意地汚い野郎と、飄々とした女。
そこにクールビューティー。
寮の裏で、新しい波乱が巻き起ころうとしている。
「いやー、まさかね。本当に想定外だった。いや、いつも想定外だけど……ええ?」
「どうした?」
「ああ、うん。えっと君、もしかして錠前サオリ?」
頷く少女。名前は錠前サオリらしい。
驚いているもののやっぱりと言っている大和。
「自己紹介しようと思ったが……知っているのか」
「トリニティの歴史を個人的な趣味で調べたらアリウスのことも乗っててね、その中に君の名前もあったから。まあ、情報収集能力の賜物だと思ってくれていいよ」
「なるほど……いや、ある少女にお前たちのことを頼れと言われた」
誰か、大和を知っているのだろう。プレイヤーに吹聴されたのだろうか。
「ある少女?誰のこと?」
「ブルードワルツ、令嬢と呼ばせている女だ」
「ブルートワルツ……?」
「まじか」
食いついてしまう。
知っている、気になっている少女の名前を出されては仕方ないウブな心は、ついぞ落ち着きというものを見失った。
サオリは、そんなことを気にせず出す。
「やはり知り合いだったか」
「知り合いも何も……いや、知り合いだな」
あの話をしても別に意味はない。相手はプレイヤーではないのだから。
ダイブ前のあれも気になってきてしまっているが、余計に混乱させるだけだと首を振り、サオリに話の続きを促した。
「ああ……その彼女が言うには、大和という女か、アレイシアを頼れと言う話だった。貰った装備の使い方も知っているだろうとのことだと」
「ブルートワルツって、君が最後に戦ったあの……」
「そうだ。しかし、彼女が?」
「ああ。いろいろ頼るべきだ、と助言をもらった」
あまり話しても仕方ない、とアイコンタクトは大和は受け取ってくれた。
しかし装備か、見当はつかない。
彼女は何かもらったのだろう、懐からあるものを出す。
それは光ったカード。
「おいおいまじか」
「えぁ」
取り出したのはキャラカード。しかも5枚。
「えっキャラカード!?なんで!?」
「ブルートワルツから貰ったものだ。だがこれでも一部、大部分はマダムが持っている」
プレイヤーの減少はそのまま普通に処理された。それはスズミとの会話で確認できた。
つまり、アリウスの方はプレイヤーゼロで始まったはず。なのに、キャラカードが渡っている。
ゲヘナからも渡ったか、何て考えるが少なくともスタート一日目。ゲヘナから渡ったとしてもサオリが持ってくるなんていうのは時間が足りない。
しかもこいつ、マダムがなんなのかわからないが彼女のボスはキャラカードを大量に持っているとか言いやがった。
スマホを見る。だけど、参加者は前確認した時から減ってない。
「今大部分と言ったよな、一体どこで?」
「マダム曰く、大量の生贄から採取したと」
「ゲヘナについては?」
「特にそれに関しては関わってない」
大和と目を合わせる。
あり得ない話だった。
世界との乖離した異常を察知していたが、それはバグではない。
確かにアリウスチームは"そこにいた"、ということはトリニティの奴らもゲヘナの奴らも規定通りにやって来ていたことになる。
それから考えられることは一つ。
だが、そんな恐ろしいこと、前例が一つもない。何より動揺したところでどうしようもない。
「事態は思ったより深刻ではある、な」
その一言で限界だった。
俺は言えない。
『誰かが何者かの目的で意図的に減らした』
などと。
そうしてまで手に入れるフルスペックカードなんて価値はない、その力があればいいのだから。
だが、もし目的がそうじゃないとしたら尚更意味が分からない。
「どうした」
その言葉は聞こえていても、どう返して話を続ければいいかを見失った俺。
もう一人の方は少しだけ呼吸をして、落ち着いてから返答する。
「いや、大丈夫。ちょっと予想外ってだけだから」
「そうか」
「しかし、頼ると言っても何か?」
そうだ、それを聞かないと。訪ねてきたからには何か理由がある。
