転生オリ主が魔皇ロールする話 作:野生の生蛇
「へーいデミウルゴスさんちょっと時間ある?」
プレアデスとの模擬戦の翌日。ジェーンは与えられた自室にデミウルゴスを呼びだしていた。
「御方の友人となればいつでも時間は有りますよ」
デミウルゴスはにっこりとほほ笑む。
お互いソファに向かい合って座る。
「よかった。じゃあちょっと本題なんだけど、例の魔王計画、俺にも噛ませて欲しい」
「ふむ。どれほどとお考えで?」
「魔王役をそのまま俺にして貰いたいんだけど、出来る?」
「出来ますとも。こちらとしても有難い提案ですね」
デミウルゴスは怪しい笑みを浮かべる。それに対しやっぱこいつ裏切りそうという大層失礼な事をジェーンは考える。
「それじゃあ、計画について教えてくれ──」
■
夜。アダマンタイト級冒険者ガガーランは八本指の持つ屋敷の一つを襲撃する予定だった。
その屋敷前に来たガガーランは屋敷からはい出た怪物を前に足を止めていた。
人型。病弱を疑う程に真っ白な肌にがりがりにやせ細り、骨が浮き出ている体。
眼球が縦に二つ付き、歯茎が丸見えになっている異形の顔。身長は百六十五センチから百七十五センチ程の個体。
数は十体程。それらがガガーランに向かって走っていた。
「一様聞くが、会話の余地あるか?」
ガガーランはそう言いながら戦鎚を構える。
それに対する返答は「あー」だの「うー」、「おぎゃぁぁ!」であった。
「赤ん坊か何かか!」
異形──ホムンクルスたちはガガーランを食い殺そうと襲い掛かる。
ガガーランは戦鎚を振るい、ホムンクルスの頭を吹き飛ばす。
ホムンクルスは緑色の体液をぶちまけ、死亡した。
残る九体のホムンクルスが襲い掛かるがガガーランは難なく対処し、倒す。
だが倒す途中、腹を貫いたり腕をへし折ったりしてもホムンクルスは変わらず襲い掛かって来た事にガガーランは疑問を抱いた。
「……なんだこいつら、ゴーレムか何かか?」
(難度は十五から三十前後。だが体の欠損を無視して襲い掛かる点を考えればもうちょい高くても可笑しくはない、か)
八本指が何かの実験で作っていたのだろうか、などとガガーランは考える。
「素晴らしい!」
そこに、拍手をしながら男がやって来た。
ガガーランは即座に武器を構え警戒する。
ガガーランの前に居たのは奇妙な男だ。
上半身裸にズボンと靴を履いた姿。両の指には宝石が着いた豪華な指輪を付けている。
白髪赤目のワイルド系のイケメンと言ったところだろうか。
左胸に上下反対にされた女の泣き顔が彫られている。
「……あんた、何者だ?」
ガガーランは精一杯の虚勢を張りながら問いかける。
この距離からでも分かる男の戦闘力の高さ。英雄級は確実に超えているだろう。
「余はイブ。魔皇である」
「魔皇、ね。随分と恐ろしい称号じゃないか」
「そうかね? まぁ、人がどう思うかは人それぞれか──」
イブと名乗るジェーンは右手を変形させる。
右手首から先を骨の刃に作り上げ、腕を触手の様に伸ばし突きを繰り出す。
あえてガガーランでも避けれる程度に速度を落とした突きは当然ガガーランが横に飛ぶ事で回避される。
「んだ、今の?!」
人間ならばあり得ない肉体挙動にガガーランは驚愕する。
「この程度は避けるか──では」
ジェーンは地面をとん、と蹴って進む。
刹那で距離を踏破し、ガガーランの眼前にまで移動する。
そのまま腹に蹴りを入れ、元に戻した右手で頭を掴む。
「がぁぁぁぁ!」
ガガーランは痛みに悶える。
頭蓋骨が割れるのではないかと思える程の強大な握力。武器を落とさぬよう持ち続けるので背一杯である。
「ほーれ!」
ジェーンは弄ぶようにガガーランを放り投げた。
ガガーランの体重は装備込みで八十キロを優に超える。その重さがボールのように綺麗に飛び、二十メートル以上離れた地点に数度バウンドしながら着地した。
「なんと柔く、脆い。人間は脆弱で困るなぁ」
ニタニタと嫌な笑みをジェーンは浮かべる。
(さて、魔皇ロールはどれくらいしようかなー?)
