アシェイラとベロニカに話しかけるのが叶わずに、数日が過ぎていた。
そもそも一切繋がりがなかったのだから仕方ないのだが_____それでも彼女たちの協力もできれば仰ぎたいと考えている。
特にアシェイラ。フレイムスティーラーを持っているということは、彼女の信頼度はともかくとして戦力としては捨て難い。
なんて考えてる俺も、どうせ彼女と話しているうちに打算が吹っ飛んでいるんだろうが。
「よっ」
「ええ、新しいファンかな……げ、アレイシアなの?」
「そんな言い方ないだろ。なんだ、今は時間が惜しいのか?」
「プロが惜しくないわけ無くない?」
人を無職みたいに言いやがって!まあ、無職でもいいんだけど。
「で、用事があったから話しかけたんでしょ?なに?」
「率直に言えばちゃんとチームを組みたいんだ」
これまでの経緯を説明する。
エレクワールドの主と話したことでブルートワルツからの未曾有の危機が訪れそうなこと、レイジもふくめそれらをOSGP内での捕縛・撃破を目的としたチームを組みたいこと。
そして、自分はその中でも協力した実力者であるアシェイラとベロニカを誘いたいということも。
「へえ、じゃあアタシたちが欲しいっていうんだね」
「まあな。そんなすぐに返事しなくていいから、忙しいんだったら後でメッセージくれ。ここで出会ったから多分もう連絡先は入ってるだろ」
「乱暴!女の子の誘い方それでいいと思ってるの!?」
「お前にそういう感情持ったことないぞ」
じゃ、と手を振ってから帰ろうとする。
正直ガチギレとかなぜなぜ攻撃とか人格否定まで入ってそうな気がしなくもなかった、と思っていたので拍子抜けというかあまりに俺が何も考えないのが悪いのか。
「待ってよ」
手を掴まれる。
今ちゃんと見たら、何かに出るための衣装だ。金と紺色……カスライナイメージか?
ワンピース風のドレスだ、下のスカートが重厚なのは飾りに耐えられないからか。
「誘っておいてその程度でさっさと退散するつもり?」
「そもそも話をしにきただけで誰がパーティーとか出るんだよ。それともなんだ、お前からもなんかあるのか?」
「そうじゃないよ。なんていうんだろ、そう……文句があるの!」
「文句?」
髪のヴェールの向こうにいる彼女は、少しばかり少女らしさを靡かせるやつ。
「ブルートワルツの撃破まで勝手に一人で独占したこと、アタシ許してないから!」
「その件だけは許せよ、あいつは俺の数少ない……因縁なんだ」
あいつと戦うのだけは、どうしても楽しかった。
自分が死に物狂いでやって、その戦いの果てで待っていた少女。因縁を感じない方がおかしいし、事実その因縁を相手も持っていたからこそあの大会でぶつかった。最後の、俺にとってのラスボス。
「というかそう……っつって時間が経ってようやくその文句かよ。何か言いたいことがあるんじゃないのか」
「そう言われるとあるよ」
「なんだよ」
「そういうことを言うんだったらなんで食い下がるとか、なんかないわけ?あの時嘘言ってないけどいや頼む!とか、そう言うのあるでしょ」
ねえよ、ときっぱり言い切る。
相手の顔が"信じられない!"といった表情に変わった。
「はぁ!?そんな大事な話を頼んでおいてダメだったらやっぱいいやって……そんなことない!大事な話をしているのにじゃ、で軽々しくしたら!」
「俺しかいないなら俺だけでやるしかないし、味方がそこからどこまで増えるかの勝負だからな。で、その勝負に一負けと言ったところだ」
「万事が万事、冗談半分なんて信じらんない!あんたの話、あれ嘘だとは言わないし実際会った履歴があるからよく分かるけどそれでもそんなメンタルで話を進めようとしない!自分はこれからどうなるんだろうとか、責任に押しつぶされかけたりしないわけ!?」
「逆に聞こう、俺らが一度たりとも責任というものにまともな向き合い方をしたことがあるか?」
正直な事だ。結婚するとか、スポンサー関連だってOSGPがそもそも無法者のグランプリである以上チートでもしない限りはスポンサー降りるなどという騒動にはならない。
じゃあどこに責任を見出すかって結婚くらいな物だが、その結婚だって様々な意識の矯正ありきで成り立っているんだから俺らのような人間でなくともそもそも何か重要な物を背負ったことはないんだ。
さて、そんな状態で聞き齧りの大事に責任持てとか言われても出来るのだろうか?