大和はサオリに質問した。
「ああ、そうだったな。お前達を訪ねた理由は助けてもらいたいことがあってきた」
「なるほど?」
「個人的な話になる。ある女を助けてほしい」
ある女。
どうやら並々ならぬ事情があるのはわかる。
「聖園ミカ、という少女についてだ。これに関しては令嬢の許可も貰っている」
「パテル派の?」
「ああ」
サオリは話を始めた。
現状トリニティを仕切るティーパーティーはフィリウス、サンクトゥス、パテルの三つの派閥に別れていた。そのうち、外交担当かつ過激派のパテル派、そのトップであるミカは政治掌握と全面戦争の準備のためにアリウスと共謀した上でクーデターを起こすつもりでいる。
だが、そのやり方はあまり得策ではない。サオリ達は俺達OSGPのプレイヤーを認識していることを考えればその正面衝突は"予想できない大量の力がぶつかり合う"ことに他ならない。しかもOSGP、マジで何が潜んでいるかは分からないのも恐怖を増幅させる。
いくら人数が減っているといえど100vs100に加えてそれぞれの学園の兵士が戦うというのは、何が起きるかわかったものではない。最悪キヴォトス滅亡も視野に入れる必要があり、それは避けたいようだ。
結果、仲間になったブルートワルツはサオリにいくつかキャラカードを渡して先行させて俺たちに協力させるために遣いとして出した。
「当然お前達からの要望もあれば聞くようにと令嬢からの指示もあった。ゆえにこれは仕事の話でもある、と言ってもいいだろう」
「なるほどなるほど、そいつらが来てから状況が変わってパテル派の行動についていくのは厳しくなった。もっと言えば、それを危惧して手を切ろうとした場合は何が起こるかわかったものではない、と?」
「あの女の事だ、きっと脅されたか何かと言って槍玉にあげてくるに違いない。マダムは研究に没頭しているため何も言ってこないが、彼女はそう言っていたな」
「ふむ」
さて、どうするか。
見捨てるという判断が正直妥当だと、俺は考えていた。
一つ、この話はいわゆるアリウス側の利益でしか語られていない。エデン条約までスキップしてからリソース戦をするのは正直なところ俺らからしたら普通なことだ。彼女らと違って命のやり取りではないから、早めに死ぬということさえなければ損はせず、生き延び続けたらそれだけ強いプレイヤーとして褒められる側にとっては正直手を組むことで一斉に炙り出して倒すチャンスを失う。
二つ、アリウスが窮地に立たされる方が実は都合がいい。これは純粋に、戦闘終了後にアリウス側が参戦タイミングを遅らせれば漁夫することができることを意味する。今わかってる情報でも、アリウスの生徒にはおそらくキャラカードが配布されている。ということは普通に銃を使うよりも強い奴らに溢れており、大体が訓練されたテロリストだ。政治的な問題で真っ向対立して内戦する、しかもパテル派だけが罪を被るとなればプレイヤー的にはトリニティのモブを利用した消耗戦を仕掛けられるし、ネコババで使えるカードが増える。
以上のことを考えれば、サオリに協力しない方がいい。その方が純粋に余力を残して戦えるからだ。アリウスの壊滅をミカの手柄になんとかしてしまえば結束力という点でも強くなる、というのは願いだが。
しかし、妥当であっても本当に正しいかどうかの判断は難しい。
ブルートワルツは態々俺に頼るように言ってきた、しかも奪ったとはいえキャラカードを渡して御使のように遣わしたのは正直自分たちがそう考えていてもそれ以上にメリットがあると考えてから言っているか、分からずとも現状がだいぶ悪化する何かを抱えているかに他ならない。
後者だった場合、もしかしたら"消えた400人のプレイヤーに関する"ことを知っている。もしくは、それとの関係性が不明でも、もっと大きなことが起きる予兆を掴んで自分たちへ知らせてきた可能性もある。
何しろ今回はイレギュラーが起点となったOSGP、普通だったら取るような手段でもそれ以外に気になった点があるならば安易に行動出来ないのは痛手だ。