ジェーンがこんなことをしているのは原作でデミウルゴスが魔皇役をやったのがもったいないと思ったからだ。
魔王計画のせいでデミウルゴスの表での活躍機会が大きく削られた。それをこの世界でもするのは勿体ないと思ったのだ。
あと自分が魔王ロールプレイしたかったのもある。
鼻歌でも歌いそうないい気分でジェーンはガガーランに近づく。
だが途端、ジェーンに向かってクナイが投げられる
ジェーンは眉を潜め、右手を振るいクナイを弾く。
だがクナイに隠れる様に札が飛んできており、それが腕と直撃し、爆発した。
ジェーンは腕を振るい爆発によって生じた煙を振り払う。
「──忍術か?」
気づけばガガーランの傍には女が一人いた。
髪はオレンジに近い金色。スラリとした肢体をしており、全身にぴったり密着する様な服装をしている。
服装の一部に青い装飾がある女忍者、ティアだ。
「割とピンチ?」
「ああ、マジでピンチだ」
ガガーランとティアは軽口を言い合う。
「人間風情が。二人になった所で余には叶わぬと知れ」
ジェーンは右腕を伸ばし、先端を骨の刃に変えて鞭のようにしならせる。
「不動金剛盾の術!」
即座にティアは防御の忍術を行使する。
魔法攻撃には弱いが、物理攻撃には滅法強い金剛の盾が生み出される。
触手の鞭と盾が衝突し、いとも簡単に盾がパリンと割れた。
ティアの腹に鞭が当たり、ティアが吹き飛んだ。
「ティア!」
「よそ見する余裕があるのか?」
即座に近づいたジェーンが再びガガーランの頭を掴み、腹に数度蹴りを入れる。
それだけでガガーランの
「がぁ!」
「痛みで悶えるか? 苦しいか? このまま頭蓋を握り潰して──」
瞬間、空から槍が降って来る。
即座にジェーンはガガーランを放り投げ後ろに飛ぶ。
振って来た槍は水晶で出来た高価そうな槍だ。太く、木の幹程の太さと人程の長さを持つ。
「新手か」
空から降りて来たのは
「ガガーラン無事か?! ティア、逃げるぞ!」
イビルアイは来るなりそう叫ぶ。
イビルアイもわかっている。イブの強さを。だからこそ、即座に撤退というのを選んだ。
「来て早々逃げられると悲しいじゃないか」
ジェーンはイビルアイの眼前に移動する。
(はや──)
その速度に驚愕する暇無く、イビルアイは殴られ吹き飛んだ。
地面を転がりながら吹き飛び、イビルアイはどうにかして体勢を元に戻す。
次の瞬間、イビルアイの目に入ったのは頭を踏み潰されるガガーランの姿だった。
「──よくも仲間を!
水晶で出来た短剣が生み出され、ジェーンに向かって飛んで行く。
ジェーンは回避も防御もせず、その胸──心臓部に受ける。
「ふむ。悪くない攻撃だ」
本来ならば心臓を貫かれているというのにジェーンは気にもせず言葉を話す。
時間が経ち、魔法効果がきれて水晶の短剣が消え──傷が時が戻るかのように治っていく。
「再生、能力……!」
ぎり、とイビルアイは歯ぎしりをする。
再生持ち相手は厄介だ。特定の属性や武器でないと無効化出来なかったりする。
酷い場合は頭を吹き飛ばしても条件に合う攻撃でないと再生してきたりするのだ。
そしてイビルアイは水晶系に特化したエレメンタリストである為多数の属性で試すという事が出来ない。
つまり、イビルアイではダメージを通せない。
──と思っているが、実際は違う。
あくまで肉体操作のタレントで肉体を修復しているだけなので実際はHPはごりごり削られている。
頭なんか吹き飛べばクリティカル判定になって大幅に削られるだろう。頭が吹き飛んでも死ぬことはないが。
「さて、そこの隠れようとしている忍者は邪魔だな」
隠密状態になって隠れて逃げようとしているティアをジェーンは探知する。
モンクの
「にげ──」
イビルアイが何か言うよりも早く、先端を刃に変えた右腕の触手がティアを胴体から半分に切り裂いた。
瞬く間に二人の仲間が死んだ。そのことにイビルアイは絶望する。
だが、絶望し泣き叫ぶだけでは状況は好転しない。
ならばどうするか、逃げるか。
──どうにか戦いを成立させ、戦いながらこの場から離れる。
それが最善だと考えた。
この場所の襲撃は決まっている。時間が経てば蘇生魔法が使えるラキュースが来るはずだ。
そうなれば蘇生して貰える。遺体の損傷はそこまで酷くないので蘇生の成功率は高いはずだ。
そう考えたイビルアイは魔法で体勢を直し、魔法を詠唱しながら突撃する。
「
唱えるのは水晶の炸裂弾だ。
水晶の炸裂弾は全てジェーンに命中するも、即座に傷が治る。
ジェーンは左腕を伸ばし肥大化させ、イビルアイを掴む。
「ぐわっ!」
イビルアイは予想以上の握力の強さに苦痛に悶える。痛みに強いアンデッドである為声を漏らす程度で済むが、人間などだったら失神していただろう。
