流石にこれ以上は時間をかけていられないのは、何度も行われたであろうパブリックワールドの襲撃がそうさせた。
砲撃と斬撃のミルフィーユ、遠距離攻撃が多彩な上に威力が高すぎて一発一発がコロニーを大きく削る。
「連続攻撃だ!」
ただ、流石ゼロツー。
少し使い慣れているのもあったが、武器を持たないのとサポートをいい事に複数の箇所に飛びながら主と一緒に何度も攻撃を仕掛ける。
主砲と刀を巧みに切り替え、俺の飛び蹴りに対応するために武装を刀に戻して回避し、早くなった身のこなしでそのまま主砲を取り出して砲撃。自分が扱い慣れている装備を切り替えながら戦っているが、いかんせんそのスピードが速い。
飛び蹴りを外したタイミングで角度をつけながら地面を蹴り、もう一度キックを繰り出す。
「速い!」
ゼインとの同時キックで挟み撃ちにしダウンを取ろうとしているのだが、刀に一度戻した後に主砲へと変え、その体積の急激な増加の勢いで弾き飛ばされる。
受けを極めているとしか言いようがない。
「流石にここまでさせられるとは思いもしませんでした。ですがまあ、流石に英雄と管理者相手では悠々勝利とも行きませんね」
「私を忘れちゃったかな!」
自分達をいなしたのと時間を置いて、大和が刀を持って襲いかかる。
「氷輪丸か!」
「科学の時間だ」
主砲のまま向こうとした瞬間、その砲台は凍って砕け散る。
「な」
「低温脆性というものだよ、鉄というのは氷点下20度を下回ると原子の移動が止まりやすい。衝撃を加えればいとも容易く崩れ去る」
周辺に吹き荒れる吹雪、だが。
振り撒かれた氷晶には一切の冷たさを感じない。
「君自体は凍って割れないのはやはり思ったよりも有機物化が進んでいるから、か。どっちにしろチャンスだね」
「ああ!」
《ZERO-TWO BIGBANG!》
相手の武装が砕けたのは好機!
そのままハイスピードに進んでライダーキック。
武装を破壊されて素手しか攻撃がないエスパーニャは艦娘であったとしてもゼロツーの出力と比べれば圧倒的に劣る。
「こいつで終わりだ!」
自身に満ち溢れているキックを放った俺だがが、このタイミングである疑問を抱いた。
何故か俺以外に攻撃しているやつがいない。
いや、大和のやつはいい。
彼女は確実な隙を作った上で、相手の行動を制限する為に振り向いて構えてるのが正解だ。
だがエレクワールドの主は?
「あっ」
意識がちゃんと敵に戻さなければならない、と思ったタイミングで唖然としてしまう。
俺の身体が、変身する前に戻っていた。
「しまった!」
流石にスピードが持っていた上でそこそこガタイの良い俺の飛び蹴りが効いたのだろう、エスパーニャは受け身の構えを取ったが大和の一撃を受けた直後では身体がしっかりと動かなかったのかもしれない。
腕を組んでガードしようとした瞬間に腕からそのまま腹へと蹴りが入って軽く飛んで地面を転がった。
それと同時に俺もライダーキックの姿勢で激突。
「ってえ!」
左半身からいったせいで思ったより機械の地面は痛く、少しばかり体を抑えながら痛みを無理やり抑えて膝立ちする。
腰に付けていたゼロツードライバーは変身時のママだが、パーツをスライドさせたりスイッチを押しても音が鳴らない。
メタクラしか変身できない時でもプログライズキーは無事だったはずなのに、俺の場合はさらに悪化していた。
挙句意識を奪われるほどの懸念事項だった女がいない!
「くそっ、どういうことだ!」
「成功したんですね」
エスパーニャが、少しばかり穏やかな笑みを見せる。
「何をやった!」
「この部屋の奥に眠る秘宝を、少しばかり頂いたんですよ。その効能を一つ、使わせて頂きました」
「……やっぱりかあ」
大和が俺の焦りとは対照的にあちゃー、とでも言いたげな表情。
「地面の感触的にネツァクの改変はどう考えてもレイジがやってる筈だけど、もしかしてここオルト・シバルバー?」
「正解。ええ、ここはオルト・シバルバー。正確にはオルト・シバルバーを模した場所です」
七番目のロストベルト、それがORTによって空想樹に侵食された世界。
ここがそうだと言うのか?
