まえがき
前回のあらすじ
アイズの救出作戦が終わった後。
ベルとアイズが都市でデートをしているという噂が発生。
真偽を確かめるためにヘスティア・ロキの両ファミリアは行動を開始。
結果、ベルとアイズに瓜二つの人物たちが都市にいた。
勘違いでベルに似た男に怪我を負わせてしまったレフィーヤ。
治療や今後のためにディアンケヒト・ファミリアの治療院にいた一同だが、そこにヘルメスが現れ、この男こそ三千年前の喜劇の英雄、『アルゴノゥト』だと告げる。
「アルゴノゥト?」
「アルゴノゥトって、あの!?」
その言葉に興奮するように声を出すのはティオナ。
常日頃からアルゴノゥトのファンであると公言している彼女にとって、ヘルメスが告げたその言葉は何にも勝る起爆剤。
テンションが最高潮に登るのが分かる。
「うっそでしょ!?ファンです!握手してください!!」
「バカッ、本物なわけないでしょ!!」
テンションのままに握手を求めようとするティオナを止めるティオネ。
だが、アルゴノゥトはそれらの言動のすべてを意に介さないように黙りこくる。
黙って光を失った瞳でヘルメスを見つめる“アルゴノゥト”。
その言葉の真意を探るように、フィンは問いかける。
「神ヘルメス、どういうことだい?彼が、アルゴノゥト?」
「ああ、そうさ!彼こそがアルゴノゥト!!三千年前世界を変えた、喜劇の道化!!この世で最も有名な童話の主人公、偉大なる始まりの英雄だ!!」
「…………イマイチ理解できないんだが、どういうことだい?」
アルゴノゥトを偉大なる始まりの英雄と呼ぶヘルメス。
そのことはフィンやベル、春姫、ティオナは何となく理解できた。
彼という存在が端緒となって生まれた英雄時代。
それらを指しているのだろうと。
だが、彼ら以外はやはり理解できていない。
彼らにとってアルゴノゥトとは、滑稽な道化に過ぎないのだから。
だがそれ以上に。
フィンたちにも、理解できないことがある。
それは、彼がアルゴノゥトだということ。
そもそも、アルゴノゥトとは三千年も前に死んだ男の名なのだから。
「言葉通りの意味だよ。ここにいる彼はアルゴノゥト。君たちもよく知る童話の主人公その人さ」
「アルゴノゥトは三千年前に生きていた人物だろう?なんでオラリオにいるんだい?」
「そこは不明だね。過去からタイムスリップしてきたってことしか分からない。奇跡としか言いようがないだろう。だからこそオレもこうして柄にもなくはしゃいでいる。だが、彼がアルゴノゥトであることだけは確かなんだよ。神ヘルメスの名において、保証しようじゃないか!」
大仰に舞い踊るように手を振りながら、ヘルメスは断じる。
その様子をやはり周囲は理解できないように顔をしかめている。
だが、その中でもやはりアルゴノゥトは黙ってただヘルメスを見つめていた。
何も映さないその瞳で、ただ眼の前の真実を見定めようとして。
アリアドネも、ただ黙ってヘルメスを睨みつけている。
「っと、すまないね。君を置いて話しすぎた。非礼を詫びるよ、我らが英雄アルゴノゥト」
「構わないよ。私は、君たちの言うアルゴノゥトではないのだから」
声色も口調も、何一つ変えることなく彼は冷静にそう言った。
だが、その言葉に二人の神が反応する。
一柱は楽しそうに。
もう一柱はただ事実を淡々と告げるように。
相反しながらも、その言葉だけは一致していた。
「「嘘だね」」
その言葉を、アルゴノゥトは咀嚼するように吟味する。
「ヘルメスの言葉の真偽は分からないけど、今の君の言葉は偽りだった。君は間違いなく、ヘルメスの言う『アルゴノゥト』だ。少なくとも、自分のことをそう認識してる」
「つまらない真似はやめてくれよ、アルゴノゥトくん?」
二人の神から突き付けられるその言葉に、アルゴノゥトは嘆息する。
だが、それでも再びにこやかな笑みを浮かべる。
すべてに満足したかのように、ニッコリと。
「いや、失敬。神に嘘は通じないというのがどういったものなのか、興味が湧いてね。試すような真似をしてすまなかった」
「ハハハッ!なるほど、記されていた通りの聡さだ。もうそこまで把握したいたのか」
「お褒めに預かり光栄、と言っておこう。でも、君は少し迂闊だね」
「ほう?」
「口が軽くなりすぎだよ」
アルゴノゥトは微笑みながら、告げる。
フィンのように知略を巡らせる策士のように。
その凶器的な微笑みを携え、ヘルメスを詰めいる。
「君の口調からして、神としての視座から当時の状況を観察していたわけではなさそうだ。君は当時を知らず、ただ伝聞で知った気になってるだけ。ならば一体、どこでそれを知ったのか」
「…………。」
「フィンやベルの反応を見る限り、当代における私の物語はほぼほぼ私が意図した通りに残っている。となると、考えられるのは私を除く私側の当事者達である八人が個人的に遺した一点ものの記録か手記だけ」
「君は誰の手記だと思うんだい?」
