「驚いた。エスパーニャに仲間がいない訳はない、とは思っていたがその仲間にザ・ボスがいるとはな。これじゃコップキラー程度でどうにかなら無さそうだ」
接近戦はまず勝てないから銃口を下げる理由もないが、引き金を引いたところでちゃんと当たりそうもない。
だが、銃弾が当たるまではどっちかは分からない。案外俺が下手すぎて当たるかもしれないし。
「で、その伝説の英雄さんが俺のスカウトに来たって?信じられないな。自分の弟子たるビッグボスを共に連れて行かず、身も知らないどころか軍人の知識もない俺を説得して……本当にザ・ボスか?」
「スネークは戦う理由を求めていて、戦いにしか生きられないと囚われた人生を送っていた。だがお前は違う」
「スネークっつうと知ってる限りで+2されるから名前を言ってくれないか。俺が知っているのはソリッドとリキッドだ。ソリッドにはデイビットって名前もある、後者はあるらしいが俺は知らない」
「ではジャックと呼ぼう」
彼女の表情は変わらない。
「で、そのジャックさんに勝ってる点がなんだって?」
「ジャックは私が育てた兵士だ。戦いに生ける戦士として育て上げ、そして彼は戦いに命を捧げた。それを否定するつもりはない」
「その育てられたお前を模したAIが平和を謳い、それを”何の精査もなく信じた”からこそ戦いというアイデンティティのために傭兵のための世界を作ろうとした……なんて話だったな。もっとも考えなしってのは俺の個人的な意見だが」
結局ママルポッドとやらは誰かが目の前にいる女と同一視し、その行動を真意だとしたのは正直な話意味が分からない。殺した女のことをずっと引きずるな、は俺には言えないが。
「この世界の人間も同じだ。ジャックのように、いや、兵士のあるべき姿のように”自分という役割”を忠実に実行している。その役割が離れることがないからこそ、心に傷を負うこともなく、殉じることが出来るのだろう」
銃口を下げた彼女に合わせて、俺も下げる。
「何故下げる?私は敵なのだぞ」
「最初っから説得しようと言ってて銃口を今下げた、なら礼儀に従うさ」
「そうか……まあいい」
話を続けるザ・ボス。
「今お前は銃を下げた、それが答えだ。あの時とは逆、お前は私達と共に戦うべきだ」
「もっと細かく答えてくれよ、理解できないぞ」
彼女は上を見上げる。
空の黒煙は治りつつあるが、曇りはまだ続いていた。
「今、お前の心には雲はあるか?」
「例えば?」
「辛いと抱え込んでいること、ずっと何かに縛られて楽しめない気持ちがあること、はっきり言えば
引っかかる言い草だが、とかくコミュニケーションを取ろうとする相手に失礼のないよう考える。
だが、確かに変だ。
エスパーニャに負ける前まで考えていたことが
「……ないな。どれもなんか、解決策があるように見えてる。解決できなかったら、ぶつかるしかないか。みたいな」
「ではもう一つ聞くぞ。あの大会の後にお前を可愛くした人間のことを覚えているか?」
有名人としての”アレイシア・ガレットピア”、声が芽衣と同じになって、可愛い顔と髪型になった日のことだ。
無論、直接関わったから覚えて_____
あれ?