「お前にとってはスポンサーとかに恥じない戦い方をしようとか、ここで優勝しないとあいつの名誉がーって考えたら気が重くなるだろうし、その延長線でこのことも重く見てるとは思う。それは否定しないが……でも結局それは遊びの沿線上だ。今回の件、本当に世界が終わってしまうかもしれないなんて言われたとして真正面から信じろって方が無理だろ」
「そんな信じてないことでアタシの時間取ろうとしたわけ!?」
襟を掴まれる。力が強すぎて、どかすに至らない。
「アタシらがふざけてるとかじゃない、あんたがあまりにも感覚がおかしい!何、舐めてるの!?あんたの仲間だって全員スポンサーがいて、その応対とかもあって、みんな忙しいし社会があるの!目の前にいるサポートが得意なやつとか、みんな自分の夢を大事にして他人の夢の支えをしてる!そう言う世界ってことさえわからない!?」
「悪いな、あいにくそう言うのには縁がない」
「縁がないだって!?」
一瞬襟から手が離れたと思ったら、いきなり拳が飛んできて殴り飛ばされた。
ここはOSGPのステージでもないし、パブリックワールドのはずなのにすげえ痛い。
「自分たちは今ここで生きて、その繋がりの心地よさを損益を共にする仲間なんだよ!?その仲間のことを蔑ろにしかねない提案を冗談半分で、しかも『ダメだったらじゃ他ので……』ってあんたが一番ふざけてる!ベロニカもアタシもそんな安いやつじゃない!自分が下した程度の人間なら、なんて甘えてるなら言語道断だよ!」
「その程度に考えてんなら、そもそも誘うかよ」
「誘ってるんだよそれで!」
馬乗りになってもう一回襟を掴んでくるアシェイラの顔は、若干泣きそうになっている。
「あんたをベロニカと会わせられない!あんたのことを尊敬してて、大和やアイアンのことも信用してたのに”こんなやつの仲間”であることを知ったらあの子どうなると思う!?真摯に戦うことが好きで、そんな正直者がゲーム感覚で世界を弄ろうとする、ただ強いだけの無法者だったなんて」
「冗談じゃない!」
流石にこの態勢はきついので顔面殴って怯んだとこを退かして、立ち上がる。
「あのゲーム自体無法者の居場所だ!それで真摯だの正直ものだのふざけるんじゃない!俺のような人間でさえ同じ土俵に立てる、唯一の居場所!生きるか死ぬか、世界がどうこうでイキリ散らかしてるやつをぶち殺し、その上でなんとか解決に導くのがあのゲームの本質だ!何にも楽しめなかった俺が、酷く自由で讃える者のいない世界で漸く自由になれた気がしたあの世界、でも結局それはただの遊びだ!それでもいいんだ、遊びしかこの世界にはないから!」
「そう思えてるのになんで遊びで認識が止まってるの!?本気でやるものに遊びなんて生半可な認識をずっと持ってられるわけないでしょう!?後悔はないの!アタシ知ってるよ、あんたがずっとシンって少女を死なせたことを引きずっているのを!」
「は」
息が止まる。
あれ、どこかで話したっけ。
なんで知っているんだ、俺がシンのことをずっと引きずっていることを。
「あんたにとっての初めての挫折、そしてゲームに夢中にさせた出来事!思い通りにいかないことがあったからこそ惹かれた、そうでしょ!?」
反論しようにも言葉が出ない。
「そう思っているならもうあんたの言うお遊びからOSGPは外れてるんだ!人生でもいいし、生きがいでもいいし、競技でもいいし……とにかく本気なんだからそれを守るために戦うでもいいはず!」
「全部わかんないことだらけだ!シンを死なせた後で、ずっと引き摺ってるくせに同じゲームを繰り返している自分が!」
「死なせて後悔するのも、尚惹かれるのも同時に持ってて何が悪いの!?あんたは生きてる人間が好きなら、そう言えばいい!」
「アシェイラ……俺は……」
喉から思いの丈が出かけた瞬間。
彼女の奥から、青い光が飛んできた。
「危ない!」
彼女に近寄って、そのまま押し倒すと髪を少し掠ってその光は奥へと飛んでいった。
「なんだ!?」
「おやおや、外してしまいましたね」
黒い髪の男が、青い弓とともに現れる。
スーツ姿でいかにも普通の、ある時代のリーマンという姿。
「ここであれば殺せる、と踏んでいたのですが。まあ、そうか。ダメですねぇ」
「なんでキャラカードを使える!?ここはパブリックワールドだぞ!」
「答える義理はないですねえ」
男は弓をアシェイラに構えるが、その前に立つ。
モニターを一個付けるとステージの設定を見るにOSGPではなくバトルモード、つまりキャラカードを使った戦闘ができる設定に書き換えられていた。
「あなたを生け取りにしろ、という命令は貰いましたがそこの女はどうでもいいと言うことなのでね。そのまま殺させてもらいます」
「そう言うわけに行くか!」
「しかしバトルの途中にカードを持ってくることはできない、そう言う設定にしましたからねえ。今のあなたは一枚の防具もないただの素人。アシェイラ・ハーバスも同様です」
確かに、この状況では逃げ切れないかもしれない。
よく考えると周りには沢山の人間がいて、それらがこっちを囲むように見ている。
「うっわ、最悪……!今日のメイクは赤一色に仕立て直しってこと?」
「随分余裕がありますねえ。周りを見てごらんなさい、ここに貴女達の味方は誰一人いないのです」
「そうだなあ、確かにここには味方はいないな」
事実は肯定しておこう、ここに味方はいない。
「連絡するに撃ち抜かれ、到着する前に矢が貴女を血で染める。さて、いかがなさいます?もしやずっと自分達の監視と状況をリンクさせてるなんて人間はいないでしょう?プライバシーを重んじる人間が大多数ですから」
「困った、それに関してはいるんだな」
「ほう?」
男は不思議そうな顔をしているが、生憎そういったやつが出来てしまった。
一斉に矢が展開され、周囲の人間も同じく構える。
「まあでも、状況を理解しても到達する前にハリネズミを二匹作ればいい。大丈夫ですよ、アレイシア。貴方のことだけは生かしておいてあげましょう」
「残念だ。俺はお前のことを生かせそうにない」
頬を掻くと、遠くから鐘の音がする。
「なっ」
「居るんだよ。俺を持ち物にしかねないほどのやつがな!」
手を挙げる。
せっかくの登場だ、避雷針っぽく構えてそこから一気にぶっ飛ばさないとな!
「出てこい!俺らの助け舟!」
そう叫ぶ。
流れ出すように溢れる紫電に、遠くから聞こえるヘヴィメタル。
矢が放たれるよりも早く、すでに放たれた矢が俺らに刺さるよりも鋭く。
雷が焼き落とす。