「姫ではないようだね。君の反応からしてそれは間違いない。あとは消去法になっていくが、推理は容易いさ。ユーリとガルムスはそんなものを遺さないだろう。エルミナは論外。エルフであるレフィーヤやリヴェリアへの反応を示さなかった点から見て、リュールゥ…………ウィーシェでもない。これで二人にまで絞られる」
「へえ?」
「我が妹、フィーナは違うだろう。これはただの主観だが、そんなものを遺せるほどあの子は器用じゃない。それに、君が無条件でそれを信じているということは、後世に名が残るほど当時から影響力を持っているということ。ならば、考えられるのは一人しかいない」
彼の口から飛び出るその名に驚きながらも、声が出ない。
彼のその雰囲気に呑まれ、何も言えない。
「オルナだろう?君が読んだ手記を書いたのは」
そう断じる彼の言葉に迷いはない。
そして、ヘルメスもそれを間違っているとは言わなかった。
「彼女には酷なことを強いてしまったからね。それらの行動を咎める資格など私にはないだろう。後世に、確かな喜劇を遺してくれたわけだしね」
「ああ、それは良かった。実を言うと、それが少し気がかりだったんだよ。我ながら、一時のテンションに身を任せて迂闊なことをしてしまったと反省していたところだ」
「私などに会ってそこまで気分を良くするなんて、理解できないよ」
「そうかい?まあ、君ならそう言うか」
「そこまで知ったふうな口を利かれるのは些か不愉快だが、まあいいさ。だけどね、神ヘルメスとやら。これだけは覚えておくといい」
穏やかな笑顔はそのままに。
アルゴノゥトはその雰囲気を鋭く尖らせる。
「もしその場の勢いに負けてこれからも口が滑りすぎるようなら、私は貴方を黙らせる手段を考えなくてはいけなくなる」
「…………神殺しは大罪だぜ?」
「らしいね。だけど、それに一体どれだけの意味がある?オルナの手記を読んだなら知ってるだろう?私は既に独善で護国の英雄を殺した身だ。今更神殺しの罪を背負おうが、何も変わらないよ」
彼はきっと、どれだけ不可能に見えてもそれを成し遂げるだろう。
彼がそれを口にしたということは、そういう意味だ。
彼は命が尽きるその瞬間まで、それを投げ出すことはない。
「なあんてね!!」
鋒のような雰囲気を霧散させ、アルゴノゥトは穏やかに笑う。
「貴方がそんな真似をする人物ではないことは分かってるさ。ただ、言葉には気をつけてくれ。今更無為に希望を失いたくない」
「…………ああ、分かってるとも。改めて謝罪しよう、アルゴノゥト。少し軽率だった」
「分かってくれればいいさ。ほらほら、フィンたちもだよ!私のせいではあるが、あまり沈んだ表情をしないでくれ!」
励ますように手をたたきながら、アルゴノゥトは笑う。
呆気にとられたように呆然とその様子を眺めるしか出来ないフィンたちだが、やがて絞り出すように問いかける。
「君は…………本当にアルゴノゥトなのかい?今も語り継がれている、あの童話の?」
「ああ、どうやらそうらしい。偉大な私の物語を長く遺すよう努力はしていたが、まさかここまで実を結ぶとは思っても見なかったよ!!」
「三千年前の英雄が、なぜオラリオに…………?」
「さあ?目が覚めたら姫と一緒にいてね。訳が分からなくてただひたすらにウロウロしてたんだよ。だがこれはきっと、この世界が私という英雄を欲しているということだろうさ!!いやぁ、英雄は引く手数多で困っちゃうね!!」
アルゴノゥトは笑う。
先程までの雰囲気がまるで嘘のように、軽薄に笑う。
「あの、やっぱり、本当に本当のアルゴノゥト……?」
「うん?うん、そうだよ?」
「あ、本当に……!!あのあの!後で握手とサインお願いします!あ、もちろんお姫様も!!」
「わ、私もよろしいですか?」
「もちろんだとも!!」
アルゴノゥトは高らかに笑う。
その様子を、アリアドネは酷く冷たい瞳で見つめていた。
「さてと。では、改めまして。私はアルゴノゥト。英雄の船を語った、始まりの英雄だよ。諸事情あって事実と異なる伝承を遺したが、それはあまり尋ねないでくれると助かる」
「女王アリアドネ。彼に救われた元姫です」
「あ、ちなみに妻云々は嘘だから安心してね?」
「嘘じゃありません。書類やその他含めて、貴方以外の全員が認めてます」
「当事者が認めてないじゃん……」
何故かそんな事を言っていた。
その言葉の真意は、分からない。
「…………ところで、私からも一つ質問をいいですか?」
「なんでもどうぞ、女王アリアドネ」
「あなた達の知る『アルゴノゥト』の結末は、どうなっているのですか?」
「え?そりゃあ…………」
「あ、ティオナ────!」
不意に溢れたその質問に、ティオナが何気なしに応えようとする。
それは当然の反応だろう。
彼女にとって、その結末は誰もが知る当たり前のものなのだから。
だが、アリアドネにとってはそうではない。
