海の恐怖!グラ・バルカス帝国海軍vs原子力潜水艦   作:通常弾頭

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第十話

日本国 呉 造船所

 

 日本国の呉市にある民間造船所。

 数多くの船の建造が急ピッチで進んでいるこの場所にて、ムー国から日本に派遣された技術士官のマイラスと戦術士官のラッサンは、造船所の責任者からあることの説明を受けていた。

 造船所の責任者である東は、二人にある潜水艦の概要を改めて説明していた。

 

「……以上が、日本から提供する"おやしお型潜水艦"の性能と概要になります。出来る限りムー海軍からの要求に応えた形となりますので、そちらの戦力強化に大きく貢献するかと思います」

 

 今回説明されたのは、日本からムーに提供される旧式潜水艦についてのレクチャーだった。

 かねてよりムーから、日本の潜水艦を提供してほしいと言う話が立ち上がっていた。

 フォーク海峡の戦いより前から持ち上がっていた話であるが、グラ・バルカス帝国の脅威が浸透し始めた頃からムーは潜水艦に興味を持っていたので、この度供与が決まったのである。

 さて、基本的なレクチャーを終えると、まずマイラスが手を挙げた。

 

「質問があります」

 

 彼は日本から提供される通常動力型潜水艦、おやしお型のスペック表を指してこう言った。

 

「この、通常動力とはどう言う意味です?まるで普通じゃない動力があるみたいな言い方ですが……」

「あー、それは……」

 

 東は傍にいる防衛省幹部の方をチラリと見て、彼が頷くのを待ってから、話し始めた。

 

「この際ですから説明しましょう。通常動力とは普通のディーゼル機関による推進・充電を行う潜水艦の事です。これに対し、原子力潜水艦というものがあります。これはある特殊な機関を用いる事で、推進・充電を無制限に行える潜水艦の事です」

「え、ええ!?」

 

 マイラスはその説明に素っ頓狂な声を上げた。

 当然だ、何せその説明によると原子力潜水艦は無限に推進し無限に潜水できるという事を言っているからだ。

 前に潜水艦は定期的に浮上しなければならないと説明されていた。

 しかし、これが本当なら原子力潜水艦にはその弱点すらないことになる。マイラス達が説明を受けたおやしお型潜水艦とは一線を画す能力だった。

 

「で、では……その原子力潜水艦とやらは、無限の航続距離と潜航時間を有するということで?」

「そうです」

「そして、日本はその原子力潜水艦を保有していると?」

「そういうことです。なんなら前にあのグレード・アトラスターを撃破したのも原子力潜水艦だそうですね」

 

 東はさりげなく追加の情報を伝えた。

 ちなみに原子力潜水艦〈そうりゅう〉の活躍は、戦いから3日が経ったのちに防衛省より詳細が公表されている。

 そのため彼が言ったことは秘密でもなんでもなかった。

 

「しかし、今回提供されるのは原子力潜水艦ではないのでは?」

「そうなります。しかしこれは決してモンキーモデルと言うわけではありません。おやしお型は我が国で20年以上の運用実績がある信頼できる兵器です」

 

 東はそう説明するが、マイラスはどうしても原子力潜水艦に興味があるのか、食い下がらず続ける。

 

「しかしその……申し上げにくいのですが、原子力潜水艦については提供していただけないのでしょうか?」

「無理ですね。原子力関係は共同開発でも技流法(技術流出防止法の略)に引っかかると思います。また、まだ通常動力型の運用実績がないのに原子力潜水艦に手を出すのはお勧めできません」

「では、今新しくムー海軍向けに建造されていると言う4000t型旗艦級潜水艦も、通常動力型というわけで?」

「ええ、そうなりますね」

「そうですか……失礼しました」

 

 最終的にマイラスは隣で激しく睨むラッサンの様子をチラリと横目に見て、そこで質問をやめにした。

 そんな様子を見て、東は改めて彼らにこう言う。

 

「心配しなくても、通常動力型であれグラ・バルカス帝国相手には十分強力かと思います。これは私が自信を持って言えます」

 

 あくまで造船所の責任者からの発言であったが、東は長らく潜水艦の建造にも携わって来た。彼の言葉に嘘はなかった。

 


 

第3文明圏 アルタラス王国周辺海域

 

 ムー海軍の象徴とは何か?と聞かれれば、誰もがラ・カサミ級戦艦を例に挙げるだろう。

 複葉機マリンを搭載した空母でも、快速の防護巡洋艦でもない。巨大な大砲を搭載し、圧倒的な火力で敵艦をねじ伏せる艦船、戦艦こそが海軍の象徴なのだ。

 だが、ラ・カサミ級戦艦のネームシップ〈ラ・カサミ〉は不運な船だった。何せフォーク海峡で戦うことになったのは、格上のグラ・バルカス帝国が有する航空機や巨大戦艦だったからだ。