「弱い、弱いなぁ。いっそ憐れみを覚えるほどに弱い。アダマンタイト級冒険者とはこの程度なのか? まだ幼子の方が強いのではないか?」
ニタニタと気色の悪い笑みを浮かべ柄ジェーンはイビルアイを煽る。
「さて、このまま握り潰してやろうか──」
──瞬間、ジェーンの左腕が斬られた。
斬ったのは漆黒のグレートソードだ。
「何?」
ジェーンが疑問を抱くと同時に空から偉丈夫が降り──落ちてくる。
ズドンとけたたましい音と共に落ちて来たのは漆黒の鎧。
鎧には金のスリットが入り、美術的価値も高いだろう。
左手には己の身長にも届くのではないかと思える程に大きい先端が扇状のグレートソードを持っている。
「せいっ!」
漆黒の鎧──パンドラズ・アクター入りのモモンがジェーンの腹を蹴り、吹き飛ばす。
ジェーンは素直に吹っ飛び、数十メートル後退する。
パンドラは右手で落ちてくるイビルアイを抱える。
「大丈夫ですか?」
「あっ……」
擬音にするならばトゥンク、だろうか。イビルアイが恋に落ちる音がした。
それを察したジェーンはこの世界だと叶うといいな、と遠い目をする。
「何者だ?」
ジェーンの問いかけにパンドラはふん、と鼻を鳴らす。
「──巷では漆黒の英雄などと言われているが……俺はアダマンタイト級冒険者、モモンだ。大の大人が、子供をこうも虐めるものじゃないと思うが?」
「戦場に出たのならば女子供関係ないだろう?」
「分別ぐらいはつけろという話だ……」
パンドラはイビルアイをそっとおき、自分が放り投げたグレートソードの元まで歩き、取りに行く。
その姿をジェーンは見守りつつこっそり両手の指先を骨の刃に変え、戦闘状態に変える。
「人間、殺すぞ」
「やってみろ、俺はそこまで弱くはないぞ」
「ほざけ──!」
瞬間、両者駆け出す。
互いに音速に近い走りだ。物理法則の違いでソニックブームこそ発生しないが常人には視認出来ぬ速度である。
パンドラのグレートソードとジェーンの刃の腕が交差する。
パンドラは生まれ持っての剣技で。ジェーンはこの世界に来てから鍛えた力を持ってして振るう。
その様はある種の舞踏にも見えるだろう。少なくとも外から見ているイビルアイは美しいと思ってしまった。
(──ちっ。流石に
ジェーンのステータスはレベル七十に加えミオスタチン関連筋肉肥大の状態に意図的にしている事で筋力値のステータスは高い。
レベルに換算すれば七十六程度はあるだろうが、所詮はその程度だ。
レベル百の戦士と真面に撃ち合える程に高い訳ではない。
真正面から戦えば、負けるのはジェーンの方だろう。
何十合という斬り合いののち、パンドラが蹴りを放つ事でジェーンを吹き飛ばす。
「ふむ。想定より強い。流石はアダマンタイト級冒険者様、と言ったところかね?」
ジェーンは大胆不敵な笑みを浮かべる。
「そういう貴様も、何者だ?」
「先程名乗ったばかりなのだが、改めて名乗ろう。魔皇イブだ。親しみを込めてイブ様、と呼んでもいいぞ」
「冗談は顔だけにしたらどうだ?」
(会話で情報を探ろうとしているのか? なんと大胆な……)
イビルアイはこっそり会話が聞こえる程度に、だけど戦いの邪魔にはならない程度に距離をとる。
「お前の目的はなんだ?」
「この都市に悪魔を大量に召喚できるというアイテムが流れたのを余の配下が突き止めてな。それを回収しに来たのだ」
「ほう。何のためにそんなアイテムを回収するんだ?」
「無論、使う為だよ。悪魔と余の配下たちによる残虐と暴虐による血の雨を降らそうと思ってな。面白いだろう?」
「所詮は異形か──それを許すとでも?」
パンドラはグレートソードの切っ先をジェーンに向ける。
「ふむ。ここは場所が悪い。一旦引くとしようか」
ジェーンは腹をぼこぼこを膨れ上がらせる。
煮立った湯のように膨れ上がり、異形が這い出る。
「──な!」
異形化にイビルアイが驚愕の声を上げる。
出てきたのはホムンクルスたちだ。
こんな芸当が出来るのはジェーンが獲得したクラス母体によるものだ。
このクラスによりジェーンはレベル五から十のホムンクルスを量産できる。
湧き出た数は十数体。
「余に従え。そして──あの人間以外の者を殺しにいけ」
命令を受諾したホムンクルスたちはくるりと反転し駆け出す。
「ではな、人間ども」
ジェーンは背中から巨大な翼を生やす。
片翼だけで三メートルはある巨大な翼だ。被膜の付いた蝙蝠の翼に近い形状の物である。
そして跳躍し、飛翔。
暴風と共に飛んで行き、夜の闇に消えていった。
パンドラは駆け出し、ホムンクルスたちに斬りかかる。
命令を実行しようとしているホムンクルスたちはパンドラを無視するが、パンドラは無視するホムンクルスたちに斬りかかる。
数秒もあれば掃討が終わり、残るのは死体だけになった。