雄英入試試験が終わってからしばらく……漸く落ち着いてきた俺と轟だ、久々に組手をしようということで、学校帰りにいつもの高架下へと向かっていた。
「なぁ日向。入試の方はどうだった?」
「あー、まぁ何とかなったと思いてぇな……そっちは?」
「合格の連絡は来た。」
「そっか。」
轟は推薦組なだけあって一般とは違う入試形態が取られた。故に入試は一般組の俺よりも早め……すでに合否通知は行っている事だろう。
そして、俺はと言えば未だ通知は来ず……毎日焦らされるような日々を過ごしていた。そんな自分を振り払いたくて俺は今日轟を訓練に誘ったのだが…………
「しっかし、最近は身体休みっぱなしだったからな。うまく動けっかな?」
「軽く走り込むか?」
「そうだな、体温めてぇし……」
俺は轟の提案に乗っかって、軽く伸ばし運動をしてから走り込みを始めようと準備する……だが、その最中……
突然俺の後頭部にまるで全力疾走のスクーターに突っ込まれたような衝撃が響いた。俺はその勢いのまま大きくぶっ飛ばされて空中を浮き……そして地面に頭から突っ込んだ。
「ふごぁぁぁぁぁ!?」
「ヒューガ!?」
すると、俺の頭に打ち付けられたと思わしき物体がころころと倒れた俺の目の前を横切る。
後頭部に投げつけられたのは、円盤状の投影機…………しかし、どんな勢いでぶん投げられたのか、それは俺の石頭にぶつかった影響でパチパチと音を鳴らして部品をはみ出しながら沈黙。
そこそこ頑丈そうな物品だが、一体どんなスピンドで投げ受けたらこんな事になるのいや、ほんと……なんで?いや、こんな事しでかす人なんか一人しか知らないけど。
だが、そんな事はつゆ知らず轟が俺に駆け寄り身体を揺らす。
「日向!?くそっ……誰だっ!?ヴィランか!?」
「ほぉ、あたしをヴィラン扱いとはナマイキじゃねぇーか!!」
「っ!?」
その声とともに地面に降りてくるのは……褐色の肌、銀髪、伸びるうさ耳、身につけたバニーガールのヒーロースーツ。轟は身構えて身体から冷気と……
「お前一体……!よくも日向にこんな、…!!」
「いいよショート……この人こんな人だから……もう俺は諦めてる。」
「はは!相変わらずエラソーな口叩きやがるな!」
すると彼女は自慢げに胸を張りながら先の轟の疑問に答える。
「アタシはラビットヒーローミルコ!!日向から噂は聞いてるぞナマイキな半分坊主!」
「ナマイキ……なのか、俺は……確かに、半分の力で上り詰めようなんて奢った考えかもしれねぇ……だが!!!」
「ショート、ちげぇ。この人はそんな深いこと聞いてねぇ。この人の言葉にそんな深い意味ねぇから。」
やめてくれよ姉御……コイツ馬鹿真面目の天然だから下手なこと言うとこうなるんだよ!!なんかいたたまれなくなるんだよ!!いや、そんな事よりも……!!
「……姉御……何の真似だよ……いきなり人の頭に物投げつけてくるなんてよぉ……」
「投げつけてぇよ!!蹴り飛ばしただけだ!」
「余計悪いわ!?んなもん普通は救急搬送行きだぞ!?この馬鹿兎の脳筋肉!ボケナス!ノータリン!」
「あぁん?随分な言い草じゃねぇか!テメェの帰りが遅くなりそうだから真っ先に伝えに来たんじゃねぇか!!」
あ?……何を言ってだコイツ……伝える?何を?
すると、轟が先程のルミの姉御が蹴り上げたであろう円盤状の投影機に近づき開い上げると、思い出したように呟く。
「これ……雄英の合否発表の時に届いた投影機だ。」
「ファッ!?」
待てよ待てよ、つまり何だ?伝えたい知らせってのはさか……
「……合否確認したんか姉御!?」
「おう!合否結果は合格!実技は同率一位の首席だそうだ!ナマイキだな!!なんかレスキューなんたらってのもあるそうだがよく知らん!!」
「知らんじゃねぇよこの元地下格闘家!!??何してくれてんの!?見てみろよあの投影機!!あんたが馬鹿力で蹴ったせいで完全にぶっ壊れてんじゃん!?部品出てんじゃん!?もう確認できねぇじゃん!!」
「おいおい、雄英ってケチ臭えな。この程度でぶっ壊れる機械をよこすなんて。」
「アンタの蹴りなんか食らったら普通こーなるわ馬鹿!!」
前々からめちゃくちゃやる人なのは分かってたがここまで酷いとは思わなかったわ!
「いやぁ!一刻も早くこの知らせを伝えたくてな!跳んできちまった!」
「あっそう!!ありがとうございますこの野郎!!」
なぁんで勝手に人の郵便物漁っとんねん。なぁんで勝手に中身覗いとんねん、なぁに勝手に合否確認しとんねん、なぁんで結果口で俺に伝えんねん!!
「日向……この人が前話してた世話になってる姉さんか?プロヒーローだったんだな。」
「あー、ラビットヒーローミルコ。次のビルボードチャートでランキング10入りは確実って言われてる人だ…………ショートあんま近づくな、蹴られるぞ。」
「さり気なく私からガードしてんじゃねぇよ気色悪い。」
ガードするわ。俺河川敷で訓練してたらいきなりアンタから飛び蹴り食らったんだぞ!!死ぬかと思ったんだぞ!?そっからなぜか世話焼いてきやがるしぃ!?
