Never Says「Good by…」   作:らんかん

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気品に振り回された日

 やってきたのはあるパブリックワールド。

 

 横浜港をモチーフにしたワールドだが、正直こういう景色を楽しんだことがないのでどうすればいいか分からない故にあまりきた事がない。

 

 それでも足を運んだのはただ一つ。

 

「あの野郎こんなところでカッコつけて飯食ってるのかよ」

 

 全く連絡寄越さないくせして大和とかにも全く返事を伝言しない上、ようやく話を返したと思ったら『お前から来い』なんて言いやがって。自分に一番向いてない場所に出向くことになったのだから、絶対に恥かかせてやると思いたち普段着のまま立ち入ることになった。

 

「こんばんは」

「ああどうも、こんばんは」

 

 一回の受付をしているAIのお姉さんに声をかけられて、怪しまれたくないから近寄る。

 

「どのようなご用件でしょうか?何かお手伝いできることは?」

「アイアンランド・プレイスというやつに用がある」

「その格好ではお入りいただくことはできません。ご伝言は承りますが、それでもよろしいですか」

「ああ、そうだな。そうしてもらおう、助かる」

「ではまずお名前を」

「アレイシア・ガレットピア」

 

 AIに自分の情報を見せると、どうやら少しだけ表情が変わる。あまりに致命的な欠点は持たせてないが、通常時は少しばかり遊びを持たせてるのは会話時のストレス低減効果があるらしい。

 

「アレイシア様でしたか。申し訳ありません、そうだとは気づかなくて」

「有名税をちゃんと払ってるのにこのザマかよ」

「いえ、通常モードだと私少しばかり天然みたいで……昔の姿ならすぐわかったのですが」

「ああ、そういうことか。すまないな、これでも人間の営みからは離れられなくて」

 

 おとりつぎまでなら出来るということで、素直に頼んでみることにした。

 

 そうか、昔の姿ならってひともいるか。だってあの時はこの姿じゃないし、別に俺何かスポンサーつけてるわけでもないし。

 

 受付のアバターはそのまま受話器を取って、内線で連絡をしている。

 

「はい、私です。すみません、アイアン様は今おられますか……ええ、はい、代わっていただけると。ええ、お願いします」

 

「ああ、どうも。受付なんですけども、アイアン様にお客様が。えっと……アレイシア・ガレットピア様が。なんでも用があると。はい、えっと……分かりました。そこにご案内すればよろしいんですね?はい。分かりました。では」

 

 電話は切れた。

 

「アレイシア様、今からある場所へのアクセス権を付与します。そこにワープしてください」

「ああ、分かった。ありがとう」

 

 手渡されるのはあるカード。黒色に金色の文字が書かれてある。書いてある場所へのアクセスを開始すると、一瞬で景色が変わった。

 

 眩暈がするほど眩しい。

 

 金色の模様が目を焼こうとしてくるし、シャンデリア風のライトは人が嫌にならない光量を学ぼうとしない。その上で大きくて何を映すつもりか無造作に大きい鏡まである始末。

 

「待たせた」

「ああ、ようやくか……」

 

 入り口からやってきたのは、ドレスコードそのものの服装をしているアイアン。

 

「小生を呼び出す急用とはなんだ?貴様はふざけないからな。まさかよもやスポンサー主催のパーティーを一旦抜けろといっておいて一発ギャグを聞けとか言うのであれば今ここで永遠に喋れなくしてやってもいいぞ」

「お前から来いつって呼んどいて今は無理とか言ったら逆に許さないがまあそれはそれとして連絡をよこせっつってんだよ。ブルートワルツの件だ」

「ああ、あの件か……行こうとは思っているんだが、いかんせんそれよりもあちこちにスポンサーからの依頼があってゆっくり考える暇もなくてな。できれば直接話し合おうと思ったんだが、そうか」

「ならそれくらい言ってくれよ。連絡出してもろくに返さないんじゃタイミング伺いようないって」

 

 すまないと謝るアイアンの顔は、少しばかり楽しそうだ。

 

「そうだな、では行こう」

「は?」

「小生は行くと言った」

 

 話し合いをするとかなんとか言っといて結局即決するなら意味ないんじゃないか、ノリであんなこと言ったとかほざいたら殴りたくなる。

 

「おいおい。本当はメッセージ出してないとかの誤魔化しじゃないよな?」

「改めて貴様の顔を見て決めたんだ。あることを、思い出してな」

「あること?」

「ジャック・ユウグレのことだ。小生の、相棒のことだ」

 

 カミツナギが言っていたあの男の事だ。

 

「あいつは小生の前に何も残すことはなく、突如行方不明になった。表にも失踪事件として扱われているが、皆それぞれの娯楽に没頭して他人を気にせずに等しい歴史を歩んできてその事件が重大事として扱われていない」

「そうなのか、まあ新しいのを急にログアウト宣言*1するのもな」

「だが、その人間が戻って来れる可能性が示唆された」

 

 言われなくても分かる、勝永レイジのことだろう。

 

 彼もログアウト宣言でひっそりと消えたと表向きはされていたが、結局ブルートワルツの暗躍で捕まっていたと考えるとジャックとやらも同じ目に遭ってても仕方ない。

 

