ゲートを潜った先には青く仄暗い空気に様々な機械が浮いているワールド。
円柱のコロニーをベースに作られたこの場所で一番は身体に掛かる重力が軽いことだろうか、それよりも目に入る景色がある。
「破道の七十八、斬華輪」
干将・莫耶の二振りで破道を使いこなす大和に、相対するはさっき倒したはずのエスパーニャ。
「大和! エスパーニャ!」
恨みつらつらの相手の攻撃を平然と受けるとそのまま着地、斬華輪も虚閃で相殺するという火力があるのに周りは壊れる気配はない。
「随分色々な手を尽くしてきたんだけど流石にレベル185が相手だからな〜、どうしても後一手の攻撃に一寸の隙間が出来ちゃうね」
「貴様……!」
手に持っていた番の双剣は、もはや離婚寸前なんじゃないかってレベルでボロボロで醜くなっている。敵の霊圧に耐え切れないか、大和が雑に扱い過ぎたか。
「漸く来てくれた。悪いんだけどさ、倒すの手伝ってくれない?」
「そりゃ暴れてるなら止めるしかないな。でも殺すのだけは無しだ、話を聞きたい事もある」
ゼロツードライバーを取り出して腰に巻く。
「聞きたいこと?」
「お前とエスパーニャが関わっていた艦娘の虚化実験の事だ」
「彼女から聞いたのかい」
少しばかり、大和の表情が真面目になっている。
「あれは自分で言っちゃうのもあれだけど必要だった事なんだ。急に”深海棲艦を絶滅させろ“がゴール条件になったらさ、誰でもそうするよ」
「今までの戦いに泥を塗って、皆を侮辱してまですることか!」
「戦争は早く終わるに越したことは無い」
冷たい声が響く。
結晶の向こうにいる姫君のような、威厳と息苦しさを覚える声が大和から出ていた。
「君たちが鎮守府の向こうの人間に愛想を振り撒き戦争に赴くことで一般社会を脅かせるほどの力とグリーンカラーとして生きるしか無い弱者というアイデンティティの両立をしていたが、それが許されない状況になったなら容赦なく切り捨てる事に躊躇いがあったことは驚いた」
それは誤算だったが、自分の結論を下回る誤算であった事を考えれば侮蔑の意しか残らない。
「皆生きていて、生きる理由が外にあった。あの人達は戦えない、だから自分達が戦うんだと。戦いが終われば駆逐艦は人名を得て学校に行き、他の皆も進学するか就職するかを選べた。私もそれを望んでいた」
「だからその望みを壊した私を殺す、かい?」
互いに間合いを取りながら睨み合う。
「貴様だけで済むと思っているのか! ここにいる全ての人間を殺し、歴史を改竄しなければ悲劇は終わらない!」
「はて? 私以外に何かしたか?」
「この世界に来て、貴様の所業を見た愚集が何を言ったから忘れたか!」
「……ああ、アレねアレ」
戦艦大和が大嵐を呼ぶほどの怒りを招くほどのこと、これだけ戦う事に誇りや展望を持ちながらも踏み躙っただけに止まらない何か。
「……何があったんだ」
「正確には私の所業ではないが、全ての始まりは私だからね。説明するよ」
目の前にいる味方は、俺に授業を聞かせるような口ぶりで説明した。
「どの作品にもイロモノ枠と言うのがあるけど、癖が強過ぎたら基本的に非難されたりする。天下のFGO様ですらその問題に直面したんだが、知ってるかい?」
「テスカトリポカか」
「そうそう。彼はデイビットとの関わりや己の矜持がしっかり立ってて、その上で七番目の
干将・莫耶を地面に落とし、そのまま足蹴にして退かすと真顔のまま話を続ける。
「艦これはメディアミックスなどでストーリーが出来たりそもそも元ネタにストーリーがあるからか基本ゲーム内ではセリフ以外に経緯の説明がない。すると“声優”と“ビジュ”というセールスポイントしか無くなるわけだけど……当然ここでイロモノ枠を出すと言うことはどっちかの要素が欠損する事を意味する」
「待てよゲーム内性能も見るだろ普通に、ポケモンだって強かったらガオガエンでも使われるんだ。それに対戦ゲーで初期に癖が強かったコンパスは?」
「艦これはソロゲーだ、羅針盤の制限内にあるならどの艦娘でクリアしても問題はないから環境にこだわる理由もない。それにコンパスはイロモノ枠で欠損してても“有名Pの楽曲”だけでひっくり返せる。あのゲームの問題点はpay to winの傾向が強すぎることだからね」
つまり他ゲーと違って二つの要素のうちどっちかが欠損すると挽回が非常に難しくなるのか。
「でも今何でそんな話を?」
「彼女に取っては等しく仲間であったけど、プレイヤーからすれば違う。その違いが最大限悪意によって増幅された発言や風潮こそ、戦地に赴かないまま眺めるだけの人間を蔑む軍人の性分だと分かってあげてほしい」
「……つまりなんだ。仲間を侮辱された怒りをぶつけることが目的か」
「そう言う話で間違いはないと思う」
思い出話を、口にする大和。
