ストリートはもうすでに酷い有様だ。
恐らく三千帝国のメンバーだっただろうやつが拠点の前に倒れ伏し、重なるように襲ってきている奴らが倒れていた。
「おい大丈夫か!」
近くのやつに近寄って、肩を揺する。
敵じゃない、と分かったのは肩に三千帝国のエンブレムを入れてる熱心なやつだったからだ。
「あ、あれ……」
「よかった息はある。ベロニカ!」
「おかしい、っス、ね……アレイシア……が……」
「喋るなよ。おかしくない、近くを通ってたらこの様だ。しばらくは息を整えて痛みに耐えろ」
ベロニカが救急セットを持ってきてくれたおかげで、すぐに応急処置に入れた。ピンセットで急いで破片などを抜き、確認してから縫合し、そのまま服を被せて担架を要請。
三千帝国の建物そのものはプライベートエリアとして防護されているのを見るに、あそこまで下がれば大事なはずだ。
幸いにも、命に別状がない段階で助けられた上で、戦闘場所は遠ざかっている。
「アレイ、シア……この目で見るのは、初めてっス。あっし、有名人に会えるほどの幸運を使っちゃったんすね」
「よかったな、その有名人が応急処置出来る人間で……よく頑張った」
「えへ、へ。嬉しい、す」
口から流れた血も拭えないままに笑ってる彼女。
仲間のためにここまで命張って戦える人間は誇り高いと思う。そう思っていながらも俺は一人の方が気ままでいいのだが、それでも彼女が命を賭した事に素直な尊敬を抱く。
「あとは任せろ。俺がこの戦いぐらいは終わらせてやるさ」
「……じゃあ、これ、を」
目の前の少女から、あるカプセルを貰う。
「あ、れ?モンスター、ボール、じゃ」
「おいおい、何、を」
笑おうと思ったら笑えないような状態になった。
彼女と俺を見下ろすように、黒い影が立っている。その影には白い髪と、赤い襟が見えていて、まるでユーハバッハの亜種みたいな……いや……!
「ダークライ!」
「う、う、あ」
流石に傷が深くなってきたのか、少女が咳き込んでうずくまっている。
「無茶するな!こいつが嫌だったとしても頑張って折り合いをつけるしダメだったら自前の腕でなんとかするさ!」
「あっし……は……」
「アレイシア!」
ベロニカともう一人がやってきて、彼女を担架に乗せる。目の前のダークライに関しても、きっと俺ならなんとかしてくれると信じているのかそいつがご主人様を守るやつなら手を出さないと分かりきってるからだろうか。
急いで建物の中に避難している彼女達を見送って、俺はダークライに目をやった。
「お前が何を考えているのかはよく分からない。だが、こんなガシャポンのやつを主人から俺に渡させるってことは、きっと何かあるんだろう。恨み言とかさ」
実際それだけの理由はあった。
中に入ってくるまでには時間があったことも含めて助けに来なかった強者に対しての恨みは、相当なものだ。自分のトレーナーが憧れていたやつが近くにいたのに助けなかったなら尚更。
だが強者も人間で、常に優遇されてるわけでもなければ優先順位を組む自由だってある。
「……」
相手の手が白いものを持ち、此方へと差し出してくる。
二つの穴が連続している、恐らく変身用のベルト。さっき貰ったカプセルみたいなのがピッタリハマりそうな形。
「多分なんとかドライバーだとは思うんだが見た事ない。それに持っているんだったら、お前は自分の」
「これで良いのだ。私は、お前を待っていた」
目の前のポケモンは、口すらなくともテレパシーかそれに類する力で語りかけてくる。
「あの娘は私を手に入れた後も驕ることはなく、ただ自分の立場と実力に準じ、それを拡大する努力を怠らない様に生活していた。逆を言えば、今すぐに越えねばならぬ危機を越えるには、彼女では無理だ。憧れの英雄でなければな」
「あいつはそれでもできる限りを尽くしたし、味方が居れば越えれると思ったからこそ逃げなかった。素晴らしいトレーナーに会えて良かったな」
「だが、それでも私は、この力はお前に託すべきだと考えた」
差し出されたベルトを受け取って、彼の語りを待つ。
「お前はこの先、不幸を経験する事になる。オンパロスに行く前に、終わらせるべきものがあるからだ。それはお前だけではない、仲間にとっても同じ事」
芽衣のことだ。
彼女と何も話せてないし、何を話せばいいかもわからないし、どうやって接すればいいかも理解できてない。
彼女は俺を恨んでいるのには違いないと割り切って、その罪を直視できていないから俺は回りくどい偽善ばかりで遠ざけていたのを見透かされていた。
「だが、力の一端を託せば、意味はある。私とあの娘が信じていることの証。物的証拠、新たなライダーとしての力を授けることがお前の後押しになる」
「信頼、ね」
「お前を信じていること、愛していること、憧れていること……どの感情も、向けられた人間に唯一の価値を簡単に付けてしまう感情だ。人間同士の繋がりは、一切の複製が出来ない。当人同士の時間が感情の形成に繋がる故だ」
視線が俺を捉えたまま、その言葉は激励に変わる。
