「どうもー」
「……ああ」
目の前にはエレクワールドの主が居て、ここはバー小夜啼鳥。
「君が元に戻ったお祝いで、余が直々に迎えに来てやったぞ」
「まあそりゃな。いや、まあ、なんだ」
普通だったら誰も入っちゃいけないであろうキッチンに入って、火をつける。
「なんか飲むか?」
「飲んでも意味ないのに?」
「アイリッシュコーヒーなら出せるぞ」
「頼んじゃおっかな」
まずはまあ、コーヒーからだな。
豆を取って来てはグラインダーに入れて、ハンドルを回す。
「聞きたいことがあるんだよ」
「なぁに?」
「俺をあんな姿にした理由とかさ」
「あぁそれ」
冠にヴェールを垂らしてプロジェクターにしてる主は、笑顔のマークを出して答える。
「ジョンレノンって知ってる?」
「アメリカの人気歌手だったんだろ。歌を歌えばみんながヨイショしてくれる、反戦運動のお兄さん」
「殺された理由は知ってるかな」
「普通に嫉妬されたファンのやつに殺されたんじゃないか」
彼女は首を振る。
案外力が強くないと引けないのか、少し苦労している俺をみながら笑っていた。
「違うよ、あれは暗殺だったんだよ」
「あれ本気で信じてるのか? 反戦運動を恐れた政治家や既得権益の喪失を防ぎたい軍需産業からの差金ってやつを」
「実際そうだったんじゃないかなあって」
豆を挽き終わってフィルターを用意し、ドリッパーに広げ挽いたものを置き、その下にコーヒーサーバーを設置してお湯を注ぐ。
「あの時代は世界大戦から非対称戦の時代になっていたけど、でも戦争の時代は続いていたんだ。朝鮮戦争、ベトナム戦争などを経て大きな戦争による特需が消えアメリカの強さは翳り、それでも泥沼の戦争は、戦争に必要なものを生み出す者達にとっては食い扶持になった。それを消しかねない影響力を持つ人間がもし、思いのままに反戦運動を行ったら達成してしまうかもしれない。民主国家だから、それを止めれる大義名分もない」
適当に素材を取って、クリームを泡だて始めた。生クリームに卵黄に、えっと砂糖を殺到させて_____
半分くらい聞き取れなかったが、言いたいことは理解した。
「そうしたらアメリカ”は”兵力を捨てざるを得なくなる。第二世界*1の軍拡に対応できなくなるし、その後に起こりざるを得なかった湾岸戦争やウクライナ戦争に強く影響を与えられないから世界はもっとひどくなっていた。その歴史の修正力……までは陰謀論だけど、ともかく当時ですらアメリカの脅威と戦争は結びついていたしそれを切り捨てる判断はできない上、肥大化した軍需産業の空洞化は経済へのダメージが与えられるからこれを懸念した業界の重鎮か政治家が暗殺したと言う線を余は信じている」
「暗殺にそれだけの理由があったのは認めるが、でそれが俺の改造にどう繋がってくるんだ」
顔が少しばかり、むすっとした絵文字になる。
「くそっ忘れなかったか」
「本題だからな。ジョンレノンさんと俺がどう繋がってるって?」
「はっきり言うと『あの時君がイメチェンしなければ殺すしかなかった』んだよね」
「……は?」
慌ててボウルを落としそうになるが、姿勢を整え直して相手を見た。
「崩壊3rdのグランプリは、ホヨバがゲーム界隈に一番影響を与えたオタク集団の本気作品として扱っているから当然それのOSGPって影響力を持つんだよ。一人目の優勝者は……普通に上手い少女だったな、初代大会以降どのSGPにも参加してないからすぐ記録から消えたし。で、二人目はレイジ。でもこれは界隈に影響を与えただけだし、彼が3rdグランプリを優勝することそのものは”当然”で片付けられるしね」
「あいつそんな適当な扱いなのか」
「何せOSGP-EXっていう枠組みの初代タイトルMHFシリーズで優勝してるし、MHFのワールドという常駐型のイベントで初狩り達成をずっとしてたのは彼だし、だからいくらホヨバ産とはいえ人気がそこまでなかった3rd優勝者よりもF勢のプロハンの認識がずっと強かったんだよ。それに語られる戦いはデカグラマトン編のラヴィエンテ猛狂期ソロハンだったから」
レイジの爪痕の大きさはまさしくモンスターであると思うし、事実歴史上彼を除いて話そうとする人間はフロンティア勢かフロンティアそのものが嫌いな奴以外にいないから納得だ。
「だけど君は違う。君は何も持ってない、人脈すらないのになぜか優勝してる。その人間性が君の危険性だ」
やべえ、平凡なことこそが才能だって言われてる気分。
ちょっとよろしくない。
「余がこの何万年生きてきて、どれだけ人類の安寧のためにつくしたか。知らないわけはないと思うけど……キャラと結婚して精神補正を自然と掛け、それを何万年と繰り返して精神病を”設定以外で”撲滅した。そうすれば人々は自然と自分自身がどうやって足るか行動を覚え、そもそも管理しなくても良くなるようになる」
「俺は平和の邪魔になる、か」
「うむ……”人間性そのものが病原”で、あったからな」
細かい説明を付け加える主、話し方も威厳のある方へと戻っていく。
自然と行動すること自体は本来咎められるべきではないが、俺が自然体でいると自然と仲間が増えていき、そうやってゲームを攻略すること自体は問題はない。
