大聖堂の入り口、装飾の上に立っている女が一人。
「ああ……?」
俺はフラフラでよく見えてないが、その女は勢いよく降りてくる。
飛び降りる瞬間に体が分離。足、腿、股関節、胴体はX字に分かれ、腕も、肩、二の腕が三つ、肘、そして前腕に分かれた。
足がついた後に、電磁力の反発のようにパーツが浮いている。顔は白い髪代わりのパーツがいくつもくっついていて、全体像が見えることには大体機械化されていた。
少し浮いた後に全てをくっつけ、若干恍惚とした表情でこちらを見る女。
「ふむ、低俗な言い方は似合わないですね。私はベアトリーチェ、この物語のラスボスです」
「えらく……こっちの状況を……把握しやがるな。はあ、その癖してファーストアタックがぁ……車の、爆発か」
「虫の息ですね」
「誰のせいだと」
立ちあがろうとすると膝の力が抜けて倒れる。
諦めて回復するまで膝立ちするしかないだろう。周りを確認すると、ある程度兵士がいる。その中には顔出している奴もいた。
「あなた達は招かざる客ではありましたが、それでもいい情報を手に入れる事ができました。ベアトリーチェという存在は、色彩のために死ぬ。シナリオを知れただけでも研究内容は大きく変わりますが、何より色彩と対峙した時にそれと相対する道具を持ってきてくれたことには深く感謝していますよ。その犠牲になった人については、まあ」
「強いカードは、IDロックが掛けられている、はずだ。色彩とやらが……なんかは知らないが、それに対抗するだけの力は、ない」
キャラがどうであれ、プレイヤーでもロックが解除できないものをNPCが解除できるはずはない。当たり前なことだ。
だが、ベアトリーチェは余裕綽々。
「貴方は分かっているはずです、プレイヤーが400人喰われていることを。そのせいでアリウス陣営は壊滅していることも……」
「だからなんだ……その力に、デメリットがなければ、すでに全員喰っているはずだ。クールタイムも、それなりにある、そうだろう?」
「ええ、そうですね。最もそれを伝えたところで……貴方の命を奪うのに、何の関与はしませんが」
アリウスの奴らは囲んでくる。
絶体絶命の状況だ、こういうピンチで息を呑むのは古今東西変わらないものだな。ショットライザーを手にしてても全く安心できない。
「もっと言えばもう少し早く来てくれれば、いい女を演じる時間も得たのです……まあ、血一つを重視して内乱起こす"程度"の娘達に好かれたところで何も益はない。ベアトリーチェとしては特に変わりはなく、私が死んだところで男に熱狂する女が増えるだけ。そうでは?」
「それを……部下の前で言っちまうかよ」
「反逆しようと思ったところで誰が彼女達の生活を支えるのですか?彼女達はアルバイトができるほどの社会的信頼もなく、テロリストとしての技術しか磨いていないから当然他にお金を得る手段もなく、体を売ったところで他の浮浪者となんら変わらない金で何時間も犯される。ゲマトリアの研究費以上に彼女らが幸せになる手段はない」
キヴォトスは福祉が行き届いてない世界だ。
連邦生徒会が手が回らないのもあったのか、学園に入れてないものは一気に福祉を受けれなくなる。外がそんな状態なのに、アリウスは元々いた学園から追い出された過去も重なって最悪な状態になっていた。
そこになんでも叶う力が濁流のように溢れてきたのだから、力の持っていたものはもっと増長するに決まっている。兵士の少女達は、何も表情が動かない。
「貴方達が来てくれたことによって、もう少し金を稼げるようになったのです。色彩との関わりがあるかどうかの真実は必要ない、研究によって到達した結果の一つとしてゲマトリアも注目をしています。それが彼女達の口を賄うことになる」
「だから俺たちをぶっ殺すしか生きる道はない、か」
「そのためにいくつか用意をさせて頂いたのです。彼女達も、同じような手段で戦ってくることでしょう」
脅しは続行中、ということか。
周りの人間も色々な武器を持っている。
「無論貴方も彼女達を超える力を使ってしまえばいいだけ。今のバイタリティではそれが限界、それ以外に道もない。しかし出来ますか?今目の前にある命は、確かにあるものです。貴方達は電子世界の住人になった結果、生命の定義を変えました。ならば今目の前にあるものも、命なのではないですか?」
確かにそうだ。
俺達は電子の世界だからこそ、確かにこんな遊びをしている。死を覚悟するような痛みも、結局死なないで終わるからこそ全て快楽に変換された。そのデータの上で遊んでるだけだが、元々のデータが違う有機体かどうかくらいだろう、彼女の言うことは間違っていない。
ベアトリーチェは余裕を崩す様子はなく、俺に問いかけてくる。
「命が惜しいというならカードを全部渡しなさい、そうすれば助けてあげましょう。貴方の命は軽いものですが、命は命。そうでしょう?」
「嫌だね」
一息つかずに拒否する。
