「ようやく面と向かって話せるわね」
「嬉しいやら嬉しくないやら……で、どうなんだ?」
「どうって」
「俺を殺すかどうかぐらいは聞いてもいいじゃないか」
エレクワールドの主と同じものを出してから、芽衣に聞く。
思ったよりも普通な秋の格好してるので、全然こう特別感もない。
「そう、ね。折角手に入れた平和と大好きな人から引き剥がされて、出会ったその人は自分と同じ目に遭ってるだけの他人で……誰も知ってる人がいない上に連れて来られた理由が他者の強さのトロフィー。まあ、その、まず10回は刀で切り落とすことも考えてもおかしくない」
「だよなぁ」
「対処法も元に戻すが出来ずに連れ回して、挙句その好きな人と似てる他人とくっつけようとしてなんとか許されようとして……ねぇ?」
「遺言状の作り方調べとくか」
取り繕って許してもらおうなんて気すら起きないもんだからため息をついて肩を落とす。
「そりゃそうだ、俺だってそれが怖くてまともに話そうって思わなかったんだもの。心のどっかではやっぱり死にたくないとか、思ってさあ。いやあブルートワルツにしばかれた方がましだったなんて思いもしなかった」
「……気づかないの?」
「なにが」
クリームの残りを全部ぶっ込んで溢れてるコーヒーを飲みながら、彼女は何食わぬ顔で見てきた。
「本当にすぐ殺すつもりなら既に裏切ってとっくにやってるわ」
「ああ確かに。でもまあ、お前の事だ。返答次第じゃその気になってもおかしくない」
「大正解、だから今ここでハッキリさせようと思うの」
はっきり、ねえ。
「いくつか質問するから、答えて欲しいの」
「その答えで命運が決まると思うと、少し緊張するな」
彼女の目は刺すように俺に視線を向けていて、心の奥から震える緊張感を生んだ。
そんな心境を知らないであろうまま、芽衣は宣言通りに質問をする。
「貴方はどうして戦うの?」
「見ての通りだ、生まれ育った故郷を守るために戦ってる。ちょっと広すぎるけどな」
手を広げた。
パブリックワールドで多すぎるのに、それ以外のプライベートワールドになれば数は分からない。
でもそれらが存在する故郷に生まれて、そこそこも人に恵まれたから今戦っている。
ふぅん、という反応だけして次の質問を飛ばす彼女。
「私の事どう思ってる?」
「うーん、こうして面と向かって話すと思い浮かばないな。申し訳ない気持ちがあるけど俺じゃどうにも出来ないし、かと言って居なくなったら居なくなったで困るし、それで好きな人と一緒に居られないのもってそれはもう最初から問題か」
「そう」
彼女は何か考えている。
顔に出ないからよく分からないが、なんとなくこのままの姿勢を維持していれば命だけは見逃してくれそうだ。
「ごめんなさい、これで最後だったわ。貴方はずっと戦っていく中で誰かに頼れる?」
「見てただろ、ずっと頼りっぱなしだ」
リキッドもアツコも芽衣も英寿も、最近だったらカミツナギにリタ……ともかく沢山居た。
だから俺の戦い方は“自分一人でやってみてダメだったら誰かと一緒に”というスタンスなのには違いないし、それがAI支配の脅威だと隣で勝手にデザート取ってきて食ってる支配者が言ってるんだから間違いない。
「そうする事でしか勝てない事に恥もないが嬉しくもないから努力できる分はしておこうって気概だけはある、尤も気概だけで身体は動かないからいっつも家で転がってるだけだが」
「……ふふ」
「なんだよ怖いな」
「ごめんなさい。初めてこんな俗っぽい、いえ、いい意味で普通の人に出会ったのは初めてかもしれないのでつい」
ひどいことを言う、仮にもこの世界なら……それは彼女には関係ないか。
「でも、なんだか気を張って損したかも。出会った人達はみんな綺麗で、覚悟が決まってて、特に男性は大体そうだった。貴方みたいなタイプがよく関わる範囲にいるのは初めてだったから」
「俺も初めてだよ……“黄泉”でも“将軍”でもなく“芽衣”と話すの。互いに初めてばかりだな」
苦笑いを共にする。
なんと言うか、互いの距離感を理解すると案外あっけなかった時のそれ。
「貴方は悪い人ではなかった……やっぱり話してみないと分からないものね。レイジの言った通りだった」
「レイジが?」
また話に出てくるやつ。
「あの人と、違う世界のキアナちゃんはちゃんと折り合いを付けていたでしょ。だけど私達はそれが出来なかった。貴方は私に思うところがあって避けていて、私は悩んでる間に貴方が何処かへと消えた。そんな感じだったから、漸く出会えて話す機会が生まれたのは嬉しかったの。でも少し怖かった、貴方は自分の事を何も言わないから」
レイジと少し話したことがあったらしい。
キアナにどう接すればいいか分からないと言うのもあったが、問題は自身の力を保有している俺とどうやってコンタクトを取ればいいのか相談していたようだ。