しかし、俺がその状態のままゲームをクリアしていくとゲームをクリアできていない面々は俺という”特別”の名の下に性格が歪み、それが数万年築き上げてきた福祉を砕くことになりかねないようだ。
ゲームがある時点で壊れていそうなものだが、負けそのものは別に望むものをぶつければ蟠りは解けるらしい。
「お前の持っている、本来だったらこの時代にない”人間性”が、人類の歴史を滅ぼす鍵になるかもしれないのだ」
「にわかには信じられない話だな。ゲームの不満を異性とかで解消できるもんなら、正直不利益を被る理由には」
「わざわざそう説明したということは、お前のそれは異性で解消できないものだということも分かって欲しい」
あ、むすっとした顔が赤くなった。プロジェクターなのに随分豊かだな。
彼女の話が続くが、俺がそのまま有名になって皆が真似して失敗する時の不満が性格の歪みに直結する。
それはどれだけ真似しようとも人間性を必要最低限以外は補正をかけて排除しているのでどれだけ頑張ろうとも到達することのできないゲームの仕方になり、これが原因で俺を巡った断絶が起きるというもの。
自分達はあれに到達出来ない、あんなふうになれない、その特別性によってAIとかも俺の方を注目するようになればどれだけ補正を掛けたとしても意味がない。自分だけのお姫様なんて作っても、皆が同じ世界を共有している状態で俺だけが特別であれば自分の世界に引き篭もることも”虚しさ”に変わって、自尊心を保つことすら難しくなる。
「余の制御を離れれば、旧世代の悪い部分だけが残った新たな悪夢へと突入する。人々が自己をなくすほど心酔し、砕け、お前というものを中心とした時代になれば、すべては無に帰す。それは奇しくも、歌という一点だけで世界を圧巻してしまったジョンレノンに似ていると、余は思った。だから消すしかないと、満身創痍の状態のお前をあんなふにゃオスにしたのだ」
「最後の一文で台無しなんだが」
自尊心を保てなくなり、無敵の人になったユーザー達が押し寄せるようになれば統治の全てが終わる。潔く引退しても誰も制御できないまま混乱の時代が続くだけで、恐らく改善しないまま滅ぶだろうと予想していたらしい。
何か言い返したいが思いつかず、そんな状態でコーヒーが出来上がったのでそれを……どれに入れればいいんだ? ま、いいか。ジョッキにでも入れちゃえ。
ジョッキに並々注がれたコーヒーに泡をこれでもかと載せて、そのままお出しした。
「はいどうぞ。ふにゃじゃないオスのアイリッシュコーヒーです」
「随分アメリカンだし風情な……」
「飲め」
「はい……」
随分素直でちょっと嬉しい。
アイリッシュコーヒーをヴェールの奥に入れて飲むと、半分くらい減った。
「美味しいぞ」
「やったー」
「……こほん。ともかく、だ」
話を戻す様子。
「お前がそのままでいるのであればこれからも問題になる、ということだ。結局ふにゃオスにしても”根が暗すぎるだけでやるべきことはちゃんとやるし会話も出来てるから意味はない”って状態だったからな」
「だったらいい方法を思いついてるんだ、聞いてくか?」
相手を見ると、はてなマークを浮かべてる。
「”俺”をカテゴリ化しちゃえばいいんだ。物語を書いてさ、みんなと同じだよーっていうのをちゃんと伝えればいい」
「……なるほど? 傾向としてのアレイシアをちゃんと記録すればいいのか」
「そうそう」
指を立てて解説しようじゃないか。
「例のキリストさんだってさ、聖書あって彼の人となりが分かっていて、それを中心に”聖人”っていう性格のジャンルが生まれた訳だ。だったら俺もキリストさん見習って”アレイシア”という人間をパッケージングして、その性格を新たな設定の一つにしちゃえばいいってこと。人間性の調整は難しいかもしれないが、時間があればみんな結局今のような生活をするさ」
「そんな簡単に言ってくれるな」
「簡単さ」
俺は少しばかり、上を見る。
「案外重く考えてるかもしれないが、この世で一番すごいSGPで今人気なのは結局キャラクターが人の手でよく作られていた頃の作品だろ? まともにキャラクターと話しているなら、きっと俺一人なんかへっちゃらでもないさ、元からな」
「そう思うならなぜ余とちゃんと話す」
「俺の世界を作ってくれて、俺に人生をくれて、その場所をずっと率先して守ってるお前の……いや、貴女への敬意です」
少しばかり、丁寧にしよう。
主は少し顔を赤らめて、照れるムーブ。
「それにちゃんと話し合いをしようとして来てくれたなら、俺はその誠意を信じたいし、同じくらいの敬意で返したい」
「……その善意が世界を滅ぼすかもしれないって言うのにもぅ」
「へぇ? なら、私にも同じ感じで接してもらいたいわね」
扉を開ける音がする。
紺色の髪が流れ、少しばかり紫色の光る瞳。
俺が少し遠ざけたかった相手。
雷電 芽衣。
「あ、あれ?」
「隠す必要も理由もないでしょ? アレイシア」
観念する時が来たか。
「私にも作って、そのアイリッシュコーヒー」
「しゃあなし、か」
2回目作るの結構嫌なんだけどな、と思うもののちょっと威圧感凄くて抵抗できないので取り掛かる俺。
酒場の朝って、こんなに活気と威圧感があるものだったっけ……?