俺が轟と出会い、なし崩し的に共に訓練をするようになってから暫く経った。あれから俺達はよくこの高架下で鍛錬を行うようになった。
鍛錬と言っても内容は多岐にわたる。個性の制御や範囲拡大から、単純な体術の強化。ちょっとした勉強会なんかも行う事がある、学年でいつも優秀な成績を取ってるのは知ってたけど、普通に俺なんかより遥かに頭の出来が良いのか、すげぇ頭良い。いつも教えてもらってばっかりだ。
今日は休日だからじっくりやれる、俺も轟も部活に入ってないからこういう時間が作れるのはありがたい。今は丁度二人で個性なしの組手だ。流石にルミの姉御の実戦方式パワーレベリングを受けた俺は、早々に追いつかれる鍛え方はしていない……だが、うかうかもしてられない。
轟もヒーロー志望、生半可な鍛え方はしていない。こっちも怠ると直ぐに追い抜かれそうだ……競え合える人がいるというのはそれだけで気合が入る。
「っ!よっ、ふっ!」
「っ……ぐっ…ふんっ!」
たがいに拳や蹴りをぶつけ合う最中、轟の回し蹴りが俺の腹部を捕らえる。咄嗟に俺は身を捩らせて皮一枚の所で回避する……体勢を崩しかけても、逆に大きくバク転して距離を取りながら体を整える……正直タマヒュンするレベルで焦ったぞ今の。
「っ!!今のヤバかったな!」
「ちっ、もっと深く入れるつもりだったんだが……」
危ねえ、つか怖え、やっぱやべぇ。
このままジリジリやってても埒があかねぇな。しかけるか……!!
俺は数度フェイントをかけてから轟の懐に飛び込む。当然、轟もこれには対応して至近距離から膝蹴りを打とうとしてくる……が、なんとか頬をかすめるだけに留めさせ、逆に唯一地面に接地した片足を払う。
「っ!」
「足払っ……!?」
流石に個性抜きでここから体勢を立て直すのはキツかろう!そのまま俺は轟を地面に伏せさせて、拳をその眼前に持っていく。
「……一本、取ったぞ。」
「……参った。まだ体術は叶わねぇな、
「個性有りなら話は別だ、俺は
俺は轟を腕を貸して立ち上がらせると、お互いに服についた汚れを払う……いや、マジでヤバイ。俺が一年かけて形になった型に轟がもう追いつこうとしてる、本格的に自信なくすわぁ……
因みになんやかんやでもう名前で呼び合えるくらいには親交を深められてると思う……と言うか轟の方から他クラスなのに寄って話しかけてくる。
マジで見かけてくる度にアヒルの子みたいに俺の方に寄ってくるんだよ……つか最初に名前呼び始めたのショートからだからね。距離の詰め方どうなってるんこいつ……因みにモノローグで轟呼びになってるのは仕様だ。深い意味はない。
「日向、もう一回組手頼む。」
「おけ、今度は個性は?」
「無しで頼む。もう少し体動かしてぇ。」
「あいよ。」
と言うか轟の方が最近格闘術に熱心なんだよな。なんか自分の個性の出力が高くて大振りな動きしかできないのが結構悩んでたらしい。
……噂程度にしか知らないけど、コイツの親父さんプロヒーローなんだよな?教えてもらえば良いのに、なんて思うけど……スパルタなのか?
そんなこんなで俺と轟は息を整えると再び組手を始める。すると、不意に思い出したことがあるので轟に問いかけてみることにした。
「そーいや、もうちとすればっ!雄英入試だなっ!」
「んっ!ああ……!!俺はもう少し早いなっ。」
もう少し早い?どういうこっちゃ?……っ!今の突きやばっ!?風圧がやべぇ!
「俺はっ、推薦を受けるっ!予定だからっ!」
「まじかっ?羨ましいわ、こっち一般だから。」
そっか、轟は推薦入試なんだなあ……まぁ入学枠を轟と争わなくて良いってのは気分的にはちょい楽かな?
「んで、個性の制御は?」
「まだ上手く氷を練れねえ。形を作ろうとしてもどうやっても氷山の天辺みたいになっちまう。日向は?」
「まだまだだなあ。冷気の放出って奴がどーにも……似た系譜の個性でも違いってのは明白に出るもんだな。」
前にも話したが、俺の個性を氷を纏って操る事に特化した個性……轟みたいに氷を出しての氷壁だったり冷気を操ったりは中々に難しい。
この超人社会、同じような個性はごまんとあるが、やはり個性の違いは個人の違い。その差異をどうにかするのはやはり劇的には行かないらしい。
っと!まずっ!また蹴り……いや、フェイントか!この構え……今度は拳だろう!?
