Never Says「Good by…」   作:らんかん

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ベロニカとの再会

 毎回変な用事に付き合わされるのは相変わらずで、それなのに夢くらい平和になろうと思ったら変なのが出てきて次の戦場のことを言い渡され……心の安寧は誰も考えてくれなかった。

 

 いっそ一回全てを吐き出して甘えてからやる気を出すか!なんて思い始めると、少しだけ気づいたことがある。

 

 みんなはもしかして心のどこかにやらなきゃいけないことを抱えていたのではないか?

 

「ふぁあ……はあ、変な夢見た」

 

 この世界にやらなきゃいけない事はない。だって仕事もなければそれ以上に娯楽で溢れかえっているし、それに浸る快楽には誰も抗えない。

 

 だけれども、見ている夢の中では皆英雄だ。酒場には英雄が沢山いるが、診察する歯医者はいないみたいなことわざがあったような気がする。

 

 英雄になれる条件は、結局やらなければならない事やとんでもない難題を超えていくカリスマなどではないか?つまり結局は皆“自分の最大限の障壁”を乗り越えるふりをして褒めてもらっているのではないか。

 

 努力しなくても英雄になれるが、結局耽美に溺れるのは皆の心が許されてこそで、なぜ許されるのかといえばそれ程の手柄を立ててるからだ。

 

 俺は案外、そういうのを持っていなかったかもしれない。正確にいえば誰にも代替出来ないだろう功績を持っていて、寄ってくる異性は沢山いて、男はまあ言い寄るけど俺の趣味ではないからどかして、その中で溺れるのが皆の趣味と言えた。

 

 はて、誰が満たしてくれるんだろうか。

 

「アレイ、おはよう」

「おはよう。どうだ、俺らの世界を管理してるやつが作ってくれた拠点は」

「結構住みやすいわよ。今からどこか行くの?」

「ちょっとな」

 

 扉を開けてパブリックワールドに飛び、散歩する俺。

 

 歩くたびに満たしてくれるやつは既に決まっていて、街に犇くガラスを覗けば俺に重なるように見えてきそうだ。ずっと街の輝きは消えないのに、反射する光は人を映す。

 

「ブルートワルツ」

 

 指を重ねて見ていると、なぜか彼女が見えている。奥の方には綺麗な商品が並んでいて、全て綺麗な貴金属だった。でも、彼女はいない。

 

 額さえも当て、ずっと見つめる。

 

 俺はどこかで悲しんでるのだろう。彼女に惹かれて、ずっと心のどこかで……喉から先に出せない何かを抱いて。どこかで彼女を捕まえて、戦って、そして_____

 

 リヴさんが言ったことは間違いじゃなかった。心のどこかで彼女に期待していて、でも俺はガッカリしたのかな。彼女が本性を表して、それでも嫌えなかったりしたのは。

 

「____」

 

 少しばかり、鏡の向こうへ笑って見せる。

 

 もしかしたら俺にとっては、彼女の存在こそが生きる原動力なのかもしれない。何かをしていて楽しいと思える人物が、ようやく居たんだろう。

 

 ようやく新しい光を見つけた、のかもしれない。

 

「アレイシア」

「ベロニカ」

 

 誰かと思えば、ベロニカ・グルース。俺と戦った、強豪のプレイヤーだ。

 

「こんなところで何をしているんだ?天下のアレイシアらしくもない」

「その言い方はやめてくれよ。俺は思い出していたところなんだ、ブルートワルツのことを」

「やはり好きだったのだな」

「……ああ」

 

 彼女の言葉に素直に頷く。

 

「好きだ。今も。彼女にキスされようとした時に途切れてしまったのが悲しいし、あの大会の最初に出会った時に見つめて話し合ったのもドキドキした。今こうなってしまって、少しばかり悲しくなったんだ」

「そうか。そうだな……」

 

 今まで押し殺していたのはきっと、自分はそうなれないという呪いが彼女への思いさえあやふやになってしまったかもしれないから。少しばかり蓋を開いて入ってきた突風は、少し冷たくて痛いから身悶えした。

 

「ところでベロニカ。アシェイラは?あのあと結構怒ってそうだったが」

「彼女なら問題ない。しばらくは怒っていたが、貴様の仲間と話し合って状況を把握して真面目に戦う気だったのか少しばかり機嫌を直したようだぞ。ブルートワルツの確保も手伝う予定だとも言っていた」

「本当か……!」

 

 珍しく本気の笑顔をしたかもしれない。

 

 もし、ジャック・ユウグレの話が本当であるならば彼女ほどの適任はいない。黄金裔のことを知り尽くしている……いや、借り尽くしている火種の泥棒猫が仲間になってくれるとは、前向きになると運が巡ってくるもんだ!