「忘れるな。お前を思う存在は確実に居て、たまに忘れていても思い出しては応援する人間が何万人と、何億人といることを。その感情を言葉にできるのならば、きっと待ち受ける不幸を超えていける。私は、いや、いずれ出会う”我々”は、アレイシア・ガレットピアを信じているからな」
「へっ、人違いじゃないといいな」
眼の前のポケモンに、ウィンクして応える。
「ありがとう」
微笑んだように目を細め、影に溶けていくダークライ。
その反対側から、声がした。
「ようやく戻ってきたぞ!三千帝国の前に!」
「ここまで来たならプロテクトを突破して」
「そうはさせないぜ」
やってきた、二人の敵の前に出る。
「アレイシア・ガレットピア!」
「よっ、待たせたな。お前らの狙いだ。100%とはいかないが」
「手間が省けるな。貴様を持っていくのが党首の司令だ」
「俺も同じだ。お前ら二人を拘束して持っていけば、いい金になりそうだ。情報もな」
自然と、使い方を理解してた気がした。
胸につけるとスムーズに装着される。
「こいつらと手を組むことになったんだ。悪いが容赦はしないし、ついでにこの力のテスト台になってもらうぜ」
起きるまでに見てた夢で、ジャックの野郎が持っていたのがゼッツだったこと。それに呼応するように、夢に関する幻のポケモンが出てきたこと。それが、このドライバーの使い方を理解させたような気がした。
《シャドウ》
上のボタンがあるところを倒すと、ベルトの本体が傾いて待機音がなり始める。
「なんだ、そのベルトは……?」
「名前も知らない、どんな能力があるのかもしれない、姿さえ分からない、まだ発掘されていないライダーの姿だ。よく見ておけよ、お前らにとっては最初で最後のコンタクトだ」
左手をカッコつけて、なんとなく顔に重ねる。指の隙間から敵を二人、少女のことを見つめた。
「変身!」
回せるようになっている本体をそのまま一回転。少しばかり摩擦があるのか、回す手は重く感じる。
「ライダー!ノクス!ノクス!ノクス!」
2つの影が出てきて、それが回転したら斜め前で合体してドライバーへと吸収されていく。そのまま胸のあたりが重くなるが、薙ぎ払うように手を振ると吸収されたベルトから一気に自分へと纏わりつくことで変身シークエンスを駆け抜けていく。
「シャドウ」
変身した俺の姿。
青と白の2つにきっぱり基本色が分かれ、俺から見て左が青、右が白。青い方にはオレンジ色のラインがあって、白い方には黒のライン。
スタイリッシュでありながらも、体のラインと増強された肉体に合わせた姿はスリムでありながらもマッシブさを兼ね備えている。
「なるほど、やっぱゼッツ関連だったか。あいつのせいで物語が固定化されたのは少し不満が出てくるが、まあいい。お前らをぶちのめすには十分だ」
手元には大きな剣があり、そのまま一回振り回して攻撃。相手も受け止めるが、打ち合った時の力の弱さに若干の戸惑いを感じる。
押し潰そうと力を強めたら呼応するように相手は受け止めた刀を絡めてそのまま俺の体勢を崩すように回して押す。
「おいおい!」
「お前はここで仕留める!舐めた真似をしたことを悔いるといい!」
「そうだな」
自分の体が、自分の影にのめり込んでるのを妙な重心の崩れで察した。脛を地面に囲まれている感触が追うように出てきて確信して、そのまま身を任せる。
暗闇に目が慣れないまま、光が出てくるところを見て動き方を察する。
海だ。光がある場所が、多分誰かの影だろう。
ならばやることは一つ!
「よっ!」
「なんだ!?」
上半身だけ影から出して、剣を振り回して相手の足の靭帯を雑に切る。
「いっ……」
「てめえはお縄につくまでこうしてろッ!」
勢いで服を掴んでもう一回影に潜んで無理やり地面に埋めて、口と動かなくなった足は出しておこう。味方がこいつの無力感を理解してくれるはずだ。
さて、ここまで来たらもう一人。
「な、なんだ……わたしは、聞いてない!」
「あるあるだよな。俺もよくそんな目に遭ってる気がする、いや、前の大会は味方がいたからあんまりそう言った被害を喰らってないような……まあいい。どの道、後悔しても遅いことには変わりないからな」
《ランチャーモード》
手に持っている武器をそのまま影から出てきて新距離で突きつける。
「どうだ?おとなしく投降する気になったか?OSGPでもないが、そもそもお前程度の人間にさして興味を持つような奴は仲間にいないから殺したり凌辱したりはしない。だがここで争えば、最悪ゲームオーバーまで持っていく必要がある」
「誰がお前に」
「考え直せよ。もう一度言う、ここはOSGPじゃない。ただのゲームエリアだ。殺した後、どこに離脱するか知っているか?そして問う、どこに離脱すると思う?」
「それは……」
俺と、彼女の影が重なる。
濃くなるたびに、視界の端が、
「答えてあげる」
後ろから、青白く、空間を歪ませる光が迫ってきた。
こんなもので自分も相手も命を失っては世話ない。と、影へと引き摺り込むように相手の首を掴んで沈み、回避を試みる__________