とにかく彼女を倒す、そしてなんとかして離脱する。
「いくぞ」
やるべきことは単純で、難しくて、だからこそ大事だ。
「……」
話を聞くなら喋る相手も生きてないといけないし、俺もちゃんと生きてないといけない。
砲門が俺を捉える。
「はあ!」
剣に手をかけず、走り出す。
エスパーニャの時もそうだが、戦艦の主砲というのは基本的にとろいものだ。本体はその限りでなくても、縦横無尽という言葉は大きくなるほど縁がなくなる。
ライダーのスペックを活かして急接近して拳を突き出すと、相手の顔面にぶち当たった。
「!」
「まだだ!」
右腕で殴ったんなら、引いて貯めてる左腕がある!
しかし突き出すと、自分の体から引き剥がすように俺の腕を
だが、そのままの勢いで鳩尾に突き出された相手の拳を受け止めて、突き出したままの左腕を動かして相手の右腕の手首を掴んで押し続けるように走る。
「うおらぁっ!」
いくら艦娘だろうがまず耐えられないだろう。
武装に推進器らしいものはなく、あったとしても陸上じゃ余り役に立たない。
相手が後退で足を動かし続けることでしかバランスを保てないタイミングで、もう一度右手を握って殴ろうとする。
「な」
ただ、相手もど素人じゃない。
その勢いを利用して逆に後退速度を上げて逆に遠距離攻撃の間合いにまで自分を運び、戦艦の砲撃体制を整える。
「チッ!」
急いでブレイラウザー*1を取り出し、収納しているカードを展開。
「これだ!」
《MACH》
ブレイドのカテゴリー9を使ってそのまま突入するように飛び込んでいく。
自分の動きを止めない限りは砲弾はカタツムリ並みの速度しか動かず、爆発もしないししてもその勢いも当然遅いから避けるのに問題はない。
引き抜いている剣で飛び込んで、相手を斬る。
流石に余裕がないので相手の体も巻き込む形になるが、特撮めいた火花が散った。艦装も含めダメージは蓄積。
「……」
相手は何も言わない。
反抗しようと相手も手や足が出てくるが、それを距離をとって回避。マッハの効果が切れた後も、砲撃ができない位置に陣取りながら至近距離の戦闘を続ける。
拳は拳でガードし、キックはキックで応戦し、砲塔は剣で流し、剣は鉄塊で弾かれた。
戦いが動く時が来る。
「うぐ」
自分の傷の手当てもないままに動いていたのか戦闘中の思考・反射が鈍っていて相手の拳が鳩尾に抉るような形で入る。
「あがっ」
その痛みで意識がはっきりして、拳に悶絶しながらブレイラウザーのカードを展開。相手が交代しようと足を動かす時にカードを読み込む。
《THUNDER》
痛みによる衝動で悶えているうちに砲撃を入れようとしてくる相手に向かって前進し、刃を出す。すると、相手に向かって雷撃が飛んだ。
砲撃姿勢を取ろうとしていたところでしっかり足がついていてアースも取れてる上、艦装は鉄。一気に通電した上で、砲弾が異常高温で発火。
大爆発を起こして相手は吹っ飛び、着地した。ただ、装備は使えるものがあるのか動かしていて、言うなれば中破だろうか。
ブレイラウザーの残っているカードを見てみると残りポイントは2200。
「ここで確実にダウンを取る!」
カードを取り出す。
《KICK》
構えて、剣を地面に突き刺す。
「お前を殺す気はないが、顔を立てさせてもらうぜ。仮面だけどな」
肘を曲げ、構えて、力を貯める。
相手は狙いが定まらないのかそもそもはっきりとした意識がなくなってるのか、ふらついている上に狙いが狂っていた。
「いくぞ!」
ダイビング選手のように体の芯を曲げないようなジャンプをして、バク宙を挟む。
相手に負けという概念はない、あるとしたら死という認識なのか狙いが狂ったまま砲弾を周囲に撃ち込み続けるが俺には当たらない。
タイミングをずらしたことでリロードを挟む必要が出た段階で、王道の姿勢を作って飛び込んだ。
「はぁああああーっ!」
蹴りは何にも阻まれることなく、相手に吸い込まれるような軌道を描いて____
腹にしっかりと入って吹き飛ばした。
「よし!」
彼女は攻撃によって気絶して、仰向けのまま倒れている。
着地しても綺麗ではなく、その直後からずっとふらつく。
「はぁ、はぁ」
息が切れている俺に、また何か投げられた。
つま先に落ちたので拾うと、キャラカードの原型のようなものらしい。ブランクカード、と言えばいいか。
右後ろ腰につけて、カードを一枚取って目の前の艦娘に投げる。
分析のようにレーザーで身体を舐めるようにスキャンされて、データ化したらカードに吸い込まれる相手。
[戦艦武蔵(深海棲艦)]
手元に戻ってきたミューテーションカードには、そう名前が書かれてあった。