「その手は貰うか!」
「手じゃない、足だ!」
ふぁっ!?フェイントのフェイント!?
「痛ったぁぁ!?」
「よし、入った……いや、咄嗟にガードされたか……」
あっぶねぇ……蹴りをもろに喰らうのは何とか避けられたが……
「普通に痛いなこれ……」
「全力ぶつけたのにガードされた上に痛い止まりか……次はダウンさせる。」
「へっ、やってみろよ……!」
こんなこんなで俺と轟の訓練は夕暮れまで続いていった。
因みにこのあと個性有りの模擬戦に近い形でやってみたら、普通にめっちゃ氷壁撃たれて捕縛されて負けた。やっぱさぁ無理だってぇ!俺の個性火力でないんだからさぁ!氷だから当たり前だけど!!
……えっ?凍傷は大丈夫なのかって?俺は氷を纏える男だぞ、耐寒には自信があるんだよ……それはそれとして氷漬けにされたら身動き取れないから負け判定だけどな!
互いに汗と氷と水滴と汚れに塗れたきったねぇ状態で迎える夕暮れ……川辺に夕日が移る中、俺と轟は息も絶え絶えになりながら高架下に腰を掛けていた。
「あー、疲れた……」
「今日は熱が入ったな。」
「マジでお互い氷の水滴まみれだよな……早く風呂入りてぇ。」
あー体べたべたすらぁ……あん?どした轟、そんなジッと見つめてきて……
「……日向。」
「んだよ。」
「俺……お前と出会えて良かったと思ってる。」
「急に重いなどしたお前!?」
コイツなんか天然通り越してないか!?距離感どーなってんだ距離感!!つか、こんな事言うのもあれだけどまだ訓練始めて4ヶ月だぞ!?友達になって半年でその発言はちょっと重すぎるような……あれっ友達なら普通なのか?(ボッチ並感)
「……俺はずっと、この左の力だけでNO.1ヒーローになってやろうと思ってた。その為に全部投げ捨てて、友達なんて出来なかったし、作る気もなかった。」
「ん……?おう……」
突然の自分語りどうしたって聞いたらさすがに可哀想だからやめておこう。
「けどあの日お前の訓練を見て、一緒に鍛錬する様になって、何ていうか、凄いしっくり来た。」
「ん……?うん。」
「互いにぼろぼろになって、夜まで訓練続けて、偶に一緒に飯食って……本当に楽しかった。今まで見えなかったもんが見えるようになってきた。」
「そ、そっかあ……」
「だから……俺はお前と出会えてよかったと思ってる。」
「お前これから死ぬんか!?」
まだ会って半年だっつーのに!!!??どんだけ俺のこと買いかぶってんだよ!!六ヶ月目の友人に向ける感情じゃねえよ!!どーなってんだコイツ!!
「俺は……死ぬのか?」
「違う違う違う違う!例え話!雰囲気がもう死ぬ前に最後の思いを伝える漫画とかでよくある奴なんよ!!」
コイツ天然通り越して別の何かになってねぇか……???
「はぁ……何があったのか知らねぇけど、その顔の火傷と言い、どうしたらそこまで拗れるんだよ……」
「……母さんが昔、俺の顔に煮え湯を浴びせた。」
待て待て待て待て!!??そんな流れだったか!?やっぱ悩んだけどマズかったよな火傷に触れるの!悪かった!俺が悪かったから止まってくれ!
「個性婚って知ってるか?旧時代の悪しき風習。強力な個性同士で子を産ませてより強く強靭な子供を残すって考え方。そんな旧時代の悪習を…………晩年NO2のヒーローだった俺の親父……エンデヴァーは実践した。……自分じゃなく、自分の子供をNO1ヒーローにするために。」
止まれって言ってんだろ!?止めるタイミング逃したわ完全に!!その話少なくともこのタイミングじゃねぇだろ!?もっと段階踏んでしないか!?俺ちょっと受け止めきれないぞ!?