「貴女が奥地にレイジを行かせたことは正解でした、しかし私も同じように最適解を引いていたのです。戦力の分配、という意味で」
「羅針盤とパターンの最適解だね、聞きたくはないんだけど何を連れてったの?」
「貴女が弾にした海外艦を十二隻ほど」
「デカグラマトンのことを考えれば、今無効化したところで遅いと思うけど」
あらあら、と子供を揶揄うようにして笑うエスパーニャ。
「ここに到達するまでに、これだけの時間が掛かったこと。そう思うに値するとは思うけど、でもその奥に行ってしまったレイジは?」
「ああそれはまずい」
「……貴様!」
怒号が飛ぶ。
「分かっているのか! 私や私の仲間が危機に窮しているのではなく、貴様の仲間が連合艦隊に襲われているのだぞ! たった、たった一人で!」
「いやだから何って話」
「大和!」
流石にそれはどうかと思って、彼女に詰め寄るついでにエスパーニャから距離をとった。
「いくらレイジだからと言ってそれはどうなんだお前!」
「彼がここで死ねばそれまでだったって話で、オルト・シバルバーで死んでくれて構わない。むしろ片方の律者と共にロスってくれればそれでいい」
「俺もそのために呼んだのか!」
「落ち着いて」
いつの間にか胸ぐらを掴んでいたようで、その手を大和はそっと下ろさせる。
「正直な話ここで死ぬとは思ってないんだよね、あの男は強すぎる。だからここにいる資格がある」
「何言って……!」
「砲撃と空爆しかできない人外程度がフロンティアモンスターに勝る要素はない、そして彼はハンターで君と違って”己の肉体こそが最強”なんだ。フィジカルギフテッド、というやつ」
「カードが使えなくなったところで問題ないって言いたいのか! あいつの仲間だった武蔵は深海棲艦になって襲いかかってきた時に俺ボロボロになったんだぞ!」
「君は戦いに向いてないカスだからね、そもそも私も君に戦闘能力なんて期待していない」
一気に、彼女が冷たくなっているような気がした。
人外感というよりは、何か使命のために動いている感覚。
「アレイシア・ガレットピアに求められているのはいつの時代も”奇跡”だ。君はちゃんとコミュニケーションを取れる、それがどんな時でも。ちいかわが強いと称えられた理由も、黒桐幹也が異常と言われた理由も、どんな非日常を跳ね返す冷静さを発揮できるからこそだよ」
彼女の顔が、微笑みに変わる。
エスパーニャに似た笑みだ。
「君だって本当は思っているんだろう? レイジがたった12隻の艦隊に負けるはずはないって。戦艦そのものが本当に囲んでいるならともかく、艦娘で化け物が相手ならあれは容赦なく勝ってここまで戻ってくるよ」
言い切りやがった彼女の自信に言い返せない。
心のどこかで期待している俺がいるし、そもそもきっとそういうものなのだろうと思ってしまう俺もいた。
そんな空気感を認められない奴もいた。
「アリストテレス!」
「なんだい」
「深海棲艦化した連合艦隊、戦勝国の熟練どもがそれで負けると思うのか! ましてやあの男の主力は全てフルスペックだろう!? 預言者も律者もいない今、そしてここに到達するまでの十数分、彼に戦える武器はない!」
「うーん、確かにお気に入りのスラッシュアックスも持って行ってなかったような気がするし、持って行ってたような」
「その程度の情報しかない仲間を信じるのか!」
「信じるも何も私より強いやつを信じきれないなら、エレクワールドの主に命をかける理由も無い。あいつが守ってくれるから、優しく迎えてくれるからって命をかけて”原作の上に”コンテキストを作って感動をってやってる連中に、その問は愚問だよ。私たちもソシャゲのコマに過ぎないんだからね」
エスパーニャの怒りが有頂天に達する。
「私達と画面の向こうの提督が同じだと!?」
「あの時とは違う、私たちは君たちの世界に入り込んで好き勝手に戦う自己陶酔の勇者たちさ! 命のストックがあっても痛みとスリルと恐怖を引き換えに、すでに結末が分かっていても歩もうとする者達に私は歓喜と敬意を表する!」
「テメェら! 狩猟王の御帰還だ!」
大きな声と共に、爆発音が鳴り響く。
重厚な金属が擦れる音と共に、一匹のたこ焼きみたいな爆撃機が飛んできて転がる。
「ほらね」
「レイジ!」
両腕にトンファーのような武器を持ち、華麗に空中を舞いながら爆風の中から俺らとエスパーニャを分つように飛んできた。
「よう、随分いい顔するようになったじゃねえか」
「お陰様でな。留守の間、芽衣とか他の仲間が世話になった」
「あんなの屁でもねえよ。後輩が行方不明になっても元気にやってるはずだって信じてた奴らに感化されて頑張ってたら、こんなところまで来ちまった」
「感化、ねえ」
ありえない、という顔をしているエスパーニャ。
「何故!」
「簡単だ、あの奥の蜘蛛にもう一回眠って頂くのには大変苦労した。だが中身は強すぎるドゥレムディラとアクラ・ヴァシムの融合体で、面白いことにお前達が来るまでに”最後の人類”判定をもらったから文字通り大暴れしてきたんだよ。穿龍棍なんざ盛り抜きで2000年ぶりだ」
「オルト・シバルバーを模したこの地下に何が眠っているのか分かっているのか!」
「ああ知ってる、だからなんだ。早めにネツァクに頑張ってもらって水晶渓谷を乗っ取る下準備、デカグラマトンを顕現した上でキアナの力を借りて
「連合艦隊の相手は!」
「は? 手伝ってもらったに決まってんだろうが。制御失った奴らをしばいていたら遅れたんだよ」
何を当たり前なことを、と言うレイジとそれが当たり前だと思えないエスパーニャの乖離。
彼は事の顛末を語り始めた。