Never Says「Good by…」   作:らんかん

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大和の秘密

 バー小夜啼鳥のカウンター。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器」

「うんうん」

「湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる」

「そうそう」

 

 帰って早々とんでもない技を打とうとしてないか?ただ、確認したところバトルエリアにはなってないから問題はないと見たが。

 

「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形」

「よしよし」

「結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ!」

「ラストスパート!」

「破道の九十 黒棺!」

「よくできました!」

 

「何やってんだ」

 

 頭をかきながら話に入る。

 

「アレイシアだ!」

「おお、ようやく来た。アレイ」

 

 大和に……キアナ?あれ、ここは指定されてる場所じゃなかったはずだが。

 

「お疲れ様、弱かったでしょ相手」

「……ほどほどだ。トドメはカミツナギが持ってったし」

「実力者の名が泣くね」

「いいんだよ俺がなく羽目になっても」

 

 近くのテーブルに座って皆を眺める。

 

 でもその二人に見当たらない。他にいそうなものだし、というか芽衣は?

 

「レイジはどうしたんだよ」

「あいつは芽衣先輩の相談に乗るためどっかいったよ」

「そうか。じゃあいないのも納得だな」

「大和のことは?それ聞きたいんじゃないかって私思ってたんだけど」

「本人が説明するだろ」

 

 お冷を二杯飲み干して喉を潤し、そのまま該当する人間を見る。

 

 スーツを着ていて、いつも通り茶色に赤色の髪で、何も変わらない姿。

 

「お前襲ってきたやつに恨まれてたぞ。滅却師の怒りを買うって何したんだ」

「なんだそれ。私は知らないなぁ……私の名前を言ってたの?」

「そうだぞ。大和が……って言おうとして気絶しやがったんだから」

 

 彼女の隣まで移動して、そのまま座る。カミツナギはみんなの分の料理を作っているから何か手伝おうと思ったが……俺料理できないしな。

 

「大体なんでこんな大所帯になってるんだ?大和もレイジもいて、あれアシェイラは?あとアイアンはなんで来てないんだ」

「みんなそれぞれ目的があってここに来てるからね。レイジはアレイの件について話すがてらにファンガールに会いに来たし、私はレイジに誘われてここに来た」

 

 ちなみにここはバー小夜啼鳥のプライベートエリアだ。キアナと芽衣が動いている理由については、レイジが信用できる場所の一つとして強固なセキュリティと共にここをキャラカードの自律化エリアに指定。エレクワールドの主は、少なくとも千年生きてる上で強く、ちゃんとしてるカミツナギを信用したようだ。

 

「アイアンは今仕事で出かけてるからまだ戻ってこないよ」

「そっか……あれ?だとしたらカミツナギのユーハバッハは?動きそうなもんだけど」

「アテクシのユーハバッハは持ち出す際和尚が加工したせいで人格データが残ってない」

「じゃ仕方ねえな」

 

 話しているうちに出てきたのは焼き鳥。つくねに手羽先、それに豚塩。

 

「おお、ありがとう」

「これはキャベツ。塩レモンのドレッシングと一緒に食べて」

「ありがとうございます」

「キアナも」

「美味しそ〜!ありがとう、カミツナギ!」

 

 つくづく五感が生かされる仮想空間で良かったと思う、楽しさが奪われないまま増えたから。

 

「そうだ、大和。あんた、話をしないの?あれのこと」

「ああ、話しておく?信じなさそうだけど」

「仲間に隠しごとしちゃダメだよ。いつかの私達みたいになるよ」

「そう言われちゃ仕方ないか」

 

 大和の方を見ると、彼女も俺の方に視線をやっている。

 

「仲間同士であんまり隠し事しちゃダメっていうのさ、あるじゃん。話しておきたいことがあってね」

「なんだよ急に改まって。言っとくけどカミツナギの焼き鳥が冷めるまで喋り込んだら許さないからな」

「食べながら聞いてくれればいいよ。エレクワールドの主がここにきた時にも話すよう言われたけど、そんな大事なことじゃない」

 

 勿体ぶるなよソワソワするな……と思いつつも豚バラの塩を一つ食べて飲み込む。

 

 塩気と脂の味がマッチしていて、そこにレモンの風味。酸っぱさよりも爽やかな甘味?の方が出てきてこれは上物。

 

「私は藍染惣右介の血を引いてる、と言ったら信じるかい?」

「……は?」

 

 んなわけないだろ、と思いつつも一本の爪楊枝を丸裸にして皿に置く。

 

「本当なんだってば。エレクワールドでは、そこまで珍しいことじゃないけども」

「え、え?」

 

 社会に興味なさすぎて、俺が困惑しているのがよく伝わっているかもしれない。一体何を言っているんだ、という顔をした俺に大和は懇切丁寧に説明した。

 

「この世界だと実はキャラと結婚できる……みたいな話は知ってるよね」

「そりゃな。子供も作れる、なんて話も聞いた」

「じゃ、その子供は人間かキャラか、どっちだと思う?」

「キャラじゃないのか」

「実は人間扱いされるんだ。戸籍とかも全部、人間と同じように用意される」

 

 実体化してないのにも関わらず、人間扱いされるのか。二次元というか仮想空間でしか生まれてないのにか?