 同艦はなんとか生き残ったが、座礁して自走能力を損失。その後、生き残った防護巡洋艦に曳航されて修理地である日本を目指していた。

 

「司令。曳航している巡洋艦の機関不調ですが、修理にはもう少しかかりそうです」

「そうか……分かった。合流には遅れる旨を日本側に伝えてくれ」

「はっ」

 

 アルタラス王国の西側海域。

 曳航されている〈ラ・カサミ〉の艦上にて、艦隊司令官のレイダーは艦長のミニラルから報告を受け、そう伝えた。

 曳航されている〈ラ・カサミ〉であったが、引っ張る巡洋艦の機関が過負荷運転で故障、今はゆっくり進んでいるに過ぎなかった。

 本来ならこのまま日本の護衛艦と合流するつもりであったが、これでは到着が遅れるだろう。通信参謀にはその旨を伝えるようにした。

 そんな風に時間が過ごされる最中、レイダーはミニラル艦長が俯いて顔を顰めているのを見た。

 部下のことを気遣い、レイダーは彼に声をかける。

 

「……ミニラル艦長?」

「あ、はい……」

「どうした、辛気臭い顔をしているぞ」

 

 レイダーに声をかけられたミリラルは、少し間を置き、彼の方に振り向いた。

 

「失礼しました。実はフォーク海峡での戦いの様相を思い出してしまい……」

「ああ。あれは厳しい戦いだった」

「本艦は、ムーの象徴とも言える戦艦でありながら、なんの活躍もできなかった……私は己の無力さが悔しいんです」

 

 ミニラルはそう言うと、歯軋りをして拳を握りしめた。レイダーもあの時の一方的な戦いを思い出して俯く。

 だがレイダーは、これから行先の日本のことを思い出し、彼に励ましの言葉を投げかける。

 

「大丈夫だ、ミニラル艦長。我々はこれから日本に辿り着き、日本でこの船の修理を受けることになっている。日本の技術協力を得られれば、この船はさらに強くなって戦線に復帰できる」

「司令……」

「その時は、我々の反撃の象徴としてこの船を指揮するのは君だ。あんまり思い悩んでいては部下に示しが付かんぞ」

「……そうですね。俯くのはやめましょう」

 

 レイダーからの言葉を受け、ミニラルはまた前を向いて職務に戻った。

 彼らもこれから日本で修理することを受け、期待と不安が半分ずつ入り混じっていたが、あの巨大戦艦を仕留めた日本なら、この船を強力にしてくれると信じていた。

 だが、そんな彼らに対して海の魔物が迫っていた。

 


 

シータス級大型潜水艦〈ミラ〉

 

「何故だ。何故こんなところにムーの艦船が……」

 

 シータス級潜水艦8番艦の〈ミラ〉は、奇しくもこの海域に居た。

 それはフォーク海峡の戦いにてグラ・バルカス帝国の作戦を邪魔した日本という国に対して、懲罰を与える目的で派遣されたのだった。

 しかし、ソナーの音を頼りにプロペラノイズを辿ってみたところ、出会したのは不審なムーの艦艇だった。

 この海域にいるはずのない船との遭遇に、彼らは困惑する。

 

「カルトアルパスで損害を負ったムーの旧世代戦艦ですよね?進路を間違えたのでしょうか……」

「分からん。あるいは、日本で修理するつもりなのかもな」

「いやいや、まさか……」

 

 艦長が推察を述べるが、副長は冗談じゃないかと静かに笑った。

 だが、彼らにとっては何故ムーの船が日本の近海にいるかなどどうでもいい。仕事は仕事だ。

 

「まあ、本来であれば日本の商船を狙いたかったが……行き掛けの駄賃だ。あれも沈めてしまおう」

 

 艦長はそう言うと、即座に水雷長に対して指示を下す。

 

「発射管一番二番、注水!」

「ヤヴォール!発射管一番二番注水!」

 

 潜水艦〈ミラ〉の艦首魚雷発射管に、水が注水され、周りの海と同じ水圧になる。

 その注水が終わるのを待ち、艦長は発射管を解放。そして死神の鎌を下ろした。

 

「魚雷一番二番、発射!」

「発射了解。ファイエル!」

 

 その指示と共に、発射管から魚雷が射出された。少し間を置き、二発目の魚雷も出ていく。

 艦長はその間、時計を見ながら潜望鏡を副長に見せていた。

 

「回避行動をしませんね?」

「おそらく潜水艦を知ったばかりで対策がないんだろう。見たところ日本人の艦船も見当たらない……不運なことだ」

 

 これから沈む獲物を憐れみ、艦長はそう言う。いつしか興味が薄れ、腕時計を見て、時間を測っていた。

 

「着弾まで、30秒……」

 