「どうだろうか」
「うーん……私はすぐには答えられないかも」
「悩んでいるようだな」
「アイアン」
悩んでいるところにやってきたのは、話をつけて探していたのだろうアイアンだ。
「この女は?」
「アイアンって言って俺たちの仲間だ。同じチームだよ」
「そうか」
「小生はアイアン、貴様はサオリだな?」
「ああ。今は、少し依頼を出していたところだ」
「私から説明するよ」
と、大和はアイアンにこれまでのことを説明した。
アリウスの現状、プレイヤーが全滅してキャラカードは大体アリウスの生徒に渡ってしまっていること。それらを踏まえた上でゲヘナとの全面戦争回避のためにアリウス側から自分たちに止めるための細工を頼まれたこと、そしてそれが俺が最後にあのOSGPで戦ったブルートワルツという少女からの依頼でもあることを。
「ふぅむ、小生らに協力させるか」
「当然つっ返すという判断もありだよ」
「そうだな」
二人は俺を見る。
「なんだよ」
「貴様が決めろ」
「そうだね」
「おいあんな話でなんでそうなる!」
「ブルートワルツというのがどうも引っかかる。正直なところ罠の可能性も否定しきれないが、お前の勘を信じたい」
言い訳をどうしようか悩んでるうちに大和も、その意見に同調するようなことを口にした。
「私も君の判断を仰ぎたいかな。もし、何か気になるなら一緒に行くよ。正直なところ、真っ当にやって勝てないなら何かを知ってる人間のナビゲートを信じるから」
俺は判断を迫られた。
だが、正直なところ心のどこかではどうするか決まっていた。
ブルートワルツと出会ったあの空間のこと、あの宇宙のうんたらの話。気になることだらけだ、それに秘密があると確信したなら二人にも適切なタイミングに共有できるし、それはもっとムーブを最適化できるだけの力があると確信している。
「すまない、気になることもある。サオリに協力してもいいか?」
「ふ、その答えなら最初から決まっていたようだな」
「君はそういう人間だ」
「ありがとう」
そうして俺は、サオリの方を向く。
「決まったよ、サオリ。俺はお前に」
協力するよ。
その言い終わる前の刹那。
彼女の後ろに、光が奔った。
《余談》
おう、秋だぜ。らんかんだぜ。
少しずつ余談を挟みたいんだぜ。
今日の余談は『女性向けの作品の扱い』ですね。
このような作品を読むやつに基本女がいるかと言われれば怪しいところではありますが、この作品ではそういうメタ理由+そもそもこういうのに突っ込むやつに女性はあんまりいないとは思うので設定的にも『女性向けのSGPはあんまり開催されていない』設定です。
ここでいう女性向け作品、まあ『A3!』とか『うたプリ』とか『ツイステ』……この作品では実は『文スト』もそのくくりに入ったり(個人的にはあれ性別関係なくファン居そうだとは思ってます)。
そもそもやるには不十分だし、シナリオ体験コーナーみたいなものの方が結構ウケが良かったり。腐女子と夢女子は併発しやすいものですし、解釈違いとかで揉めてたりは現代でありますし。なのでSGPなどを開催すると解釈違いで殺し合ってまともな試合にならないとかが殆どです、ただこれは女子は〜みたいな話ではなく「そもそも究極のベーシックインカムが揃ってる状態で理性というものがいかに軽視されているか」という話です。極論SGPとかも「痛い中二病どもの祭典」ですし。
ただ、その影響か女性向け作品のキャラカードはあんまり規制が掛かって無いですね。
例えば一番知ってるのが僕ツイステなのでその話をすると、トレイ・クローバーの『
なのであー!核ミサイル飛んできたなー!って時は『薔薇を塗ろう』で適当なものに変えて『
みたいなのが罷り通るので、実はちゃんと攻略しようとする人は女性向け作品も見てたりします。あ、主人公のアレイシアは全く見てないです。
という余談でした、昔リリアの夢女に凸られたけどそのアカウントは消えました。アラビア人に奪われたので。
らんかんでした。