それを察したフィンは思わず止めようとするが、間に合わなかった。
「獅子退治に行って、そのまま呆気なく死んだって…………あっ」
「この…………馬鹿!!」
「ごめんって!!」
ティオネに頭を引っ叩かれてしまうティオナだが、これは不味い。
なにせ、女王に貴方の夫はこれから呆気なく死ぬと告げたのだから。
当然彼女は怒りを露わにする。
だが、そこからのやり取りは予想外のものだった。
「だから、言ったじゃないですか!!貴方が行けば、死ぬことになると!!」
「…………姫」
「光も失った状態で行っても…………いや、そんなことは関係ない!どんな状態であろうと、行けば貴方は必ず死ぬ!だって、貴方自身がもう生きる意味を失ってるから!もう何がなんでも生きなくてはいけない理由がないから!!」
「…………アリア」
「行かせません、絶対に行かせませんよ!!貴方が何をどう言い繕おうと、例え貴方を牢に繋いででも、貴方を行かせない!!貴方を行かせるくらいなら民が─────」
「アリアドネッ!!」
その言葉を遮るように、アルゴノゥトは叫ぶ。
二人のその様子は、悲痛だった。
「それ以上言ってはいけないよ。それは、王が口にしていい言葉じゃない」
「…………。」
「それに、獅子を野放しには出来ない。人類の砦としての在り方がようやく確立してきた頃合いにあれを無視すれば、必ず綻びとなる。例え退治できないとしても、英雄を向かわせたという諦めない意思表示が必要なんだ。君は王として、その選択をしなくてはいけないんだ」
彼が示すのは、何よりも正しい王としての姿。
それはきっと、世界にとって必要なものなのだろう。
だが、それは────
「貴方は、いつもそうやって…………」
「…………。」
「王だから、いけないんですか?英雄だからいけないんですか?私は愛する人にずっと側にいてほしいと願うことすら、出来ないんですか……?」
何よりも正しく、残酷なアルゴノゥトの示す道に、姫は痛みを叫ぶ。
「…………それは今、ここで話すことじゃないよ」
「…………ズルい人ですね、貴方は」
アリアドネは耐えきれなくなり、部屋から飛び出していく。
「あっ、ちょっと!!」
誰もが心配の声を上げて後を追おうとする。
そして、それはアルゴノゥトも一緒だった。
「すまないが、誰か手を貸してくれ。あの子を追わないと…………」
「その必要はない」
アリアドネが出ていった扉の先から、声が聞こえてくる。
苛立ったような男の声だった。
「…………おや?」
「ベート?」
そこから現れたのは狼の獣人。
灰色の髪をしたその男は、確かにロキ・ファミリアに在籍する彼と同じ顔をしていた。
「なんで今になって来てんの?ていうかその格好なに?イメチェン?」
ティオナがそう問いかけるが、男は無視して部屋の中へ入ってくる。
そして、アルゴノゥトの前で立ち止まると…………
「痛ったァァァァァァァァッ!!」
アルゴノゥトの頭を思いっきり殴った。
「なんでいきなり殴ったの!?」
「匂いを追ってみれば、お前が無駄にダラダラ歩き回っていたせいで都市中を走る羽目になった。途中から血の匂いが混じったから多少慌てて追ってみれば…………なんだ、あれは?」
「あれって言うと…………」
「随分フザケたことを言っていたな?」
「あぁ、やっぱ聞こえてたんだ~」
まるで旧知のように話す二人。
ベートとアルゴノゥトは初対面のはずでは、などとは聞かない。
アルゴノゥトとアリアドネが、ベルとアイズに瓜二つだったことを考えれば、これだって充分有り得る話なのだろう。
「ところでユーリ、君だけかい?他は?」
「他は今のところ私とリュールゥとフィーナ。リュールゥとフィーナにはアリアドネのことを任せてるわ」
「あ、オルナ」
「『あ、オルナ』じゃないのよ。何アリアドネ泣かせてるのよ、クソバカアルゴノゥト」
「そういう意図はなかったんだが…………」
「じゃあどういう意図があったのよ?」
続いて現れたのは、ティオナに瓜二つの褐色の少女。
フィンがふと窓から外を見れば、リューとレフィーヤにそっくりな人物が外でアリアドネと一緒にいる。
その様子を見て、フィンは人知れず溜息を溢す。
(面倒なことになってきたぞ、これは)
事態は混迷を極めてきた。
続々と集まり始める古代の英雄たち。
彼らがこの英雄の都市で何を成すのかは、まだ分からない。
あとがき
取り敢えず思いついた分だけ書きました。
う~ん、元々手紙の内容を含んだストーリー考えてたからか、あんまりうまくまとまった気がしない。
まあ、アイデアシリーズだしそれでもいっか、と思ってます。
例によって、書きたい方がいらっしゃればお好きにどうぞ。
来週はまた時を渡る乙女達を書いて、取り敢えずそれを全部書き上げてからまた道化の方を進めていきたいと思ってます。
色々忙しいので、どうなるかは分からないですけど。
以上、あとがきでした。