「そして、産まれた親父の理想形が俺だ、親父は俺をNO1ヒーローにする為に……俺に訓練を強いてきた。そんな中でも俺を必死に支えてくれたのが母さんだ。だが、親父の行動は……母さんを追い詰めて…………遂には母さんは壊れて不意に、俺に熱湯を浴びさせた。」
待って……苦しいよ……急に来たな重い話が……想像の何倍も重いよ……お前の親父があのフレイムヒーローのエンデヴァーって事以上に他の話が重いよ。
……つか話総括するとお前のなかのお母さんって本当に大事な存在じゃん。とんでもなくでっかい存在じゃん。どんな気持ちで俺とお袋さん似てるって言ったんだよ。
「だから……!!だから俺は!!この氷の、母さんの力だけでNO1ヒーローになって!!!!奴を……クソ親父を完全否定するッッ!!!」
と、取り敢えずこいつがどんな気持ちと過去でヒーロー目指してるかは分かったけど……さあ。えぇ……どう返してやれば良い?
……どうすりゃ、
話ししてる時からずっと半泣きの子供見たいな顔しやがって……こいつ自分のアマイマスクを自覚しろよ、女性の皆様方が失神するぞ。何より友達のそんな顔みたかねぇんだよこっちは。
「あー、なんつーか。先ずは話してくれてありがとうって言うべきだよな。言い辛い事だろうに。」
「いや……俺もなんか、止まんなくなっちまって……お前にずっと黙ってんのも苦しくて……」
応……大丈夫か本当に。
「……お前は、どう思う?日向が俺の立場なら……どうした?」
急に難しいこと聞いてくるな。俺はお前じゃねぇから参考になるようなこと何も言えねぇんだが……
「人の生き方なんか参考にならねぇだろ?……お前の人生は、お前だけの物なんだからさ。」
「それでも、聞きてぇ。お前ならどうするか。」
えぇ……まぁ、こう聞いてくるからにはコイツもやっぱり迷ってんだろうな。でも、なぁ……俺だったら……
「……俺ならまぁ、勿体ないって思うかな。」
「勿体……ない?」
「もし、炎も使えたうえで封印して、氷の力だけでNO1ヒーローになれたとして……もし、炎を使ったら、全力で戦ったら何とかなった被害があったとしたら……それを考えると、お世辞でも半分の力だけでヒーローをやり抜けるなんて言えねえよ。」
つってもまぁ、これは俺の考え方……俺って結構臆病だからこんなふうにも考えちまうのよね。俺の考えがあるのと同じくらい同じようにコイツにはこいつの考え方がある、それを安安と否定もしたくねぇ……ま、そう簡単に答えが出たら苦労もしねぇだろうしな。
「まぁ、俺も人に言えない悩みの一つや二つあるし……お互い悩み抜こうや。悩んで悩んで……いつか答えを出して、少しはマシな自分になれりゃ良い。」
「マシな自分……」
「それに、お前がヒーローになりてぇのは親父を否定する過程じゃないんだろ?」
「っ!?」
おっ、図星か?……コイツの普段を見てりゃ何となく分かる。偶に一緒に最高がてらヒーローの映像とかを観てる時……コイツすっげぇ良い顔してんだよ。そんな奴が、ヒーローを手段にするわけがねぇし、思いたくもねぇ。
「親父を否定するからヒーローになるんじゃなくて、ヒーローになってから親父を否定したい。それがお前だ……って俺は思ってる。」
「……随分と人の心を見透かしたような事を言うよな。」
「違ったのか?」
「……わかんねぇ。」
「そぉかい。」
まぁ、自分の心なんて自分でさえも分かりゃしねぇもんな。
「ま!お前がなんだろうとどうであろうと、俺は変わんねぇよ!!」
そう言って俺は大きく身体を跳ねさせて、地面に立つ。夕日はすでに沈みかけてきている。
「……お前が氷だけでやり抜こうと、いつか炎を使おうと……俺は付き合うぜ。ヒーローを目指す限り、夢の果てまで、な。」
「……それじゃ、必ず受かって、雄英で……その後も、一緒行ってくれよ。」
「お前もな。」
そう言って、俺と轟は互いに拳を突き合わせる。
すると、轟は静かに口を開く。
「やっぱお前母さんみたいだ。」
「またかお前。」
「……どんな場面でも、俺を支えてくれる。本当に……母さんみたいだ……」
「だから重いわお前!!!」
そう言って俺は軽く笑ってやる。湿気た面ばっかコイツにして欲しくねぇしな。
こう言うやり取りってもっと段階踏ませないかな!?