ようやく体も落ち着いてきて、血も循環してきたのか立ち上がる。女性の体ゆえ、少し慣れるのにも苦労したのはあったが慣れてしまえばこっちのもの。
ふらふらなのには変わりない。
「反抗するのですね」
「当たり前だろうが、ここで諦めるようならこんな酔狂な遊びはしてねえよ」
「何の為に?まさか、この娘達が可哀想だから、などとは言いませんね?」
相手の問いは、ある種の正しさを含んでいた。
確かに自分の命は相手の命と同じだ。同じデータで処理されるなら、間違いのないことだ。
しかし、違う。彼女達はそんなことを信じるような境遇でもなければ、設定でもない。ベアトリーチェは素直に受け入れたようだが、彼女達にとってはこれが本来の世界で、生きるべき場所。データ云々が事実だったとて、それを受け入れろと言うのは無理だ。
俺らにとっての痛みは、
懐から、プログライズキーを取り出す。グリップ付きで持ちやすい。
《Assault Bullet!》
このプログライズキーは、普通でも開けられる。だが万が一にもアイアンか大和が到着する可能性もある。だから、俺は本来の変身者に倣って、素手でこじ開けようとした。
「ほう?戦うと言うのですね」
「俺は最初から諦めるつもりはゼロだ」
キヴォトスの少女の体を使っていてもキーのこじ開けには時間が掛かる。
「囲ってある以上時間をあげましょう、なぜ戦うのですか?」
「なぜ……?」
「これでも戦う理由は、何かあるはずです。貴方達は人を助けたという合法的な快楽に至りたいだけの異常者で、その為には自分の痛みさえも快楽になる。とても人の生き方ではない」
「うるせえ」
力を込めるがなかなか開かない。
だが、その分体にはっきりと循環する力と神経が、俺の意識と集中力をはっきりさせてくれる。
「崇高な理由なんて要らねえんだよ……!」
俺はそもそも仲間内でチーム組んで、勝って、楽しかったで終わりたい性分だ。とても上位層で居ていいプレイヤーじゃない。
だけど、あの大会で得た名誉のおかげでいろんなやつに出会えた。俺は大和やアイアンと出会った時に漸く"勝ち"に感謝した。
このストーリーでも協力して勝つ、と言う最大限の名誉と彩、人生は熱量こそが真意であり論理的な思考の前では全ては虚無と化す。その熱量を持ったもの同士で挑むものが、よほど反社会的でなければ人生の意味となることを知った。
「俺は、俺のために頑張ってる奴がいる。アイアンも大和も、俺が二人のために頑張っているのも知っている!生とか死とか、そんな頭のいい学者じみたことなんざ論じる必要もない!お前だってそうだ、お前のために頑張ってるやつがいる!生きるためのギブアンドテイクであっても、助けられている!」
「言ったはずでしょう、それはあくまで犠牲に過ぎないと」
「それがお前と俺の差だ!」
はっきり言い切った、あまりこう言う熱血系のことを言いたくはないんだがすかしている余裕はない。
「俺は俺を信じる者達のために戦う、そうして娯楽に溺れる人生ならその人生と時代なりに全力で死ぬ!それが俺の生き方だ!」
「ではゲームとして消費するのですね?彼女達のことを」
「人生なんて元からそんなものだ!」
今目の前にある命で判断が揺らぐような思考は、思想や信念へとなり得ない。
「どの時代を生きようが、人生において客観なんてものは存在しない!生きている自分の意思から離れられない以上は積み上げてきたものが全てだ!この少女達もそうだ、俺やお前の交わした言葉なぞどこにもこいつらの真実はない!」
「この世の真実など、搾取される側には必要ないことでしょう?」
ベアトリーチェは悪辣さを隠そうともしなかった。
「搾取は社会の本質です。彼女達は、その社会の中で生きていた。ここにいるアリウスの生徒達にとって、それが真実!」
「だからだ!
こいつらにとっては、生きるために必要なこと以外の真偽など必要ない!だがそいつらの食い扶持や境遇の云々、過去の是非など知ったことじゃない!俺は俺の生きてる時間、俺の大切なもの、俺にとっての真実のためにこの身滅びるまで戦う!」
力を最大限引き出すために絶叫。
「それが俺の、ルールだぁぁぁぁぁぁぁーッ!」
ガチ、と言う音がする。
ロックが外れた!
《OverRise!》
ショットライザーにキーを差し込んで構える。
「変身!」
《Shotrise》
引き金を引けば、それは銃弾となって周りを飛ぶ。
周囲の生徒を引っ掻き回すように動く弾丸は、そのうち狼のライダモデルとなって辺りをもっと滅茶苦茶にしながら俺のところへ飛んできた。
「来い!」
左手を伸ばして、その狼に触れると手に着弾。それを握りつぶす。
パーツが一気に展開されて、俺の体へと隙間なく装着された。
《Ready Go! Assault Wolf!》
俺が俺自身をどう見えるかは分からないが、変身を終えた。
ここには狼が一匹。それを囲む天使達。
火を哀しむ雨が、降り始めた。