「それと……話は聞かせてもらったぜ!日向がそこの……半分も雄英に受かったんだろ!?」
「焦凍です。轟焦凍。」
「あっ?轟?どっかで聞いたような気のせいだな!!」
そっか、この人プロヒーローだから轟の親御さんのエンデヴァーの本名知ってるのか。よかった、人の名前覚えるタイプじゃなくて。
「んで、話は聞かせてもらったってどういう意味だよ。まさかこれ俺に対してシュートするためだけにここに来た訳でもねぇだろ?」
「おう!お前ら二人!このアタシが鍛えてやる!!」
「ッ!?」
おぉ……えぇ……?
「どういう風の吹き回しだよ……姉御がそんな事言うなんて……」
「あァん?紛いなりにもお前を使えるレベルまで育てやった師匠に向かって言う事かァ?」
「いや、それは感謝してるけど……そもそも今コス着てるけど仕事は良いのかよアンタ。」
「これも立派な後進育成の仕事だよ!」
「後進育成て……」
姉御は勝ち気なバニーなんて言われるくらいは豪快な人だが……まさかこんなふうに自分から鍛えてやるとハッキリ言い出すとは思わなんだ。前にも話したが、俺の時は自主練にいきなり蹴り飛ばされて首突っ込んで色々と指示してきたからな。
いや、指示自体は的確だったしそれのおかげで俺も成長できたから出会い頭に蹴り飛ばした事以外はそこまで気にしてないんだが……
「なぁに、そんな大層な事はするつもりねぇよ。ただ、未来の雄英生が人けが無いとは言え私有地じゃない場所で特訓なんて外面良くねぇだろ?だからアタシの持ってる特訓用の敷地貸してやるって話よ!」
「!!……ありがてぇ話だ。クソ親父の息がかかってる所は使いたくねぇし……そこなら全力で個性も使える。」
「騙されんな……どーせあそこだろ?姉御が作ったあの小さい小屋のある……」
「応!またしばらく使わねぇ内に散らかってきてな!日向!掃除してくれ!」
「んなこったろうと……どーすんの?行くのか?ショート。」
「勿論。クソ親父以外のプロのヒーローに鍛えてもらえるなんて中々ない。俺はお願いしてぇ。」
轟……分かった!!そこまで言うなら……
「んじゃあお二人さん頑張ってェッ!俺は分度器家に忘れたから取って帰ってくる……」
そうして俺は猛ダッシュでその場から離れる事にした……何故かって?普通に姉御の雑用するのが嫌だ。あの山小屋行くのが嫌だ。汚いし虫出るし、偶に熊出るし。掃除めんどくせぇし…………まぁ、そんな奴を姉御が逃がすわけもなく。
後ろで土を蹴りつける音が響いたかと思うと、姉御はひとっ跳びで俺の目の前へと降り立ち、その鍛え上げられた自慢の足に回転をかけた旋風脚が俺に激突する。
「
「ヤッダァァバァァァァァァァァ!!!!!」
俺の顔面はまたもや地面に突き刺さる……俺はなんで1日にに度も顔面から砂を浴びなければならないのか…………
「よしっ。」
「あの……日向大丈夫なんですか?」
「あー、コイツ打たれ強いから問題ねぇ。加減してやってるとは言え、少なくともアタシが今まで打ち合った相手の中では5本指に入るほどのタフだからな。」
「日向……流石だ。」
「なにちょっと評価してやってるみたいな感じだしてんの!?流石だ。じゃねぇからな!?普通に頭蹴りつけられてんだぞ!?」
「よーしゃ!んじゃアタシについてきなお前ら!!」
「無視か!?」
本当……つかビルボードチャート追い抜いてやるからな……あいつ……
と、まぁ……そんなこんなで俺は轟と共に姉御に連れられた山奥でちょっとした特訓と言うか……まぁ、簡単に体を鍛えていた。
内容はひたすら実戦方式だったんだが、姉御の素早い動きに俺達はまるでついてこれずに蹴られまくった。
轟が地面に広範囲氷結させても跳んできたりそもそも氷蹴り砕いたりするし、俺の硬度高めの氷も数撃で砕く。ようは個性にかまけた動きが出来なくなるわけだ。
その隙で姉御は普通に打撃を入れてくる……よって必然的に個性無しの素の身体能力や反射神経の強化が必要となってくる。
途中で熊に襲われたり猪に襲われたり姉御に蹴られたり姉御に蹴られたり色々あったが、まぁいいだろ。
なかなかにハードなトレーニングだったが、流石にプロヒーローと直々に手合わせできているだけあって実になっている感覚があった。
だが、やっぱ轟は凄まじかったな、成長速度って奴が。俺が1年近くかけてやっと見切れるようになったルミの姉御の攻撃をこの特訓中に軽々避けるようになったし、普通に氷結を当ててくるようになった。
ぶっちゃけ差って奴をしみじみと感じたよ。個性の強さ云々は兎も角、才能って言葉で片付けるのも何だが……まぁ、俺にはないものが確かにあるよ。轟には。
因みに、そのルミの姉御直々のトレーニングは雄英高校入学の少し前まで度々やってたんだが、流れで小屋で寝泊まりしたり飯作る機会もあったり、そもそもの掃除を俺が任されたりもあったんだが…………
「日向。野菜切っておいたぞ。」
「切れてねぇよ!?ニンジン丸々1本だよ!切れ込みしか入ってねぇよ!!」
轟の料理スキルが割と壊滅的だった。その割に掃除とかは結構得意そうにやってた……なんなら若干のリフォームの域まで入ってたな。なんなんだよコイツ。