 

 だが、大和は何一つ間違ったことは言ってないらしい。エレクワールドの主にも、同じような話をしていたのは間違いないようなのは、更に後ろにいるキアナの表情がそうさせる。

 

「どういうことだよ」

「じゃ、軽く説明しよう」

 

 大和の講釈に耳を貸す。

 

 今はキャラクターとの仮想の一生を送り、結婚して死ぬまでをやる人間は多くいる。最初こそ人間同士の結婚以外は禁止するべきだという風潮が強かったが、時が経つにつれてそちらの方が主流になった。自分の思い通りになる異性に仮想空間での娯楽で自立を失った人類が抗えなかったのもあるが、人間同士の結婚以上のメリットがあった。

 

 それは主体性を持つことであり、キャラクターは性格などが固定して動かないためその要素を時代に伝える……”キャラクターの子供を産めば強く性格に補正が掛かって旧人類のように環境による精神病を疾患しない”ことを意味する。

 

 前向きなキャラと結婚してその子供を授かれば、子供は親を見て育つから勇者っぽい性格のまま強く補正がかかり続けて一切迷わずに物事に取り組み成長させていくため”純人類の弱点を取り除いて社会の発展と強化を迅速にできる新人類の誕生”として受け入れられた。

 

「当然仮想空間とはいえ血のつながりがあれば能力も受け継ぎやすいわけで、そう言う意味でも血筋を継ぎ足すと言うのは注目されたんだよ。三次元と二次元が混ぜれるところまで混ぜて、そこからフリーランさせて生まれた現象を解析すれば次元の壁を超える算段が達成するっていう寸法さ」

「え、私や芽衣先輩とかは……いやいや流石にないよね?」

「君たちはこの世に一つしかないからね。記憶になければ全くないよ」

「よかったぁ……!」

「ただし人気作品であればあるほどそういう憂き目に遭う奴は増えるわけでね。女性向け作品のキャラは余程人気のないやつ以外は大体被害にあってるし、そうじゃないのに藍染惣右介なんかはその被害の代表格なわけで。その証拠品が私でもあるってことだ」

「ん?待てよ」

 

 その子供が人間扱いされているなら、俺と同じ立場にあるはず。

 

「それだったらみんな大体そう言う子供ってことにならないか?どこかで薄くはあるけど、キャラの血を引いてるってことになる」

「間違ってないよ。基本的に幸福な人間が多いのは、そう言う性格補正を多く受けてるからって話になるし。君が面白いくらいに例外だ」

「いや違う、なんでお前が特例になるんだって話をしてるんだ」

「ああ」

 

 腕をポン、と叩いて話を元に戻す彼女。

 

「さっき『仮想空間とはいえ血のつながりがあれば能力も受け継ぎやすい』って言ったよね。あれの成功例が私なんだ」

「成功例?」

「みんな血を引いてるのは確かなんだけど、血を引いてるだけで何か能力を持っているわけじゃない。でも私は面白いことに、藍染ほどではないにしろ霊圧は高いし何もカードを持っていなくても鬼道を使える」

「勝ちまくりモテまくりができるってことか?」

「やったらその主とやらに釘刺されてデータ抹消されたけどね」

 

 何やってんだ!?というか、成功例ならなんでそんな仕打ちするんだ。

 

「あの時は楽しかったなあ。だって私だけSGPで色々細工できるんだよ?やらないわけないよね」

「え、お前が最初に勝ったとされるブルアカのSGPってそれやったわけじゃないよな?」

「残念、あれは記録が抹消された上に能力ロックが掛かってたから何もできない上で勝ってるんだ。爪を切られたら切られた爪の形を生かして立ち回る、が一番の勝ち筋だよ」

「恐ろしいものだな」

 

 実際騒ぎを起こしてから、その騒ぎの裏で立ち回る。なんだったら騒ぎを起こす人間を引き入れて、波を起こす側の人間になれたからこそ他者よりも上手く立ち回れるのかもしれない。少なくとも、不在時に何の問題もなくプレイヤーを潰して回った上で元気にしていたのが証拠なのだろう。

 

「ってなわけで、おそらくその滅却師とやらは私の素性を知った上で攻撃をしてきたんだろうね。君が狙い、ということはブルートワルツの手下か関係者だろうけども、だとしたら彼女は結構人の個人情報を持っているね」

「薄気味悪いな……ま、仕方ないか。じゃあしばらくはそいつらを追ってデータ収集ってところかな」

「そうなるねえ。先はまだまだ長そうだ」

「カミツナギ!おかわり!」

「はい」

「……しんみりするには早いってさ」

「ああ」

 

 いつの間にか向こう側にいるキアナがおおよそ40本くらい食べてる気がするし、なんだったら白米も食べてる気がする。気が抜けることは悪いことじゃない。俺みたいにあーだこーだ考えてるやつは勝手に力を抜くことができなくなってるから、彼女のようなマイペースさを見ることは救いのようでもあった。

 

 さて、そんな話をしていると足音が遠くからやってくる。

 

「ただいま」

「今戻った」

「おかえりー!こっちこっち!」

「焦らなくてもすぐ行くわ」

 

 なんだか騒がしくなってきたな。だが、悪い気はしない。

 

「俺もおかわり!白米食いたい!」

「余ってるから待ってなさい、アレイ」

 

 カミツナギには少しだけ寄りかかろう、その分はあとで返せばいい。

 

 

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