武蔵ってなんだっけ、大和の仲間か?まあいい、それは帰ってから調べれば分かる。
バックルをパーツをひっくり返してカードを抜いて、変身解除。
「……はあ」
自分が今立っていること自体が不思議で仕方ない。
服装はボロボロで自分の肌は露出しているし、頭から血が流れ過ぎて肌が接着剤みたいに感じるし、汗も混じって蒸れて不快指数は指数関数。
ただ、気絶する前に終わらせておかないといけないことがある。
「終わったぞ」
黒いフードを被った亡霊を見る。
よくやったぞ!という黒いカードを振っているが、何か手元に持っているようだ。
見てみると、それはザ・ボスのカードだ。思い入れあるんだろうか。
「それ欲しいのか?」
言葉は発さないが、少しばかり笑いの声が消えている。そういう言い草が好きじゃないようだ。
「すまない、訂正しよう。大事なもので持っておきたいのか」
いつも通りに、微笑んで頷いた。
「なら大事に持っておけよ。俺は自分を助けたやつに見返りを与えないままだと心に引っ掛かりができて数日寝れなくなっちゃうんだ」
嘘じゃない。
自分だけ得をすると少し後ろ暗い気持ちになるのは、やっぱ貸し借りなしの方が気兼ねなく誰かと接することができるからだ。それは見ず知らずのやつでも一緒で、今回手に入れた力のことを考えればまず手ぶらで返すなんて失礼極まる。
「だが、まあ俺にも俺の事情がある。悪いがこいつらは貰っていくぜ」
ブレイバックルとカードを見せる。
相手は頷いているから、多分いいのかもしれない。互いに似たもの同士なのか、ともかく持たざる者にする恥をかかせたくないという気持ちはあるようだ。
「じゃ、いけよ。ここだって騒ぎが続いたらどうなるか分からない。俺も怪我で気絶しないうちに急いで帰るから、さっさと帰りな。また会ったら、そうだな。酒でも飲もう」
そう言って相手に手を振ると、相手も小さく手を振ってから”また会おう”なんてカードを見せてそのまま路地裏へと消えていく。
あんなにザ・ボスに執着するくらいだ。きっととんでもない関係だったに違いない。
「……」
踵を返して歩き始める。
『
そう言えば、ザ・ボスは俺のことを解放するとか言っていたが結局俺から殴り掛からなければ話をしていたのかもしれない、と思う。
彼女の信念に一切賛同できないからぶつかるしかなかったが……それでも彼女はエスパーニャのように復讐をメインにしているわけではなく、人を自由にするべく、という発言が強かったような。エレクワールドの主を敵視していたが、やはり彼女に秘密がある。
ただそれをちゃんと伝えないのは大人の悪い癖というか、なんというか。結局彼女には至近距離の戦闘の格を見せつけられただけだったな。
しかし、やることは決まった。
「武蔵から頑張って情報を取り出して、エスパーニャ達を止めて、俺の情報を取り戻して、そしてエレクワールドの主に何したのかとか聞く。結構やること山積みだな。こうしてみると、休暇が一週間欲しい気分だ」
なんてぼやく。
街の様子は少しずつ活気が戻っているようで、消火作業というテクスチャ処理とか色々な奴らが集まってはどうするか話し合ったり、怪我している奴を修復したりとまあ大忙し。
バイクで走っていた距離を自分は歩いて戻らないといけないなんて、という恨み言が募り、口にしようとした。
その時だ。
「あっ」
急に体から全ての力が抜けたように倒れる。
なんと言えばいいのか分からないが、街が元に戻りつつあることを見て安心感を得てしまったのか体の緊張感でずっと動いていたのがなくなった。糸が切れたというべきか。
コンクリートになんの緩衝材もなく倒れて痛いのだが、声を出す余裕すらない。持っているカード達はコートに突っ込んでいて持ったままだが、いやそれでも動けないのでは意味がないだろう。
「そういや、何発か、砲弾、もらった、ん、だった、な」
息も切れ切れで、目を閉じる。開けてる余裕すら無くなった。
「おい、いたぞ!ここだったか!」
「起きてくださいアレイシア、大丈夫ですか」
「しっかりしろ!アレイ!」
裏で控えてたはずのリキッド達がやってきて、俺を囲んでいる。
うめき声はあげれたが言葉を発することができない時点で意味はなし。
「すぐに持ち帰った方がいいかと。運転を交代しましょう、あなた達のやり方で応急処置をお願いします」
「ああ」
体を持ち上げられた段階で、すでに耳も遠くなってきた。
ああ、死ぬ、いや、死ぬところだったが助かりそうだ。
そう思うと、なんだか力が入ることすらなくなって、あったかい何かに包まれて意識を奪われる。
ここに来るまでよく頑張った、俺_____