Never Says「Good by…」   作:らんかん

73 / 78
エスパーニャ

 陰から這い出る。

 

 幸いにも三人揃ってダメージを受けずに済んだが、尋常ではない火力を平気で出してくる奴がいる事は確かだ。

 

「あら、外しちゃったのね。残念」

「残念じゃねえよ、仲間ごと吹き飛ばそうとしやがって」

「仲間?あれが?冗談じゃない。よく見て、私が誰か」

 

 光が収まり、輪郭という影が現れて相手の形を目に映し出す。

 

 茶色の長髪、白い肌、女性とはっきり分かるプロポーション、そして_____

 

 正体を一切隠そうとしない大艦巨砲主義の砲台と、それで分かるはずの正体が分からなくなるような白く禍々しい牙で構成された仮面。

 

「あぁ……?」

「分かりませんか?」

「生憎お前に興味を持つような頭をしていなかったようだ」

 

 挑発すればもう一発、さっきの超高出力ビームが飛んでくるが建物の影に隠れる形で回避。隠していた二人の生捕りは影の中で気絶させておいてまた目の前に出る。

 

「悪かったよ。で、なんだお前」

「そうですね。私の名前、“貴女”がキアナをブルートワルツと呼ぶように……私もまた、こう名乗りましょう」

 

 

 

 

 

「ペガール・エスパーニャ、破面(アランカル)の艦娘と」

 

 

 

 

 

 

「随分と面白い冗談を言うんだな。破面の艦娘か……は?」

 

 意味わからない。

 

 なんで艦娘が破面になるんだ。あれ自体は死んでいるわけでもないから、魂魄が虚になるなんてのも無いはずだ。あれか?物には魂が宿るとか言うから虚にもなれるみたいな。

 

「おいおい冗談じゃないぞ。俺はな、お前みたいな話の通じなさそうなやつと戦うために此処に来たんじゃないんだ」

「それはお互い様でしょう?貴女は私達が感じた怒りを知らない。本来生きていくはずだった人生をゲームという区切りで奪われ、そして私は存在意義を奪われた!あのゲームさえなければ!私達は!」

「そうか、なるほどな……ブルートワルツの名前も出したって事は、本当に和解も出来なさそうだ。恨みあるまで言ったら尚更な」

 

 エスパーニャと名乗る女は、主砲や武装を全て刀に戻して構える。

 

 そうか、破面には帰刃か刀剣解放か、そういうものが付いているんだったな。

 

《カリバーモード》

 

「真正面から、受けるのですか?」

「お前相手に銃弾で決着を付けるのは無理だろうな。真正面から叩き潰した方が良さそうだ、綺麗な形をしていても所詮鉄塊だからな」

「その口を2度と開けなくしてあげましょう!」

「仮面越しの口を縫えるか試してみろやその鈍で!」

 

 互いに捨て台詞を吐いた後に、刃が交じる。

 

 押し込めば下がられて重心を崩されそうになる罠を避けるべく止まり、その静止のタイミングでの薙ぎ払いを力を抜いて刃を傾かせてそれに合わせた姿勢でガード。無理矢理振り上げてから真っ二つにしようとすれば、見越していたのかエスパーニャは敢えて踏み止まらずに下がって回避し、再び読み合いのフェーズに入った。

 

 もう一度、互いの呼吸が整ったタイミングで踏み込んで攻撃。片方が振り下ろせば勢いを殺すように刃を抑えて止め、返す刀で殺すように切り上げてきたら角度を変えて届かせない位置に刃を置く。

 

 防ぐ、防がれる、その繰り返し。

 

「何の捻りもなく攻撃を続けるなんて、らしくないですよアレイシア」

「考えずに勝てそうとは思ってたのは認める」

「失礼な方ですね」

 

 流石にそれで勝てたら苦労はしないか。なら、仕掛けるか!

 

 相手の一撃であえて力を抜いてのけぞるほどに後退すると、追い討ちで素早く飛んできて突きを出してくる。胸の辺りにベルトがあって、リーチも一番保証されているのであれば間違いない攻撃の仕方だ。

 

 彼女の刃が届きそうなタイミングで沈み込む。

 

「失礼するぞ」

 

 足元に出来ている影に入り込んで、そのまま足をズタズタに_____

 

「捕まえました」

 

 聞こえた瞬間には遅かった。

 

 影に入ったタイミングで喉を掴まれ、中途半端に逃げられないまま引き上げられる。

 

「そろそろ影に戻る頃だと思っていました。小型の駆逐艦などは、多少乱暴ではありますがこの手のやり方が通用する時があります。私達は船ではなく、あくまで人間の体を持っている。至近距離戦闘のやり方も、知らないはずはないでしょう?」

 

 喉を締める力が強すぎて喉は痛いわ耳鳴りするわ、ろくに反抗できない状態だ。このままだと死んで当然のところまで行ってしまうが、反射神経で首から手を離そうとする動作で逆に身動きが取れない。

 

「苦しいでしょう?人が溺れる時には、なぜか喉を掴んでしまう習性があります。チョークサイン、とも言いますね。空気が出ず、入ってこないが故にとんでもない息苦しさを感じて、足掻いてしまう時の自然なサイン」

 

 空いている手で持っている刀を腹に刺されて、声も出せない上に何を発しているかもわからない声をかき消すような耳鳴りと鼓動で悶えた。

 