自分の幸せを奪った男を許せる筈はない、しかしその幸せを奪った男は別に自分に対して理不尽な要求をすることもなければ出来る限りの計らいを上位存在に言うことも辞さない。
よく分からないやつとの着地点を見つける方が先だと考えた芽衣がどうするか尋ねたのがレイジだった。
「そしたら彼『オレはあのお転婆が文句言わなくなるまで謝り倒したから碌なアドバイスできない』って言ってたの。でも『それも結局互いに面見せて話し合ったからできた』とも言ってたから結局コミュニケーションを取ること以外に蟠りは解消できないって言ってた」
「まあ、あいつならそうなるか」
「だから貴方が素直になる時まで待っていたんだけれど」
芽衣が見る先は、エレクワールドの主。
ヴェールの一枚が驚いた顔をして、彼女を見返す。
「まさかそこに至るまでに貴女が一枚噛んでたなんて思いもしなかったけど」
「彼は素直だったんですよ〜、ほんとですよ〜」
「じゃあさっきの話はなんだったの?」
「ひぇ〜」
主は震える声で誤魔化そうとしてるので、二人揃ってため息をつく。
「まあ、俺も俺で色々あったんだ。あの時はその“イタズラ”とやらで精神に若干の異常を来たしてて非常に内向的かつ自罰的な感じで事に当たってたけど訳あって元に戻ったら……いやそれでもちゃんと話し合うのは怖かったがあの時ぐらいの不安はなかった」
「やっぱり俗っぽいのよね……そんな人間でも『命張って世界を守る』が出来るからすごいもの」
「そんな事はないさ、今が初めてだぞ」
「私は“貴方が優勝した世界の雷電芽衣”なの、貴方の行動を知らないわけはないでしょう?」
ああ、そうか。
俺は芽衣に会ってないし情報すら入って来なかったけど、彼女に関係した人間には会っているから俺の情報が向こうに流れることがあるのか。
どうりでなんか俺だけが緊張していると思ったら……情報の差だな。
「プレイヤーを倒し終えたら協力してくれたのはよく分かってるの……組み込まれてしまった形にはなるけれど、私のいた世界の歴史には貴方もいる。その上で、シンちゃんの為に戦ってたことも知ったから、やっぱりプレイヤーだなんだと言って嫌いになりきれなかった」
加点甘すぎるだろ、と思わないでもない。
「まあでも、誰に対しても悪意を持ってるわけでもなければ、何かの主義に準じて誰かを殺す事もない。俗っぽいけど人並みの信条を持ってて、そんな人でよかったな、って思えたから……うん、殺すのはやめてあげる」
「やったー」
首の皮一枚繋がったぜ!
彼女からしてみれば諸悪の根源でもあるが、それを理解してる上で世界を守ろうってしたのが結構評価上がったらしい。
いやまあ、上げようと思って上げたわけでもないけど。
「これからはちゃんと私の事も頼って。私も貴方の事を頼る時が来るから」
「もう頼りっぱなしだ。そうじゃなきゃ創世の律者なんて馬鹿げた話を……ん?」
「どうしたの」
そういえば、もう一つ。
「俺の身体を乗っ取ってくれちゃった奴いるじゃないか。そいつは今何をしてるの?」
「あの子?は、えっと……今は近所を周回してるんじゃないかしら。ほら、結局エスパーニャのゲリラと交戦してたから情報集めついでに」
あれはあれで俺と同じように仕事してるんだな。
ただまあ、会えないと困る。
「俺一回逸れた後、有り合わせのカードで戦ってたから少しカードが欲しいんだ。今持っているのブレイドだけだしな」
「だったらもうそろそろ戻ってくると思うから待ってみてもいいと思うのだけど」
「うーん、帰ってくるのは遅れそうだよ」
話をしてる中で、積極的に割って入るのは初めての主は何かを見ていたのだろう画面を此方へ投げてきた。
《パブリックワールド24においてキャラクターを模したテロリストによるバトルエリアテロが発生しています。現在、該当エリアのプレイヤーと管理部門からの応援で対処しており、終わるまでは退出し入らないようお願いいたします》
「うげ」
「どうやらここに行くか信じて待つかしかないけど」
「よし、行くか。芽衣はどうする?」
「ポケットに忍んでおこうかしら。ほら」
手元にカードとなって飛んできた。久しぶりに、芽衣のカードを手にした気がする。
彼女の綺麗な写真、カッコつけたポーズだけど不敵な笑みを浮かべてた。
「主は?」
「もちろん余も同行する。危険だと思うが、ちゃんとバックアップチームを残してあるからこのアバターが損壊する程度では問題ない」
「オッケー。じゃ、行こうか」
飲み干したジョッキや食器を片付けないままに、三人ともバーを後にする。
ビルから飛び降りながらワープすると、パブリックワールド24に出た。
「すごいな!」
あちこちの煙が上がって、叫び声も止まらない。
「あっちだ、行くぞ」
「ああ」
主が指差す方向は、爆炎が連発しているところ。
そこに向かって、走り始めた。