「思い出せるか?」
「あ、れ?おかしいな。身分どころか顔も思い出せない。場面がギリギリ思い出せるのに、何の言葉を交わしたかも覚えてない!」
「その瞬間から、本来のお前が奪われたのだ!」
「何のために!」
思い出せない動揺で、別に急激な体調変化もない。何なら半ばギャグのノリだが、少なくともその事実を突きつけてきたやつを見る。
「
「どうしてだよ」
「本当の人間の出現は、今までやってきたすべての努力を無に帰すことに他ならないからだ」
人々の鬱や格差などを是正する、架空のキャラクターの交配システム。
自分の思い通りになる異性の確保、失敗作のいない子供達、自分重視で生きられる上で”親の役が自動的に完璧になる”という抗い難い真実。
自分の親がどうとかっていう情報がないからそういうもんだと思っていたが、もしやこいつが言っているのは”そういう血が一切入ってないぞ”と言いたいのか。
「お前が新たな潮流を作り出せば、人々はまた比較と差別による階級社会へと回帰する。それを恐れた神が、お前をあのような箱に収めた。だが、エスパーニャが解放してようやくその枷は解き放たれた。自由になったお前が作る、人の世界……その世界が出来上がれば、エスパーニャの願いも、私の理想も実現する。人々が物理的に、簡単に繋がれる世界で、統一されれば分断することもない」
各々がそれぞれの趣味嗜好に走るだけの世界で、俺が
話終わった後で、彼女は問う。
「お前が今のままでいる為には、この世界の神を滅ぼすしかない。どうだ?」
「じゃあ交渉決裂だ。お前の話に興味はない」
洋画みたいなノリでバッサリ断った。
「俺はお前の思想に一度たりとも同調した覚えはないし、そもそもお前の考え方を認めた覚えもない。何だったかな?『宇宙から地球を見た時に国境はなかった、世界は一つしかないことを悟ったから統合したい』だとかほざいてたな」
「『賢者達』によって世界は統一され連合国は敵と戦い、勝利した。大戦後にはバラバラになったが」
「へえ?じゃあお前はドイツ人だの日本人だのイタリア人だのを”異星人”だと思っていたのか?世界は統一されて敵と戦ったってんなら、なぜ同じ地球にいるそいつらは統合できてないんだろうな?」
相手の顔が少しばかり険しくなった、苛立っているんじゃなかろうか。
「お前はMGS3で賢者達を再び統合して世界を一つにすると言っていた、それは賢者達がいた極秘協定による
枢軸国側と戦争していて、その時代に活躍したコブラ部隊。彼女達の活躍は確かに凄かったが、結局それは”同じ星の味方ではないやつ”に対して牙を向いただけ。
「米ソの分裂以後、冷戦などの科学力競争で宇宙を見た時に国境はなかった?ないだろうさ!国境にいちいち丁寧にライトをつける意味はないのだから!それで世界は一つだ、統合されるべきだ?おまけに
国境があるのは当たり前だ、文化が違うのだからグラデーションのような形ではあるが文化圏という形で領域とその文化の境目が生まれる!
「てめえがそのような幻想を抱いた時誰を殺したか言ってみろ!」
拳銃を向け、それと同時にカードを起動してベルトを装着する。
相手は何も言わない。
「枢軸国の人間を殺して宇宙に上がったら世界は一つだったなんざ妄言だとは思ったことはないのか?コブラ部隊が居心地良かった、それはいい。だがそいつら”以外”の共生は?兵士だから政府や賢者達に従った、ならお前に世界を語る資格はない!」
「あの時、世界は確かに繋がっていた」
「だから従わない奴は殺せばいいってか!?面白い冗談言えるんだな!」
嘲笑う声を止める気はなかった。
「で、お前は宇宙を見た後に世界は一つだったと悟ったお前は何をした?その意志実現とは何の関係もなく兵士という仕事に甘えて侵攻作戦に行った挙句に国の支援がなく裏切られたと喚いた!忠を捧げたのにとかほざいて!」
「愛国心だとか兵士だとかビックボスに散々偉そうな講釈を垂れて、結局理想は”呉越同舟を平和だと勘違いした”だけじゃないか!それが終われば分裂は当たり前だ、生き方も言語も違う奴らがずっと肩を組み続けることはできない!」
近所の友人と喧嘩する時があるように、同じ人間同士でも互いに反発しあう時がある。歴史という大きな教養に記されるだけで、国同士の関係も変わらない。なのにも関わらず”ずっと仲良しだといいな”なんて
「しかもその幻想を抱いた時に、自分たちが誰を殺したのか、誰と敵対していたのかさえも忘れていた!敵を認識したのは
「自分勝手な米畜の雌豚が!」
これが俺の答えだ。
他人があるように、知らない集団があるように、自分たちとは違う”国家”があるように、必ず線引きがある。その線があるからこそ”自分”があるし、”他人”だって生まれる。
それをありのまま肯定出来ない生き方をして、排除するような仕事をしておいて”世界は一つだからありのままの世界を残すために最善を尽くそう”などとふざけたことを言う奴に人間性を肯定されることは侮辱極まりない。
「お前みたいな奴に人間がどうとか言われて自分達が信じて生きてきた”時間”を否定されない為にも俺は戦う」
強く突き放して、戦う姿勢を見せる。
彼女は、笑っていた。
「……そうか」
「ここまで言われてニヤけるなよ気持ち悪い」
「私も、旅をした甲斐があった」
「じゃあ飾ってやるよ、お前のエピローグを!」
梅の花びらも、冷たく光る音もない。
ゼツメライズキーを装填し、プログライズキーを展開。
《BREAK HORN!》
「いくぞ!」
元気になっていく
「変身!」