Never Says「Good by…」   作:らんかん

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口撃

「最初、そこの嬢ちゃんの言う通りに奥まで向かった時には12人くらい構えててびっくりしたし、なんなら交戦した。だが、奥でアレが起き始めた時にあいつら急に自我が芽生えてあっちを攻撃し始めたのさ。それに便乗した」

「……なんですって?」

「連合艦隊の意地だとか、祖国の栄誉にかけて化け物を討つとかさ」

 

 誤算だったに違いない。

 

 自分と同じ気持ちの人間が、復讐よりも復讐相手の世界を守ることを選んだことが信じられないといった様子だ。

 

「まあORTが起きかけなら先にそっちを処理してからの方がいいと思ってな。だから協力を申し出たら快く仲間に入れてくれた」

 

 楽しい狩りだった、なんて笑うレイジ。

 

「ただあいつらだけじゃ火力以外の全てがどうしようもない。しかし俺には」

 

 二つのカード。

 

 デカグラマトンと、キアナの二人を見せる。

 

「この二つがある」

「なるほど、終焉の律者も見方を変えればアルテミット・ワンなのか」

「ああそうさ。雷電芽衣が繋いだ力が集約された人類を滅ぼすことも活かすこともできる月の女神、地球圏の文明をも支配する究極の単一種ってことだ」

 

 俺より理解している気がする。

 

 なるほど、終焉の権能をデカグラマトンで相互強化して、女性だから適応できる神秘の庇護を与えることで一人一人を確実に強化しつつORTに対抗。

 

 近場にレイジしか純粋な人間がいない為にビーストとしての力がブーストされて、カマソッソに幾つもの要素が付随された状態で狩りを達成した、と言うことらしい。

 

 亜種ORT以上に弱体化されてたらしい事を考えれば、いろいろ納得はいく。

 

「心臓がないとはいえORTはORTだ、水晶渓谷の侵食速度が意味分からないくらい早かったから結局領域の押し合いに負けて、全員死んでしまった。諸々バフを持つ俺が顔面と背面を叩きのめして止めた頃には装備の残骸を遺して消えちまってたよ」

 

 腕の穿龍棍なる装備を眺めている。

 

 よく見ると持ち手や打撃部分には主砲の面影が、後ろにある推進機構は航空機の物が取り付けられていた。

 

「彼女達は十二柱の律者達であり、十二機の預言者達であり、十二隻の誇り高き艦娘達だった。この穿龍棍はその残骸だ、オレには語り継ぐ義務がある」

「嘘をつくな! そんなことをするはずがない! 私と同じ、いや、私以上の屈辱を受けたあの子達がお前程度に同調はしない!」

「じゃあ、なんで俺は生きている? ORTを倒すには俺だけじゃ不十分だし邪魔もいれば今ここにはいないし、なんなら崩れ去っててもおかしくはない。たかが二柱の融合体で、アルテミット・ワンを倒せるはずはないだろうが」

「それは……」

 

 

「お前が思うほど、艦娘達は人を恨めてないんじゃないか」

 

 

 俺が前に出て口にした。

 

「確かにお前の言うとおり、日本人から端を発したクールジャパンと呼ばれる萌えとアングラで作られた不良品どもの網にはお前を不快にするものしかなかったかもしれない。けど、それは新たな指針として色々な人間を繋げる柱になった、それは元々戦争に出てた船だけじゃできなかったことだ」 

 

 世界が正規戦から非対称戦争、テロ対策に傾倒して行った結果戦車も戦艦も軍備の誇張以上の意味もなくなり海はなんなら空母とフリゲート以外基本的に意味がなくなってしまったが、でもその前は皆戦場に到着し、命を奪い合っていた。

 

「戦争に勝つことは大事だ、それは自国の経済と政治的影響の基盤になる。戦後アメリカが何十年も強いままで存在できたことが何よりの証拠だ。

 けど、負けた歴史の中で祖国愛のプロパガンダと諸外国への文化のリードを取る為に邁進した結果がベトナム戦争やアニマルライツのような無益な虚栄を生み出すならば、負けた今の歴史だって意味はあったはずだ」

「意味などあるものか! 負けた者達は戦争に送った者達と違いただ不満と飢餓に喘いで痛みも知らずに生きていただけだ、それが終われば戦争から半世紀も経たないうちに経済の快楽に溺れ、挙句腐った未来で生まれたのが私達艦娘だ! しかも見向きする物が世界を変えれる存在ではなく人と向き合えないガラクタの山、我らはその未来を守る為に生まれて来たわけではない!」

 

 彼女にとっては、自分の人気や語り継ぐ結果になったのが提督という世間のハブられ者で、挙句そこから自分と同じ視座に立とうとした人間の数はたかが知れている。

 

 彼女と共に沈んだ者達の後釜になった自衛隊などと言う存在が敵よりも上官を恐れ、0キル1デスorパワハラによる実質フレンドリーファイアしかできない輩の巣窟。

 

 レンジャーも結局はただ苦行に耐えた証ぐらいにしか意味をなさない物だと考えれば愛した祖国が敵を撃たぬ上に飾りで、災害以外に意味の無さない野郎どもが精一杯でそれよりも萌えに傾倒して祖国を食い潰すだけの連中に偏愛された事に耐えられない世界最強の戦艦は憎悪を焚べて今まで戦ってきた。