 副長がそう言う。

 計算され尽くした魚雷は、二発とも〈ラ・カサミ〉を捉えていた。

 


 

ムー海軍 第Ⅰ機動部隊 旗艦〈ラ・カサミ〉

 

 戦艦〈ラ・カサミ〉の艦橋では、静かな海を眺める時間が過ぎていた。

 しかし、海の魔物は死神を放っていた。

 

『見張りより艦橋!右舷より白い航跡が!!』

「なにっ!?」

 

 ある見張りがそれを発見した途端、トラウマが蘇るかのようにレイダーとミニラルが冷や汗をかく。

 即座に回避運動を指示しようとしたが、時すでに遅し。

 衝撃……

 艦橋にいたレイダーとミニラルは、大きく揺さぶられて下に落ちそうになった。しかしそれをなんとか掴んだ手すりで踏ん張ると、伝音管に向かって吼えた。

 

「損害報告!」

『喫水線下に被弾!急速に浸水しています!』

『艦艇部で死傷者多数!復旧できません!!」

「そんな……!」

 

 ミニラルは損害の大きさに絶句した。

 フォーク海峡の戦いでも航空機が魚雷を落として味方を撃沈するのを見たが、それよりもはるかに高い威力の魚雷により、〈ラ・カサミ〉は急速に船としての能力を損失していた。

 ミニラルはいきなり魚雷が向かって来たことを考え、グラ・バルカス帝国の潜水艦ではないかと連想した。

 実際、日本があの巨大戦艦〈グレード・アトラスター〉を撃沈したのは潜水艦によるものだ。

 それと同じことが、今の〈ラ・カサミ〉に起きている。今のムー海軍には、潜水艦に対抗する術がない。

 

『現在艦傾斜10度!このままでは沈みます!』

「艦長!」

「くっ……総員、退艦せよ!」

 

 艦長が苦渋の決断として総員の退艦を命じる。その言葉を受け、乗組員達は船が沈む前に急いで脱出に取り掛かった。

 

「いそげー!」

「ボートがない奴はそのまま飛び込め!!」

 

 乗員達が次々に海に飛び込み、ボートや破片、木箱などにしがみつく中、ミニラルとレイダーは責任者として艦橋に残っていた。

 

「艦長も退艦を!」

「私は最後でいい。まだ……やる事がある……!」

 

 乗員のほとんどが脱出した最中、ミニラルは一人、艦橋に残っていた。

 どこからか持って来た工具箱の道具を使い、舵輪を船から外そうとしている。

 

「せめて、この舵輪だけは……!」

 

 〈ラ・カサミ〉の模った舵輪。

 ミニラルはなんとか沈む前にそれを取り外すことができた。

 海の方では、生き残った乗組員が脱出に成功しボートに乗って浮かんでいた。点呼をとっていたレイダーが、艦長のミニラルがいないことに気がついた。

 

「艦長は!?」

「今行く!」

 

 その言葉と同時に、船の方からミニラルが飛び降りた。水に飛び込む音からしばらくして、ミニラルが舵輪を抱えて浮いて来た。

 

「艦長!こちらです!」

「引っ張れ!!」

 

 艦長を助けるべく、手空きの乗員達がミニラルの服を掴んで引っ張り上げた。

 彼の腕には、沈む〈ラ・カサミ〉からとって来た舵輪が抱えられていた。余っていた毛布をずぶ濡れの彼に被せると、乗員の一人が叫ぶように言う。

 

「沈む!船が沈むぞ!!」

 

 戦艦〈ラ・カサミ〉が、海の底へ沈もうとしていた。

 その船体はいつしか真っ二つに折れ曲がり、艦首と艦尾を海の上に曝け出し、ゆっくりと沈降していく。

 

「そんな……戦艦が沈む……!」

「ムー海軍のラ・カサミが……」

 

 その酷い光景に、乗員達は涙を流して悔しそうにそう言った。

 だが一番悔しいのは、艦長のミニラルであった。彼は沈みゆく〈ラ・カサミ〉の雄姿を見届けつつ、毛布の中にうずくまる。

 

「(やはり無理なのか……戦艦ではもう、台頭してくる潜水艦には勝てないのか……?)」

 

 ミニラルはいつしかネガティヴな思考に取り憑かれていた。

 本来なら、この戦艦は日本で改装されてまた活躍の機会を得られる筈だった。

 しかし、急速に発達していく潜水艦の脅威がそれを破壊してしまった。

 

 もしも、グレード・アトラスターが湾内で沈まず、ラ・カサミも早期に湾外へ曳航されていたら?

 もしも、曳航している艦艇の機関が不調にならず、日本の護衛艦と早めに合流出来ていたら?

 もしも、敵潜水艦に発見されないルートを航行していたら?

 

 そんなあらゆる可能性は、水の泡となって消えていった。

 

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