 

 最も舞台が違っても、それだけの実力がある彼女が味方にいることのありがたさは変わらない。

 

「よかった……彼女が居てくれるだけでも百人力だ」

「ああ、よかったな」

「ベロニカも来ないか?」

「私、か」

 

 少しばかり、申し訳なさそうに下を向く彼女。

 

「私は、迷っている。迷っているだけならともかく、正直なところ行けないかもしれない」

「どうしてだ?」

「……弱いから、だ」

 

 珍しく彼女が後ろ向き……いや、あんまり知らないからそう言ってもか。

 

 だが少なくとも、自信が無いのは確か。

 

「私は確かに二度優勝して、強いカードを手に入れた。だが、その程度の人間では太刀打ちできないのだろう?」

「っ……そんなことはないさ。お前の友達のアシェイラだって、活躍してるんだぜ」

「私と彼女は根本的に違うんだ」

 

 えらく後ろ向きだが、俺だってそんな時もあるんだ。仲間だし、当然逃げたりすることはなく聞く。

 

「彼女はプレイヤーを殺したりできるし、その実力もあってあのように大量のカードを獲得している」

「ゴジュウウルフに負けた人間を持ち上げても仕方ないだろ」

「それでも私と彼女の差は変わらない」

「……」

 

 俺にはなかった、劣等感。生きる痛みの代表格か。

 

「だから、私は行けない。彼女は一人で、オンパロスの、記憶の荒波に勝った。私はただ、歴史上の人物に後出して勝つこと以外はしていない」

「じゃあ別のを手伝ってもらっていいか」

「え……?」

 

 彼女から、少しばかり素っ頓狂な声が出る。

 

 確かにベロニカは一般的なプレイヤーかもしれないし、それが心の枷になって動けないなら仕方ない。だがしかし、彼女が同行しないなら同行しないで結局別の手伝いが必要だから今頼りたいことを話した。

 

「アシェイラから聞いたと思うんだが、最近妙な連中がバトルエリアをパブリックワールドに作って攻撃をしてきているんだ。ブルートワルツの一件が頂上決戦すぎてどうしても怖い、ついていけないってなるのは分かるけど、この件ばかりはお前にも協力を頼みたいんだ」

「それは構わないが……私でいいのか?」

「お前じゃないと嫌だ!」

「そ、そんな告白みたいな」

 

 肩を掴んで揺さぶって頼む。

 

「確かに上と比べて嫌かもしれないが、上の奴らってスポンサーで話し合いとか多いけどろくな友達はいないか行方不明になってるかの二択で手が全然足りないんだよ!リヴさんも一応プレイヤーっぽいけど今も強いか分からないし、それに相手が複数人で出てきた場合結構対処に時間が掛かる!その間にブルートワルツの策略が発動したら元も子もないし!」

「だが私はそこまで強くはな」

「戦闘力だけで全てどうにかなってるなら苦労はしないんだよ!戦闘能力的にも俺が相手に苦労するレベルの人間で、交友関係広そうなお前に頼るしかないんだ!」

「い、いや確かにサークル持ちではあるんだが」

 

 アシェイラのことを信用しているのは確かだ。

 

 いくらノーマルカードとフルスペックカードの戦いとはいえ、ギフトなしのガウェインにライダーのスペックで直ぐに負けたというのは技量があってこそ。ショットライザーを破るまで言った彼女の技量は、正直そんじょそこらのプレイヤーにはない。

 

 それに彼女は周りと比べて素直かつ聞き分けがいい……といえば彼女の名誉に傷つくかもしれないが、少なくとも性格に癖はなかった。アイアンは割とツンツンしてて、大和のやつは何考えてるか不明。アシェイラは俺に対しては割と棘を隠してないし、レイジに至っては自由奔放すぎて話にならない。

 

 カミツナギは話していると異性特有の押し付けがましさがあるから甘やかされてバブバブするのは良いかもしれないが深い付き合いになったら嫌だし、リヴさんは母性があって押しかけたいとは思ってもレイジを差し置いて出しゃばりたくない。彼女が矢印向けてる男は逆に俺でガードしたいのかもしれないが。キャラカードの連中に至っては正直気後れあって目も合わせ続けたら疲れるレベル。

 

 と、考えると狭い知り合い関係では目の前の人間が頼り甲斐があるとも思った次第だ。自己肯定感が低くとも、コミュニケーションをとっていけば多分ゆっくり治せるはずだから。もしくは彼女はそこだけは劣等感を感じても、他のこととは切り分けて考えられるほど大人か。

 

「サークル持ってるんだったら尚更頼むよ!気軽に頼める奴がいなくてどうしようか悩んでたから!」

「わ、わかった。わかったから……協力しよう。ちゃんと。だが、アレイシア。それなら私もお前に頼みたいことが一つある」

「なんだ?」

「少しばかり、時間をもらってもいいか?」

 

 頷く。

 

 協力してもらうためには当然代価が必要だが、代価は人によるからな。聞かないと。

 

「少しばかり手を握っててもらえるか?」

「あ?ああ」

 

 彼女の手を握る。

 

 少しばかり温もりを感じるが、外側は冷たかった。俺がこんなところで長話したせいかもしれない。

 

「今からどこに行くんだ?」

「さっき言っただろう?私はサークルを持っていると、だからそのワールドに飛ぶ。パブリックワールドだが、大きな建物をいくつか所持しているからな。少しばかり踏み込んでもらおう」

「な、なんだ。怖いところじゃないだろうな」

 

 ワープ用の光の束が俺らを包み込む中で、ベロニカは俺の方を向いてウインクする。

 

「なぁに、マフィアの本拠地に連れて行くとかではないんだ。私のサークル……いや、企業でもありギルドの一つ」

 

三千帝国(ドライタウゼント・ライヒ)に招待しよう」

「え、ええ、えええええええーっ!?」

 

 実質マフィアの連れ込みじゃねえか!

 

 というツッコミも虚しく、俺は彼女と共に光へと消えた。

 

 頼んだ手前断れないが、悪いことは起きないといいなぁ_____

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