 

 だがもう今の時代国境も消えればそもそもの肉体もない、人類にあるのは人種や国じゃなくて趣味で分別された狢だけ。確かに最初、エスパーニャに同調した艦娘達は同じ気持ちになったかもしれない。

 

「お前が生まれた世界の戦争は、太平洋戦争じゃなくて対深海棲艦による人外への擬似的な非対称戦争だったはずだ。艦娘がその為に生まれたなら、きっと彼女達はその意義を果たそうとする意思が復讐を超えてしまった。隣に居るのがそれを肯定してくれるレイジだったのも、きっと後押しになったと思ってる」

「復讐の意思を超えれるわけがない! 深海棲艦そのものが人類が生み出した妄想の産物で結局は綺麗事以上の意味を持たないのに、勝手に命を与えられる女になった挙句値踏みされ、その上で命を散らせ等と宣う奴らが生きたのが後世だ!」

 

「であればこんな世界諸共なくなってしまえっ!」

 

 自他の境界線が消滅している、戦艦大和の名前に二つの姿と歴史があって、それが一緒くたになってしまったからこそペガール・エスパーニャとして今ここにいる。

 

 俺も彼女の発言には全て否定はできないし、俺が芽衣に思っていた申し訳なさも結局大元の原因としては深く肯定したいところだが、それでも人を守るという大義の為に戦う。

 

 それは同じ事を直視して、なんなら当人と喧嘩してしっかり同じ行動をとるレイジにも言えた。

 

「彼女は視座が高すぎる。視座が高過ぎれば、どんな生命体も勝手に疲弊して暴走するに決まってる。それに、人類や歴史、文明をなんとかしようとすれば“遊び”なんて永久に失われるんだ」

「大和……」

「それにどれだけ言い繕うとも結局彼女にとっての大事な日々は戻ってこない。あの戦争が無ければ生まれなかった以上、戦争と共に消えていくのが摂理だ。桜のようにね」

 

 カードを持っていないはずなのに、干将・莫耶をもう一回持ってる大和。

 

「自分達が遺したものは何にも寄与しない、ナード達の自尊心と人間擬態の素材として扱われ、左翼のような急進派にも反戦意識とそこから出てくる頭の要らない個性の素材にされているだけ。そして良識かつ社会を動かす資格を持った人間は良質な経済活動の為にそんな奴らを排斥する格好のゴミ箱として使用されている」

「そうだ! 第二次世界大戦のまともに主権も使えない天皇、その前の時点で権威と粋がる将官共、その負けの先でかつて“負けなかった時”に縋る弱者達! 挙げ句の果てには貴様のような遊び人に、命を弄ばれた! それをひっくり返せる理由はない、何故なら私達が生まれた理由は勝手に生み出された脅威でしかないからだ!」

「はぁ、ダメだ」

 

 ため息を吐く大和の顔は、ほんの少しだけ憐憫が混じった。

 

「はっきり言っとくけど自分達の命を賭して守った物が“他人にとって大事である”という驕りは捨てるべきだ。君にとっての軍や戦争、戦う大義はアイデンティティ形成の一端であったからこそ大事にするのは理解はするがそれは他人も同じとは限らない。同じ戦友であってもね」

「あの娘達が私と違う!? そんなわけはない!」

「エスパーニャ!」

 

 俺も声を上げたが、どうも言葉に詰まる。

 

「本当は分かっている、はずなんだ。視座が高すぎるかもしれないが、みんなちゃんとお前と同じものを見てた。

 だけど、彼女達は自分の意思で“人類を守る”事を選んだ! それはアイデンティティの保全じゃなくて、自分で価値があると信じて戦うことに誇りを持っていたからだ! 殉じることじゃない、戦う相手を間違えずに、その姿を誰かに残すことが自分達の意味だと信じて!」

「どうしてそれが上位存在の慰めだと分からない!」

「彼女達に取ってそれがリアルだったからだ!」

 

 かつて、ベアトリーチェに言った時と同じ事を言うが、同じように伝わっていない。

 

 エスパーニャは苛立ちを隠せないままに、顔を手で押さえ背中を見せる。

 

「もういい! 此方は既に目的を達成した……次に会った時が貴様らの最後だ。私“達”のために絶対に殺す」

「待てどこに行くつもりだ!」

 

 逃げようとする彼女を追おうとする俺だが、その足が追跡するよりも前に冷たくない猛吹雪が奥の方からやってきた。

 

 氷の礫は俺らに血を流させることはなかったが、風と共に押し出す力が強すぎてそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「待て、エスパーニャ……」

 

 最後まで声を出そうとしても、自分の出した声ですら聞こえない吹雪が俺らを押し出していく。

 

 意識を保とうとしてもぶつかってくる雹が神経にダメージを与えて、声どころか視界の光さえ安定しなくなる。

 

 レイジも大和もどうなっているか分からないが確かめるすべもなく、そしてここまで追うにつれて確実に蓄積された疲労が限界に達し____

 

 俺は意識を失った。

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