「私はあなたを恨んでいるわけではありませんよ。ですが、こうしなければいけない理由があるのです」

 

 耳だけはハッキリ聞こえ続けるのは謎だ、もしかして最後に死ぬのは聴覚と……似たような理由なのだろうか。

 

「OSGPというゲームが生まれてから長い年月が経ちました。エレクワールドの主が多少の歴史改竄をしたのも含めて、自分たちは長らく屈辱に晒されてきた……いえ、それは正確な言い草ではありませんね。明確に救われた人間もいれば、そうでない人間もいた」

 

 影が崩れ落ちて、雨が降り、それが肌を伝い、服を濡らして流れた血と共に煙る。

 

「私達はそれを自覚することはなかった。自覚していたとしても、立証しようがなかった。こういう世界があると聞いていたとしても、実際に見聞きしたわけではありませんから。ですが、この世界を知った時に、救われたかどうかの有無が関係ない不幸を私達は知ってしまった」

 

 ハッキリと、憎しみのこもった声が聞こえる。

 

「私たちの世界は!そのまま終わって行ってしまった!どれだけ頑張って深海棲艦を葬ろうとも、物語として人型兵器の有無などで市民たちの抵抗と差別を受けようとも頑張ってきた私達に、知らない結末が生まれた瞬間等しく全てが無に還った!そこにあったはずの文化も日常も戦場も何もかもひっくるめて、海どころか虚無へと消え去ったんです!」

 

 間違いない、と思ってしまって例え元気でも言葉に詰まっているかもしれない。

 

 俺が芽衣に思っていることでもあるし、それがどれだけの意味か知ってしまったからコミュニケーションを取れずにいる理由をエスパーニャは高らかに叫ぶ。

 

「私達は平和になるのであれば、兵器として戦ったことにも意味はあった!だけど世界が始まり、終わった時に全てを悟った!戦いが始まったことも、終わった理由も、全てこの世界からの一方的な創造だった!そのために、そのために矢矧は死んだ!私を共に戦っていた時に魚雷を受けて!」

 

 刀がコンクリートを切り裂いて、その軋みが耳をつく。

 

「なのに楽しんでいた側は何と言ったと思いますか!?『史実の再現で感動した』とか『戦力不足が懸念される』とか、全て自分本位で気持ちよくなるための方便を口から吐き出すために私達の戦争を全て現象として片付けた!」

 

 戦艦大和は確か、矢矧が庇った後に……いや、明確には同時に死んだとかあったな。あいにく俺は名前にガレットを含むくらい日本に縁もなければミリオタでもないから知らないが。

 

 ともかく彼女の怒りは凄まじい。

 

「その為に、その為だけの戦いだったなんて知らなかった!そんな感動のため”だけ”に私達は生まれて戦った!人の形をしていればエンタメになるからというだけで女になった!それを知らせないためだけに、世界を終わらせて、ただのカードになって、私達は!」

 

 彼女が死んで行った者達のことを思い出して慟哭し、その途中で俺も悔やんでることを口にした。

 

「……俺、は」

 

 睨むでもなく、敵意を含ませるでもなく、ただ目の前に嘆き憎しみ以外に体を突き動かす戦い方以外を忘れた相手に向けて、言葉を出そうとする。傷口を抑え、息を整え、激痛に喘ぎ、ただ自分が抱えていた歪みを口にした。

 

「シン、のこ、と、を、くやん、で、る……」

 

 彼女が自分と行動したから誰かに殺されたのかもしれないと思っていて、その後悔を目の前の人間に投げかけるだけで、そこから先は言葉が出ない。

 

 そもそも彼女と一緒にいなければ、死ななかったのではないか。ただ一瞬の楽しさだけで、そこから先の全てを奪ってしまったことを考えれば馬鹿野郎もいいところ。その怒りをぶつけられる理由はある上、それを本人から言われれば命を差し出すつもりであった。

 

 世界の存続も大事だとはっきり言えるが、正直なところエレクワールドと彼女の憎しみと天秤にかけた時、どちらが大事かと言われれば自分の価値観なら彼女を楽にすることだ。

 

「お前は、誰に、不幸にされた、んだ。世界、か、誰か一人、か……ぜん、ぶ、か……」

 

 どうすればいいかわからないままに、俺の瞼は閉じた。開けれるほどの体力も残ってないし、耳は聞こえてるが多分返事もできないだろう。

 

「この世界の全てを壊せば、私の生まれた意味すら消える。私はこの世界がなければ生まれることもなかったけれども、生まれた意味を考えるなら世界も歴史も存在しなかった方がいい。全てが電子制御によって構成されているエレクワールドを壊せば、全てが無に還る。ゲームの終わりのように」

 

 彼女の、少しばかり諦めて、乾いたのに柔らかい安心する声。

 

 身体が浮く、引っ張られる感覚がして、その上で何もかも遠ざかる。

 

「世界を壊せば、隔離されていようとも人は生きていけなくなる。あなたを今ここで殺す理由もないので、そのまま餌として生きていて貰いましょう。因縁の決着も、全てを奪われた絶望も、元気なまま、全てその目で……」

 

 俺はもう抗えない。

 

 次に目が覚めた時、生きているかもしれないがその身体は無事ではないはずだ。明確な目的も口にした今、俺を動けなくするのも当然。

 

 だが、もう動けない以上は受け入れるしかないのか。

 

 すまない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰に、謝っているんだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。