「もしかしたら、もしかしたら……ジャックのやつもどこかに囚われてるかもしれないと思った。もし事件とは関係なく、別件の事故などで消えていた場合は小生の思い違いだが、それでも調べたいと、相棒のことで未練がましく思っている。いつもは皆に役立ちたいとか、夢を見せたいとか思っているがこればかりはほぼ私事だ」

「アイアン」

「それにこれは確証がある話でもないのは言うまでもない。そう言った人間が最後までやり遂げた例は多くもないから、正直迷っているのだ。すまないな、湿っぽい話をして」

「芽衣と大和に俺もやったから責める資格は俺にない」

 

 素直に伝えてみようか。

 

「俺も戻ってきてからずっとうだうだ言ってたんだ。力を持ってしまったからにはやるにはやるけど、俺は結局運や周囲の強さに勝ってきた人間だから何も持ち合わせていないし、みんなみたいに自分が持てたらなあと。結局やるがそれにしたって頑張る理由がないし、」

「そうか、それは大変だな」

「大和が『なら今回の問題に飛び込んで解決して自分を見つければいいじゃん』って言うもんだから、いっそそれで前向きに誘ってみることにしたんだ。価値はわからないが、OSGPを超えた冒険をすれば確かに唯一で初めての勇者になれるんなら悪い気もしないしな」

「いい気になるかは別にして、か」

 

 頷く。

 

 正直なところ相棒を見つけ出す、という自分の人生にしかない最高の目標を持っているアイアンすら羨ましく思えてきてしまったが流石にそこまで行くと不謹慎なのでそこは口を閉じた。

 

「と言うわけだ、俺は当然行くが正直仲間が必要だろ。レイジのやつも行くって言ってたし、そう言う意味で誘ってみようと思ったんだお前のこと」

「返事は変わらない。ジャックのこともあるから小生も同行しよう」

「ありがとう」

「ただし、条件がある」

 

 なんだ、条件って。

 

 アイアンが変なこと言わないのは信頼があるが、それにしたってあいつからのお願いとか珍しい。

 

「なんだ?できないことだけははっきり突っぱねるぞ」

「何、このパーティーに途中参加だが出て欲しいんだ。無論、小生も見守っている」

「なんでだよ。俺は全く企業に関係してないフリーターだぞ、迷惑じゃないのか」

「貴様に社交辞令がないのは仲間として恥ずかしいからな。少しばかり髪を纏めて、人前で笑う練習はしてくれないと困る。後ろ盾が小生なら、少しは大丈夫だろう」

 

 うっわ、めんどくさいこと言うな!そう言うのをするためにここに寄ったんじゃないんだぞ!

 

 素直に抗議したい気持ちもあるのだが、彼の押しが珍しく強すぎてどうしようもない。

 

「どうだ?これがないなら少し考え直すことになる」

「それ俺笑い者にしたいだけじゃねえか!」

「これから笑い者になり続けるのも嫌だろう?それに、何にも関係していないプロというのは怪しまれるんだ。メディアも疑念を抱くと厄介だぞ、ほどほどに社会と関わっていることは見せつけておくべきだ」

「別に俺は何もしなくても生きていける世界で、そういうのを作りたくな……」

「ほら」

 

 話聞いてねえし!

 

 いつの間にかウィンドウを開いてなんか六桁のスーツを買って、しかもそれを投げ渡してきた。いくら後ろ盾がいるプロプレイヤーだからってそんなことあるか!

 

「これをまず着こなせばいい。何、太古の昔のようにネクタイのループとか形とか気にする必要もないだろう?ならば、早く着ろ。礼儀は横で叩き込む……大和なども身につけてるが、まあ教えるのは苦手だからな」

「……お前なりの気遣いととった方がいいのか?」

「後々役に立つぞ。それに、勝永レイジが粗暴であまり忖度してないから自分もそれでいいだろうと考えるのもダメだ。ああいう人間ほど実は基礎がしっかりしてるからな、いつの間にか自分だけが野蛮人(ワイルズ)になっては仕方あるまい」

「一理あるのがほんっとムカつくなおい!」

 

 ニヤニヤしてるのが本当に、お前!

 

「どうする?」

「ああ分かったよ!やるよ!やらないと着いてきてくれないしそれが困るんだからな!」

「ならば早くしろ、嫌味を言ってくる奴からはしっかり守ってやろう」

「くっそ〜〜〜〜〜〜!」

 

「今来るんじゃなかったぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______この後のパーティーは、幸いにも無事に終わった。

 

 アイアンがずっと隣に着いていたことで、髪を纏めた上で姿勢が俗で一切着こなせてる感じがしない自分のフォローをしてくれた。幸いにもそんな状態で腹が減るわけないので、食事に手を出さなかったのも大きい。

 

 だが、応対には苦労した。

 

 何しろ俺の今の姿や声は、流行に乗って関わってきた企業のキャンペーン通りにやったもの。当然ちょっとやそっとでブスになるわけじゃない。

 

『アレイシアさん!こっちにきて!』

『あなたを今度この会に招待したいのですが』

 

 手に入れて振り回す気もなかった名誉が、俺のことを振り回すこと三時間。

 

 もう自分がなんのために生きているだとか、何をしたいだろうかなんて悩みはここで吹っ飛んでしまった。

 

 ああ、カミツナギ。

 

 彼女に俺の苦悩を聞いてほしい______

*1
いわゆる人生終了する宣言。この世界は電脳世界で肉体的にも精神的にも死ぬことはなく、そのせいで終わりは自分で決められる。

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