持ちっぱなしの、ギーツIXだ。元々俺のカードじゃない。
「こいつの持ち主がいるはずで、ちゃんと戸籍があるはずなのにずっと見えてないんだぞ。これの持ち主は無事だと言うあれもないし、今度はお前がそうなるかもしれない。それでもいいのか?」
「じゃ君はなんでそれを納得して行こうとしてるんだい?」
「そうだな……」
自分はもう、そう言うもんだと割り切って考えてた。だが、それで人を納得させられるほど頭が良くもないしカリスマもない。
だから素直に答えるか。
「この世界の危機になるって言うなら、そりゃ行くよな。俺、あんまり自分のこと好きでもないし、OSGP自体も楽しいからやってるだけであんまり肯定できるような遊びでもないと思ってるけど……それでも、ブルートワルツがしたいことは止めなきゃいけない気がして」
「ふーん、じゃあ君は私が同じことを企んでいたら私も倒さないといけないね」
「強いプレイヤーが一人増えるだけで、別に」
「そう言うところはちょっと嫌いかな。それに嘘ついてる」
嘘ついているかどうかはともかくとして、説得に困っているのは分かりやすかったようだ。
「君、本心語ってないでしょ」
「本心?」
「自分がどうして生きているのかーとか、どうせ他の人間が云々とか。そもそも自己肯定感が低い人間は、何やっても変わらないって死地に突っ込む悪癖があるって知ってるよ」
「お前にそのこと話したっけ?」
「君、自分が主に頼んだこと忘れた?」
そう言えば、キャラカードの云々で話ができるように特別なプライベートルームを……あ!
「そう、雷電芽衣から連絡があった。ああいう人間は非常に怖いからなんとかしてって」
「はあ……まあ、それを言うなら何も否定できないな。確かにそうだ、俺自身は別にどうなっても……まあ社会の損失にはなるだろうけど大損失を防ぐためには仕方ないかなって。プレイヤーとしても結局まぐれ優勝と言った方が正しかったし、今回だってブルートワルツを撃退できたのはアツコのおかげだ。彼女が最初から色々仕込んだのを手伝ったにすぎない。それが最良だと判断したから、俺は何もしなかった」
「ゼロに戻す人間の役割って結局尻拭いだから、誰も評価されないってやつだね。みんなが評価しているのをちゃんと聞いた方がいいんじゃない?」
「正直それ聞いても気分が上がらない。全部が全部、茶番に見える」
物語も物質も道具も、全部が全部作ったやつはすごい、誰もが考えてなかったこと、みんなの頭にあった欲望を適切な形で広めることに成功したんだから。
でも俺らの世界は誰もが作った人間ではない。全てが、過去からの借り物だ。借り物で何をしたんだろう、その中で勝ったところで対して意味はない。意味はないけど、そもそも他人という概念がない世界があまりにも気持ち悪く思えてしまったから、あの戦いに身をやつしているにすぎない。
「茶番に見える中で、お前が頑張ってプレイヤーを出し抜く姿はかっこいいと思ったし、他の奴らはちゃんと戦って勝ってる。俺だってそうしたはずなのに、俺がやったら全部茶番に見える。アシェイラも結局フレイムスティーラーとしての範囲を出なかったから彼女である必要はなかったし、じゃあ俺はどうなんだろうと。俺じゃなくて浮世英寿が出てきて、カッコ良くぶちのめしてくれたんだろうなって」
「でも私は、君をちゃんとアレイシアって認識できるよ」
「それは戸籍上の問題だろ。どんな姿してようが、どんな性格してようが、アレイシアはアレイシアだ」
「全てが変わって、何千年経っても私は君を見つけれるよ。逆に言えば、君も私を見つけるよ。アイアンもきっと、君を見つけるから」
どうしてそう言えるのかがわからない。
首を傾げてどうしようかというところ、彼女は話を続ける。
「人の性根ってそう簡単に変わらなくてね。君がどっかのOSGPに参加してたら、結局私は分かるんだ。同じ大会にいればね。君はプレイヤーもキャラも一緒くたに見ちゃうから、普通に話しかけるし、普通に協力する。あの独特な雰囲気はそう簡単に隠せないから」
「そんなもんかな」
「善人はどれだけ頑張ってもルールや道徳を守っている以外の個性はない。偉業を積み重ねてようやく、個人として認識されるようになるんだろうね。それが君だけど、君は珍しくその道徳そのものが性格になってるせいでどうも苦労していると見えた」
彼女の声がなぜか微笑ましく、女性らしさはないにしろ友人っぽいそれを感じた。
「そうだな、アレイに必要なのは存在意義を定義するための何かじゃないかな」
「曖昧だな」
「それこそ今回のやつはそのために首を突っ込むのもありじゃないかなって。君らしさを見つけるために、数千年で初めてのことをやってしまうべきだって」
「この冒険で俺が何者か見つかる、か」
あえて火中の栗を拾う、と言う諺もあったな。自分の存在意義を、いつあるかわからない事件に突っ込んで考えるのもアリじゃないか?と言うことか。
「自分が何者かなんて答えられる人は確かにこの世界は多いけど、それは多分みんながどれに快楽を求めるかで決めてるんだと思う。そういう世界に適応しない人間だけど、でも死ぬのは違う。そんなわがままな人間が、もっとわがままに、自由に生きられる。君さえ許容してなお波濤になる世界、いいと思うけどな」
俺でさえ自分のことを気にかけるのに精一杯な世界か。
そう考えると、ちょっと楽しくなってきた、かも。
「そういう冒険は私大好きだし、前向きだから乗りたいかな。私は自己がどうとかで悩んだことは一切ないけど、悩んでる人間と共にあるお姫様を探す旅。私は大好きだよ」
「へへ、じゃあ誘い方変えないとな」
そう言われてみれば仕方ない、必要性とかそういうのに駆られずに、かつて駆け回った仲間として誘ってみようじゃないか。
「……勇者の旅には仲間が必要だ、一緒に来てくれよ」
「喜んで!」
彼女との会話はこれで済んだ。
大和はこっちについて来てくれると言うし、きっとこれならアイアンもついて来てくれるんじゃないか。
あっけない悩みだったように感じるが、彼女に話しかけないと多分気づかなかったこと。
「そう言う誘いだったら全然乗るからねー!あ、必要だったら色々話しかけてよ。私からできることはなんでもするよ」
「最初に答案を用意しとけって言うのは結構役だった。ありがとう、後々になるとは思うけどまた何か必要なことがあったら連絡するさ」
「オッケー」
紅茶を飲み干す。
とても苦味が深いが、この強い苦味に風味を感じる。木々?の匂いのようなものが。
飲み終わるとそのまま立って、出口の扉に手をかける。
「紅茶ありがとう、美味かった」
「うん。また何かあったらくるといい」
「勿論!一応、今度はアイアンに話しかけてみる予定だ」
「がんばれー」
扉から部屋を出て、そのまま家を出る。
家の周りには薄い潮風と、花畑と、そして木々と丘が見えた。住む場所としてこれ以上ない。
元気が湧いて来た俺はそのままいろんな奴らに話をつけるべく、モニターを出してワープした。
今度はアイアンがいつもいると噂される場所だ。