「レキシントンや龍驤とか五月雨、あとアルジェリーとか。最初に弾にしたのはそこら辺だったね。確かに問題がある……と言えばアレだが少なくとも人気が出なかった子達と君達を弾にしたの時の違いは大きかったのは覚えてるよ」
「そいつらも艦娘なのか?」
「うん、一悶着あったり人気じゃない子達だけど。アルジェリー以外は絵柄やそのクオリティが万人受けするものでもなかったし、省いたアルジェリーは絵柄こそ普通だったけど全体的に年増というか、肌の黒い外国人はどうしても可愛くするには難しいというか」
アルジェリーという女に関してはあまり知らないが、曰くあの時代問題になってた粗悪なポリコレ改変の影響で雑味や恣意的な美の損失判定を受けていた肌の黒さや、声優が合っているが故にイベント報酬にしては可愛くないイロモノ枠として評価され、wikiですら大荒れして苦言も多かったようだ。
ただ名前に関連するアルジェリアはフランスの領土でありアルジェリー自体のキャラに強く関係するので白い方が違和感があるのかもしれない。MGRのミストラル*1みたいなものか。
「彼女達を対深海棲艦用ウイルスの感染源にして轟沈させた時、プレイヤーや観客からの批判は出なかった。正確にいえば出たが、まあそいつらは自認が黒桐幹也の能無しでその時点では特に私に対する意見はそう悪くはなかった」
「ただそれで足りなかったから有名どころにも手を出した」
「そう、深海棲艦は数が多いし当然強い司令塔もいる。それに艦これのプロデューサーは人気どころを愛してくださいとマイオナ勢に言ってしまうタチで、そうなると必然的に人気のないやつから弾にする方が損害が少ない。
それを証明するかのように明確な批判が出たのは大和型戦艦並びに各国の戦艦や空母で有名なものを弾にした時に漸く噴出した、がまあそれも私からして見れば同類だ。萌えに迎合できなかった不良品のオタクが人間ぶるために女の器が必要だっただけのこと、本質は火薬庫である以上やる事には大差ないよ」
自分は悪辣です、と公言するソシオパス仕草なのに言葉の節々には“悪意と自尊心”が一切見えない。まるでさも当たり前のようにいう。
「どうしてそこまでしたんだ」
「本来クリア条件にならないはずの“深海棲艦の絶滅”がクリア条件になって変更されなかったからだよ」
目を見てる大和の瞳に、一切の感情を感じない。
「深海棲艦というのは当然敵である以上サービスが長引く分だけ増えるものだし、サービス終了時のデータがまだ発掘されてない以上どう終わったかもわからないから着地点としてSGPは“戦果”で競う形になってるんだよ。深海棲艦をどう絶滅させればいいか不明なのに、それがクリア条件になってしまったからこそ私は手段を選ばなかった」
その結果が艦娘の魂があるからこその擬似的な虚化実験と、研究サンプルや遺伝子情報の多さから生み出された特定種用のウィルスだったのか。
「クリアしなければ永遠に出られない世界に閉じ込められるのも同義、他にもプレイヤーが居た以上決着をつけるしかない。さっきの話はその過程で生じた被害だね」
「どうしてそれをちゃんと説明して和解しようとか、少なくともテーブルに着こうとしないんだ?」
「既にエスパーニャという存在はこちらの市民に危害を加えた挙句殺すことすら厭わないところまで踏み込んだ。個人的な事情と非人道的手段を取ったことは謝るべきだが、既に刀を抜いた以上は容赦する理由もない」
ちゃんと話を聞いてくれる奴が、加害者から事情聴取することを信じて止まってくれたエスパーニャ。だが、話をある程度聞いたら、すでに臨戦態勢に入っている。
かつて仲間だっただろう二人は、戻らない場所まで来ていることを知った。
「君はどうする? 私はどっちに着いても仕方ない、で済ませるけど」
「じゃあお前に着く」
「……」
少しばかり、怪訝で、気の毒な、と言いたげな顔をしている大和。
「確かにお前がやったことは悪辣で非常識かもしれないし、それが相手に正当性がある怒りを持たせた上でどうしようもない絶望に叩き落としたのは咎めるべきだ。だけど、やったこと以外の責任を負う。これは傲慢極まるし、関係のない人間に手を出したことも同様に咎める必要がある。民族や所属による”罪”で他人を害する事は、絶対にやっちゃいけない」
「後悔しないかい?」
「軽く見るな、俺が決めたことだ」
《ZERO-TWO JUMP!》
ゼロツードライバーの力強いサウンドが流れる。
あれが本体なら間違いなく強い、もしかしたら最初の時よりも手こずるだろう。
「変身!」
《ZERO-TWO RISE!》
《KAMENRIDER ZERO-TWO》
変身完了。
ここで確実に勝とう、人数差と出力差を活用して。
もう待つ必要もない、全員がそう結論付けた段階で互いに走り出した。